ツールを導入しても成果が見えないのは、なぜなのか

近年、多くの企業で展示会DXへの投資が進んでいます。受付のデジタル化、QRコードによるチェックイン、名刺のデータ化、イベントアプリの導入など、以前と比べれば展示会運営は確実に効率化されました。

一方で、「ツールは導入したが成果が見えない」「営業フォローが結局属人化している」「展示会のROIを説明できない」といった声も少なくありません。

なぜ、展示会のデジタル化は進んでいるのに、事業成果へつながらないのでしょうか。

その背景には、多くの企業が「展示会DX」と「展示会データ活用」を同じものとして捉えていることがあります。デジタル化は目的ではなく、成果を生み出すための手段です。

今回は、日本企業が展示会データ活用を進めるうえで直面しやすい5つの課題を整理します。

理由1|展示会の目的が「出展すること」になっている

展示会を企画するとき、最初に議論されるのは、ブースデザイン、配布資料、ノベルティ、セミナー内容といった当日の施策であることが少なくありません。もちろん、これらは展示会を成功させるために重要です。

しかし、本来最初に決めるべきなのは、「この展示会で何を成果とするのか」というゴールです。

展示会の目的には、新規案件の創出、既存顧客との関係強化、新製品の市場検証、パートナー開拓、ABM対象企業との接点づくりなど、さまざまなものがあります。

目的が異なれば、取得すべきデータも、展示会後のフォロー方法も、評価すべき指標も変わります。

例えば、新規案件の創出が目的であれば、単なる名刺獲得数ではなく、有効商談数やパイプライン創出額を追跡する必要があります。既存顧客との関係強化が目的であれば、アップセルやクロスセルにつながる関心テーマや、顧客との接点の深まりを把握する必要があります。

展示会の成功は、ブースの設計からではなく、事業目的と成果指標の設計から始まります。

理由2|集めているのは「名刺」であって「データ」ではない

多くの企業では、展示会後に残る情報の中心は名刺です。企業名、所属部署、役職、氏名、連絡先など、名刺情報は顧客管理の基本として重要です。

しかし、展示会で本当に価値があるのは、来場者との会話から得られる情報です。

例えば、どの製品に興味を持ったのか、どのような課題を抱えているのか、導入を検討している時期はいつか、誰が意思決定に関与するのか、競合製品を利用しているのか、次に希望しているアクションは何か、といった情報です。

これらは、営業担当者がフォローの優先順位や提案内容を判断するために欠かせません。

ところが、こうした情報が担当者の記憶や紙のメモに残るだけで、組織として共有されないケースは少なくありません。その結果、営業担当者には名刺だけが渡され、「誰から優先的に連絡すべきか」「何を話せばよいか」が分からない状態になります。

展示会で持ち帰るべきなのは、名刺の枚数だけではありません。展示会後のアクションを判断できる文脈情報です。

理由3|営業とマーケティングが分断されている

展示会終了後、マーケティング部門が名刺を整理し、営業部門へ渡す。営業担当者は、その情報をもとにフォローを開始する。この流れ自体は、多くの企業で一般的です。

しかし、実際には双方に不満が残ることがあります。

営業部門からは、「来場者の温度感が分からない」「すべての名刺をフォローするのは難しい」という声が上がります。一方、マーケティング部門からは、「営業がフォローしているか分からない」「展示会後の案件化状況が見えない」という声が上がります。

この問題は、営業部門かマーケティング部門のどちらかに原因があるわけではありません。根本的な課題は、共通のデータと共通の運用ルールがないことです。

展示会前に、どのような条件の来場者を営業へ渡すのか、どの情報を引き継ぐのか、いつまでにフォローするのか、案件化しなかったリードを誰が育成するのか、といった役割分担を明確にしておく必要があります。

営業とマーケティングが共通のデータを確認し、同じ顧客を継続的に追跡できなければ、展示会が受注へどのように貢献したのかを把握することは困難です。

理由4|データが点で管理されている

展示会の前後には、さまざまなデータが発生します。展示会システムには来場履歴、名刺管理ツールには連絡先、CRMには商談情報、MAにはメールの反応、Web解析ツールにはサイト閲覧履歴、営業支援ツールには訪問や架電の記録が残ります。

問題は、それぞれのデータが別々のシステムに存在し、相互につながっていないことです。

同じ顧客であっても、展示会システムでは来場者、MAではメール受信者、CRMでは担当者や商談として、別々に管理されている場合があります。

この状態では、「展示会へ来場した企業が、その後どのページを閲覧し、どのメールに反応し、どのような商談へ進んだのか」を一連の流れとして把握できません。

必要なのは、すべてのデータを一つのシステムへ集めることではありません。顧客IDや企業IDを基準に、展示会、Web、メール、営業活動、商談のデータをつなぎ、顧客を一人の存在として理解できる状態をつくることです。

展示会DXを単独のイベントシステムの導入として考えるのではなく、顧客データ活用全体の一部として設計する必要があります。

理由5|ROIを測る仕組みがない

展示会後の報告書には、名刺獲得数、ブース来場者数、当日商談数などが記載されます。これらは展示会の活動状況を把握するために重要な指標です。

しかし、それだけでは、展示会への投資が事業成果につながったかどうかを判断できません。

本来、展示会の成果を評価するには、展示会経由で何件の案件が生まれたのか、どれだけのパイプラインが創出されたのか、何件が受注したのか、どれだけ売上へ貢献したのか、投資に対するリターンはどの程度だったのか、といった指標まで追跡する必要があります。

展示会を「イベント」として評価する場合、名刺枚数や来場者数で報告が終わります。一方、展示会を「投資」として評価する場合、案件、受注、売上、ROIまで追跡します。

この違いが、展示会を前年踏襲で続ける企業と、成果を分析しながら改善できる企業を分けます。

ROIを把握するには、展示会で取得したデータとCRM上の案件・受注データを結び付ける必要があります。ツールを導入するだけではなく、どの展示会から生まれた案件かを継続的に記録できる運用設計が欠かせません。

展示会DXを阻む5つの壁

日本企業の展示会DXが成果につながらない背景には、次の5つの課題があります。

1. 展示会の目的とKPIが曖昧である
2. 取得している情報が名刺データに偏っている
3. 営業とマーケティングが分断されている
4. 展示会、CRM、MA、Webのデータが分散している
5. 案件、受注、売上、ROIまで追跡できない

これらは、それぞれ独立した課題ではありません。

目的が曖昧であれば、取得すべきデータを定義できません。必要なデータがなければ、営業とマーケティングは適切に連携できません。データがシステムごとに分散していれば、顧客の行動や商談の進捗を把握できません。その結果、展示会のROIも見えなくなります。

展示会DXを進める際には、一つのツールや業務だけを改善するのではなく、目的設計からデータ取得、連携、活用、評価までを一つのプロセスとして設計することが重要です。

展示会DXから、展示会データ活用へ

パワー・インタラクティブでは、展示会DXの本質は、受付システムや名刺管理ツールを導入することではないと考えています。

重要なのは、展示会で取得した情報を、CRM、MA、Web行動データ、営業活動、BIなどへつなぎ、営業・マーケティング・経営が共通の顧客データを活用できる状態をつくることです。

展示会データをシステムへ接続するだけでは、事業成果にはつながりません。取得したデータをもとに、誰を優先し、どのような施策を実行し、案件や売上への貢献をどのように測るかまで設計する必要があります。

第1回で紹介した「Exhibition Data Value Chain」では、展示会データが事業成果へ変わる流れを、次の6つのプロセスで整理しました。

Capture
来場者の属性、興味関心、課題、会話内容、商談温度などを記録する。

Connect
展示会データをCRM、MA、Web行動、過去の商談・購買情報とつなぐ。

Prioritize
企業属性、関心度、導入時期などをもとに、対応の優先順位を決める。

Activate
営業フォロー、インサイドセールス、メール配信、コンテンツ提供などへ反映する。

Measure
案件、パイプライン、受注、売上、ROIへの貢献を測る。

Improve
分析結果を次回の出展判断や施策改善へ活かす。

図版5が示す「データをつなぐ仕組み」と、Exhibition Data Value Chainが示す「データを成果へ変えるプロセス」の両方がそろうことで、展示会データ活用の全体像が完成します。

セルフ診断|あなたの会社はいくつ当てはまりますか?

以下の項目について、自社の展示会運営に当てはまるものを確認してみてください。

目的・KPI

□ 展示会の目的が「出展すること」になっている
□ 名刺獲得数や来場者数以外の成果指標が決まっていない
□ 営業・マーケティング・経営で、展示会の成功基準が異なる
□ 展示会からどのような案件を創出したいかが明確でない

取得しているデータ

□ 展示会後に残る情報は、主に名刺データだけである
□ 来場者の課題、関心製品、導入時期などを記録していない
□ 会話内容や次回アクションが、担当者の記憶やメモに残っている
□ 展示会後のフォローに必要な情報を事前に定義していない

営業・マーケティング連携

□ マーケティング部門が営業へ名刺を渡して終わっている
□ 営業担当者ごとに対応方法やフォロー速度が異なる
□ マーケティング部門が営業のフォロー状況を把握できない
□ 営業部門が来場者の関心度や会話内容を確認できない

データ・システム連携

□ 展示会データ、CRM、MA、Web行動データが別々に管理されている
□ 同じ顧客が複数のシステムへ重複登録されている
□ 展示会での接点を過去の商談やWeb行動と結び付けられない
□ データの集計や名寄せに多くの手作業が発生している

成果・ROI

□ 展示会の成果を名刺枚数や当日商談数だけで評価している
□ 展示会経由の案件数やパイプライン金額を把握できない
□ 展示会から受注・売上までを追跡する仕組みがない
□ 次回の出展判断が担当者の感覚や前年踏襲で決まっている

チェックが多い領域は、自社の展示会データ活用が止まっている可能性が高い領域です。すべてを一度に変える必要はありません。まずは、最も課題の大きい領域から改善することが、成果への第一歩になります。

おわりに

日本企業の展示会DXが進まない理由は、システムが不足しているからではありません。

展示会の目的をどう定め、どのようなデータを取得し、営業とマーケティングがどのように連携し、既存システムへどうつなぎ、事業成果をどのように測るか。その全体設計が不足していることが、根本的な課題です。

展示会は、企業が顧客と直接対話し、Webや広告だけでは得られない情報を取得できる貴重な機会です。

その情報を、一度きりの名刺や担当者の記憶で終わらせるのか。それとも、営業、マーケティング、経営の意思決定を支えるデータ資産へ変えるのか。

展示会DXの成否は、ツールの数ではなく、展示会で得たデータを事業成果へつなげる仕組みを持てるかどうかで決まります。

次回予告

展示会データは企業の競争力になる

イベントを「一日限り」で終わらせない企業が、これから強くなる理由

展示会で得られる情報は、営業部門だけのものでも、マーケティング部門だけのものでもありません。

次回は、展示会データをCRM、MA、BI、AIなどとつなぎ、営業・マーケティング・経営の共通資産として活用する考え方を解説します。

参考・参照資料

本記事では、展示会DXをツール導入だけでなく、目的、データ、部門連携、システム連携、成果評価までを含む取り組みとして考察するため、以下の資料を参照しました。


・独立行政法人情報処理推進機構(IPA), 「DX動向2025」日米独比較で探る成果創出の方向性
日本、米国、ドイツの企業を比較し、日本企業のDXが個別業務の効率化や部分最適にとどまりやすい状況と、顧客価値や事業成果を目指す全体最適への移行課題を分析しています。
報告書本文PDF
・Cvent, Event Marketing Management Insights
イベントで取得した参加・行動データを、CRMやマーケティングオートメーションなどへ連携する考え方を紹介しています。
・Cvent, Events Are a Revenue Engine
イベントを参加者数だけでなく、パイプライン、売上、ROIなどの事業成果と結び付けて評価する方法を解説しています。
・Bizzabo, Maximizing Event ROI
イベントの目的設定、KPI設計、データ取得、成果測定など、イベントROIを改善するための関連資料が掲載されています。
・RainFocus, Field Marketing
イベントデータをCRM、マーケティングオートメーション、CDPなどへ同期し、営業フォロー、ナーチャリング、パイプライン創出へ活用する考え方を紹介しています。
・株式会社展示会営業マーケティング, 展示会白書・調査資料
国内BtoB展示会における出展目的、成果指標、展示会後のフォロー、ROI測定などを取り上げた資料です。

本記事で示したモデルについて

「展示会DXを阻む5つの壁」「展示会データ・アーキテクチャ」「Exhibition Data Value Chain」は、公開資料やパワー・インタラクティブのマーケティングデータ活用支援の知見をもとに整理した独自のフレームワークです。

久道 真之介

EM部 部長

久道 真之介

マーケティング戦略策定

通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。

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