セミナーレポート

カスタマーサクセスの潮流 ~SaaSから製造業へ~

パワー・インタラクティブは株式会社openpage代表取締役の藤島誓也(ふじしませいや)様をお招きし、2021年7月20日、Liveインタビュー形式のオンラインセミナーを開催しました。

売って終わりではなく、顧客との長期的な関係を維持しながら、できるだけ長く使い続けてもらうことを前提とするサブスクリプションビジネスに成長の活路を見出す企業が増えています。このサブスクリプションビジネスに不可欠なのが「顧客の成功が自社の成功である」というカスタマーサクセスの考え方です。そして今、カスタマーサクセスは、ベンダーから製造業へと広がりつつあります。

そこで今回のセミナーでは、カスタマーサクセスに特化したクラウドサービスを提供する株式会社openpage代表取締役の藤島誓也様に、製造業に焦点を当てた「カスタマーサクセスの潮流」をテーマにお話を伺いました。

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第1部 Liveインタビュー|今、なぜカスタマーサクセスが注目されるのか

藤島様:
近年カスタマーサクセスが注目される背景として、SaaSやクラウドサービスの隆盛があります。セールスフォース・ドットコム社が2000年代前半に「カスタマーサクセス」という言葉を生み出しましたが、昨今、日本でもSaaSベンダーが急成長し、自社製品を使ってもらうための活動としてカスタマーサクセスに取り組みだしています。

とはいえカスタマーサクセス活動は、既存顧客からどれだけ売上を生み出せるか、クロスセルや長期契約を得るかといった取り組みですので、一般的な企業でもCRMの文脈、ルートセールスの文脈で近しいことは以前からやっていました。

パワー・インタラクティブ 広富:
カスタマーサポートと、カスタマーサクセスの違いを教えてください。

藤島様:
カスタマーサポートでは、お客様からの問い合わせなど向こうから来るものに対応することが多いので、「問い合わせにいかに早く回答するか」「いかに早く社内にエスカレーションするか」が成果指標となります。それに対してカスタマーサクセスは事前にこちらからお客様に対して働きかけるというニュアンスがあります。

しかしながら最近ではカスタマーサポートにおいても、よくある質問をウェブサイトに「Q&Aコーナー」として掲載したり、契約直後にオンボーディング架電をしたりと、お客様からの問い合わせが来る前に前のめりにサポートしていこうというカスタマーサクセスに近い取り組みが増えており、注目度の高さがうかがえます。

製造業におけるカスタマーサクセスの可能性

藤島様:
カスタマーサクセスの目的は初回売上ではなく、既存顧客の導入や運用をサポートすることで継続的な売上を伸ばすことです。従来のビジネスでは優先度が低かった取り組みかも知れませんが、初回売上は小さくても、既存顧客からのクロスセルやアップセルで売上を高めていく戦略にシフトしている会社様が最近は増えています。

広富:
コロナ禍で新規顧客の獲得が難しくなり、既存顧客からの売上を拡大したいという企業様の声も昨年ぐらいから大きくなっています。

藤島様:
既存顧客からの売上を拡大するSaaSやサブスクリプションモデルでは、以下の3つのニーズがあります。
「契約管理」...既存顧客の契約情報を管理し、お客様が何を契約していて、今後何を契約しそうで、契約している商品をどれだけ使っているのかを知ること。
「顧客分析」...自社の製品がどのように使われているかを分析すること。製造業ではIoTの取り組みが進んでおり、どの製品がどこでどういう人に使われているかを見える化しているところもあります。
「顧客体験」...デジタルでお客様の体験設計をすること。

図表1

藤島様:
製造業における事例をご紹介します。まずはGE様の例です。飛行機のエンジンの状況を示すデータをIoTにより自社のプラットフォームに飛ばすことで把握できるようになっていて、何かエンジンに異常があればアラートを出します。あるいはこの空港ではどのエンジンが良く使われているかなどといった利用状況も見られるようになっています。

図表2

藤島様:
次にコマツ様の例です。KomConnectというプラットフォームを通じて、全ての製品やツールと繋がっていて、どの会社が契約していて、どの現場で稼働させているかがわかります。
そして図の下にあるzuoraという、サブスクリプションや従量課金に対応する決済システムとも連携しています。従来の経理システムでは、IoTなどの従量課金には対応できないのですが、zuoraでは利用度合いに応じて課金金額を変えることができます。

図表3

カスタマーサクセスとしては、お客様にいろいろな製品をたくさん使ってもらう必要があります。初回売上で例えば建機1台で数千万円を売り上げるより、クラウド事業による従量課金の売上が高くなるのであれば、いろいろな会社がこのビジネスモデルにシフトすると思います。

広富:
従量課金にしたほうが、クロスセルもアップセルも進めやすくなるのでしょうか。

藤島様:
BtoBの製造業向け製品について考えますと、従来型のビジネスモデルですと初回の導入コストが高いと思います。このためお客様は設備投資をするのに躊躇してしまいがちです。一方でサブスクリプション、従量課金モデルですと、初回の売上は高くありませんが、買い手側からするといろいろ試せるメリットがあります。初回の売上は下がりますが、継続的に払ってもらうことになりますので、クロスセルや上位プランへのアップセルがやりやすくなります。

広富:
日本の製造業におけるカスタマーサクセスの取り組みは、どのぐらい進んでいるのでしょうか。

藤島様:
2~3割の企業は先駆的な取り組みをやっていこうとしています。大手企業様ではクラウドの新規事業を最初から作ってしまうという取り組み方が最近では増えています。Eコマースの分野ではD2Cという言葉がトレンドですが、これもカスタマーサクセスに近いイメージで、一人のお客様にずっと付き添うビジネスモデルです。新規でどんどん取るというよりも、既存のお客様が定期購入するモデルにチャレンジする企業が増えています。

次に3~4割の企業様では、カスタマーサポートやルートセールスといったCRMの取り組みを、カスタマーサクセスを見習って強化していこうとしています。このような会社が一般的だといえます。

残りの2~3割の企業は、まだカスタマーサクセスには興味がないようです。どういう取り組みなのか、財務指標の何に貢献するのかまだわかっていない段階です。

カスタマーサクセス推進のステップ

図表4

藤島様:
カスタマーサクセスは既存顧客からの売上を伸ばしていこうという活動ですので、内容としてはどの企業でももともと取り組んでいる場合が多く、スタート自体はそれほど重たいものではありません。

第1ステップ
既存のセールス、カスタマーサポート、CRM、導入コンサルティングといった顧客折衝系の仕事をしている方をカスタマーサクセス専任として確保すること。その方に既存顧客の売上を伸ばすことを目標として持ってもらいます。例えば契約期間、クロスセルの数、アップセルの数、違う部署への展開数などです。

簡単な取り組みですと、営業部の中に数人カスタマーサクセスチームを置く、カスタマーサポートの中にカスタマーサクセスチームを作るなど、既存の部の中に小さくカスタマーサクセス専門で行うチームを作るところから始められます。

第2ステップ
契約後のお客様のカスタマージャーニーを設計します。CRMと近いイメージですが、マーケティング活動というよりも、顧客体験・顧客サービスとしてどうジャーニーを敷いていくのかというイメージになります。契約した製品をどのように使ってもらうのか、そのためにどういうコミュニケーションをするのか、契約直後ですので、まずは購入したものをしっかりと使いこなして満足してもらう必要があります。 また、その製品のほかにどのような製品を使ってもらうのか、上位プランを使ってもらうためにどのようなコミュニケーションをするのかといったLTVをもう少し具体化し、自社の製品の平均単価や契約期間をいかに伸ばしていくかをしっかりと考えます。

第3ステップ
導入した後の製品やサービスの利用状況を可視化します。第2ステップでカスタマージャーニーを敷きましたが、実際のお客様がどう動いたかが見えないと効果がわかりませんので、デジタルの仕組みを入れて計測します。 GE様やコマツ様のようなIoTを取り入れて製品の利用状況を取得するところもありますし、ECであればウェブサイト上の行動データ・購買データを可視化します。カスタマーサポートからカスタマーサクセスへという文脈ですと、カスタマーサポートでヒアリングする内容をリッチにしていくといった取り組みになります。

第4ステップ
デジタルでどのようなサービスを提供するかが議論に上がってきます。例えばセールスフォース・ドットコムで一番機能しているカスタマーサクセスの取り組みは「TRAILHEAD(トレイルヘッド)」というサービスで、ウェブサイト上でセールスフォースの使い方や、どうようにして効果を出すかを学習することができます。学習したらバッジがもらえたり、コミュニティで他の人に回答すると賞をもらえたりと、学習を促進するための取り組みを積極的に行っています。これによって顧客の利用状況が伸びたり、今の製品についてどう思っているかなどを知ったりすることができます。

広富:
第1~第4ステップの企業の割合はどうなっていますか?

藤島様:
何かしら既存顧客の売上向上への取り組みを行っているのであれば、第1ステップはできているといえます。カスタマーサクセスの専門チームを作って行っているところとなると、3割ぐらいでしょうか。そして第2ステップはジャーニーを作るだけですので難しくはありません。

第3~第4ステップは高いハードルだと感じるでしょうが、マーケティングツールを使うことで実現できることが多いです。第3ステップはBIツールやCRMツールで可視化するという話ですし、第4ステップはCMSやMAなどで顧客とコミュニケーションを取りましょうという話ですので、頑張れば自社のリソースでもできてしまいます。

第1~第2ステップは営業職やサポート職の延長線上にありますが、第3~第4はデジタルマーケティングに近づいていきますので、その部署の方がカスタマーサクセスに関わってくれると、どの会社でもカスタマーサクセスのレベルが一気に上がります。

広富:
ここ数年、インサイドセールスがカスタマーサクセスも兼任する会社が出てきているようですが、連動性についてはどうご覧になっていますか?

藤島様:
インサイドセールスはまだ契約していないお客様に架電する活動、カスタマーサクセスは契約後のお客様をフォローアップしていく活動ですが、ファネルの前か、顧客になった後かの違いだけで、どちらも広義で言えば営業施策として行われていた活動が、分業して枝分かれしたイメージで捉えています。

広富:
カスタマーサクセスに向いている人材はどんな人でしょうか?

藤島様:
カスタマーサクセス業務は営業職に近いのですが、営業職だけの活動ではありません。まず製品を使ってもらうという仕事ですので、サポートやサービスに近いといえます。そして単価の高い製品であれば、導入後のコンサルテーションみたいな話になりますので、ITコンサル職にも近いです。

どの方が自社の顧客のジャーニーを敷くべきか。会社の製品によって大きく変わってきます。ECやマーケティングで売るモデルですと、マーケティング担当者が新規顧客獲得のジャーニーの延長でカスタマーサクセスのジャーニーも敷く方がよいと思います。一方で営業職が売っていくモデルですと、営業職の方がやったほうがよいです。導入後のコンサルテーションに重きを置くなら、その担当の方がやったほうがよいです。製品単価や持っている製品によって、誰が既存顧客に対する責任を持つかは異なります。

第2部 Q&Aコーナー|カスタマーサクセスに欠かせない「ヘルススコア」の考え方

広富:
ここからは視聴者の方からのご質問にお答えしていきます。

Q:
カスタマーサクセスの評価指標について、何をどのように評価すべきでしょうか?

藤島様:
財務的に捉えるのであれば、既存顧客の売上向上で、LTVを高めていく話になります。つまりユーザーあたりの売上をいかに長期にわたって上げていくのかがKGIになると思います。

カスタマーサクセスでKPIを設計する際に、「ヘルススコア」という数字を使うことがあります。2~3年といった長期契約の製品では、何を指標として追えばよいかわからない場合があります。そこで「どういうことをすれば長期契約が達成されるのか」を中間指標として置く考え方です。「製品の主力機能をこれぐらい使っていたら何ポイント」、「この製品を使った後にこの製品を買ったら何ポイント」、「上位プランを契約している」「セミナーに何回参加している」など、既存顧客を長期契約してくれるお客様の取る行動を中間指標として置いて、それを追っていきます。

ジャーニーも「ヘルススコア」を意識して作ります。このジャーニーに沿っていけばポイントが上がりLTVが最大化されるだろう、なおかつ最終的にはお客様もいろいろな製品を活用して満足している状態、導入の効果が出ている状態になるように狙って作ります。

図表5

Q:
カスタマーサクセスにおいて、サブスクリプションモデルで自社の売上をクロスセルやアップセルで伸ばすだけでなく、文字通り顧客がツールを使って顧客の利益が向上するといったウインウインの発想が重要と思いますがいかがでしょうか?

藤島様:
お客様の利益が向上することは大事だと思います。理想論を言えば、お客様が成功して、結果的に自社の売上も伸びる状態がよいですね。 例えばHubSpotという会社では、継続期間や解約率に応じたヘルススコアを設計するということを初期から取り組まれていました。しかしながら、自社の製品を積極的に使ってくれている、自社の製品の売上が高い状態とは、お客様にとって本当にプラスなのだろうかという疑問が出たそうです。そして、お客様の目標が伸びるのが一番だよね、という結論が出ました。

単純作業はデジタル化、人には人にしか出来ない創造的な仕事を

Q:
カスタマーサクセス組織を立ち上げたばかりで、メンバーのモチベーション管理に悩んでいます。どのようにしたらよいのでしょうか?

藤島様:
モチベーションが下がる要因として、「カスタマーサクセスでは同じ業務ばかりやってしまう」というケースがあります。製品の説明を何回もする、何回も同じことを言う、「これってキャリア的にプラスになるのでしょうか」と思うようです。

何度も繰り返し説明するような案内業務は、デジタルに落とし込んでデジタルコミュニケーションで完結する、「テックタッチ」と言われているものを取り入れて仕組み化しましょう。そしてメンバーの方にはもっと創造的な仕事、面白い仕事をしてもらいましょう。 お客様の要望を拾い上げてプロダクトの開発に貢献していくことや、単なる説明業務ではなくてイベントやコミュニティ活動による施策を行っていくなど、カスタマーサクセスの中でも面白い仕事を人に任せて、単純業務はなるべくデジタル化していくという使い分けをしっかりやることが大事です。

Q:
カスタマーサクセス組織を立ち上げるにあたり、営業部門とマーケティング部門から複数人引き抜く予定なのですが、どのような観点で人選すればよいのでしょうか?

藤島様:
カスタマーサクセスへの興味・理解度・学習意欲がどれだけあるかが大事です。
カスタマーサクセスと営業には似ているが違う側面があり、これまで学習したことを一旦忘れて、改めてカスタマーサクセスという業務をしっかりと勉強する必要があります。この勉強をする上で、営業ができる、マーケティングができるというところで頭が固まってしまう方ですと、そのやり方をそのまま持ってきてしまうので望ましくありません。
カスタマーサクセスとは何か、カスタマーサクセスとはどういう取り組みなのかをキャッチアップしたい人、キャッチアップしている人のほうが、現場での活動は早いです。ゼロから学びたいという意識がある人の方がいざ任せたときに仕事ができると思います。

カスタマーサクセスは、自社サービスを利用している「顧客の可視化」が重要であることを改めて認識しました。顧客の状態を把握することで、ニーズや不満を察知し、早めにアクションを起こすことで顧客の満足度を高め、信頼関係が継続できる。クロスセル・アップセルを意識しなくても、顧客優先に考えれば結果として売上もついてくるわけです。
「顧客の可視化」とアクションにおいて、デジタルマーケティングは重要な役割を担います。LTV化に向けた設計、運用が求められるのです。

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