Adobe Marketo Engageを活用したパーソナライズドメール
田中 里香子(文責)
現代のマーケティングにおいて、顧客一人ひとりに寄り添ったパーソナライズされたコミュニケーションは重要性を増しています。Adobe Marketo Engageを活用すれば、顧客のニーズや興味に合わせたメッセージを適切なタイミングで顧客に届けることが可能です。
本コラムでは、BtoB企業向けにまだまだ活用しきれていない企業が多いAdobe Marketo Engageの機能である「トークン」「スニペット」「ダイナミックコンテンツ」の内容と活用例を紹介します。
また、トリガーメールを活用した配信タイミングのパーソナライズ化についても解説します。ぜひパーソナライズ機能の活用にチャレンジしてください。
パーソナライズが重要な理由
米国に本社を置くEpsilonが発表した「The power of me: The impact of personalization on marketing performance」で18~64歳の1,000人の消費者を対象に行われたオンライン調査によると、パーソナライズに対する関心は高く、回答者の80%が「パーソナライズされた体験を提供する企業と取引する可能性が高い」と答え、90%が「パーソナライズを魅力的だと感じる」と回答しています。

図表1:顧客はパーソナライズを求めている?
では、顧客は具体的にどのようなパーソナライズされた体験を求めているのでしょうか。マッキンゼーが発表した「Next in Personalization 2021」レポートでは、顧客がパーソナライズされた体験を求めるポイントを示しています。
顧客が初回購入する際に重要視しているパーソナライズされた体験として、上位から順に
・店舗およびオンラインでのスムーズなナビゲーション
・適切な製品やサービスの推奨
・ニーズに合わせたメッセージ
とあり、顧客は初回購入に際して自分のニーズや行動に応じた「パーソナライズされた体験」を期待していることがわかります。
また、パーソナライズされたメールは、一般的な全体配信のメールよりも開封率・クリック率が高い傾向にあり、コンバージョンの改善にも大きく寄与します。
BtoBとBtoCにおけるパーソナライズの違い
BtoBとBtoCではターゲットの規模が異なるため、パーソナライズ施策の目的が異なります。
BtoBでは、購入に至るまでに時間がかかる商材が多く、顧客の検討フェーズに合わせたコミュニケーションを実現し、顧客を育成する必要があります。そのため、パーソナライズの目的は、企業や担当者の課題解決に向けた提案や、長期間のフォローアップを通じた関係強化にあります。BtoBにおいてもトリガーメールなどを活用した「特定のタイミングでのリアルタイム配信」が有効とされており、適切なタイミングで価値ある情報を届けることが重要です。
一方、BtoCでは購入までのプロセスが比較的短く、多種多様な行動パターンを持つ消費者に対して、即時購買を促すことが求められます。そのため、パーソナライズの目的は、タイミングを重視し、シンプルかつ魅力的なメッセージで感情に訴えかけ、顧客を引き込むことにあります。特にBtoCでは、属性や行動データに加えてリアルタイムでのコミュニケーションが重要視されており、さらにジオグラフィック情報やAI技術を活用した「ハイパーソナライゼーション」へと進化しています。
このように、BtoBとBtoCのパーソナライズには共通してリアルタイム配信の有効性が見られる一方で、BtoBは関係構築や顧客育成を重視し、BtoCは即時購買を促す点に主眼が置かれるという違いがあります。

図表2:BtoBとBtoCにおけるパーソナライズの違い
本コラムでは、BtoB企業むけに、企業や担当者の課題解決に向けた提案や長期間のフォローアップを通じた関係強化を目的とした、顧客の属性・行動データに基づく静的(一部動的もある)なパーソナライズドメールについて解説します。
Adobe Marketo Engageのパーソナライズ機能
まず最初に本記事では、パーソナライズドメールを「データベースの情報から特定の顧客層をセグメンテーションし、その顧客層に最適化されたメール配信を実施すること」と定義します。
顧客中心の設計であるAdobe Marketo Engageは、顧客の行動データ(ウェブサイトの閲覧履歴、メールの開封、クリックなど)に基づき、個別化されたコンテンツやメッセージを送信する機能を持っています。また、リードスコアやセグメンテーションを細かく設定でき、個別のニーズに応じたコンテンツ配信が可能です。さらに、他のアプリケーションと簡単に接続できることもあり、複数のチャネルを統合して一貫したメッセージを届けることができます。
Adobe Marketo Engageは、大規模で複雑なデータ管理に対応できるため、パーソナライズを実現するために必要なデータの管理ができ、高度なターゲティングを実現しやすいツールといえます。
トークンの解説と活用メリット
トークンは、スマートキャンペーンのフローステップ、メール、ランディングページ、スニペット、Web キャンペーンで使用できる変数です。

図表3:参考)「トークン」の種類
マイトークンとは、キャンペーンフォルダorプログラム内で定義し、使用できるトークンのことをいいます。
マイトークン活用のメリット
マイトークンを使用することでプログラムのテンプレートが強化され、テンプレートを複製した際の変更点が少なく済むため設定の時間効率があがることや設定のベストプラクティスを一貫して使用できるなどのメリットがあります。
様々あるトークンの中でも、マイトークンやリードトークン、会社トークンを活用することでメールやランディングページをパーソナライズすることができます。
活用例
・顧客の名前や企業名を差し込んだ挨拶文の作成
・業界や役職に合わせたコンテンツ挿入
・アラートメールに顧客情報を差し込む
・イベントプログラムのマイトークンでイベント名や、誘導先コンテンツを設定し、プログラム設定を効率化する

図表4:「トークン」活用例-画像挿入にも使えるトークン
トークンは、画像の挿入にも活用できます。
これはセミナーの集客メールを想定しています。イベントプログラムのテンプレート配下に3回分の集客メールアセットがあり、メールアセット内にマイトークンを設定しておきます。このイベントプログラムのテンプレート複製し、プログラム側でマイトークンを変更するだけでセミナーキービジュアル画像が3通分のメールの中に入ります。
スニペットの解説と活用メリット
スニペットとは、メールやランディングページに埋め込む再利用可能なHTMLコンポーネントです。スニペットはデザインスタジオで作成します。スニペットには、トークンや画像、テキストを追加することができます。さらに、スニペットを動的にすることで、動的コンテンツとしての活用が可能です。
スニペット活用のメリット
複数のメールやランディングページにスニペットを入れておくと、1つのスニペットを更新するだけで、すべての場所で自動的に更新され、コンテンツの統一と運用管理が効率化されます。加えて、トークン活用やセグメントごとの出し分けを行うことで、パーソナライズ施策の一部として機能します。
活用例
・署名欄をスニペットにしておき、署名欄が変更になった際にミスを防ぐ
・エンゲージメントプログラムのメールに挿入し、更新があった際に一括で変更できるようにしておく
・定期的に配信するメール(メルマガやイベント案内メール等)に挿入し、関連コンテンツを出し分ける
特に季節性があるコンテンツ等は変更が想定されるため、活用すると良い

図表5:「スニペット」とは
スニペット自体はパーソナライズに直接関係ありませんが、顧客への最適な情報提供を実現するためには活用が必須です。また、スニペットを動的にすることでパーソナライズされたコンテンツを作ることができます。
ダイナミックコンテンツの解説と活用メリット
ダイナミックコンテンツとはメールに動的コンテンツブロックを追加することで、セグメントごとにコンテンツの一部を出し分けることができる機能です。メール内のコンテンツブロックから設定できます。また、スニペットを動的コンテンツとすることもできます。
ダイナミックコンテンツ活用のメリット
ダイナミックコンテンツを活用することで、顧客が「自分に関連する」と感じる情報を提供し、顧客体験をパーソナライズでき、コンバージョン率の向上につながります。また、1つのメールやランディングページでコンテンツを動的に切り替えるため、アセットを複数作成・管理する必要がないため作業効率化につながります。
こちらの例は、Adobe Marketo Engage導入しているか否かで弊社が設定しているAdobe Marketo Engageユーザーセグメントでのダイナミックコンテンツ活用イメージです。

図表6:Adobe Marketo EngageユーザーSegmentでのダイナミックコンテンツ活用イメージ
トリガーメール施策でのパーソナライズ
トリガーメールとは特定の条件や行動が発生した際に自動的に送信されるメールのことです。顧客の属性や行動データに基づいてリアルタイムで配信されるため、顧客にとって最も関心が高いタイミングでメッセージを届けることができます。そのため顧客に促す行動を明確にし、行動を促すことを目的に設定します。

図表7:トリガーメール施策
トリガーメール活用例
・サービスやメルマガに登録した直後に配信する新規登録ウェルカムメール
・製品ページを閲覧した人へ問い合わせや製品資料を配信する行動促進メール
・リードスコアが閾値を超えた際に社内へ送るアラートメール
パワー・インタラクティブの展示会施策事例
パワー・インタラクティブの事例を紹介します。
パワー・インタラクティブでは、年2回程大規模な展示会に出展しているのですが、展示会獲得リードに対するマーケティング施策の成果が出ていませんでした。
課題

図表8:展示会フロー
展示会獲得リード整備~育成、インサイドセールス連携までの問題として、下記点がありました。
・リード整備とリードインポート作業に手間がかかっていた:リード整備は名刺管理ツールから手動でエクスポートし、リスト精査、営業が個別でフォローする対象・競合企業・パートナー企業を振り分け
・お礼メールとフォローメールは一斉配信しており、メールの反応が悪くクリック率は1%台
・マーケティング経由の有望リード連携ができていない
この問題に対して、下記課題を置きました。
・初回フォローまでのリードタイム短縮
・ターゲットに合わせたメールフォローの実現
・獲得リードの中長期的な育成
解決策
1.初回フォローまでのリードタイム短縮
AskOneを活用し、営業が展示会場で名刺情報を入力するフォームを作成しました。その結果、手動でのエクスポートやインポート作業をなくしました。AskOneはリアルタイムでSalesforceへ連携できるため、工数を削減することができました。
また、トークン活用やセグメント設定を見越して必要なデータを定義づけし、フォームでは選択項目やチェックボックスを活用しました。
2.ターゲットに合わせたメールフォローの実現
注力するターゲットをシンプルに整理しました。また、セグメントを設定するために必要なデータをAdobe Marketo Engageのデータで定義し、スマートリスト条件を決めました。
設定したセグメントは下記で、8通りのセグメントができました。
Adobe Marketo Engageユーザーor非Adobe Marketo Engageユーザー
×
新規リード(Adobe Marketo Engageに初めて登録されたリード)or既存リード
×
役職者or担当者
また、トークンやダイナミックコンテンツを活用したパーソナライズを実現しました。「担当営業名」「企業名」「顧客名」をトークンで挿入し、Marketoユーザーと非Marketoユーザーで一部コンテンツを出し分けました。

図表9:ダイナミックコンテンツの活用
3.獲得リードの中長期的な育成
エンゲージメントメールを設定し、メールアセットにはスニペットやトークン、ダイナミックコンテンツを活用しました。
エンゲージメントメールのストリーム3では、サービス資料ダウンロードやセミナー申込などのフォーム通過があればインサイドセールスへ連携し、架電orメールフォローをしてもらうフローとしました。ストリーム3まで到達し、サービスページを閲覧したが資料ダウンロードしなかった人へは、トリガーメールでサービスの切り口を変え再度サービスを案内することで、具体的な行動を促すトリガーメールを設定しました。

図表10:エンゲージメントメール
成果
これらの施策を行った結果、お礼メールやフォローメールの開封率とクリック率も向上し、工数は⅓に削減され、営業送客数は0件から10件へと大きな成果がでました。

図表11:展示会事例の成果
まとめ
1.パーソナライズは顧客から求められている
2.Adobe Marketo Engageの便利な機能を活用して効率化を行い、施策の個別性を高める
3.Adobe Marketo Engageの機能を使ってパーソナライズメールを送ることで成果につながる
データからも読み取れるように、パーソナライズは顧客から求められています。また、トークンやスニペット、ダイナミックコンテンツ、トリガーメールを活用することで、施策の効率化と個別性を高めることができ、事例からこれらが具体的な成果につながるということがわかります。
Marketoのパーソナライズ機能を最大限に活用するために Adobe Marketo Engageのパーソナライズ機能を適切に活用することで、より精度の高いマーケティング施策が可能になります。しかし、効果的な活用には データ設計・シナリオ設計・コンテンツ最適化 などのノウハウが必要です。
パワー・インタラクティブでは、Marketoを熟知した専門コンサルタントが、貴社の課題に応じた最適なパーソナライズ施策を提案し、運用を支援 いたします。「トークン」「スニペット」「ダイナミックコンテンツ」「トリガーメール」 の高度な活用方法を知りたい方は、ぜひ以下のページをご覧ください。

マーケティングコンサルタント
田中 里香子
インサイドセールスマネジメント支援
新卒でJR西日本に入社し、駅員として運輸業務に従事。その後、コールセンターでリーダーとしてBtoC営業を経験。パワー・インタラクティブに入社後はインサイドセールスと自社マーケティングのリーダーとして、Adobe Marketo Engage活用を推進。Adobe Marketo Engage活用コンサルティングへも従事している。