大手電機メーカーA社は、「製品を売る」ビジネスから「顧客の課題解決に貢献する」ソリューション提供型ビジネスへの転換を目指すなかで、デジタルマーケティング推進に注力していました。しかし同社は、「どのマーケティング施策がどれだけ収益に貢献しているか」を可視化できずにいました。
パワー・インタラクティブは2024年1月より、A社のマーケティングデータ基盤整備の支援を開始。マーケティングROI可視化までのロードマップ策定、特定の事業部門でのダッシュボード実装をおこないました。
本稿では、A社の支援を担当したコンサルタントの久道に、プロジェクトの経緯や成果、今後の展望についてインタビューした内容をまとめています。
A社では、デジタルマーケティングを全社的に推進するための専門部署を設立しています。この部署は、2025年3月までに「マーケティング施策のROI可視化」と「施策の高度化」を実現するという明確な目標を掲げています。
しかし、マーケティングのROI可視化を実現させるうえで、A社は主に2つの問題に直面していました。
・Adobe Marketo Engage(以下、Marketo)の活用が十分に進んでいない
・部門間でのデータ統合や共有が適切におこなわれていない
これらの問題により、全社的なマーケティングROIの可視化が困難な状況となっていました。
このような問題が起こっている背景には、デジタルマーケティング推進部門と各事業部門の間で、役割分担や連携方法が不明確になっているという問題がありました。また、推進部門が全社横断的な施策を目指す一方、事業部門はそれぞれの事業特性に適したマーケティングを進めたいと考えているという問題もありました。
これらの要因により、部門間の連携が十分に機能せず、デジタルマーケティングの推進が妨げられていたのです。
以前からWeb制作などで連携していたA社のパートナー企業からの紹介がきっかけとなりました。 A社はそれまで、当社のことをWebサイトや記事で見て、「MAツールに強みを持つ会社」という認識は持っていたようですが、今回のプロジェクトが当社との初めての取り組みでした。
最終的な決め手となったのは、ダッシュボード納品までの早さだったと聞いています。初回の提案時に、「目安として3ヶ月程度でダッシュボードを納品できる」とお伝えしたところ、迅速な改革を求めるA社のニーズにマッチしたようです。
加えて、パートナー企業との協業実績やA社内での当社の認知度も、信頼の獲得に大きく寄与したと考えています。
Marketoの再構築と活用をベースに、3段階のフェーズに分けたデジタルマーケティング推進を提案しました。 ・フェーズ1:Marketoの再構築とデータ活用方針の明確化 ・フェーズ2:ROIの可視化と再現性のある仕組みづくり ・フェーズ3:他部門への展開
まずA社の現状確認から始めました。具体的には、リードナーチャリングの運用やステージの定義、運用フローを確認し、Marketoのデータフローを整理しました。
A社はMarketo導入当初に体系的な基本設計がなされていましたが、新たなプロモーション追加によりデータフローが複雑化し、活用しにくいデータが多く蓄積していました。そこで、理想的なデータフローの再設計とノイズデータの精査をしました。
これにより、データフローがわかりやすくなり、Marketo内にあるデータを活用するための準備ができました。
A社ではMarketoとMicrosoft Dynamics 365(以下、Dynamics)を連携させていましたが、主に2つの問題がありました。
まず、営業担当者の行動とシステム上の記録に不一致が見られました。例えば、実際にはアプローチを開始しているのに、システム上ではステータスが「未アプローチ」のままというケースがありました。これはステータス変更のルールが不明確だったり、適切に運用されていなかったりすることに起因する問題でした。
また、MarketoとDynamics間でのリード情報の同期プロセスにも問題がありました。本来は両システムで常に同じ情報が保持されているべきですが、実際には双方のデータにズレが生じていたのです。例えば、Dynamics側でリードステータスが更新されても、その情報がMarketoに正しく反映されていないケースがありました。このような不整合がどのプログラムやプロセスで発生しているのかを特定し、修正していく必要がありました。
図表1:再設計したMarketoとDynamicsのデータフロー
ROI可視化に向けた最大の課題は、各製品やサービスに紐づく営業活動の詳細な把握です。現在のデータ環境では、製品カテゴリ別の大まかな進捗管理しかできません。また、一部の事業部門ではDynamics以外のCRMを使用しているため、データ統合が困難です。そこで、私たちは一つの指標として「SQL」に着目し、3つのステップでROIの可視化を目指しました。
1.「SQLへの転換」を主要指標として設定
2.営業担当者がDynamics上で適切にステータスを更新できる仕組みの構築
3.SQLへのステータス変化をリアルタイムでMarketoに反映し、ダッシュボード上に表示
これらの施策により、マーケティング活動の効果をより正確に把握し、各製品のマーケティング効果を個別に評価できる基盤を整えていきます。
支援開始前、A社はROIの可視化をそもそも実現できるのか、どのようにして目指せばよいのかが明確になっていませんでした。今回の支援を通じて、MarketoとDynamicsの運用における問題点、構築すべきデータフローをA社に示せたことが大きな成果だと考えています。
図表2:実現したいデータフロー
また、デジタルマーケティング推進の部門と密に連携を取っている事業部門へのダッシュボード実装は一旦完了しました。現時点でも、インサイドセールスが適切にデータを入力すればSQL創出への貢献を可視化できるところまできています。今後はそのダッシュボードの安定運用、そしてほかの事業部への展開を進めていきたいです。
このように、不可能に思える課題に直面して悩むお客様に対して、現実的な推進イメージを示せたのはひとつの成果だと思っています。
今回の支援では、A社のマーケティングROI可視化に向けた基本的な型を構築しました。この型は、他の事業部門やソリューションにも応用可能だと考えています。
今後はこの型をより実運用にあった状態まで改善し、それをもとに他の事業部門に展開していくという段階的なアプローチを実行する予定です。
全社的な改革は、一朝一夕に進むものではありません。地道に成功事例を積み重ねることで、全社がデジタルマーケティングに取り組んでいけるような支援をできればと思います。
大企業におけるデジタルマーケティングの推進の難しさを実感しました。事業部門ごとに異なる状況や考え方、社内の調整事項の多さ、既存のシステムとの連携など、乗り越えるべきハードルは少なくありません。 それだけに、A社の皆様がそれらのハードルに真摯に向き合い、一つひとつの課題を解決しようと努力されていることに感銘を受けました。
また、デジタルマーケティングの推進には、ツールの活用や施策の実行だけでなく、組織全体で取り組む意識づくりも重要だと再認識しました。今回の経験を、他社様の支援にも活かしていきたいです。
A社様はMarketoへの理解が非常に高く、当社の施策面での提案を信頼し、スピーディーに実装していただけました。
また、担当者様は、「2025年のROI可視化」という目標にコミットしており、社内調整もスムーズに進められていました。そのおかげで、できること・できないことの線引きを早い段階で付けることができました。
お客様の理解度の高さと意思決定の早さがあり、私たちの提案を信頼してくれたからこそ、短期間で密度の高い支援ができたと感じています。全社的なマーケティングROIの可視化にむけて、より一層支援していければと思います。
コンサルティング第1部 部長
久道 真之介
マーケティング戦略策定
通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。
2023.11.24
2020.12.03