インタビュー

Sansan株式会社 マーケティング部門のKPIに「受注率」を設定、全社一丸となって受注目標達成

Sansan株式会社
日比谷 尚武氏

2007年に創業したSansan株式会社は、世界で初めて法人向けクラウド名刺管理サービスを提供、2012年には個人向け名刺管理アプリ「Eight」を無料で提供開始しています。また、サテライトオフィス『神山ラボ』やイエーイ(在宅勤務制度)、どにーちょ(出勤日振替制度)等、新しい働き方を追求している元気でユニークなベンチャー企業です。今回は「Sansan」のマーケティングを立ち上げ、現在は広報や渉外活動のほか、「Eight」のプロモーションも手がけている広報部 コネクタ 兼 Eightエヴァンジェリスト の日比谷尚武氏にお話を伺いました。

リード獲得はpush型からpull型へ変遷

マーケティングと営業の組織体制についてお聞かせください。

弊社には2つのサービスがあります。創業時より提供している法人向けのクラウド名刺管理サービスの「Sansan」と、2012年より開始した個人向けアプリ「Eight」です。 「Sansan」事業にはマーケティング部門と営業部門があり、マーケティング部門の中にリード部門とコール部門があります。リード部門がWebなどを使ってリードを獲得してくるチームで、コール部門がその集めたリードに電話をかけるチームです。リードを獲得して、そこにコールをしてヒアリングした後に商談を打診するというのが基本の営業の流れです。(図1参照)

リード獲得方法は、push、pull、アライアンスと3つに分かれますが、ウェイトのかけ方は創業時から変遷してきています。

push:コールドコールから始める営業
pull:インバウンド。自社サイト、セミナー、展示会等で、興味を持ってくれた相手に営業
アライアンス:紹介

創業当初は、社員総出で昔の仕事相手や紹介いただいた会社に営業に回っていました。そのうち導入実積ができてきたので営業担当を採用しました。ここまでが創業から1年くらいの間の動きです。最初はリードの数も限られていたので、テレアポ中心の「push型営業」でした。

しかし、次第にリードが足りなくなってきたこともあり、pull型営業の仕組みを作ることにしたのです。まずはリードを増やすためにWebマーケティングに取組みました。それまでもホームページはありましたがコーポレートサイトにランディングページが2、3ついている程度のものでしたので、勉強会に出たり、貴社の著書『ウェブ営業力』などを参考にしながら、問い合わせをたくさん集められる仕組みづくりに取組みました。

最初の頃は件数も少なく、問い合わせがあったら営業が早い者勝ちで電話をかけるような状態でしたが、だんだんと商談件数が増えて来て、営業担当が電話をする余裕も無くなって来たので、コール専門部隊を置くことになりました。当初、営業部門の中で週ごとにコールの担当を決めていたのですが、それでは回らないし質にもムラが出てしまうので、マーケティング部門にコール専任者を配置したのです。

また、検証をしていくと、pull型が安定して受注につながっていることが確認できました。push型は非効率なので少しずつ割合を下げ、今ではpull型が残ったというわけです。もちろんご紹介いただく案件も多々ありますが、安定且つ読みやすいリード獲得方法ということで今はpull型に絞っています。(表1参照)


現在実施しているpull型とは具体的にはどういうものですか?

SEO、リスティング広告、ホワイトペーパーのダウンロード、サテライトサイト等、基本的にはWebを中心に展開しており、不定期にセミナーと展示会をやっています。それから2013年8月からテレビCMもスタートしました。これまでに色々とpullをやってきた中、CMを流すことでお客様にさらに認知していただき、もしくは思い出していただくことで最終的にコンバージョンにつながり全体成果も上がるだろうという想定です。

KPIの成果を振り返って見ると、リードの獲得策によって特徴が異なりますね。時期やクリエイティブ等によって傾向が変わってきますが、オーガニックなサイト流入がリードの質が高いですし効率もいいですね。リスティング広告とディスプレイ広告も成果は出ています。展示会は一度に大量のリードを獲得できますが、リードの質は高いとは言えません。ホワイトペーパーは各種外部サイトにダウンロード資料を掲載しています。頑張って定期的にコンテンツを公開し、なるべく掲載の機会を増やすようにしたり、ダウンロードされるようにタイトルを工夫するなどしてコツコツとやっていますが、体力勝負なところもあるのが懸念でしょうか。

また、獲得したリードに対しては、一度アプローチをするだけではなく、定期的にコンタクトして"ナーチャリング"することも欠かせません。ここでは、自社製品であるSansan(名刺管理クラウドサービス:http://jp.sansan.com/)を活用して、メール配信等による定期的な情報提供やセミナーの案内等を行っています。

KPIに受注率を置いて、部門単位で徹底追求

KPIは具体的にどのような指標を設定されていますか?

獲得件数を追いかけるあまり質が下がることを防ぎたいので、リード件数やアポの獲得件数などそれぞれの部門の直接の成果だけでなく、営業部門も含めてリードからの受注率を共通の指標として定点観測しています。目標設定は、部分最適や部門の成長だけでなく、経営ゴールから逆算して全体最適をふまえ、経営数値から落としこんだ部門の目標設定を行っています。営業部門だけでなく、マーケティング部門も「受注率」という受注に向けた指標を置くことで、全体で受注を獲得する動きが固まります。

営業ありきで営業部門の影響力が大きくなりがち、という組織もありますが、当社は初期のころから営業と同じくらい、マーケティングに重きを置いており、そのための予算も割いています。旧来型の"営業"といえば、売るためならテレアポでも必要なことはなんでもしろというイメージがありますが、当社では営業担当者がお客様と商談をするまでの前工程に、人も予算もつける組織づくりをしてきました。

PDCAは、定例ミーティングではなく部門間トップの話し合いで回していく

部門間のコミュニケーションはどのようにとられていますか?

会社全体の空気作りで問題になるのが隣同士の部門コミュニケーションです。いいリードがきていないからコールがとれないとか、コールからいいパスがこない、といった意見が出てきます。基本的には横同士でコミュニケーションをとるようにして、合同ミーティングをしたり、数字の結果の報告会を行ったりしていますが、会議の構成員はその都度変わっています。定期的なミーティングはありますが、人数が増えすぎると難しいのでスモールチームで集まったり、リーダーだけで集まったりと、状況に応じて体裁を変えながらも情報交換をする機会を設けています。

PDCAは定例ミーティングをベースに回すのではなく、各部門のトップが話し合いしながら即決めて進めていくことが多いです。トップのやりとりは頻繁にやります。とにかく変化が早くて、数字を見ながらチューニングし続けているという感じですから、how toと言えるような決まったものはこれといってないのではないでしょうか。

個人の特性を重視、「強み」を活かした人員配置

各部門の人員配置について教えてください。

リード部門は、大きく広告系担当、コンテンツ担当に別れています。デザイナーもチームに配しているのが特徴かもしれません。

当社の組織の特徴として、個人のスキルや経験だけでなく、「強み」を重視した配置を行っています。例えば、一例ですが、営業でもご案内が得意な人、カタログを丁寧に説明できる人であれば初回説明のコール部門が向いているかもしれませんし、お客さまの状況を伺った上で「ではこういうのはどうでしょう」とカスタマイズして提案するのが旨い人であればクロージング担当に向いてます。また、いわゆる"押しの強いクロージング"ができないけど、きめ細やかな丁寧なコミュニケーションが得意な人は、導入後のユーザサポートをやった方がいいといった適性を見ます。

商談にオンラインを取り入れ、働き方を革新する

これまでの活動の中でターニングポイントはありましたか?

法人向けのサービスで、営業をオンライン化したことがターニングポイントです。 マーケティングの施策を進めていくうちに、リードが増えても営業が追いつかなくなってきました。当初は対策として増員を進めましたがなかなか適任者が見つからず、ならば効率化を進めようということになりました。その延長で、商談をオンライン化したらどうだろうということになったんです。

元々地方のお客様にはV--cubeというオンライン会議のシステムを使って、オンラインで商談していました。オンラインで営業をやっても支障はなかったので、都内のお客様にもオンライン対応していけるのではないかと考えたんです。そこで試しに「来月から1ヶ月は訪問禁止。どうしても訪問したい場合は部長に確認が必要。」ということにしたのです。結果、受注率は変わらず、商談件数は増えました。訪問だと1日3~4件しか対応できなかったのが、オンラインだと7~8件はできます。現在も商談にオンラインを取り入れ、効率的な営業スタイルで働き方を革新しています。

今後はグローバル展開を見据えたブランド強化へ

今後の展開についてお聞かせください。

大きくは3つあります。まず今やっているCMの効果検証をして、よければ引き続き継続していこうと考えています。2つ目はグローバル。法人向け、個人向けそれぞれ海外で展開する予定なので、グローバルに向けて今後マーケティングをどう展開していこうかというのが課題です。

そして3つ目はブランディングです。2013年に社名を「三三」から「Sansan」に、サービス名を「リンクナレッジ」から「Sansan」に変えました。その背景として社名とサービス名のブランドを統一して、企業、サービスいずれも認知促進したいという狙いがあります。どちらを残すかは「リンクナレッジ」より覚えやすいし、インパクトのある「Sansan」を採用しました。また、今後のグローバル展開を見据えて漢字よりアルファベットにしています。

グローバル展開する上で「Sansan」と「Eight」の見せ方をどうするか。うまくやれば相乗効果が得られるでしょうし、グチャグチャになってしまうかもしれない。その辺りをもう一度整理することが直近の大きなテーマですね。

プロフィール

日比谷 尚武氏
Sansan株式会社 広報部コネクタ 兼 Eightエバンジェリスト

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベントの企画運営等に携わる。その後、NTTソフトウェアにてICカード、電子マネー、システム開発(主に火消し)等のプロジェクトに従事。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、Webシステム開発・営業・企画・マネジメント全般に従事。2009年よりSansan株式会社にてマーケティング、 広報の立ち上げを担当。現在はコネクタとして社外コネクション全般を担当する。

インタビュー後記

Sansan様では採用にかなり時間をかけているそうです。Sansanのミッションに共感できるか、自分が成長したいという志向を強く持っているかといった点を重視し、スキルがあっても性格や文化があてはまらないと感じたら採用しないそうです。入社後も「強み」を重視した配置になっているので、離職はほとんどないとのこと。
つい最近では、3月に移転されたばかりの「Sansan表参道オフィス」が2014年度第27回「日経ニューオフィス賞」を受賞されました。社員の創造性と生産性を高める環境づくりを目指した取組みが認められたようです。表参道オフィスのミーティング兼セミナールームでは、ゆったりとしたスペースに机や椅子が配置され、一つひとつ異なる種類のプランターが至る所に置かれていたり、ハンモックやロフト等のリラックスゾーンがあったりと快適な空間が準備されています。個々の席はあるもののミーティングルームでノートパソコンで仕事をするスタッフもいるそうです。
志の共感、適材適所の配置、そして快適なオフィス空間と、「ヒト」を大切にする会社であることがひしひしと伝わってきました。Sansan様のビジョンは「世界を変える新たな価値を生み出す」こと。新たな価値の創造を支えるのは「ヒト」であることを理解され実践されている会社です。

広富 克子

取締役/執⾏役員

広富 克子

コンテンツマーケティング支援

神⼾⼤学経営学部卒業。住友ビジネスコンサルテイング株式会社⼊社。マーケティングリサーチ・コンサルティング業務を中⼼に活動し、その後AJS(オール⽇本スーパーマーケット協会)にて、プライベートブランドの商品開発・営業に従事。2003年10⽉、株式会社パワー・インタラクティブ⼊社。2006年4⽉、取締役執⾏役員に就任。全社営業戦略を統括する。

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