大手住宅メーカーA社では、Adobe Marketo Engage(以下、Marketo)のエンゲージメントプログラムを活用しながら見込み顧客に対するナーチャリングメールの定期配信に取り組んでいました。しかし、メール施策を開始してから2年が経過し、ホットリードの創出数が伸び悩んでいる状況にありました。
ホットリードを増やす施策の一つとして、メールのABテストを実施。複数回の検証を重ね、データに基づいた改善を進めることで、メール開封率が1.5pt、クリック率は37.8pt上昇しました。
本稿では、A社の支援を担当したコンサルタントの砂に、支援の流れや具体的な改善内容についてインタビューした内容をまとめています。
Marketoのエンゲージメントプログラムを活用しているA社では、見込み顧客向けに約30種類のメールを用意していました。
メールは順番に配信され、最後のメールまで配信が終わると同様のメールが再度送信されるといったサイクルが回っていました。これにより、継続的な顧客との長期的なコミュニケーションを実現していました。
支援開始当時、A社がMarketoの運用を開始してからは2年が経過していました。しかし、当初は毎週1,500件ほどあった営業チームへのホットリード提供数は1,000件程度まで減少。国内市場は縮小傾向にある住宅メーカーにおいて、従来の施策をそのまま続けていくだけではホットリード提供数が縮小していくことが見えていました。
A社では、顧客行動を軸にスコアリングルールが設計されています。しかし、顧客行動を検知してスコアを加点できるのは、タギングが済んでいるリードのみです。ホットリードとして抽出できるリードの母数を増やすには、まずタギング済みリードを増やす必要があります。
タギングは、ユーザーがMarketoから配信されたメールのリンクをクリックしたときにおこなわれます。そのため、タギングされたリードの件数を増やすために、常時配信されているエンゲージメントメールの改善に着手しました。
図表1:A社が抱えていた問題と改善方法
Marketoの標準機能を活用し、ABテストによる改善を実施しました。ABテストは、十分な母数がない場合や単発的な配信では効果測定が難しい手法です。ただ、A社の場合はすでに十分なハウスリードがあったため、ABテストによる検証が可能だと判断しました。
タギング率の改善に向けては、2つの施策を実施しました。1つ目は開封率向上のための件名改善、2つ目はクリック率向上のためのメール本文改善です。
私たちはまず、事例紹介コンテンツへの誘導メールの検証と改善から着手することにしました。
件名のABテストは、2ヶ月という長めの期間で実施しました。A社が事業を展開している住宅業界では、ゴールデンウィークや年末年始といった住宅展示場への来場者が多い時期と、それ以外の時期でメールの反応が大きく変わります。そういった背景を加味して、メールの改善による効果を正確に分析するために、テスト期間を長めに取りました。
1回目のテストでは、従来のメールの件名において、面積の表記方法や文字間のスペースの有無が統一されていないことに着目。読み手に対して一貫性のある印象を与えられていない点を改善するべきという仮説を立て、新しい件名パターンを作成しました。
しかし、この仮説に基づいて作成した新メールの開封率は、従来のメールを下回る結果となりました。そこで改めて従来の件名を分析したところ、「○坪」といった具体的な数字の表記や、数字の後のスペースの存在が開封率に良い影響を与えている可能性が見えてきました。
この発見を活かし、2回目のテストでは従来の件名から効果的だと思われる要素を抽出し、新たな統一基準を設定。その結果、開封率を1.5pt程度改善できました。
図表2:誘導メール件名改善の経緯と結果
メール本文の改善では、主にコンテンツの配置やクリック誘導の最適化に取り組みました。
最初のABテストでは「本文の内容を充実させれば、顧客の理解が深まりクリックしてもらえる」という仮説のもと、新しいデザイン案を作成。商品の特徴や事例の詳細な説明を強化し、動画コンテンツも追加しました。その結果、メインコンテンツ部分でのクリック率は向上したものの、メール全体でのクリック数には大きな変化が見られませんでした。
そこでクリック位置の詳細な分析をおこなったところ、興味深い発見がありました。従来デザインでは、フッター部分に設置した関連リンクが多くクリックされており、重要な導線となっていたのです。さらに分析を進めると、フッターまでスクロールしたユーザーの多くが実際にクリックしている一方で、本文が長くなったことでフッターまで到達できないユーザーが相当数いることが判明しました。
この発見を受けて「情報を充実させれば、クリック率が上がる」という当初の仮説を見直すことに。2回目のテストでは、メール本文の説明を簡潔にし、フッターまでスクロールしやすい新しいデザインパターンを作成しました。その結果、メインコンテンツとフッター、双方でのクリックを促すことができ、メール全体での開封済みクリック率が約17%から約55%まで向上。大幅な改善を実現することができました。
図表3:誘導メール本文改善の経緯と結果
大きく分けて3つの成功要因があったと考えています。
1つ目は、始めに立てた仮説に固執せず、データから得られた知見を次のテストに活かすアプローチを取ったことです。件名テストでは、始めの仮説をもとに作成した件名が従来の件名よりも開封率が下回った際も、なぜ従来の件名が効果的だったのかを詳しく分析し、数字の表記や数字の後のスペースの存在といった細かな要素を次の施策に活かしました。
また、メール本文に関しては、メール全体でのクリック数だけでなく、クリックの位置やスクロールの深さなど、多角的な視点から読者の行動を詳細に分析したのもポイントの1つです。これにより、長い説明文が読者のフッター到達を阻害していることや、フッター部分のリンクが意外とクリックされていることを発見し、次のデザイン改善に活かすことができました。
3つ目の成功要因は、Marketoの標準機能であるABテスト機能を効果的に活用できたことです。Marketoでは、配信設定をそのままに、メールの件名や本文を複数パターン用意して配信対象者をランダムに振り分けることができます。この機能を上手に使うことで、毎週の定期配信の中で効果的な検証を実現できました。
図表4:ABテスト成功のポイント
顧客の行動を深く理解するためには、クリック数や開封率といった表面的な指標だけでなく、クリック位置や読了率、スクロールの深さといった詳細な行動データを分析することが重要であることを改めて実感しました。
今回のテストで得られた知見をほかのメールアセットにも反映させていきたいです。すでに件名については、具体的な数字の使用やスペースの挿入など、効果が確認できた要素を取り入れながら全メールのタイトルの表記方法を統一しました。今後は、本文についても、現在160通以上あるメールアセットを順次新しい形式に移行していく予定です。
ABテストの実施において、最も重要なのは「仮説が外れても諦めない」という姿勢です。今回の事例では、当初想定していた改善案が思うような結果を出せなかったものの、データ分析から新たな発見を得て、メールの改善につなげることができました。
このように、データに基づいて地道に改善を重ねることが、メールを軸とした成果向上には欠かせません。一つひとつの発見を次のステップにつなげていく。それこそが、高い成果を生み出すための要になると考えています。
執行役員
砂 智久
マーケティング戦略策定
2000年からWebマーケティング、リードナーチャリングの支援に従事。ネットサービスの立ち上げやデータベースマーケティングのアウトソース、BtoB大規模サイトの運営などを経験。パワー・インタラクティブ入社後は、Marketo支援、マーケティング代行などのサービス開発を推進。
2025.03.04
2025.01.06
2024.12.24