2023年のDXの現在地は?進化した部分とこれから向き合うべき課題

「2025年の崖」「経済損失12兆円」──。
衝撃的なフレーズとともに、話題となったDXレポートの初出は、2018年でした。

「今すぐに何とかしないと、非常にまずいことになる」
そんな危機感にあふれた警鐘から5年が経ちましたが、2023年の現在はどうなっているのでしょうか。

この記事では、DXの現在地について、キャッチアップしていきたいと思います。

簡単なおさらい:2018年のDXレポートとは?

最初に、2018年のDXレポートについて、簡単におさらいしておきましょう。

2018年のDXレポート

DXレポートとは、経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が取りまとめたレポートです。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)」から、サマリー・本文・簡易版のPDFをダウンロードできます。

DXの定義

同レポートでは、DXの定義について、
〈新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して変革を図り、価値を創出することで競争上の優位性を確立すること〉
という趣旨の解説がされていました。

以下は詳細の引用です。

2018年当時は、“トランスフォーメーション(=革新・変容・転換)にDXの本質があり、単なるIT化やデジタル化とは異なる” という点が強調されていました。

「新しい製品・サービス」「新しいビジネスモデル」「新しい働き方」といった、抜本的な変容を伴ってこそDXである、と理解された方も多いのではないでしょうか。

この定義は、現在では、より緩い方向へと変わっています(詳しくは後述します)。

レガシーシステムに対する危機感

もうひとつ、同レポートで目立っていたのが「レガシーシステム」に対する危機感です。

レガシーシステムとは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化などの問題を抱えている、既存のITシステムを指します。

「レガシーシステムこそDXを阻む最大要因であり、放置すれば大きな損失がある」と主張されています。

冒頭で挙げた「2025年の崖」「12兆円の経済損失」のフレーズも、この文脈で登場します。

同レポート上では、
〈約8割の企業が老朽システムを抱えている〉
〈約7割の企業が、 老朽システムが、DXの足かせになっていると感じている〉
というデータが示されていました*1

一方、これらは、大掛かりなITシステムを要する大企業や、システムがレガシー化するだけの設立年数のある企業が対象となる課題です。

そもそも、複雑なITシステムを要しないビジネスの企業や、設立から数年以内の企業にとっては、当事者意識を感じにくい提言だった、ともいえます。

2023年現在のDXはどうなっている?

続いて、DXの現在地を見ていきましょう。

広がるDXの定義

DXレポート以後の動向として、2019年7月に「DX推進指標」、2020年12月に「DXレポート2」が公表されています。

ここで注目したいのは、DXの定義の変化です。

DX推進指標におけるDXの定義は、「デジタライゼーション」や「デジタイゼーション」も含むとされています。

<出典:DXレポート2中間取りまとめ(概要)|経済産業省 p25>

・デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation):組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革
・デジタライゼーション(Digitalization):個別の業務・製造プロセスのデジタル化
・デジタイゼーション(Digitization):アナログ・物理データのデジタルデータ化

「真のDX(=根本的な変革を伴う)」という前提に立つと、デジタイゼーションやデジタライゼーションはDXではない、という論述が可能です。

しかしながら、政府が提唱するDXの定義においては、デジタイゼーションやデジタライゼーションもDXの範囲に含んでいることは、認識を新たにしたいポイントです。

また、“真のDXにたどり着くステップ” として、
「デジタイゼーション ⇒ デジタライゼーション ⇒ デジタルトランスフォーメーション」
と解説されることもありますが、DXレポート2においては、
〈これらは必ずしも下から順に実施を検討するものではない〉
と強調されています。

69.3%の企業がDXに取り組んでいる

「DX白書2023」 (以下、同白書)によれば、
〈DXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査は69.3%に増加〉
と、約7割の企業がDXに取り組んでいることが示されています。

<出典:DX白書2023|独立行政法人情報処理推進機構 p9>

最初のDXレポートが公表された2018年当時は、「DXって何?」と、意味がわからない方が多い状況でした。

現在では、Web広告やネット記事、SNSなど、日々「DX」の語句があふれるほど、浸透したといえるのではないでしょうか。

また、前述のとおり「DXの語句が含有する領域の裾野」が広がったことも、影響しているかもしれません。

「2025年の崖」のその後

「2025年の崖」とされたタイムリミットが迫っていますが、レガシーシステムに関しては、同白書にて、
〈半分以上レガシーシステムが残っている割合(「半分程度がレガシーシステムである」「ほとんどがレガシーシステムである」の合計)でみると、米国の22.8%に対して日本は41.2%であり、日本企業におけるレガシー刷新の遅れがうかがえる〉
と指摘されています。

<出典:DX白書2023|独立行政法人情報処理推進機構 p30>

この約4割にあたる企業にとっては、できるだけ早期に、レガシーシステムからの脱却を図る必要があります。

ボトルネックの焦点は人材不足にシフト

2018年のDXレポートの時点では、DX推進の最大のボトルネックは「レガシーシステム」であるとされていました。

しかしながら、近年、危機感が強まっているのは「人材不足」です。

同白書では、DXを推進する人材について、
〈「大幅に不足している」が米国では2021年度調査の20.9%から2022年度調査の3.3%と減少する一方、日本では2021年度調査の30.6%から2022年度調査は49.6%と増加し、DXを推進する人材の「量」の不足が進んでいる。〉
として、人材確保を重要課題として挙げています。

<出典:DX白書2023|独立行政法人情報処理推進機構 p21>

この課題に対応するために、政府は「DX推進スキル標準」を定めています。

【「DX推進スキル標準」人材類型の定義】

<出典:DX推進スキル標準(DSS-P)概要|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構>

上記は、
〈日本企業がDXを推進する人材を十分に確保できていない背景として、自社のDXの方向性を描くことや、自社にとって必要な人材を把握することの難しさに課題があるのではないか〉
という推定に基づくものです。

詳しくは「DX推進スキル標準(DSS-P)概要(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)」にて、ご確認ください。

そろそろDXレポート3が公表されるか

2018年のDXレポート以降の流れは、以下のとおりとなっています。

<出典:DXレポート2.2(概要)|経済産業省 p1>

本記事執筆時点では、2022年7月の「DXレポート2.2」が最新です。そろそろ、DXレポート3の公表も近いかもしれません。

DXレポート2.2以後に生じた世界的なムーブメントといえば、「生成AI」が挙げられます。

それこそ、ビジネスや社会のあり方に「トランスフォーメーション」を起こしている、といっても過言ではありません。

DX推進の課題となる人材不足のソリューションとして、あるいは、新しい製品・サービスの鍵として、注目されます。

さいごに

2020年以降の新型コロナウイルス、2022年11月のChatGPTの登場などにより、DXの波は想像以上に強いうねりを起こしています。

DXに対して懐疑的だった方も、取り組みを推進せざるを得ない状況といえるのではないでしょうか。

DXに向き合うことを後回しにせず、柔軟に対応することが、持続可能な成長と競争力の維持を可能とします。

あらためて、自社の取り組みを振り返るきっかけとしていただければ幸いです。

この記事を書いた人

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。