インタビュー

【前編】カリモク家具株式会社 流通ルートが消滅、売上半減の経営危機の中でWebが導入される

カリモク家具株式会社
山田 郁二氏

カリモク家具株式会社様は、代表取締役社長加藤英樹氏の祖父が1940年、江戸時代から続く木材屋を継ぎ、愛知県刈谷市に木工所を創業。以来、木製家具にこだわりを持ち続け、主に家庭向けの家具の製造から卸まで手がけ、現在も国内の生産と職人の手作業にこだわりながら木製家具のトップメーカーとして活動されています。90年代後半バブル崩壊の煽りを受け苦境に立たされる中、大胆な業務改革によって次の時代の礎を築き、今年は新社屋も完成されました。Webを導入されたのは業務改革と同時期でしたが、Webをどのように組織に組み込み活用されてきたのか、詳しいお話をおうかがいしてきました。

90年代後半、バブル崩壊後に訪れた経営危機

カリモク家具様の現体制に至るまでの背景をお聞かせください。

実は90年代後半、大きな経営危機を迎えています。バブル崩壊後の10年の間に530億あった年間売上が半減以下に落ち込みました。理由は、それまでに築き上げてきたメーカー・卸である我々とお客様をつなぐ流通ルートが一瞬にして消滅してしまったからです。ルートが消えてしまったのですから、どんなに良い商品を作ってもお客様に届けることはできません。当時、我々の主流ルートは家具専門店でした。しかし、バブルが崩壊し、お客様のライフスタイルの変化もあって家具専門店は衰退の一途を辿っていきました。具体的に言えば、結婚の際に嫁入り道具を持って嫁ぐという習慣が無くなってしまい、家具専門店の収益の根本である婚礼家具がほとんど売れなくなってしまったのです。そこで他の家具で収益をあげるために、リビング・ダイニング家具を伸ばす必要があったのですが、当時の家具専門店にとってリビング・ダイニング家具は薄利多売の分野でした。国産家具メーカーでは利益が確保できないため、倒産廃業を免れた家具店の多くは、規制緩和により輸入が容易となったこともあり、輸入家具に流れていってしまいました。

また、お客様にとって家具はやはり買い慣れない高いものなので、たくさんの家具を実際に見て触って納得してから買いたいと思いますから、店舗も大型化していきました。資金力のある勝ち組店舗は、ますます利益が必要となり、プライベートブランドを要請するようになりました。

大胆な業務改革で、ユーザー中心の製造・営業体制に

業務改革の内容について具体的にお聞かせください。

80年代後半までに全国に築いたはずの流通ルートが90年代後半に入ってみるみるうちに消滅してしまい、このままではカリモクは潰れてしまうという大変な危機感から業務改革が行われました。 トップも2代目から3代目へ変わり、これまでのビジネスモデルは一旦終止符を打つかたちとしました。自分たちでこれから何をするべきか、もがいていた時代です。

1.地区制営業から業態別営業へ

販路開拓が緊急課題でしたから、まず営業体制を大きく変えました。それまでの地区制営業を廃止し、業態別に営業ができる体制を整えました。それまでの営業先は家具専門店しかなかったのですが、住宅メーカーや業務用コントラクト、百貨店、家具専門店の中でも全国に複数店舗を持つレギュラーチェーンなど、業態によって営業も全く違ってきますから、それに対応できる体制を作ったわけです。 現在は、地区制と業態営業部を掛け算にしています。営業所は地区部長がマネジメントしていますが、営業所に対し業態部長が指示をしていきます。指示が合わない場合は地区部長と業態部長が話し合いをして決めています。

10年以上苦境が続きましたが、2005年くらいから売上が回復してきました。家具専門店の売上は相変わらず減少していますが、レギュラーチェーンとの取組みがしっかり固まってきました。新たなルートが売上を伸ばし現在の売上構成はハウスメーカーで1割、コントラクトで1割、カリモク60で4%と、これだけで1/4を占めます。家具専門店の売上は、レギュラーチェーンを入れても6割くらいですが、あとの4割を別で確保できるようになりV字に回復してきたのです。

2.大量生産からカスタマイズ生産へ

お客様のニーズに対して、生産側も的確にカスタマイズしていく造り方に変えました。相当苦しんで変えました。メーカーは大量生産が一番楽ですから、それを1つ1つ造る体制にするのは非常に厳しいです。しかしそうしなければ生き延びられない、と腹に決め取組みました。カスタムオーダーや特注対応でサイズや素材を聞いて造るので、オーダーがわかっていないと売れないしくみになっています。

3.ブランドマネジャー制の導入
製造と営業が一心同体にならなければいけないということで、ブランドマネジャー制を導入しました。それが営業推進部の基幹となっています。 ターゲットが違う以上、それぞれのお客様のニーズに合うように売り物、売り方、売り先を変えていく必要があります。それぞれのターゲットにそって商品を企画する人、作る人、売る人が足並みを揃えて動けるよう全体を管理するのがブランドマネジャーです。ブランドマネジャーは、商品がお客様に合っているのか、フィルターをかけて見ているのです。

営業推進部は、販促企画グループとプロモーショングループの2つのグループに分かれますが、販促企画グループがブランドマネジャーが所属する部署になります。 ブランドマネジャーが活躍するために、カタログやツールを作ったり、Webを作ったり、イベントを企画したりと、実務を企画・実行していくのがプロモーショングループになります。当社のWebは、このプロモーショングループが担当しています。

営業側には、商品が複数怪奇になっていくので、この商品をだれに聞いたらいいかわからないという場合に、ブランドマネジャーやプロモーショングループに聞けというかたちにしたのです。 それ以外に、経営企画室や営業の事務部門、管理部門も営業推進部に入っています。本社組織のある程度のスタッフが営業推進部に入っています。

4.ショールームの積極展開

販路開拓を進めていくために武器としたのがショールームです。苦しかった10年の間もショールームを積極的に展開し続けました。業績が上向きをみせる2005年までに約12、3店舗展開しています。

70年代と86年にもショールームは作っていましたが、その頃は"ショールーム"とは呼ばず"研修センター"と呼んでいました。ショールームを作ると直販するとみなされ、流通側からライバル視されてしまうからです。お得意先と社員と工場のトレーニングのための施設という位置づけにしていました。 その後、ショールーム政策で横浜の鶴見、岡山、仙台と作っていくわけですが、ショールームを作るとそのエリアの家具店の展示が確実に減ったので、当時はショールームを増やすことに対して半信半疑でした。
しかし、現在、我々のお得意先も「家具を展示する場所があるところ」から「顧客層をもっているところ」に変わり、お客様に一番近い業種業態ルートがお得意先であると考えています。

ショールームがあるおかげで商品を展示してくださいと家具店にこちらからお願いする必要もなくなりました。
以前は、店舗への展示をガンガン詰めていましたが、現在はどれだけお客様に対しイベントを持ち込むのか、お得意先にショールームを活用してもらうかを重視しています。
苦しんだ90年代に、お客様を見ておかないと流通の変化が見えないということを最も強く感じました。ショールームがあるおかげで、お客様と直接接点をもつことができ、リアルな接客体験からお客様のニーズを的確に知ることができます。調査やログデータの客観的情報とリアルな接客情報を合わせるから作戦が立てられるのです。

社長の一声がWeb導入のきっかけ

業務改革に着手された時期とほぼ同時にWebを導入されていますが、その経緯をお聞かせください。

当時、Webをはじめることには正直なところ消極的でした。はじめた1番の理由は加藤英樹社長がWebといったものに大変な関心を持たれていたからです。Webをやっておかなければ時代に遅れる、まずいことになると社長の言葉からWebはスタートしました。

もう1つの大きな理由は資金です。バブルの頃はテレビCMや紙媒体に広告を出すなど宣伝費に年間2億近くかけていたこともありました。しかし、バブル崩壊後、業績が凄まじく落ちていき、販促経費に割けるお金がほとんどありませんでした。その中でできる宣伝活動といえばWebぐらいだったというのが実情です。販促費が充分確保できていれば、Webには取組んでいなかったと思います。 ところが、いざはじめてみると、カタログと比べて情報更新が早くできますし、思いの外インタラクティブでお客様との接点にもなりました。

イントラネットの導入も早かったです。成功事例や商品情報など全ての情報を一元化しました。業態別営業、カスタマイズ生産に切り替えたことで、商品も多機能化していきますから、営業側も生産側も情報を共有できるようにしなければならなかったのです。

インタビュー後編
後編はWebに存在価値をもたせるための工夫や、Web担当者に求めるスキルについてお聞きしています。

プロフィール

山田 郁二氏
カリモク家具株式会社 営業推進部 取締役部長

工業高校のインテリアデザイン科を卒業後、カリモク家具販売株式会社へ入社。 入社当時は在庫管理を担当。その後関西の営業を担当する中、現在の営業推進部の原型となる広告企画と展示企画を対応。90年代後半に立ち上げた業務改革チームへ営業側のメンバーとして参画し、ブランドマネジャー制の導入を推進するとともに営業推進部部長として、マーケティング組織の基盤を固める。 現在は営業推進部のマネジメントのほか、カリモク60のイベント支援やお客様対応、さらに新規立上げが続くショールームの設計も手がけている。

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