コラム

BtoB企業の「モノ売り」から「サービス化」を加速させるGo-To-Marketo(GTM)戦略の現在

執筆者:株式会社パワー・インタラクティブ
取締役 遠藤 美加

現代のビジネス環境は、かつてないほどの速さで変化しており、特にBtoB市場における購買プロセスは劇的な変革を遂げています。この大きな潮流の中で、多くのBtoB企業が「モノ売り」から「サービス化」へのビジネスモデル転換を喫緊の課題として認識しています。

本稿では、このビジネスモデル転換を加速させる上で不可欠なGo-to-Market(GTM)戦略が、過去と現在でどのように変化し、BtoB企業にどのような影響を与えているのかを、具体的な比較を通して解説します。

「モノ売り」時代のGTM戦略:製品中心の線形アプローチ

従来のBtoB企業、特に製造業に代表される「モノ売り」を主体としたビジネスでは、GTM戦略は以下のような特徴を持っていました。

製品中心のアプローチ: 最も重要視されたのは、製品の機能やスペックそのものでした。GTM戦略は、いかに優れた製品を開発し、その特徴を市場に伝えるか、という製品起点の思考が中心でした。製品が直感的でユーザーフレンドリーであれば、それだけで顧客を惹きつけ、購買に繋がるという考え方も存在しました。

線形的な販売ファネル: 顧客の購買プロセスは、リードジェネレーションからクロージングまで、段階的かつ一方通行の「ファネル」として捉えられていました。マーケティングがリードを獲得し、営業に引き渡すという、バケツリレーのようなプロセスが一般的でした。

売り手主導の情報提供: 企業が情報提供の主導権を握り、営業担当者が顧客に製品情報やメリットを一方的に伝えることが主流でした。顧客は主に企業からの情報に依存し、購買検討を進めていました。

部門間のサイロ化: マーケティング、営業、カスタマーサクセスといった各部門が、それぞれ独立した目標とKPIを持ち、情報や業務プロセスが分断されがちでした。これにより、顧客体験の一貫性が損なわれたり、データに基づいた迅速な意思決定が難しいといった課題も顕在化していました。

このGTM戦略は、「モノを売る」というビジネスモデルにおいては一定の成果を上げてきました。しかし、時代とともに顧客の行動が変化する中で、その限界が見え始めています。

「サービス化」時代のGTM戦略:顧客中心の全社的なオペレーティングシステムへ

BtoB企業が「モノ売り」から「サービス化」へとビジネスモデルを転換する今日、GTM戦略は劇的な変革を遂げています。もはや単なる製品の市場投入戦術ではなく、企業の根幹をなす「オペレーティングシステム」としての役割を担うようになりました。

この変革の背景には、何よりも顧客の購買プロセスの変化があります。

「買い手主導」の時代へ: 顧客は、営業担当者と接触する前に、自律的に広範な情報収集を行います。Webサイト、SNS、業界レポート、そして同業他社のレビューやコミュニティなど、多岐にわたる情報源から自ら課題解決のヒントを探し、ソリューションを検討します。結果として、初回商談のタイミングは以前より遅くなり、営業担当の役割は単なる「情報提供者」から「真の課題解決パートナー」へと変化を迫られています。

複雑化した購買ジャーニーへの対応: 顧客の購買ジャーニーはもはや線形ではなく、複数の部門や立場の人々が関与し、オンラインとオフラインの様々な接点を行き来する複雑なものとなっています。企業は、この複雑なジャーニー全体を能動的に設計し、各フェーズで顧客に一貫した価値を提供する必要があります。

このような状況下で、現代のGTM戦略は以下の特徴を持つようになりました。

顧客中心の全社的なアプローチ: GTMは、マーケティング、営業、カスタマーサクセスといった収益に関わる全部門を統合する「全社的なアプローチ」へと再定義されました。
これは、顧客ライフサイクル全体を通じて、一貫した顧客体験を提供し、顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)を最大化することを目指します。

RevOps(Revenue Operations)による部門間連携の深化: この全社的なアプローチを具体的に実現するのが、RevOps(レベニューオペレーションズ)の概念です。
RevOpsは、各部門のデータ、テクノロジー、プロセスを一元化し、共通のKPIを設定することで、部門間のサイロ化を解消し、収益最大化という共通目標に向かって連携を強化します。これにより、GTMコストの削減、営業生産性の向上、リードから受注への転換率改善、予測精度の向上などが期待されます。

データドリブンな意思決定と継続的な改善: 統合されたデータ基盤により、リアルタイムで市場の変化や施策の効果を把握し、GTM戦略を継続的に改善していきます。
顧客データに基づいたパーソナライズされたコミュニケーションや価値提供を通じて、顧客エンゲージメントを深め、ロイヤルティ向上と売上拡大を図ります。

「サービス化」を推進する顧客エンゲージメント: 「モノ売り」から「サービス化」への転換には、顧客との継続的な関係構築が不可欠です。

GTM戦略は、製品を売って終わりではなく、導入後のオンボーディング、活用支援、アップセル・クロスセル提案、そして顧客コミュニティ形成といった、顧客ライフサイクル全体を通じた価値提供を設計し、実行する基盤となります。

GTM戦略の過去と現在の比較

項目 従来のGo-To-Marketo (GTM)戦略 現代のGo-To-Marketo (GTM)戦略
主導権 売り手主導(営業担当者からの情報提供が中心) 買い手主導(顧客の自律的な情報収集と検討
アプローチの焦点 製品中心(製品の機能・価値提案) 顧客中心(顧客ニーズ、課題、体験全体)
販売プロセス 線形的な販売ファネル(リード獲得→商談→成約) 顧客ジャニー全体の設計(認知→検討→購入→ ロイヤリティ→アドボカシー)とフライホイール モデル
組織連携 部門ごとのサイロ化(マーケティング・営業・サポートが独立) 全社的統合(オペレーティングシステム、RevOpsによる部門横断連携)
価値提供の目的 製品の販売と単発的な顧客獲得 顧客ライフサイクル全体でのLTV最大化、継続的な関係性構築
情報収集 営業担当者からの情報収集が主 自律的な情報収集、多様なオンライン/オフラインチャネル (ダークファネル含む)
成功指標 個別部門のKPI(リード数、成約数など) 全社的な収益目標、顧客障価値(LTV)、顧客満足度、Go-To-Marketコスト削減

GTM戦略の変革が「サービス化」の成否を分ける

BtoB企業にとって、「モノ売り」から「サービス化」へのビジネスモデル転換は、単に製品をサービスとして提供するだけでなく、顧客との関係性、社内体制、そしてビジネスの根幹を再構築する大きな挑戦です。

この変革の成否を分けるのが、進化を遂げたGTM戦略に他なりません。顧客が自律的に情報を収集し、購買プロセスを主導する「買い手主導」の時代において、企業は顧客の複雑化した購買ジャーニー全体を能動的に設計し、多様な接点を通じて一貫した価値を提供する必要があります。

貴社は、この変革の波に乗り、GTM戦略を「全社的なオペレーティングシステム」として再定義できていますでしょうか。GTM戦略の最適化は、BtoB企業の「サービス化」を加速させ、持続的な成長を実現するための羅針盤となるでしょう。

BtoB企業の「サービス化」を加速させるGTM戦略の構築を

「モノ売り」から「サービス化」へのビジネスモデル転換は、多くの企業にとって大きな課題であり、同時に成長の機会でもあります。複雑化するBtoBの購買プロセスに対応し、顧客との強固な関係を築きながら収益を最大化するには、新たなGTM戦略の構築が不可欠です。

パワー・インタラクティブでは、貴社のビジネスモデルや顧客の購買ジャーニーに寄り添いながら、最適なGTM戦略の策定から実行までを一貫してご支援する「GTMアクセラレートコンサルティング」をご提供しています。

貴社における「サービス化」の取り組みをより一層前進させ、持続的な成長につなげる一助となれば幸いです。

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遠藤 美加

取締役/常務執⾏役員

遠藤 美加

マーケティング戦略策定

関⻄学院⼤学経済学部卒業。住友ビジネスコンサルティング株式会社⼊社。マーケティング分野のリサーチおよびコンサルティング業務を経て、⽴命館⼤学(学校法⼈)に転じ、⼤学の⻑期経営計画づくりや産学連携事業を担当。その後、⼤阪市のソフト産業プラザにてベンチャーコーディネーター業務に従事。2000年4⽉、パワー・インタラクティブ⼊社。同年6⽉取締役、2003年常務執⾏役員に就任。全社の事業戦略を統括する。

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