SUBARUの”次世代クルマ体験”戦略とは 人気の中古車サブスクは若者の心をどう捉えた?

サブスクは、「サブスクリプション」の略語で、元々は雑誌の予約購読や年間購読に由来する言葉です。この概念は、一定期間・一定額で商品やサービスを利用できる仕組みを指します。

最近では、IT技術の進歩により、スマホのアプリなどでサブスク型の商品やサービスが増えています。

身近な例では、音楽や動画の配信、書籍や雑誌のサービス、ゲームアプリ、ビジネスアプリ、ウイルス対策アプリなどがあり、気づかぬうちにサブスク型のものを利用していることも少なくありません。

今回はSUBARUの事例を参考に、サブスクを取り巻くデジタル戦略と共に、長期的な顧客との関係を築いていくための取り組みについてみていきます。

クルマ所有への欲望と現実のジレンマ

株式会社KINTOが都内および地方在住のZ世代660人を対象に行った「クルマに関する意識調査」で、近年の若者の「クルマ離れ」現象について考えさせられる結果が出ました。

調査結果によれば、都内在住のZ世代の57.2%が「若者のクルマ離れ」を感じている一方、地方在住者ではその割合が34.2%にとどまりました*1

これには所有の有無が大きく影響しており、地方Z世代の58.2%が自分名義のクルマを所有しているのに対し、都内Z世代の所有率はわずか21.5%と低い数字となっています*2

さらに、クルマを所有していないZ世代の中で「自分名義のクルマが欲しい」という意向を示す割合も都内と地方で異なり、地方在住者が60.9%に達する一方、都内在住者では45.5%にとどまっています*3

どちらの地域も共通して「自動車の価格・維持費が高いから」との回答が目立ち、これが所有を躊躇させる一因となっていることが浮かび上がります。

サブスクが「クルマ離れ」の解決策の1つに

興味深いことに、都内では約3人に1人が「クルマのサブスク」サービスを知っており、都内在住のZ世代の中で「サブスク」を検討する割合は58.6%と、地方の37.8%よりも20.8ポイント高くなりました*4

クルマのサブスクを検討したい都内Z世代

クルマのサブスクを検討したい地方Z世代

これは、クルマを所有することに固執せず、サブスクのサービスを利用することで新しい所有形態を模索する傾向を示しています。

この結果から、サブスクがZ世代にとって従来のクルマ所有にこだわらない選択肢となり、高い柔軟性を提供することで、クルマ離れの進行を抑制する一助となる可能性が浮かび上がります。

若者が価格や維持費の心配なく、ライフスタイルに合わせた新たなクルマの利用方法を模索する時代が訪れていると言えるでしょう。

SUBARUが手がける「中古車サブスク」とは?

SUBARUが展開する独自の「アイサイト」運転支援システムを搭載したクルマを、月額定額制で提供する「SUBARUサブスクプラン」(以下、スバスク)は、中古車に焦点を当てた斬新なサブスクリプションサービスです。

スバスクのプランは月額39,820円(消費税10%込)で、この料金には税金、自動車保険料、メンテナンスなどが含まれています*5。 利用者は簡単にインターネットから申し込みが可能で、SUBARU販売店が車両の引き渡しやメンテナンスを含むサービスを提供しています。

<出典:SUBARU サブスクプラン|SUBARU ONLINE DEALER>

スバスクの第一の利点は、契約期間がフレキシブルであることです。契約期間は基本的に1年か2年ですが、必要に応じて期間の延長ができます*6

他社のサブスクでは契約期間が長期化し、同じクルマに数年~11年間しばられることがありますが、スバスクは契約期間が短く、延長も可能です。他のサブスクサービスよりもライフプランに合わせて柔軟に利用できます*7

その他のメリットとしては、SUBARU正規ディーラーによるメンテナンスが受けられること、スバスクの走行距離が他のサブスクよりも比較的余裕があることが挙げられます(経過月数×1,500Km以内*)*8

ただし、現時点ではサービスが提供されているエリアは神奈川と新潟に限定されており、中古車の供給不足から安定的な在庫確保が難しい状況にあります。このため、新規受付は一時的に停止されています。

スバスクはまだ発展途上のサービスではありますが、その特徴的な点は短期利用を前提とし、中古車に限定することで月額費用を抑えている点にあります。今後、サービスの進化により、利用者にとってますます魅力的な選択肢となることが期待されます。

スバスクとLTV(顧客生涯価値)の関係

スバスクは、おもにZ世代に支持され、SUBARUのLTV(顧客生涯価値)戦略においてカギとなっています*9。なぜなら、スバスクを通じて初めてSUBARUのクルマに触れる若年層は、将来的にマイカーを購入する際にSUBARU製品を優先的に検討する可能性が高まるからです。

SUBARUはデジタル技術を活用し、「SUBARU ID」という共通IDを導入しています。これにより、スバスクなどのサービス提供だけでなく、顧客との一元的かつ効果的なデジタルコミュニケーションを可能にし、新たな顧客基盤を構築しています。

SUBARU IDは、カスタマージャーニー(顧客が製品やサービスを発見し、購入し、使用し、サポートを受けるまでの全体的な経験)を通じて接点を結びつけ、効果的なデジタルサービスの利用を提供しています。

このIDを取得することで、顧客はSUBARUのウェブサイトや様々なアプリを利用できます。たとえば「マイスバル」アプリはオーナー向けに提供され、クルマの情報や整備履歴を管理でき、整備の予約や保険管理なども手軽に行えます。

クルマへの愛着を高めるデジタル戦略

SUBARUはブランド接点の拡充を図るため、ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」を展開しています。このアプリは一般的なカーナビとは異なり、最短距離ではなく、景色やクルマの性能を楽しむためのコースを提案することが特徴です。

アプリは全地球測位システム(GPS)を使用し、走行中に位置情報に基づいて歴史や周辺情報を音声で提供します。また、ゲーム要素も含まれ、ユーザーは通った道に応じてデジタル上のバッジを取得できます。

ドライブ後には、アプリ上で走行したルートやデータを表現し、SNSなどに投稿することも可能です。

SUBARUはファンコミュニティサイト「スバ学」をリリース

SUBAROADは、クルマの買い替えを考える際に、SUBARU車を選ぶポイントとなっています*10

例えば、ある顧客はSUBARUの「レヴォーグ」を所有し、SUBARU IDに登録していました。SUBARUのウェブサイトへの頻繁な訪問データから、その後SUBAROADを利用して新しい車を購入するまでの経緯が分析されています。

SUBAROADの利用者の95%がコースを楽しんだと回答しており、アプリの満足度は高いとされています*11。これにより、顧客はSUBAROARDでのドライブ中にSUBARU車の魅力を再認識し、新しい車を選ぶ際の要因となっている可能性があります。

これらのアプリはスバスクと相互補完し、サービスの幅を広げ、SUBARUと顧客とのエンゲージメントを深めます。

スバスクを通じた顧客データと提供されるアプリによって形成されるブランド接点は、クルマへの顧客の愛着を高め、将来の購買に結びつく重要な手段となるでしょう。今後の展開において、これらの取り組みがどのように拡充され、新たな付加価値が提供されるかに注目が集まります。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとして主にマーケティングやビジネスに関する記事を執筆しています。

*1:若者のクルマ離れ、都内Z世代の約6割が「自覚あり」一方で地方Z世代は約7割が「自覚なし」に クルマの「サブスク」を検討したい都内Z世代は58.6%、昨年より17.4ポイント増で意向高まる結果に|株式会社KINTO

*2:若者のクルマ離れ、都内Z世代の約6割が「自覚あり」一方で地方Z世代は約7割が「自覚なし」に クルマの「サブスク」を検討したい都内Z世代は58.6%、昨年より17.4ポイント増で意向高まる結果に|株式会社KINTO

*3:若者のクルマ離れ、都内Z世代の約6割が「自覚あり」一方で地方Z世代は約7割が「自覚なし」に クルマの「サブスク」を検討したい都内Z世代は58.6%、昨年より17.4ポイント増で意向高まる結果に|株式会社KINTO

*4:若者のクルマ離れ、都内Z世代の約6割が「自覚あり」一方で地方Z世代は約7割が「自覚なし」に クルマの「サブスク」を検討したい都内Z世代は58.6%、昨年より17.4ポイント増で意向高まる結果に|株式会社KINTO

*5:SUBARU サブスクプラン|SUBARU ONLINE DEALER

*6:SUBARU サブスクプラン|SUBARU ONLINE DEALER

*7:SUBARU サブスクプラン|SUBARU ONLINE DEALER

*8:SUBARU サブスクプラン|SUBARU ONLINE DEALER

*9:スバルの「中古車サブスク」顧客の大半がZ世代|日本経済新聞

*10:スバルの「中古車サブスク」顧客の大半がZ世代|日本経済新聞

*11:スバルの「中古車サブスク」顧客の大半がZ世代|日本経済新聞