インタビュー

社内の業務改革を加速させる、ChatGPTの可能性

GPT3.5を搭載したChatGPTのリリースを機に生成AIへの関心が世界的に高まり、各社は生成AIを活用した業務改革に乗り出しています。しかし、生成AIの活用レベルは人によって差が出ることが多い。全社的な業務改革を進めるには、社員のスキルアップが不可欠です。

株式会社ウィットは、BtoBマーケティングに特化したウェブコンサルティング企業です。現在はChatGPT活用支援に注力しており、e-learningや社内研修など、様々なサービスを提供しています。

パワー・インタラクティブでは、上級/中級/初級の3段階にわけて、社員の生成AI活用に取り組んでいます。今回、初級編の講座として希望者を対象に株式会社ウィット『ChatGPTトレーニング研修』を導入しました。

トレーニングを通じて生成AIの活用に対する理解が深まり、「お客様のさらなるマーケティング成果創出にも貢献できる」という手応えを感じました。そのため、株式会社ウィットとパートナー契約を結び、『ChatGPTトレーニング研修』をお客様へご提案していく運びとなっています。

本稿では、株式会社ウィット 代表取締役の渥美英紀氏に、同社が『ChatGPTトレーニング研修』の開発に至るまでの経緯やサービスの詳細、さらにChatGPT活用のポイントや生成AIがマーケティングの未来に与える影響について伺いました。

メルマガ作成にChatGPTを活用、クリック率は3倍に

貴社のChatGPT支援サービスについてお聞かせください。

当社では「BtoBのウェブマーケティングを高い確率で成功に導く」というコンセプトのもと、統合的なWebマーケティング支援をおこなっています。具体的には、BtoBマーケティングに関するコンサルティングをはじめ、Webサイト構築、システム開発などの事業を通じて、お客様の本質的なマーケティング課題の解決を目指しています。

様々な事業のなかでも、当社が今特に力を入れているのは、ChatGPTを活用した業務改善をサポートする2つのサービスです。一つは、現状の業務分析をもとにChatGPTの活用可能性を診断し、適切な活用方法を提案する『ChatGPT活用診断』。もう一つは、ChatGPTを使いこなし、AIに対して適切な指示ができるようにするe-leaning『ChatGPTトレーニング研修』です。

ChatGPT支援事業を展開するようになったきっかけはありますか?

GPT-4のリリースが大きなきっかけになりました。実は、GPT-3.5がリリースされた際にもいくつかのプロンプトを試していたのですが、当時は出力の精度が低く、ビジネスでの実用化は難しいと感じていました。しかし、2023年3月にGPT-4がリリースされたタイミングで再度いくつかのプロンプトをテストしたところ、以前よりも高品質の回答が出力されるようになっていました。

そこで、すぐにメルマガ、記事コンテンツ、セールスコピーの作成実験に着手しました。すると、一定のクオリティのものを生成できたので、かなりの手応えを感じて。「これはサービスになるかもしれない」と思い、事業化を決断しました。

翌月には、4社の自社クライアントに実験的な取り組みを提案。メルマガ、SEO記事、インサイドセールスのメール、資料などの作成にChatGPTを活かせないか、お客様とともに検証し、この取り組みがのちの本格的な事業展開につながりました。

クライアントとの実験的な取り組みでは、どのような成果を得られたのでしょうか?

株式会社パーソル総合研究所様においては、ChatGPTを活用したメールマガジンの作成業務を支援させていただき、結果としてクリック率を従来の約3倍まで伸ばすことに成功しました。

同社のケースでは、ChatGPTを使って件名の案出しや初稿作成を実施しました。

従来の作成手順とChatGPTを活用した作成手順、それぞれの手法で作成されたメルマガのクリック率を比較したところ、これまでの手順では8本平均でクリック率が1.17%だったのに対し、ChatGPTの活用後は8本平均で3.86%にまで上昇したんです*。

*参考:反応率は約3倍、「初担当でも高品質なメルマガ作成」を実現したパーソル総合研究所のChatGPT活用|Markezine

初めてメルマガを書く担当者でも、プロンプトベースで作成すれば安定して高い成果を出せることも判明し、社内でも新しいワークフローの可能性をイメージできるようになったそうです。

業務に直結するテーマを厳選した『ChatGPTトレーニング研修』

ChatGPT活用診断サービスに加えて、ChatGPTトレーニング研修サービスをリリースした経緯を伺いたいです。

ChatGPTの活用診断を続けるなかで、全社的な業務改善を推進するためには社員のスキルを底上げする必要があると気付き、トレーニングサービスのリリースを検討するようになりました。

実際に、ChatGPTの導入を試みたものの、思うような結果を得られていない企業は少なくありません。経営者が生成AIを積極的に導入しても、活用方法がわからない社員は表面的な利用に終始してしまう傾向にあります。

さらに、活用が進む企業でも、全社員が同じレベルで使いこなせているケースは稀で、人によって活用度合い差がある場合がほとんどです。こうした状況を放置すると、AIを使う人とAIを使わない人が混在するため非効率なワークフローが発生しやすくなります。つまり、生成AIを活用して業務改革を進めるには、全社員が足並みをそろえる必要があるということなんです。

そんな問題意識を抱いていたタイミングで、ChatGPTをまったく使ったことがない企業から研修の相談を受けまして。それが後押しとなり、実践的でわかりやすいトレーニングサービスの開発に踏み切りました。

貴社が開発した『ChatGPTトレーニング研修』の内容と流れについて教えてください。

全20コマのトレーニングは、ChatGPTの基本原理の説明から始まり、徐々にステップアップしていく構成になっています。ビジネスメールの作成といった基本的な操作から、企画書の作成、製品のFAQ作成まで、実践的な内容を段階的に学んでいきます。

動画形式のトレーニングなので、受講者の皆さまはご自身のペースで受講していただけます。また、実務を想定した課題を提出していただき、それに対して私たちが添削・フィードバックしながらトレーニングを進めていくため、実践的な学びを得られます。

このトレーニングプログラムづくりで何より重視したのは、仕事にすぐ役立てられるスキルを受講者の皆さまに身につけていただくことです。業務に直結するテーマを中心としたトレーニングを受けていただくことで、ChatGPTを業務で使いこなせるレベルに到達できるよう開発しています。

ChatGPTトレーニングは全社的に実施されるのでしょうか?それとも部門単位でおこなわれるのでしょうか?

受講人数はお客様の状況に応じてカスタマイズできるようにしています。ただ、パターンとして多いのは、まず生成AIの活用に前向きな方10名くらいに受講いただいて、その後部門・全社に展開するという進め方です。

現在サービスを利用されているお客様の多くは、ChatGPTにほとんど触ったことがない、あるいは社員の1~2割程度しか触ったことがない企業です。しかし、これまでのケースを見ていると、業務に使えるレベルのプロンプトやユースケースを作れるようになる方が、全受講者のうちだいたい3割ほど出てくるんです。そうした人材が作ったプロンプトを社内で積極的に共有し「こんな風に使えそうじゃない?」と活用方法を広めてくれるようになると、業務改革が一気に進んでいきます。

このように、いきなり全員が使いこなせる状態を目指すのではなく、最初は1チームに1人の専門家が生まれれば良いと思います。これができれば、他のメンバーが困った時にいつでも身近な専門家に相談できる環境が整い、チーム全体のChatGPT活用が加速しやすくなります。

トレーニングを提供した企業では、具体的にどのような成果が出ていますか?

マーケティング関連企業では、SEO記事のネタ出し、用語解説コンテンツの作成、ケーススタディの執筆、自社サービスのFAQ作成などにChatGPTを活用しています。また、別のクライアントはホワイトペーパーの内容の7割程度をChatGPTに作らせていました。

ChatGPTの特性を理解し、適切な指示出しを

渥美様から見て、ChatGPTを使いこなせるようになる人材と、そうではない人材の違いはどこにあるのでしょうか?

まずは、プロンプトとして与える情報の具体性と指示の明確さではないでしょうか。ChatGPTに曖昧な情報を与えると、その分アウトプットは単調になってしまいます。反対に、具体的な情報をインプットして明確な指示を出せば、それに見合った多様な回答が返ってきます。
浅い理解でChatGPTを使っている人は「狙ったアウトプットが出ない」と言いますが、これは誤解です。ChatGPTの限界を理解したうえでプロンプトさえきちんと書けば、ほしいアウトプットが得られるはずなんです。

それから、そもそも生成AIの特性をどれだけ理解しているのかも、活用レベルに大きく影響する要素だと考えています。生成AIの原理を理解していない方は、人間の仕事のやり方をそのままAIに当てはめようとしてしまいがちです。しかし、生成AIが最も得意とするのは、与えられた条件をもとに大量のバリエーションのデータを出力することです。
そのため、生成AIが出してくれた多様なデータの中から人間が良いものを選択し、アウトプットのスピードと質を高めるというのが、本来あるべき活用の姿なんです。そういう意味では、ChatGPTの得意・不得意を見極めてAIが活躍できる業務を見つけ出す力をつけることが肝心だといえますね。

これから業務にChatGPTを活用していきたい場合、まずどこから着手していくのがよいでしょうか?

どの業務から活用していくべきなのかは、会社や業務内容によって異なります。だからこそ、まずは業務の棚卸しをして、どのプロセスを生成AIに置き換えられるかを考えていくことが重要です。

例えば、担当する人によって品質のばらつきが大きい業務が見つかれば、それはChatGPTを活用するチャンスです。上手な人のアウトプットをサンプルとして生成AIに与えて、プロンプトを入力するだけで、苦手な人でもそこそこのクオリティのものを作れるようにする。そんな業務の標準化に向けた取り組みに生成AIを活用している企業もありますよ。

また、やりたいけどリソースが足りなくてなかなかできていない仕事や、人の手でおこなうと採算が取れないものの、ChatGPTで効率化することを前提にすれば事業として成立することも意外と身近に眠っているものです。そういった仕事を見つけてみるのも面白いと思います。

マーケティング領域でのChatGPT活用について、今後の展望をお聞かせください。

やはり、ChatGPTの特性を理解した上で適切な指示出しができる人を増やすことが重要だと感じています。そういった人材が増えれば、マーケティング業務全体の改善につながるはずです。

実務レベルの活用例を挙げるとすると、例えばメルマガを作る際、10パターンぐらいの良質なテキストを出力させ、その中から人間が最適なものを選ぶというワークフローが生成AIの活用に適しています。企画書に関しても、あらゆるパターンを生成AIを使って作成し、最終的に良かったものを組み合わせることで、よりターゲットに響く企画に仕上げられるでしょう。

このように、生成AIを正しく活用すれば、これまで人間ではできなかった仕事の進め方が可能になります。今後、生成AIを使いこなせる人材が増えていけば、そう遠くはない未来にマーケティングや営業のあり方が大きく変化すると思います。

最後に、ChatGPT支援サービスの今後の展望について教えてください。

次の展開として計画しているのが、マーケティングで実際に使えるLPやサイトの自動生成ツールの提供です。企業や商品・サービスに関する一次情報をもとに、自動でテキストコンテンツや、内容に合った画像素材、デザインを生成し、それらを組み合わせることで、すぐにサイトとして公開できる状態に仕上げるものです。まだ実証実験中ではありますが、簡単な企業サイトであれば、すでに5分ほどで生成できるようになっています。

商品化のレベルに達すれば、コンテンツマーケティングの領域で大きな可能性が開けると考えています。例えば、記事コンテンツやLPの量産、あるいはオウンドメディアの構築など、これまでは時間をかけて対応する必要があった顧客の要望にも即座に対応できるようになるはずです。必要なのは、素材となるデータを準備することだけ。あとは生成AIを使って、顧客が必要とするコンテンツをスピーディーに納品する。そんな、スピード感あるマーケティング推進を生成AIで実現できるようにできればと考えております。

『ChatGPTトレーニング研修』を受講した社員の声

マーケティングコンサルタント 久道 真之介

どのような業務で活用できるか、回答精度を高めるためのプロンプトをどのようにつくるかを体系立てて理解できました。
より良いコンサルティングを提供するために、お客様のサービス理解や市場分析、提案書作成、プロジェクト資料のたたき台作成などにChatGPTを活用しています。

マーケティングデータアナリスト 松實 美樹

課題に対するフィードバックが丁寧でわかりやすかったです。研修を通じて学んだ内容を活かし、資料作成や正規表現・SQL文の作成などでChatGPTを利用しています。

マーケティングコンサルタント 川西 佑奈

自分のタイミングで取り組める、学習と実践がセットになっているのが良かったです。現在は議事録やレポートの添削にChatGPTを活用しています。今後は応用的なプロンプトを模索し、より幅広い業務にChatGPTを取り込んでいきたいです。

プロフィール

渥美英紀
株式会社ウィット代表取締役

BtoBのさまざまな業界の売上アップ・ブランド強化・営業改善など250以上のプロジェクトを担当。特にリード獲得や売上アップに高い成功確率を誇る。アクセスログ解析システム、メール配信システムなどの開発も手掛けたことから、専門性を生かした"総合的"かつ"現場に根差した"ウェブマーケティング支援を得意とする。自身のノウハウをまとめた『BtoBウェブマーケティングの新しい教科書』(翔泳社、2017)など、複数の著書を出版。

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