コラム

AI検索時代にSEOの価値はどう変わる? 自然検索流入の行方

佐野 陽子(文責)

AI時代、SEOによる自然検索流入は減少が見込まれます。ただし現段階では、AI検索が検索エンジンを完全に置き換えるとは言えません。
AI検索が普及しつつあり、SEOにもたらす影響を気にされている方は多いのではないでしょうか。Googleは検索エンジンにAI Overview(AIによる概要)を試験的に導入済みで、さらにはAI modeというAI機能の実験を開始しています。
本記事では、AIがSEOへもたらす影響を解説します。

AI検索が自然検索流入に与える影響

AI検索の登場によりGoogleなどの検索エンジンを利用する機会・自然検索からの流入が減少することは規定路線となっており、今後も動向を注視する必要があります。

AI検索の回答で表示されるリンクからの参照元サイトへの流入数は、Google検索エンジンの検索結果からの流入数と比べて96%減少するという調査結果が発表されています*1。
この調査は、AI検索で参照元リンクが表示されてもクリック率は著しく低いこと、また、同じコンテンツをサイトにアップしても、サイトへの流入が減少することを示唆しています。

また、Google検索での検索ボリュームは、2026年までに25%減少するという予測もあります*2。これは、単純に計算すると、たとえば現在自社サイトへの流入元の60%が自然検索だとすると、サイト流入が近いうちに15%減少することになります。

これらはあくまで一部のビジネスにおいての例であり、予測も含みます。すべてのWebサイトが同じ影響を受けるわけではありません。
しかし、自然検索からの流入が減少していくリスクは避けられません。

AI検索はどのくらい伸びているのか

ChatGPTのアクティブユーザー数は、4億人を突破しました*3。よく使用される生成AIツールは他にも、Copilot, Gemmini, Perplexity, Feloなど複数あり、急速に普及してます。
多くのAIツールには検索機能があり、従来Googleなどの検索エンジンでおこなっていた検索行為を、AIツール内で完結することも増えています。
ただ、図で示すように、2024年5月時点では、Perplexityのユーザー数はGoogleの0.34%程度に過ぎず、ユーザーあたりの検索実行回数もGoogleの7.5%程度と報告されています。
こうしたデータから、2024年5月の段階では「AIが検索エンジンを代替する」とまでは至っていないといえます。
しかし、AIの進化はめざましく、普及も急速に進んでいるため、2025年3月現在は、AI検索のシェアは増加していることが推察されます。
それでも現時点では、Googleのシェアはいまだ絶大で、GoogleでのSEOの実施は有効といえます。
また、後述しますが、SEOとAI検索対策(AIO や AI SEO などと呼ばれているもの)は共通点もあるので、従来のSEOが無駄になるわけではありません。

Google検索エンジンにAI Overview登場

2024年8月、Google検索結果にAI Overview(AIによる概要)が日本でも導入され、試験運転中です。
AI Overviewとは、検索結果最上部にAIによる要約や回答を表示するもので、ユーザーにとってはサイトに訪問せずに疑問を解決できる便利な機能です。その反面、サイト運営者にとってはクリック率(CTR)の低下を招きかねない存在でもあります。
従来の「強調スニペット(検索結果画面の最上部に強調して表示される枠)」と似ていますが、AI Overviewの参照元はひとつとは限らないし、より説明的で詳しいです。

従来、ユーザーは、検索結果画面の上位に表示されているページをクリックしてサイトを訪問していましたが、AI Overviewである程度まとまった回答が表示されていると、ユーザーは検索結果ページから離脱せず、自然検索結果をクリックする機会が減ります。
現時点でも、「検索エンジン上で、検索だけしてどのページもクリックしない」いわゆるゼロクリックサーチは60%あると言われていますが*4、AIが回答の要約を示してくれるとなると、ゼロクリックサーチは一層増えることが予想されます。

AI Overview対策は必要か

現段階では、AI検索からの流入は大きな数値ではない上に、AI Overviewの参照リンクのクリック率もあまり期待できないため、「AI Overviewに採用されるため」のページづくりにリソースを割くことは、あまり有効ではないように思います。
AI Overviewに記載される回答には情報源サイトへのリンクが含まれる場合がありますが、クリックされる保証はありません。したがって、従来のSEOのように「検索結果上位に表示されれば、クリック率があがり、自社サイトへの流入が大幅に増加する」とは言い切れません。

ただし、Googleは現在、AI Modeという新機能の実験を一部ユーザーの間で開始しています。いずれ検索エンジンのメニューに追加されるでしょう。
AI OverviewとAI Modeの違いは以下の通りです。

AI Overview
検索結果最上部にAIによる要約や回答を表示する機能で、一部のクエリ(検索語句)で適用されている。AI Overviewが表示されるクエリは拡張してきている。
AI Mode
AI Overviewをさらに拡張したもの。より高度な推論、思考をフォローアップする質問を可能にする。検索結果画面で、「すべて」「画像」などのメニューのひとつとして「AI Mode」が利用できる。

Googleという巨大な検索エンジンのユーザー数はいまだとても多いので、Ai Overview・AI Modeなどの機能の浸透により、今後の展開によってはAI検索対策はより重要になるかもしれません。

総じて、検索エンジンでのAIの回答は、ユーザー利便性を高めつつ、サイトへの流入ハードルを上げるものであり、SEO戦略にも新機軸が必要になりつつあります。

AI Overviewによってサイト流入に影響を受けやすいクエリ

AI Overviewが表示されるもののなかでも特にクリックが見込めないのが、ニュースや一般的な情報、ビジネス関連の情報等のクエリです。これらは、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)というSEOで重視されている「誰が言っているのか・専門性があるか・経験に基づいているか」などという観点とは対極にあるものです。「誰が言っているかが重要ではない情報」は、AI Overviewの回答でユーザーが満足してしまい、リンククリックは少ないと考えられます。
したがって、一般的な知識を与えるようなページは、今後AIによる回答に集約され、サイト訪問の入口になりにくくなる傾向が予想されます。

AI検索は検索エンジンのアルゴリズムを利用している

主要なAI検索サービスはいずれも従来型検索エンジン(GoogleやBing)のアルゴリズムやデータに一部依存しています​。
たとえば、2023年のMicrosoft Build発表で「ChatGPTにBingをデフォルト検索体験として組み込む」ことが公式に表明されています*5。また、Perplexityは回答生成にあたり、独自クローラで収集したデータに加えてBingの検索APIから得たランキング指標や、外部経由で取得したGoogleの検索ランキングのシグナルを活用しています​*6。これは、自前で検索エンジンをゼロから構築するコストや技術的難易度が非常に高いことが理由だと言われています。
AI検索の手法は今後変更される可能性はありますが、現段階では「SEOをやっておくと、AI検索の参照元リンクにも表示されやすい」と言えます。

AI時代のSEOで、いまやるべきこと

たとえ自然検索からの流入が縮小傾向にあっても、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)に基づく良質なコンテンツはAI検索やAI Overviewでも参照される可能性が高く、依然として情報発信の柱になります。
Google検索においてE-E-A-Tは、SEOで重要とされてきましたが、今後はより一層重要になります。ありふれた情報はAI検索や検索エンジンでのAIを利用した要約で取得できてしまいますが、個人の経験やインサイトが反映された記事、企業独自のメソッドの紹介、事例などのコンテンツの価値は相対的に高くなります。

これから必要な心構えとしては、Webサイトへの流入元を分散させる意識を持つことは大切です。Webサイトにコンテンツをアップして完了ではなく、メールやSNS、他のプラットフォーム上でコンテンツを送付・紹介し、様々な入口からWebサイトを訪問してもらうことを考えるべきです。
複数のルートでユーザーと接点を持つ体制づくりが、これからのマーケティング戦略には求められます。

まずはここから考えよう

ここまで、検索エンジンやAIツールの動向を述べてきました。今後の施策を考える上で、まずは現状把握が必要です。
貴社のWebサイトへの流入のうち、自然検索からの流入の割合はどのくらいでしょうか。
AI検索からの流入はどのくらいの割合でしょうか。
たとえば、Googleアナリティクスなどで自然検索流入率が70〜80%に上るようであれば、SNS広告やメール配信を強化して流入元を分散化する必要があるかもしれません。逆に、すでに複数のチャネルが機能している企業であれば、AI検索の影響が拡大しても深刻な打撃を受けるリスクは低いでしょう。
いずれにせよ、自社のビジネスゴールやターゲット属性に応じて施策を再構築し、長期的な集客基盤を整えることが重要です。

<出典・参照>
*1 AI search engines drive 96% less traffic to news websites and blogs: Report | Technology News - The Indian Express
*2 Gartner Predicts Search Engine Volume Will Drop 25% by 2026, Due to AI Chatbots and Other Virtual Agents
*3 オープンAIの週間アクティブユーザー数、4億人突破 | ロイター
*4 Study: 60% Of Google Searches End Without A Click In 2024 | Marcbaumann.com
*5 Bing at Microsoft Build 2023: Continuing the Transformation of Search | Microsoft Bing Blogs
*6 Is Perplexity's AI Dethroning Google with Its Own Data? | Contxto

佐野 陽子

マーケティングコンサルタント

佐野 陽子

コンテンツマーケティング

BtoB事業会社のインハウスWebチームリーダーとして、コンテンツ制作やWebサイトの運用改善、SEOなどを中心にコンテンツマーケティングを推進。その後、パワー・インタラクティブに参画し、現在は自社コンテンツのディレクションを担当。クリエイティブ分野への深い造詣とビジュアルデザインの知見を活かし、より魅力的なコンテンツづくりに日々取り組んでいる。

TOP