花粉症情報最前線:花粉症関連マーケット、2030年までに「重症化ゼロ作戦」

例年より早く2月上旬には飛散が確認されたスギ花粉も3月上旬には多くの地域がピークを迎えます。今や10人に4人が発症する国民病とも言える花粉症。近年は、発症の低年齢化が進み、子どもの患者が増加傾向にあります。生涯に影響する病気として、花粉症対策は国も着目する課題となっています。

花粉症対策に関する国の動き

2023年4月の参院決算委員会では、岸田首相が「花粉症は社会問題。政府でも関係閣僚会議を開催して結果を出したい」と答弁し、昨年は花粉症に関する関係閣僚会議が3回開催されました。

政府の進める花粉症対策の3本柱は次の通りです。

こうした国の動きも踏まえて、一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、2030年までに花粉症の重症化ゼロを目指して「花粉症重症化ゼロ作戦」を推進、花粉症を含むアレルギー性鼻炎に対する啓発活動を展開しています。

花粉症の原因と症状

花粉症は、スギやヒノキなどの花粉が原因で起こるアレルギーの一種です。これは、ダニやハウスダストなどが原因で季節を問わず起こる通年性アレルギー性鼻炎とは異なり、特定の季節だけ症状が出る季節性アレルギー鼻炎と呼ばれます。

くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻のかゆみといった鼻症状と目のかゆみ、なみだ目、充血などの目症状に加え、83%の人が頭重感、不眠、イライラ、体のだるさを経験しています。咳や呼吸困難などの喘息症状(35%)、皮膚のかゆみなどの皮膚症状(30%)、下痢や食欲不振などの胃腸症状(30%)も見られます。
中にはシラカンバの花粉のように、食物アレルギー症状を引き起こすものもあります。

花粉症の経済的影響

約70%のスギ花粉症患者が重症あるいは最重症と考えられ、重症花粉症のQOLは糖尿病や骨折よりも悪いとの調査結果も出ています(新潟医療福祉大医療経済・QOL研究センター)。重症患者では、抗ヒスタミン薬+鼻噴霧用ステロイド薬の標準治療を受けていても症状ピーク時には仕事や勉学などの能率が約35〜60%低下するとの報告もされています*1

花粉症では、医療費などの直接的な費用だけでなく、能率低下などによる間接的な経済損失が生じます。花粉症によって生じた経済的損失は、心臓疾患、喘息、糖尿病などの病気よりも高額であるとされ、また重症化するにしたがって損失は大きくなります。

あらゆる業界で人材不足が指摘される中、花粉症による労働生産性の低下を避けることは国を挙げての社会課題であると言っても過言ではないでしょう。

花粉症予防の3つのキーワード

花粉症予防には3つのキーワードがあります。

1.“花粉を体内に入れない”こと。

マスクやメガネ、ワセリンを鼻の入り口に塗る、清浄機の活用など、とにかく花粉を体の中に入れないよう対策することが欠かせません。また、花粉の飛散情報も大切です。花粉が飛びやすいのは、昼前後と夕方ですが、とりわけ、晴れて気温が高い日や気温の高い日が続いた後、空気が乾燥し風が強い日、雨上がり翌日などには注意が必要です。

2.舌下免疫療法

近年注目される舌下免疫療法。アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少量ずつ体内に取り入れることで、徐々に体の耐性をつけていきます。具体的には、アレルゲンを含んだ錠剤を舌の下に置き、数分間そのままにして吸収させます。このプロセスを定期的に繰り返すことで、アレルギー反応が起こりにくい体質に改善していくことを目指します。薬を飲んでいるのに症状が改善しない場合、舌下免疫療法は根本的な解決につながる治療法として期待されます。

3.初期療法

花粉症は毎年のことだからと、何もしないでいると重症化につながりかねません。
症状の出る前から、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬などの服用が重症化を防ぎます。重症になればなるほどこれらの薬を組み合わせた治療を行う必要があります。重症化を避けるには、花粉が飛び始める時期から早めの服用が重要です。

治療法には、薬物療法の他に手術療法があります。重症で薬による治療が効きにくい方には効果的です。

今後の花粉症マーケットの動向

花粉症による生産性低下に伴う経済的損失が指摘される一方で、約3000万人の患者を対象とする花粉症マーケット。

下記のデータによれば、飛散量による年毎の影響はあるものの、花粉症含むアレルギー性鼻炎の医療費は保険診療で約3,600億円、市販薬で約400億円との推計が報告されています。

<参考:花粉症対策 資料2|厚生労働省>

国内1000億円ともいわれる花粉症マーケットでは、市販薬にとどまらず、通常のマスクに加え、花粉症対策メガネやガードスプレー、バリアシール、鼻マスク、サプリメント、清浄機など、多彩な花粉症グッズが開発・販売され、各社がしのぎを削っているのが現状です。

2030年までに重症化ゼロ作戦が掲げられる中、各社の花粉症マーケットへの今後の動きに着目したいところですが、国が推進する花粉症予防対策からは、花粉症にとどまらない今後のマーケットの動向も推測されます。

発生源対策に伴うスギ材の需要拡大は、近年国が推進する建築の木造化、とりわけ公共施設や高齢者住宅などにおける大型建築の木造化との関連からも注目されます。
年々高騰化する建築費の背景には、鉄骨工やコンクリート工の高齢化・人材不足による人件費の高騰、鉄骨等の建築資材の高騰があります。コストカットにつながるとされていた輸入木材も高騰し、それに伴い国産木材も高騰化が見られる中、花粉症予防対策として掲げられたスギ材の需要拡大がどのように影響を与えていくのか。林業における外国人を含めた人材確保の面からも、今後の国の施策には注目したいところです。

まとめ

このように対症療法だけでなく根本治療が目指せる薬も登場し、進歩する花粉症対策ですが、まだまだ多くの方が花粉症に悩まされているのが現状です。患者個人のQOLの低下にとどまらず、労働生産性の低下をもたらし、さらには経済的損失にまでつながっています。
国を挙げて花粉症対策が進む中、2030年までに重症化ゼロを目指して、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会による「花粉症重症化ゼロ作戦」も始動しました。
一方で、3000万人ともされる患者を対象とした一大マーケットである花粉症。関連商品を手がけるメーカー各社が国のこの動きにどう反応していくのか、さらには国の花粉症対策が木材といった関連領域へどう影響をもたらしていくのか、今後の動向が注目されます。

参考サイト
花粉症重症化ゼロ作戦|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。

*1:Okubo K, Okano M, JACI Pract 8: 3130, 2020