孤独・孤立対策推進法スタート。子どもから高齢者、企業で働く若者も抱える孤独

世界の社会課題である孤独・孤立対策

近年、日本のみならず世界各国でも課題となっている孤独・孤立ですが、日本では内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置、2023年に孤独・孤立対策推進法が公布され、2024年4月1日から施行されます。

世界を見ると、2018年に世界初の孤独担当大臣がイギリスで誕生し話題となりましたが、第2次ジョンソン内閣改造に伴い、現在このポストはなくなっています。しかしながら、2023年11月にはWHOが新たな委員会である「WHO Commission on Social Connection(WHO 社会的つながりに関する委員会)」の設置を発表、2024年から2026年までの3年間、孤独・孤立の問題は世界的な公衆衛生の優先課題であるとして、解決を目的とする活動を決定しています。背景には、新型コロナによるパンデミックにより、貧富の差がさらに拡大し経済的困窮層が増加したことや社会的つながりが多く断たれたことで、世界的に孤立・孤独が社会課題となっていることがあります。
高齢者の4人に1人が社会的孤立を経験しているとされますが、高齢者だけでなく、子どもや若者、働きざかりの中年層まで、老若男女問わず、孤独感や社会的孤立は、鬱などの精神的健康問題のみならず、認知症や脳卒中といった病気の上昇につながるほか、社会的活動への参加減少や自殺といった社会全体に影響を及ぼす問題となっています。

社会的孤独・孤立に関する調査から見えてきたもの

内閣官房が孤独・孤立対策推進法の施行を前に行った、満16歳以上の20,000人を対象とする「人々のつながりに関する基礎調査」結果を見ていきましょう。
令和4年の調査では、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は4.9%、「時々ある」が15.8%、「たまにある」が19.6%でした。一方、孤独感が「ほとんどない」と回答した人の割合は40.6%、「決してない」が18.4%でした。令和3年と比較すると、孤独感が「決してない」は23.7%より縮小しているものの、「ほとんどない」が増加、「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」も増加し、全体としては孤独感を感じる割合が増加していることがうかがえます。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p7>

また、孤立・孤独に対する支援というと対象は高齢者を思い浮かべがちですが、調査では孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた割合が一番多い層は30〜39歳の7.2%、20〜29歳の7.1%が続きます。40〜49歳で5.9%に減り、50〜59歳で6.2%と増えますが、60〜69歳で3.9%に減少します。最も低かったのが2.3%の80歳以上で、70〜79歳の2.7%が次に続きます。孤独感を感じている層の割合は、実際には60歳以上の高齢者よりも20〜59歳のいわゆる働き盛りといわれる世代で大きいことが調査からみることができます。また、16〜19歳でも「しばしばある・常にある」と答えた割合が5.2%と20〜50代世代より割合は低いものの、不登校やいじめといった社会課題と照らし合わせた際に、見逃してはならない調査結果といえます。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p8>

孤立・孤独と経済的側面、貧困問題が切り離せないことはWHOの調査でも指摘されていますが、内閣官房の調査でも経済的豊かさが孤独感と相関関係があることが示されました。孤独感が「しばしばある・常にある」の割合が最も高かったのは、世帯年収が100万円未満の世帯でした。経済的な暮らし向き別では、「しばしばある・常にある」と答えた割合が最も高かったのは、経済的な暮らし向きが「大変苦しい」と答えた層で14.2%でした。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p19>

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p20>

人との関わり、社会参画も孤独感に影響していることが下記の調査結果からもわかります。
外出頻度別にみた場合、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は、「外出しない」で16%と突出して高い割合でした。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p21>

社会活動への参加状況別に見た場合、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は、特に参加はしていない人の6.7%と比較し、いずれかの活動に参加している人では2.8%でした。また、「ほとんどない」あるいは「決してない」と答えた人の割合は、活動に参加している人64.9%に対し、参加していない人では54.1%でした。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p27>

不安や悩みの相談相手の有無別に見た場合、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人の割合は、相談相手がいる人では3.2%に対し、いない人では19%でした。「ほとんどない」あるいは「決してない」と答えた人の割合は、いる人で62.7%、いない人で27.9%と大きな差が見られました。相談相手の有無が孤独感に与える影響の大きさがデータからもわかります。

<参考:人々のつながりに関する基礎調査(令和4年)調査結果の概要|内閣官房孤独・孤立対策担当室 p28>

孤独・孤立対策推進法が目指すもの

孤独・孤立対策推進法は、孤独・孤立問題に対する国の姿勢を明確化し、地方自治体、民間団体、企業、そして私たち市民一人ひとりが連携して取り組む体制を整備することを目的としています。孤独・孤立対策推進法に基づき、内閣府に置かれた孤独・孤立対策推進本部では、重点計画の作成等を行います。地方公共団体では、関係機関等により構成された孤独・孤立対策地域協議会を置き、情報交換や支援内容に関する協議を行うよう努めます。
孤独・孤立がもたらす健康へのリスクを軽減、社会参加を促進し、孤独・孤立を感じることなく、well-being、よりよく生きるための多面的な対策を推進することを目指し、NPO法人等への助成も強化します。具体的には、内閣府より孤独・孤立問題対策・先駆的な取り組みへの支援、DV等含め不安や困難を抱えた女性への相談支援、こども家庭庁より子どもの居場所づくり支援、厚生労働省より生活困窮者等支援、自殺防止対策、農林水産省よりフードバンク、こども食堂等の取組実践、国土交通省より居住と就労等を交えた自立支援等を行う団体へと、各省庁より予算が拡充されます。

孤立・孤独を感じたらSOSを出せる受援力を

孤独・孤立対策、推進法に対して、「国を挙げて孤立を防ぐ取り組みが始まったことで、私たち国民一人一人が、できないことはできないといい、周囲の助けを気持ちよく受け取り、人とつながることに対して前向きになる文化・風土が生まれれば」と語るのは、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授で公衆衛生が専門の吉田穂波医師。

「先の見通しが立たない今のような激動の世界で、コロナ禍や不況の影響も重なり、誰もが孤独を抱え、孤立しやすい環境にあります。これまでは人に頼ることが軟弱なことで弱さの裏返しだとネガティブな印象を持たれていましたが、今は、頼れない人のほうが生きづらい時代です。SOSを出すことは弱いことではなく、自分のレジリエンス(しなやかさ・回復力)獲得と危機への対処法として最強の武器であり、自分が辛い状況を乗り越えられるだけでなく、それを踏み台に成長し、いつか誰かを支えてあげることにつながります。鈍感力、忘却力、と同じくらい、自分が支えられ、人とつながるための「受援力」に対するポジティブなイメージが根付けば、孤独を感じて孤立する人が減っていくのではと思います」と期待を寄せます。

社会的つながりもあり、孤立・孤独とは一見無縁に見える働きざかり世代も孤独感を抱えていることは調査結果も明らかであり、すべての人にとって無縁ではない孤立・孤独。いよいよ4月1日から始まる孤独・孤立対策推進法が、社会の中で声を上げられずに一人で孤独・孤立を抱える人たちにもアプローチできる取り組みになるには、行政やNPO法人等の取り組みもさることながら、家庭、学校、会社といった身近なところからの気付きも大切かもしれません。

取材協力:
吉田 穂波(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

この記事を書いた人

今村美都

がん患者・家族向けコミュニティサイト『ライフパレット』編集長を経て、2009年独立。がん・認知症・在宅・人生の最終章の医療などをメインテーマに医療福祉ライターとして活動。日本医学ジャーナリズム協会会員。