近未来を見据えた営業マーケティングのためのデータ分析―――今あるデータで営業生産性を向上させた3つの事例

高橋 威知郎(たかはし いちろう)

株式会社セールスアナリティクス 代表取締役
データ分析・活用コンサルタント

中央官庁およびコンサルティングファーム、大手情報通信業などを経て現職。約20年間、一貫してデータ分析に携わる。現在は、営業やマーケティング、生産、開発などの現場における地に足がついたデータ分析・活用(データドリブン化)の支援を実施。


今あるデータで営業生産性をあげる

想像してみてください。

「毎日、営業日報を提出しろ!」
「毎日、CRMにデータ入力しろ!」

しぶしぶ書いている営業日報。面倒だと感じながら入力しているCRM(顧客関係管理システム)。多くの場合、営業活動を「見える化」し管理するために導入されます。
このような「見える化」という管理目的のCRMなどのデータは、ほぼ間違いなく汚いです。汚いデータとは、真実からかけ離れたデータが混じっている状態のことです。このようなデータの何をどこまで信じればよいのか。分析で使うには勇気のいるデータです。そして、そのようなデータを分析した結果を信じる営業パーソンは少数でしょう。

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まともなデータは、現場の営業パーソンがメリットを感じないと集まりません。汚いデータだけが延々と溜まり続けるだけです。
営業パーソンの受注効率が上がり、楽して受注でき、昇進し給料もうなぎのぼりになるのならいいです。しかし、現実はそうではない。データ入力の手間暇が増えるだけ。何のメリットも感じられない。入力されるデータもいい加減になり"汚いデータ"になってしまいます。

"汚いデータ"にしないためにも、小さくてもいいので何かしらデータ分析の効果を実感してもらう必要があります。
そこで登場するのがセールスアナリティクスです。 セールスアナリティクスとは、データドリブン営業やデータドリブンマーケティングといった感じで、営業マーケティングの業務の中でデータを積極的に活用し成果出す、近未来を見据えた営業マーケティングのためのデータ分析です。一見難しそうに思えますが、難しいことはありません。セールスアナリティクスは「小さくはじめ大きく波及させる」のが鉄則です。いきなり、大きな成果や完璧なデータを望んではいけません。先ずは、今あるデータをもとに小さな成果を出し、現場を巻き込むところから始めます。
今回は、セールスアナリティクスとはどのようなものなのか、について3つの事例をもとにご説明いたします。

今あるデータをもとに営業生産性を向上させた3つの事例

セールスアナリティクスをあきらめずにある程度実施し続ければ、営業生産性や販促効率はあがっていきます。
ここで3社の成功事例を簡単に紹介していきます。

  • 事例1 ろくに溜まっていないデータで成果を手にしたベンチャー企業
  • 事例2 怪しいデータなのに離反が減った大手精密機器メーカー
  • 事例3 ばらばらのデータを融合し取引額を拡大した部品専門商社

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事例1 ろくに溜まっていないデータで成果を手にしたベンチャー企業

IT系のツール導入を支援するベンチャー企業です。
社長自ら営業を実施しています。営業リソースが限られている中で、受注の見込みの薄いリード(見込み顧客)を追いかけてしまうという課題を抱えていました。
手元にあるデータは次の2種類です。

  • 自社開催セミナーの参加者リスト
  • 受注明細データ(日付や商材、金額など)

自社開催セミナーの参加者リストは、Excelファイルです。受注明細データ(日付や商材、金額など)は、会計ソフトに保存されているデータです。CSVファイルで出力することができます。
このようなデータを使い、データ分析・活用(データサイエンス実践)を試みました。その結果、営業リソースを受注確度の高いリード(見込み顧客)に集中することができ、訪問後のリード(見込み顧客)に対する受注率を10%弱から50%強になったのです。

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一見すると凄そうに見えます。しかし、冷静に考えると当たり前の結果です。最初の訪問後のリードの絞り込みでデータを上手く使い、受注件数を大きく落とすことなく受注の見込みの薄いリードを減らすことが出来れば、訪問後の受注率(=受注件数÷訪問後リード件数)は当然あがるからです。

事例2 怪しいデータなのに離反が減った大手精密機器メーカー

ある医療機器の日本市場で国内トップシェアを握る大手精密機器メーカーです。

この市場は飽和状態で、他社から既存顧客を奪われないように動くのが営業の主なミッションです。商材は消耗品ということもあり、取引は基本毎月発生します。顧客の離反(取引量が0の期間がある程度続く)に気付いたときには手遅れで、離反を阻止するための活動が思うようにできていない、という課題を抱えていました。
CRM(顧客関係管理システム)を導入していましたが、そのCRMの中で信頼できるデータは次の2種類だけでした。

  • 案件登録データ
  • 受注明細データ

上記以外のCRMに蓄積されているデータは怪しい状況でした。そこで、取引先の訪問状況だけでも綺麗にしようと、データ活用に乗り気だった部署と訪問データを作るところから始めました。スケジューラー(MS Outlookなど)などをもとに現場にインタビューしながら、過去データを整備しました。
このようなデータを使い、データ分析・活用(データサイエンス実践)を試みたところ、離反率が半減しました。やったことは、離反予測モデルを作り、離反しそうな既存顧客が現れたときに営業パーソンにアラートを出すだけです。現場の営業に対しインタビューしながらデータを綺麗にするという作業を挟んだの良かったのか、単にCRMデータが綺麗になっただけでなく、CRMデータを現場の営業パーソンが怪しまなくなりました。

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こちらも、一見すると凄そうに見えます。しかし、データ分析・活用(データサイエンス実践)を全くしていない組織の場合、よく目にする恩恵です。この離反率が半減するという恩恵に預かれるのは、多くの場合データ分析・活用(データサイエンス実践)を実施した最初の頃だけです。後は、この状態を維持するか、微々たる改善を繰り返すだけです。

事例3 ばらばらのデータを融合し取引額を拡大した部品専門商社

部品専門商社です。
既存顧客の取引額を拡大し客単価をあげるのが営業パーソンに課せられた主なミッションです。商材の種類が多く、既存顧客への提案もれによる機会損失が発生しているという課題を抱えていました。
IT投資に積極的で、例えば次のようなデータがありました。

  • Webサイトのアクセスログ
  • 出展したイベントの参加者リスト
  • MA(マーケティングオートメーションツール)のデータ
  • CRM(顧客関係管理システム)のデータ

色々なデータが蓄積されていましたが、個々のデータ同士は連携されておらず、上手く活用されていない状況でした。
このようなデータのほんの一部を使い、データ分析・活用(データサイエンス実践)を試みました。使ったデータは、CRMの中に蓄積されていた受注履歴データのみです。CRMを導入しなくても得られるデータです。
実施したことは、取引先ごとにレコメンド商材リストを作成し担当営業に渡す、ただこれだけです。ECサイトでよく実施されている商品レコメンドを、それを法人営業に応用した感じです。その結果、既存顧客の平均客単価が上がりました。

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先ほども触れましたが、多くの場合データ分析・活用(データサイエンス実践)は、この事例のように、実施した最初の頃だけ大きな成果を手にし、その成果の大きさは低減していきます。

さいごに

今回は、3つの事例を通してセールスアナリティクスとはどのようなものなのか、についてご説明いたしました。使っているデータは、特殊なものではなくどこの企業にもありそうなデータです。
そもそもデータは過去の記録にすぎません。過去のデータをいくら分析しても、新しいスゴイ発見をすることは稀です。データ分析で、劇的な変化はそうそう起こりません。どちらかというと、知るべきことを確実に知り、やれることを確実にやる。過去の傾向から対策を打つ。過去の失敗を二度と犯さない。このようなデータ分析を、コツコツ地味に続けると、ものすごい成果として跳ね返ってきます。ホームランバッターではなく、息の長いアベレージヒッターのイメージです。
セールスアナリティクスは極めて地味な活動です。打ち上げ花火のような、目の覚めるような何かを得ることは、まずないでしょう。しかし、地味でも続けることで、確実にビジネス成果を手にすることができます。そのことで、営業生産性と販促効率を高めることができます。

◆高橋威知郎氏とパワー・インタラクティブの出会い
高橋威知郎氏との出会いは、社名でもある「セールスアナリティクス」というキーワードでした。当時、Webサイト中心のコンサルティングを、MAやCRM、BI支援へとコンサルティング領域をシフトする中、私たちのお客様が求めているものは何なのか、わたしたちのお客様のサクセスとは何なのかをうまく言語化できずいました。
その頃、「営業生産性を高める! 『データ分析』の技術」(同文館出版)という著書に出会い、すぐに高橋氏のセミナーに参加し、これだ!と。MAやCRMなどIT化により蓄積される営業関連データを活用し、そのデータを活かす仕組みをつくり、お客様の営業生産性を高めていくお手伝いをすること、これが弊社が次にやるべきことだと大きな気づきをもらいました。ビッグデータという言葉に惑わされない高橋氏の分析に対する考え方や、データ分析・活用のスキルトランスファーに真摯に取り組む姿勢から、多くを学ばせてもらっています。
(株式会社パワー・インタラクティブ 取締役 遠藤美加)


    
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