インタビュー

RevOps(レベニューオペレーション)で持続的な収益基盤をつくる

パワー・インタラクティブ セミナー事務局(文責)

MOps(マーケティングオペレーション)やSalesOps(セールスオペレーション)など、日本でもオペレーションの最適化への注目が集まっています。

Opsという概念は日本ではまだ目新しいものの、米国では多くの企業で取り入れられています。そして現在の米国では、マーケティング・営業・カスタマーサクセスといったレベニュー部門全体のオペレーションを最適化するRevOps(レベニューオペレーション)が広まっています。

今回は、2024年9月25日に書籍『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』を出版した、エンハンプ株式会社 代表取締役兼ゼロワングロース株式会社 取締役CROの川上エリカ 氏にインタビューし、米国で浸透しているRevOpsとは何かを伺いました。

レベニュー組織の協働をデザインし、生産性を高めるのがRevOpsの役割

-まずは、RevOpsとは何かを教えてください。

RevOpsとは、企業が持続的に収益を拡大していくために、レベニュー組織の協働プロセスを改善して生産性を高めるためのものです。RevOpsは概念であり、組織であり、役割でもあります。レベニュー組織にあたるマーケティング・営業・カスタマーサクセス部門が再現性高く、収益を生み出すための基盤づくりを担っています。

RevTech企業のOpenprise社が実施した調査『The 2024 State of RevOps Survey』によると、米国ですでにRevOpsという役割や部門がある企業は67.5%に登るということが分かっています。

図表1:RevOpsチームがすでにあると答えた人の割合

米国でRevOpsという言葉が生まれたのは2018年頃で、当時は主にIT企業を中心に広がっていきました。そこから4〜5年ほど遅れて製造や金融、ヘルスケア、コンサルティングや人材等の法人サービスといった業界にも広がり、今では既に多くの企業が取り入れています。

-米国企業のRevOpsは、生産性の向上にどのような影響を与えていますか?

ボストンコンサルティンググループが公開している情報によると、RevOpsは以下のような効果を生み出しているということが分かっています。

・デジタルマーケティングのROIが100~200%向上
・営業生産性が10~20%向上
・リード受注率が10%向上
・社内顧客(マーケティング・営業・カスタマーサクセス)満足度が15~20%向上
・GTM(Go To Market)費用を30%削減

参考記事:Revving Up Go-to-Market Operations in B2B|ボストンコンサルティンググループ

RevOpsがこれだけ浸透している背景には、顧客行動のデジタル化・複雑化があります。デジタルの発達により、お客様が自分自身で情報収集することになり、営業側で顧客の購買行動をコントロール出来なくなっています。ひと昔前までは営業が接点を持っていれば売れましたが、購買の主導権が顧客側に回ったことで、そのような状況ではなくなりました。

このように、複雑化した顧客行動に合わせてビジネスをおこなうには、より多くのデータを収集・活用する必要が生じています。データを収集・活用してビジネスを成長させていくために、RevOpsという概念が広まっていきました。

個別最適化による問題がレベニュー組織で起こっている

-RevOpsが広まった背景にある問題について、詳しく教えてください。

レベニュー組織とはマーケティング・営業・カスタマーサクセスといった収益に直接的に関わる組織のことですが、これらの部門において個別最適化が進んでいったことが背景にあります。

例えば、マーケティングは広告やプロモーションを主たる業務としていたところから、リードの管理、パーソナライゼーション、キャンペーンマネジメントなど、担う業務範囲が広がっていきました。
業務範囲が広がるにつれて業務プロセスは複雑になり、効率化するためにMOpsという概念が生まれました。このような流れは営業、カスタマーサクセス領域においても同様に起こっており、営業領域ではSalesOps、カスタマーサクセス領域ではCSOpsが生まれています。

このようにして各領域のオペレーションモデルが個別に洗練されていった結果、個別最適化が進み、データの分断が生じていきました。レベニュープロセス全体を俯瞰して顧客の購買体験を改善するには、統合されたデータ環境が必要不可欠です。しかし、データが分断されているがゆえに全体を把握することは難しく、売上目標に対して進捗が芳しくない状況にもかかわらず、適切な意思決定ができないという問題が生じていました。

図表2:レベニュープロセスは複雑化し、データが分断している

-そのようなデータの分断によって起こった具体例はありますか?

先日Openprise社のCEOであるEd King氏にインタビューした際に、こんな話を伺いました。

「私はCEOとしてレベニュー組織の部門長と会議をするが、CMOや営業責任者、CS責任者が出してくるデータによる説明は、各部門の活動に忖度した内容になっており、意思決定の役には立たなかった。そこで私は、各部門長にデータの提出を求めるのを止め、RevOpsが提示したデータをもとに説明するよう求めた。コミュニケーションの方法を変えることで、適切な意思決定を下すために必要な情報を得られるようになった」

レベニュー組織の部門長の意図に関わらず、自部門が主張したい内容にあわせてデータを切り取り、表現してしまうということはどうしても起こります。Openprise社のCEOはそのような問題を防ぐために、レベニューリーダー全員が同じデータを元に会話できることの価値を示したのだと思います。

-そのほかに、データの分断が引き起こす問題として特徴的なものはありますか?

データの分断は、顧客体験にも悪影響を及ぼします。部門間でデータが分断されているということは、情報を共有できないということであり、結果として一貫性がない顧客対応になってしまいます。

マーケティングコミュニケーションでは興味関心に近い情報を届けてくれていて心地よいブランドだと思っていたのに、いざ営業担当者と対峙したら、こちらのニーズに関係なく商品を紹介される。皆さんも、消費者としてこんな体験をしたことがあるかと思います。

このように一貫性がない購買体験を生み出してしまうと、これまで蓄積してきた信頼関係が崩れてしまいます。そうならないためにも、RevOpsが部門を跨いでデータを統合し、一貫した顧客体験を実現する必要があります。

図表3:RevOpsがレベニュー組織の顧客体験を最適化する

RevOpsは組織として独立させることが重要

-RevOpsはレベニュー組織の最適化において重要な役割を担っていますね。ところで、RevOpsとはどのような要素を持っているのでしょうか。

RevOpsは、大きく4つの構成要素に分解して捉えられます。

・オペレーションマネジメント
・レベニューイネーブルメント
・RevTechマネジメント
・データマネジメントインサイト

図表4:RevOpsを構成する4つの要素

オペレーションマネジメントとは、レベニュープロセスの最適化・効率化を実現していく取り組みのことです。プロセスの設計や標準化を通じてレベニュー組織の生産性を高め、ヒト・モノ・カネのリソースを最適配分して収益を高めるためにサポートします。

レベニューイネーブルメントとは、レベニュー組織に所属するメンバーの能力を引き上げ、収益拡大に繋げるための取り組みのことです。各部門の担当者が連携してお客様に価値提供できるようトレーニングプログラムを組んだり、モチベーションを高めるためにインセンティブを設計したりといったことをしていきます。

RevTechマネジメントとは、レベニュー組織が効果的にデータを活用するために、テクノロジーの導入や統合などをおこなう取り組みのことです。RevTechマネジメントというとテクノロジーの導入・活用をイメージする方が多いですが、あくまでGo To Market戦略から逆算して、必要に応じてテクノロジーを追加・削減・統合するという動きを取ります。

データマネジメントインサイトとは、レベニュー部門がビジネス判断を下すときに必要な顧客インサイトを提供することを指します。各部門がお客様との接点のなかで得たデータを定量・定性の両面で分析し、トレンドやパターンを見いだします。

米国でRevOpsを担っている人と集まると、「各レベニュー部門の人にRevOpsからデータを突きつけに行っても受け入れてもらえない。いかにそのデータを各組織の部門長やCROが受け取りやすいような形で渡せるかが重要」という話になります。データはただ出せば良いのではなく、人が動くように出すことが大切ですね。

-そのような役割を担っているRevOpsは、全社においてどのような位置づけになるのでしょうか。

CEO直下にCOO・CFO・CRO・CIO・CHROなどのCクラスがいて、CROの配下にRevOps・マーケティング・営業・カスタマーサクセスがいるような組織構成が主流になってきています。

図表5:全社におけるレベニュー組織の一般的な位置づけ

RevOpsの配置の仕方として重要なことは、独立した組織として存在させることです。誰の管掌領域に入ったとしても他のレベニュー組織のフィールド部門とは独立している必要はあります。

レベニュー組織は、各部門から個別に報告されるデータだと何が真実か分からないという状況に陥りがちです。
マーケティングは「MQLは好調だ」と報告するけれど、営業は「マーケティングから供給されるリードが悪いから有効商談を作れない」と報告する。カスタマーサクセスは「営業がターゲット外の顧客に無理やり売ってくるから継続率を維持できない」と報告する。こんな事態が起こり得ます。

それぞれがデータをもとに説明していても、報告の内容は経営判断に活かせるものではない。そうならないためにも、RevOpsが組織として独立し、中立の立場でデータを提示する必要があります。

-RevOpsはレベニュー組織が建設的な議論をするうえで重要なんですね。

RevOpsはとても重要な組織です。そしてそれを統括するCROは価値発揮の難易度が高い役割でもあります。

2024年6月に開催されたPavillion社主催のCROサミットにて、「CROの平均勤続期間は17カ月」という衝撃的な事実が発表されました。17カ月というと、1年半にも満たないということになります。その背景はおそらく、ビジネス成長に課題がある企業や急速に成長しているスタートアップにおいて、外部からCROが招聘されるケースが多く、取締役会や投資家からの短期活躍への期待が高いにもかかわらず、その期待を達成する難易度が高いことにあるのでしょう。CROへの期待は相当なものがあります。

一方で、CEOやCFOは「最小の投資で高い成果を挙げる」という思考を持っており、積極的に投資しようとするCROとは意見が食い違うこともあります。このような難しい舵取りをしながら、早期に成果を上げなければならないという立場にあります。そんなCROを支えるためには、RevOpsの存在が必要不可欠なのです。

部門を横断したデータ統合をレベニュー組織が主導する

-そうした困難な役割を担うために、RevOpsが担うRevTechマネジメントについて詳しく教えてください。

RevTechは、大きく分けると3つ、そこからさらに9つに細分化できます。

グロースアセット
・レベニューイネーブルメント
・チャネル最適化
・顧客接点
インサイト
・レベニューインテリジェンス
・エンゲージメントデータハブ
・カスタマーインテリジェンス
バリュードライバー
・タレントデベロップメント
・リソース最適化
・レベニューエンハンスメント

図表6:9つに分類できるRevTech

グロースアセットは、新規獲得やアップセルクロスセルといった、収益拡大を実現するためのテクノロジー。インサイトは、Go To Market実現に向けて顧客行動をリアルタイムで可視化し、意思決定のためのインサイトを導き出すテクノロジー。バリュードライバーは、既存のリソースから上げられる収益と利益を生み出すためのテクノロジーのことです。

RevOpsにとって重要なことは、これらのテクノロジーを満遍なく導入するのではなく、自社のGo-To-Market戦略を実現するために必要なテクノロジースタックを選択し、点と点がつながるようにデザインして実装する事です。

-米国企業のRevOpsは、近年はRevTechマネジメントにおいてどのような動きをしていますか?

これまではテクノロジーを新たに導入する動きが活発でしたが、近年は米国の市況の変化もあり、コストカットの動きが強まっています。Prodctiv社が2023年に公表したデータによると、2022年から2023年にかけて、利用するテクノロジーの数が10%ほど低下していることが分かっています。

参考記事:2023 State of SaaS Series: Discover the newest SaaS trends|Prodctiv

また、マーケティング・営業・カスタマーサクセスといったレベニュー部門は各部門に個別最適化された形でデータを持っているため、データを一元管理することが難しいのが実情です。そのため、各部門で持っているデータを一旦データウェアハウスに集め、ETLツールを用いてCDPに集約することでデータの統合を目指す企業が多くなっています。

図表7:理想的なデータ環境

組織変革は経営層を巻き込み、段階的に進める

-日本におけるRevOpsの浸透状況はいかがですか?

今はまだ少数ではありますが、RevOpsへの取り組みを始める企業は出てきました。

これまで日本では、「オペレーション = 作業的な業務」と認識されている方が多かったように思います。しかし、昨年出版された書籍『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』の影響もあり、オペレーションとは戦略と実行を紐づける戦術であり、企業の成長を実現するうえで極めて重要なものだと認識する方が増えたように思います。書籍の影響でMOpsの再設計をおこなった企業やすでにSalesOpsに取り組んでいた企業が、さらに全体最適で再現性あるオペレーションモデルを構築したいと考え、RevOpsに関する支援のご依頼をいただいているケースもあります。

-今後、日本企業がRevOpsを取り入れていくうえで、どのようなことを意識すると良いですか?

RevOpsを取り入れるうえで意識してほしいことは3つあります。

・標準のオペレーションモデルを理解した上で独自性について考えること
・経営層を上手く巻き込みながら進めること
・実現したいRevOps像を決め、段階的に構築していくこと

日本企業はMAやCRMの標準オブジェクトをカスタマイズし過ぎていることなど、構造を複雑化させてしまっていることが多くあります。各社のビジネスモデルに合わせてカスタマイズすること自体は良いですが、システムの連携上変えてはいけない部分もあります。そういった”手を加えてはいけないところ”をあらかじめ把握したうえで、必要に応じてカスタマイズするといった考え方が求められます。

また、RevOpsの構築を成功させるためには、多くの関係者からの協力を得る必要があります。そのため、社内の理解を得やすくなるよう、ボトムアップの取り組みでもどこかのタイミングで経営層を巻き込むことを意識しておくことが大切です。経営層のコミットメントは不可欠であり、ボトムアップでは乗り越えられない壁を超えるためにもトップダウンのアプローチは重要です。

そして、どのようなRevOpsを構築しようとしているのかをあらかじめ決めて、そこに向かって段階的に進んでいくという考え方も重要です。レベニュー組織全体で作り上げたいオペレーションの形が見えていなければ、どうしても個別最適なオペレーションとなり、部門間での連携が上手くいかなくなってしまいます。そうならないためにも、築き上げたいRevOpsのあり方をあらかじめ定義したうえで推進していくことをおすすめしています。

-作り上げたいRevOps像をあらかじめ決めることが難しいようにも思います。そのように決めると良いでしょうか?

作り上げたいRevOps像を決めるためには、RevOpsのケースを学習するのがおすすめです。RevOpsについて学習し、自社に取り入れたいと考えている方は、9月25日に発売した書籍『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』をご覧いただければと思います。

ただ、書籍を読めばRevOpsの概念やケースは理解できるものの、どのような形で、どのようなプロセスで自社に取り入れてよいのかを考えるのは難しいでしょう。RevOpsの実装で悩んだときは、弊社やパワー・インタラクティブのようなオペレーション構築を得意とする会社にご相談いただければと思います。

-最後に、日本企業でRevOpsを推進しようとしている方へメッセージをお願いします。

RevOpsは、一足飛びに構築できるものではありません。
MOpsやSalesOps、CSOpsなど自社の優先課題に応じてオペレーション整備に着手した先に辿り着くものです。そのため、最終的にレベニュー組織全体のオペレーションを改善するにしても、まずはマーケティングや営業など、個別部門からオペレーション改善を始めると良いでしょう。

企業が大きければ大きくなるほど、組織変革のプロセスは複雑になります。一度にすべてを改善しようとするのではなく、作り上げたいRevOps像を実現するために必要なプロセスを分解し、段階的に進めてもらえればと思います。

RevOps ウェビナー開催のご案内

マーケティング、営業、カスタマーサクセス部門のデータ連携で収益を最大化する新たな戦略「RevOps」。
パワー・インタラクティブは、9月25日に出版された『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』著者、エンハンプ株式会社 代表取締役 川上エリカ氏を迎え、ライブインタビュー形式で深掘りしていくセミナーを開催します。

プロフィール

川上 エリカ

エンハンプ株式会社 代表取締役 兼 ゼロワングロース株式会社 取締役CRO
株式会社マルケト(現アドビ株式会社)でインサイドセールス部・ゼネラルビジネス営業部を統括し、企業の営業組織改革・プロセス改善・マーケティングオートメーションによるデジタルシフト、スタートアップにおけるテクノロジーを活用した組織構築を支援。株式会社みずほ銀行、株式会社リクルート及び外資系IT企業での10年超の法人営業経験、トップセールス・最優秀社員として国内外において多数の表彰実績を持つセールスモデル実践経験、マネジメントとしての事業成長牽引の経験を持つ。2022年エンハンプ株式会社を設立し代表取締役に就任、2022年11月にゼロワングロース株式会社取締役に就任。著書に『レベニューオペレーション(RevOps)の教科書 部門間のデータ連携を図り収益を最大化する米国発の新常識』(MarkeZine BOOKS)がある。

TOP