※部署名は、取材時の所属部署です。
「医薬」の事業分野において、高度な技術とユニークな視点で独自の研究を進め、確かな品質の製品や治療法を開発・提供している協和キリン株式会社。売上収益は4,400億円を超える(2023年12月期)、バイオ医薬品、特に抗体医薬に強みを持つ会社です。
パワー・インタラクティブでは、2024年1月よりAdobe Marketo Engage(以下、Marketo)の導入ならびに活用を支援しながら、デジタルマーケティングの推進をサポートしています。 2024年1月~6月の半年間はMarketo活用のPoCプロジェクトを進めてきました。本稿では、プロジェクト推進の軸になっている営業本部の3名に、これまでの取り組みと成果などについてうかがいました。
青木氏:新型コロナウイルスの感染拡大による医師へのアプローチ環境の変化と、医療業界の情報提供ガイドラインが変わり、自由に情報提供ができなくなったことなどが背景にあります。以前は医師はMRに会って情報を得ていましたが、コロナ禍によってMRに会わなくても情報がとれることがわかり、MRとのコンタクトの仕方を考えるようになってきました。動画やウェビナーなど様々な選択肢ができたので、医師の情報取得ニーズが多様化してきました。
そうした状況で、われわれが適切に情報提供していく手段として、デジタルマーケティングを推進するという流れができました。MRの行動を基軸にしながら、どのように効率的に進めるかを考えてきています。
今田氏:コロナ禍で医師に会えなくなる以前から、他社は着々とデジタルマーケティングの準備を進めていました。いざコロナ禍に入り医師に会えないとなったときに、他社と比べて3年くらい遅れていることに気づいたのです。コロナ禍が収束しても昔のようには戻らないので、新しいチャネルを作る必要がありました。
デジタルマーケティングによって、MRへレコメンドを出したいというのが元々の考えです。MRへ最適な選択肢、NBA(Next Best Action)を提示したいと考えたのです。
今田氏:2021年にMA(マーケティングオートメーション)の導入を検討し始め、2023年にMA導入が決定しました。検討から導入決定まで2年かかったのは、MAの知見がある者が少なかったからです。自社にMAは必要なのか、それはなぜか、MAでできることは何か、といった点を押さえた上で導入を決めました。その後、MAを選定する際は、自社でどのようなことをしたいのか、ツールに必要な機能は何か、どのような特徴を持ったMAがあるのか、自社だけで運用をおこなっていけるのか、などを検討し、最終的にMarketoを選定しました。
プロジェクトを開始する際は、大枠でスケジュールを決め、各部署から担当者を選定し、仕組みを作って臨みました。1月から6月までの最初の半年間はPoC期間として進めました。
MAをメール配信ツールとして扱うのであれば、こうした体制は必要ありません。MAを活用し、デジタルマーケティングを定着させるためには、いろいろな人の協力が必要ですし、本気でやってもらわないと途中で頓挫すると思い、体制づくりに力を入れました。
プロジェクト体制の核となるのは、高橋も所属している「オペレーションチーム」です(図表1参照)。当チームがMarketoの運用をおこなっており、営業デジタル推進室とマーケティング部より3名をアサインしました。また、オペレーションチームと連携して、データをつなげる担当とインフラまわりの担当を営業デジタル推進室より配置しています。
MRの統括部署であるエリア戦略部からは「現場コミュニケーションチーム」に2名を配置、マーケティング部からは4つの領域中、2領域の「腎」と「中枢」においてそれぞれの「マーケティングチーム」に配置しました。
プロジェクトメンバーには、自分の仕事をしながら兼務でプロジェクトに参加してもらいました。メンバーの上長には、事前にある程度の工数は欲しいと説明し、たとえば、PoCの段階でオペレーション担当は、業務時間の半分はこちらのプロジェクトに必要だと伝えていました。当プロジェクトは、社内の他のプロジェクトに比べると人数は多くありませんが、手を動かす実務者で判断できる人をメンバーに集めたので、スピーディーに進んでいきました。
高橋氏:私が所属する「オペレーションチーム」では、3名全員がMarketoの研修を受け、研修で流れを学んだつもりでいたのですが、実際に弊社のデータを入れてみると構成の漏れやデータの持ち方が異なっていて苦労しました。
たとえば、顧客である医師1人に対して、勤務先の病院が複数紐づいているケースがあります。それぞれの病院に担当のMRがいるため、顧客の医師の動きがあった際に送るアラートメールを、誰に送るのかを社内で調整するのが難しかったです。検討した結果、現在は全担当者に送っています。MRを統括している部署に許諾を得ることで、トラブルなく運用できています。
また、現在は配信するための会員データを手動でインポートしなければなりません。Marketo内のデータ更新が煩雑になっていることが問題でしたが、ようやく自動連携のめどがつきました。
今田氏:データ連携の部分が大変になると想定していたので、データまわりのプロであるICT運用管理グループのメンバーをアサインしていました。特にサードパーティデータとの連携に関しては、想定以上に調整が大変でした。たとえば、外部主催のウェビナーのデータはリアルタイムに連携ができません。後から手動で連携しています。今は、データ利活用のプロであるデータアナリティクスグループとも協力しながら、自動連係のしくみを構築中です。
ただし、こうした問題は「正しくつまずいている」という認識です。コンテンツに関しても始めたときから「このあたりでコンテンツが足りなくなりそうだな」と思ったところで足りなくなりました。それでいいのです。足りなくなったら、どのようなコンテンツが必要かを考えていくといった順番が大事だと考えています。
しっかりと、つまずくべきところでつまずいています。すべて外部委託することでつまずきを避けることもできそうですが、社内への知見の蓄積も大事なので、御社の力をお借りしながら想定どおりのハードルを一つひとつクリアしています。
高橋氏:Marketoを実際に操作するのは、私を含めて3人です。最初は3人全員が操作できるようになるため、分担をしないでひと通り触るようにしました。その後、自然と得意分野ごとに担当が分かれていきました。
手作業でおこなっているデータ連携は、私が担当することが多いです。メールを含めコンテンツは1つずつ審査が必要となるため、以前から審査をしていたメンバーが担当しています。Webサイトを担当していたメンバーは、サイトに掲載するコンテンツの選定やツール調整をしています。
私はMR出身ですが、私以外の2名はデジタルマーケティング領域に精通していました。ただし、Marketoの操作に関しては、デジタルマーケティングの知識だけでは難しい部分があるため、全員で学びながら進めていきました。
今田氏:オペレーションに関しては、高橋たちに任せられたので助かりました。
Marketoはできることが多すぎるため、やらないことを決めることが重要です。リソースには限りがありますから、今でなくてよいことはやらないと決めて、やるべきことを整理する必要があります。弊社では検討した結果、シナリオ分岐は現時点ではやらないと決めました。初めはメルマガ、次に取り組むのはウェビナー、と順番にやることを決めて、今できることに集中し、やらないことを決めてリソースを別に回すようにしています。また、このフォーマットはやめよう、一緒にやっていることを担当分けしよう、といった取り組みでリソースを作ることも必要だと考えています。
今田氏:「現場コミュニケーションチーム」を通じて現場のMRとのコミュニケーションをとっています。また、パイロット的な取り組みとして、デジタルマーケティング施策を理解している3営業所を選定し、所属するMRと会議をおこない、よい気づきがありました。会議に参加したMRは、自拠点に戻って情報を吸い上げてくれます。
以前はメールマガジンの登録数が少なかったのですが、MRが医師の登録を推進し、この半年でターゲットとなっている医師の登録が倍以上に増えています。登録を推進する前は、2割くらいの登録率でしたが、現在は半数近くまで増えました。
また、MRからはネガティブな反応が多いのではと思っていましたが、パイロット対象の3営業所からは、「ホットリードのアラートメール通知は営業活動にも行かせそうなものだった」という予想以上にうれしい声も届きました。
高橋氏: 私のところには、ウェビナーに関する声が届いています。以前はウェビナーを視聴したかどうかを確認するために、MRが別のシステムにログインして確認する必要がありました。それが、Marketoを使うことで、視聴したアラートメール通知がMRに届くようになりました。「自分からシステムにログインして確認しなくてもよくなったことはありがたい」という声が届いています。
今田氏:ウェビナーに関しては、見てくれた段階で超絶ホットリード扱いとなり、MRへアラートメール通知を出して、お礼メールを送る、あるいは訪問するなどの動きをとってもらうようにしています。実際に行動を起こすかはMRの判断になりますが、最大のチャンスを知らせています。
今田氏:オペレーションのところまで、自分たちでできるようにサポートしてくれる会社を探した結果、御社にお願いしました。その観点で本当に貢献してもらっています。
高橋氏:なにからなにまでお世話になっています。完全に業務の代行をお願いしてしまうと、社内メンバーにスキルが身につきません。パワー・インタラクティブはデモを見せてくれたりアイデアを出してくれたりはしますが、その先は自分で考えるように、というやり方です。自分たちで考える機会が増えたことは、大変よかったです。
一方、課題に応じた施策を検討する際、自分たちで考えているとスピード感が足りないこともあります。その際は御社の力を借りられると大変ありがたいです。
今田氏:全体の課題は、プロジェクトを定常業務として運営する方向へ変えていくことです。プロジェクトに参加しているメンバーは、それぞれの業務について詳しくなってきましたが、属人的にならないようプロジェクトメンバー以外も理解できるようにする必要があります。来年は全領域で展開できるよう標準化を進めていきます。今後はナーチャリングが始まるので、楽しくなるフェーズです。
青木氏:今後はシナリオを作って検証し、ニーズに基づいてPDCAを回していくことを進めていきます。シナリオは作れると思いますが、分析面が課題です。その辺りも、ぜひアドバイスが欲しいです。シナリオづくりの考え方や骨格は御社に作ってもらいました。これからは、目的の1つであるMRへホットリードを送れるようにしていきたいです。
コンテンツ作りについても、どれくらいの数が必要なのかなど、これから考えていかなければなりません。コンテンツを作るうえでの審査の効率化も必要です。今回のプロジェクトによって発射台はできたので、ゴールに向けて突き進んでいきたいと思います。
プロフィール
今田 哲史 氏
協和キリン株式会社 営業本部 営業企画部 戦略グループ マネジャー
2004年に入社後、MRとして東京都中央区・台東区などを担当。その後、支店でのサポート業務や他支店でのMRを経て2019年に営業デジタル推進の前身組織に異動。デジタル関係の業務を経験した後に現在に至る。「最近、ホットヨガを始めました。膝の調子が良いです。」
プロフィール
青木 聡 氏
協和キリン株式会社 営業本部 マーケティング部 腎・代謝内分泌領域グループ グループ長
1995年に入社後、MRとして千葉県東葛飾エリア、札幌市などを担当。その後、マーケティング部の前身である学術推進部に異動。現在は腎・代謝内分泌領域の主力製品について戦略面からMR活動を支援するための製品戦略の立案と推進を行っている。
プロフィール
高橋 宏輔 氏
協和キリン株式会社 営業本部 営業デジタル推進室 デジタル企画グループ 高橋 宏輔 氏
2017年に入社後、MRとして千葉県成田市、印西市などを担当。
その後、2023年に営業デジタル推進室に異動し、マーケティングオートメーション、生成AI利活用推進をメインに行っている。
※部署名は、取材時の所属部署です。
インタビュー実施日:2024年9月3日
協和キリン株式会社
https://www.kyowakirin.co.jp/
協和キリン メディカルサイト
https://medical.kyowakirin.co.jp/
協和キリン様のAdobe Marketo Engage活用PoCプロジェクトの支援は、私にとっても大変貴重な経験となりました。当プロジェクトで一番重要だと感じたことは「体制構築」です。各部署から適任者を選抜し、実務者レベルで判断できるメンバーを集めたことで、スピーディーな意思決定と実行が可能になりました。特に、オペレーションチームを核とした体制は効果的で、支援もスムーズに行えました。今後は、定常業務化に向けた標準化の推進が重要になってくると考えています。属人的な運用を避け、組織全体でデジタルマーケティングを推進できる体制づくりが求められます。PoCプロジェクトで築いた基盤をもとに、さらにデジタルマーケティングが進化することを楽しみにしています。
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!
今年1月から6月までのPoCプロジェクトでは、限られた時間の中で課題にぶつかりながらもスムーズに推進していくメンバーの姿が印象的でした。プロジェクトがスムーズに推進できた要因として「事前の計画や備え」があったと見ています。具体的には、MAの検討から導入まで2年の検討プロセスにおいて社内で目的や必要性のすり合わせを行ったことや、手を動かし判断もできるメンバーを集めたこと、プロジェクトを進める中でも「つまずく」ポイントの仮説をもって臨んだことなどが挙げられます。今後の定常業務運営においても、ナレッジを蓄積・継承し、部門間の連携をさらに強化することで、MRへより価値のある顧客情報を提供できると確信しています。
マーケティングコンサルタント
樫尾 雅史
Webサイト構築/運用管理
Web制作会社および大手食品メーカーハウスエージェンシーにて、Webサイト構築・運営を経験。その後、医療系メーカーにて、自社Webサイトの運営やMAを活用したマーケティングを経験。商品やサービスが最適なユーザーに届くよう、WebサイトやMAにおける行動設計を改善して顧客のビジネスを好循環の軌道に乗せることを得意とする。
2024.07.01
2024.06.21
2024.06.17