はじめに

GA4とMarketoを連携することで、サイトへの初回訪問時の流入経路や、コンテンツの閲覧状況など、サイト上での行動を利用して、施策の収益貢献度を把握することができます。
収益貢献度を分析する際は、様々なアトリビューションロジックを活用することで、施策の成果をより多角的に検証することが可能となります。

前編では、Googleアナリティクス4(以下、GA4)と、Adobe Marketo Engage(以下、Marketo)の連携方法と、MarketoのリードIDと、GA4のCID(クライアントID)の紐づけによるデータ統合の重要性と方法について解説しました。
具体的な連携方法については、下記前編のコラムをご一読ください。

Adobe Marketoユーザー向け広告経由のアクティビティの計測方法と可視化の手順
https://www.powerweb.co.jp/knowledge/columnlist/adobe_marketo_ga4_collabo/

上記の続編である本コラムでは、統合したデータを活用するために整理すべき「成功の定義」を解説した上で、統合したデータをどのように活用し、マーケティング施策が具体的にどのような効果を持つのかを明らかにする手法を解説します。
また、本手法をどのように実践するのか、マーケティング施策の効果測定(アトリビューション分析)を具体例を交えて解説します。

成功の定義

マーケティング施策の効果測定において最も重要なのは「成功の定義」を明確にすることです。この成功の定義は、部門や役割によって異なり、見たい成果や注目すべき指標(視点)は様々です。
収益プロセスにおける成功は収益であり、このような成功の基準を明確にすることで、評価に一貫性を持たせ、効率的な意思決定に繋がります。
この明確な定義がなければ、施策効果の測定が困難になります。

マーケティング部門における成功の定義

マーケティング部門であれば、一般的にはMQL(Marketing Qualified Lead)が成功の定義となることが多いです。MQLは、営業部門やインサイドセールス部門に引き渡す準備が整ったリードを指し、その質が営業成果を大きく左右します。

MQLを成功と定義する際の考慮事項
・どの範囲の施策を集計対象とするか:

例えば、リード獲得後に、一度、ナーチャリング対象外(リサイクル)となったリードが、再びナーチャリングの対象となり、MQLになった場合、リード獲得からMQLになった期間において、すべてのマーケティング施策を対象とするのか、若しくは、リサイクルから復活した後からMQLになった期間にのみ実施したマーケティング施策を対象とするのかを決定する必要があります。

・進捗状況の追跡:

MQLはマーケティングオートメーションツール(以下、MA)で定義することが一般的であるため、恣意的にMQLを発生させることも可能です。恣意的にMQLを発生させないためにもインサイドセールス部門や営業部門と連携してMQLを定義する必要があります。
また、MQLの設定が適切であるか、MQLがSQL(Sales Qualified Lead)や受注にどれだけ変化しているか分析する必要があります。

・施策ごとの成果の比較:

チャネルごとのMQL貢献度を評価し、どのチャネルが効果的かを明らかにする必要があります。

例えば、全てのリード獲得からMQLに至るまでの全ての施策を集計対象とする方法を採用した場合、特定のコンテンツやチャネルがどの程度の効果を発揮しているのかを明確にすることができます。

営業部門における成功の定義

営業部門では、SQL(Sales Qualified Lead)につながったマーケティング施策が成功の指標として重要になります。このSQLは商談に近い段階のリードを指し、その質や量が営業の効率や収益性の先行指標となります。つまり、このマーケティング施策に経営資源を投下することで、商談が多く発生する可能性があります。

SQLを成功と定義する際の重要ポイント

・リード(個人)と商談(会社)単位の違いを把握する:

リードは個人ですが、商談(Opportunity)は会社(Account)として作成されることが一般的です。

商談の関係者の範囲を決めて追跡する:

商材が高額で商談期間が長期間にわたる場合、商談化するまでには、複数の関係者が関与する場合がほとんどです。
商談に対して、関与した全ての関係者(Contact)を紐づけをおこない、すべての関係者のマーケティング施策の商談発生日までの全ての施策を集計対象とするのか、商談に対して重要と判断した関係者のマーケティング施策の商談発生日までの施策を集計対象とするのか、決定する必要があります。

・商談の進展状況を分析する:

どのマーケティング施策が商談成立に貢献したかを特定し、将来の施策改善に役立てます。

受注を成功と定義する場合

受注を成功の指標とする場合、受注後に「商談に関与したすべての関係者」を洗い出し、関係者を商談に紐づけてマーケティング施策を集計対象とする必要があります。
受注は最終的な成果であるため、特に慎重な分析が求められます。

受注を定義する際のポイント
・商談発生後に新たに加わる関係者を把握する:

商談化以降に、新しく商談に関与する関係者が確実に増えます。関係者が追加された際は、分析をおこなう前に商談の関係者として紐づけをおこなう必要があります。

・ステージ更新の徹底:

商談化以降の関係者が「セミナー」に参加した場合、MA上のリードステージを”商談中”としたり、商談の関係者として紐づける運用をおこなう必要があります。この運用を適切におこなう事で、受注までに貢献したマーケティング施策を正しく集計することが可能になります。

・部門間の連携を強化する:

商談は営業部門が主導する為、マーケティング部門では、商談が発生した後に、誰が新しく商談に関与しているのかを常にウォッチする必要があります。そして、上記の新たな関係者は、マーケティング部門が関与することのない、営業フォロー中に登場することが大半です。そのため、営業担当者は、受注後でもよいので、商談に対して全ての関係者を確実に紐づける必要があります。この作業を疎かにすると、受注までのマーケティング施策の効果検証を正確におこなうことはできません。
確実に実行に移すためにも、マーケティング部門と営業部門は密に連携を取り、情報共有を円滑にする必要があります。

データ連携後の分析基盤構築

成功の定義が明確になったら、次は分析基盤を構築します。この基盤が、正確なデータ分析と意思決定の土台となります。

BigQueryの活用

GA4とMarketoのデータをBigQueryに統合することで、リードのアクティビティログ(イベントログ、行動履歴)、プログラム・キャンペーン情報や属性情報を一元管理することができます。

GA4データの連携

GA4に備わっている BigQuery Exportを利用し、日次もしくは都度の頻度でBigQueryへ生データを連携します。

BigQueryデータの連携

ETLツールなどを利用し、日次もしくはリアルタイムの頻度で、MAツールのLeadsテーブル、Activities、CampaignやProgramsを連携します。

自動化による効率化

BigQueryのスケジュールクエリなどを利用して定期的にデータマート(分析の目的に応じたデータ加工結果のテーブル)を作成することで、必要なときに分析ができる環境を構築します。

アトリビューションモデルの概要

マーケティング施策を評価する際には、どのアトリビューションモデルを採用するかが重要です。
以下は代表的なモデルの特徴と利用例です。

ファーストタッチモデル

最初に接触したチャネルに全ての貢献を割り当てるモデルです。
最初の流入経路に重点を置き、広告キャンペーンの効果測定などに利用します。また、GA4の「ユーザーの最初のデフォルトチャネルグループ」を使用し、リードが初めて流入した経路を分析し、新規リード獲得施策の効果測定に活用します。

ラストタッチモデル

成功の直前のチャネルに全ての貢献を割り当てるモデルです。
MAで定義した成功の直前の施策やコンテンツを特定し、成功に至る最も近い要因を特定します。
この結果をもとにBtoBの商談支援コンテンツの作成をおこないます。

線形(ライナー)モデル

全てのチャネルに均等に貢献を分配するモデルです。
成功に至るプロセスの中で、ファーストタッチやラストタッチでは割り振られない、エンゲージメントメールのクリックや開封、ランディングページのリンククリックなど、施策やコンテンツについての成功への貢献を評価します。

モデルを選択する際は、自社商品の購買プロセスや検討期間など、成功に至ったユーザーの行動を分析して設定してください。

アトリビューションロジックの可視化例

マーケティング施策を施策を評価する例として、GA4で計測したコンテンツ別の閲覧と、セッションの流入経路の情報を利用したアトリビューション分析のイメージを紹介します。
なお、今回ご紹介するイメージにおける成功の定義は「MQL」としています。

流入経路別のアトリビューション分析

このダッシュボードは、流入経路別の接触人数、貢献人数、貢献率を可視化するもので、アトリビューションロジックに基づいた分析結果を提供します。

流入経路別の接触および貢献状況

■見方
Webサイトに訪問した流入チャネル(例:Organic、email)、別の接触人数(各経路からのユニークな訪問数)、成功に至った人数、全体訪問数における成果に至った人数の比率、各モデルにおける貢献人数を可視化しています。

■使い方
マーケティング担当者が、各流入チャネルの施策貢献度を把握するために使用します。
献度が高い流入経路が分かるため、重点的にリソースを配分する意思決定に使用します。
また、接触人数と貢献数のギャップを分析することで、施策改善の余地を見出します。

流入経路における貢献率

■見方
各ポイントは、流入チャネルを表しており、X軸は貢献人数、Y軸はチャネルの貢献率を示しています。
ポイントの位置と分布から、どの施策が貢献度の高い訪問者を効率的に生み出しているかが分かります。

■使い方
アナリストが施策の貢献度を視覚的に比較するために利用します。貢献度が高いが貢献人数が少ない施策は、潜在的な成長機会がある可能性があるため、施策のリソース配分のバランス調整に活用することができます。

流入経路におけるアトリビューションロジックの貢献比率

■見方
各棒は、特定の流入施策について、ファーストタッチ、ラストタッチ、線形による貢献比率を示しています。流入経路におけるモデルの成果の違いを比較することで、流入施策の特性に応じたモデル選択の参考にできます。

■使い方
特定の施策が、どのモデルで最も高い成果となるか、評価基準を最適化します。
全体的な施策の効果測定や、特定モデルを前提とした施策設計に活用します。

コンテンツのアトリビューション分析

このダッシュボードは、特定のWebページごとの接触人数、貢献人数、貢献率を可視化しており、ファーストタッチ、ラストタッチ、線形に基づいた分析結果を提供します。

Webページ別の接触および貢献状況

■見方
分析対象となるWebページのURLと、そのページに訪問した訪問者数(ユニークユーザー数)、貢献人数、施策の貢献率、各モデルにおける貢献人数を可視化しています。

■使い方
マーケティング担当者が、どのページが成功に貢献しているかを確認するために使用します。コンテンツの効果を測定し、貢献度の低いページを改善する優先順位を決めるのに役立ちます。

Webページ別における貢献率

■見方
各ポイントは特定のWebページを表しており、X軸は貢献人数、Y軸は施策の貢献率を示しています。ポイントに分布をみることで、どのページが高い貢献率を持つか、または多くの貢献人数を生み出すのに貢献しているかが一目で分かります。

■使い方
アナリストが、貢献度の高いページを特定し、リソース配分や施策の方向性を決定するために使用します。貢献人数が多いが貢献率が低いページに対して、コンテンツ改善やリードナーチャリング施策をおこなうきっかけを提供し、特定のページに対する施策を集中投資すべきかどうかを判断します。

Webページにおけるアトリビューションロジックの貢献比率

■見方
各棒は、特定のWebページについて、ファーストタッチ、ラストタッチ、線形による貢献比率を示しています。Webページにおけるモデルの成果の違いを比較することで、Webページの特性に応じたモデル選択の参考にできます。

■使い方
マーケティングマネージャーが、特定のWebページの役割を評価し、どのモデルを基準に施策を最適化すべきかを判断するために使用します。例えば、ファーストタッチで高い成果の成果が計上されているページは、リード獲得からMQLに至るまでの接点として重要である可能性があります。
各モデルの貢献比率を比較することで、特定のWebページがどの段階で最も効果的に機能しているかを判断します。

最後に

マーケティング施策の効果測定は、「成功の定義」を明確にすることから始まります。
どんなマーケティング施策が効果があったのか、効果がなかったのか、棚卸しをすることで、有効なマーケティング施策を精査することができ、翌年のマーケティング予算を算出するときにも大変参考になります。

マーケティング部門の収益に対する貢献度を計測してみてください。

八木 耕祐

マーケティングデータアナリスト

八木 耕祐

Web行動履歴やアプリデータによる顧客行動分析

アナリストとして、50社のアクセスログ分析に携わる。現在は、データ設計、データマート構築などの基盤づくりから、ダッシュボード作成、分析まで、データ活用を極めている。セミナー登壇は50回以上、満足度90%以上のセミナーも多数。
リモートワークになり、海の近くでマリンスポーツをエンジョイ中。

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