オンライン美容医療で目立つトラブルとは?マーケティングに求められる倫理観

老若男女を問わない美容意識の高まりと、効率性および合理性が重視されるデジタル化社会が相まって、美容と医療の融合が進んでいます。

筆者は、マーケティングやWeb広告と深く関わり、なかでもヘルス&ビューティ分野を多く手がけてきました。その立場から、「このままで、よいのだろうか?」と疑問を抱いています。

マーケティングで正解とされる「顧客ニーズの掘り起こし」を巧みに行うほど、人々は欲望を刺激され、ときに心身に危険な水準まで足を踏み入れてしまいます。

本記事ではまず、実際にどのようなトラブルが増えているのか、現状を整理してお伝えします。

そのうえで、マーケティングはどう関わっていけばよいのか、考えていきたいと思います。

美容医療・オンライン診療の相談が増加

最初に美容医療やオンライン診療を取り巻く現状について、確認していきましょう。

年々増える美容医療サービスの相談件数

まず、美容医療サービスに関する相談件数の推移として、以下のグラフをご覧ください。

とくに、2021年〜2022年より、急速に相談件数が増えていることがうかがえます。

筆者の見解では、従来「化粧品市場」が主戦場だった美容業界に、2010年代より「美容家電市場」が生まれ、さらに2020年代以降に「美容医療市場」が拡大しているとみています。

そもそも2000年代の化粧品市場でも、「より効く、強力な成分を配合したハイテク化粧品」を求めるトレンドが存在していました。

冒頭でも触れた、“効率性および合理性” が重視される時代の空気感のなか、それが美容家電(スチーマー、美顔器、高機能ドライヤーなど)へ遷移し、さらに医療へと進行したように思います。

アンチエイジング市場やメンズ市場の活性化により、裾野の拡大が続いていることも、着目点です。

近年目立つオンライン診療のトラブル

上記の背景に加えて、「デジタル化」が進んでいる最中、というのが現在の特性といえます。

“美容医療のオンライン診療” という、従来なかったアプローチが生まれています。

同時に、トラブルの報告も増えており、
〈美容医療のオンライン診療に科する相談件数の推移は、2021年から2022年で約4.2倍になっている〉
というデータがあります(以下参照)。

<出典:痩身目的等のオンライン診療トラブル|国民生活センター>

相談事例

具体的に、美容医療のオンライン診療で、どのようなトラブルが起きているのでしょうか。

相談事例として、国民生活センターのサイトでは、以下が紹介されています。

・オンライン診療で処方されたダイエット治療薬が糖尿病治療薬だった。
・基礎疾患の問診が不十分なまま、処方薬を強く勧められた。
・他の薬との飲み合わせや副作用の説明がなく、キャンセルもできない。
・基礎疾患の問診がなく、処方された薬で副作用が出た。
・処方薬が意図せず定期購入になっていた。
・オンライン診療サイトの運営事業者と医師(クリニック)の役割が判然としない。

<出典:痩身目的等のオンライン診療トラブル|国民生活センター>

また、オンライン診療ではありませんが、ちょうど本記事執筆中には、インターネット上で「筋肉増強外来クリニック」の是非が騒がれる状況となっています。

参考:X(旧Twitter)で[筋肉増強外来]と検索した結果ページ

筋肉増強を目的として、ステロイドを処方するというものです。

副作用やリスクの問題

消費者庁・厚生労働省・国民生活センターは、「美容医療を受ける前にもう一度」という文書を出しています。以下は一部引用です。

<出典:美容医療を受ける前にもう一度|消費者庁・厚生労働省・国民生活センター>

〈国内で承認されている医薬品の副作用で万が一健康被害があったとき、公的な救済制度(医薬品副作用被害救済制度)がありますが、原則として決められた用法・用量等に従って使用されていない場合は救済対象になりません〉
との記載があります。

安易な美容医療の利用に対して、注意喚起がなされています。

糖尿病治療薬の在庫が逼迫

前出の相談件数は、利用者にとってのトラブルが可視化されたものです。一方、利用者にとって不安や不満がなくとも、社会に与える影響が表出しています。

たとえば、厚生労働省は、2023年11月に「GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(その2)」という文書を出しています。

糖尿病治療薬を、美容・痩身目的で服用する人が増えた結果、在庫薄となり、必要としている患者さんへの供給に影響を与えかねない事態となったのです。

以下は同文書からの抜粋です。

“顧客ニーズ”を刺激することは正義か

上記を踏まえつつ、ここからは、マーケティング観点のお話に移ります。

美容医療とオンラインが融合して、利用のハードルが下がるなか、その“マーケティング戦略”を見かけることが増えています。

“ニーズを創出”する?

現代のマーケティングでは、人々が持つ潜在的な欲求や、まだ気づいていない悩みを引き出し、新たなニーズを生み出すことが、優秀な手法として礼賛されがちです。

多くの商品・サービスがコモディティ化し、差別化が困難になっています。未開拓のニーズを開拓することは、競争優位を確立するうえで重要といえます。

しかしながら、副作用も含有する商品・サービス(美容医療のような)のマーケティング活動が、胸に隠し持ったコンプレックスやルッキズムを鋭利に刺激してくるとき、ドキリとするのです。

欲しくないものを欲しくさせてまで売る是非

「エスキモーに氷を売る」という表現があります。

優れたマーケティング力やセールス技術を持つ人は、本来は必要としないものであっても、相手に購入させられることを、比喩的に示すために使われます。

これは、マーケティングの概念がまだ浸透していない20世紀に、
「モノが良ければ売れるとは限らない」
という示唆を与えるためには、大変有益でした。

しかしながら、マーケティングの概念が浸透し切って充満している現代では、むしろ逆に、
「マーケティングが良くても、モノが良くなければ売れない(売るべきではない)」
という示唆が必要なのではないでしょうか。

「エスキモーに氷を売ってはいけない」という提言です。

一周回って「本当のニーズ」を考える

あるいは、もしエスキモーに氷を売るならば、“1回、売り付ける” のではなく、“何十回も、何十年も、買い続けてもらう” ことを考えなければなりません。

つまり、本質的な価値提供が重要です。大げさにいえば、子の代・孫の代まで、未来永劫の持続可能性がある取引です。

マーケティングが顧客の真の利益を考慮せず、短期的な利益追求に走ることのリスクは、オンライン美容医療に限ったことではありません。

マーケターは、自身のスキルが向上するほどに、提供するサービスや商品が、長期的に顧客の幸福に資するか、常に考慮する責任があると考えます。

マーケティングの倫理性について再考し、「必要な人に必要なモノを届ける」という基本へ、立ち返ってもよいのではないでしょうか。

さいごに

本記事では、美容医療について取り上げましたが、これ自体を否定するものではありません。

筆者自身、さまざまな美容医療やオンラインでの処方を経験しており、その恩恵にあずかっているひとりです。マーケティングの面でも、関わってきた経緯があります。

だからこそ、今後は倫理的な側面が重要になると感じています。

顧客の心をやみくもに刺激するテクニックを磨くのではなく、ウェルビーイングを目指した結果として、成果が得られるようなマーケティングへ。意識をシフトするために、これからも考え続けたいと思います。