「この夏読みたい生成AIシリーズ」は、毎日忙しく生成AIについて勉強する時間がなかなか確保できないビジネスパーソンにおすすめの連載コンテンツです!
第3回では、ChatGPTなどの生成AIからより良いアウトプットを引き出すための、暗記に頼らないプロンプト(指示文)作成のコツについてご紹介します。
<この夏読みたい生成AIシリーズ>
第1回:まずはここから!生成AIとLLM、ChatGPTの基礎知識
第2回:生成AIの今後がわかる!米国ビッグテック企業と生成AI競争
第3回:覚えるだけじゃ使えない!プロンプトの極意『FOCUSプロンプト』とは(本コラム)
第4回:どこまでできる?マーケティングへの活用例(前編)
第5回:どこまでできる?マーケティングへの活用例(後編)
第6回:ChatGPTだけじゃない!便利なAIサービス10選
第7回:2025年、生成AIはどこまで進化する?
おまけ:2024年8月最新!生成AI用語集100
※関連ナレッジ資料※
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プロンプトとは、人間が生成AIに指示や質問を与えるための入力テキストです。主に自然言語(英語や日本語)が用いられ、生成AIとのコミュニケーションにおいて、人間の意図をAIに伝える重要な役割を果たします。
生成AIブームといわれる昨今、初心者向けとして100や200以上のプロンプトを掲載した「プロンプト集」と呼ばれるものが数多く作成されるようになりました。プロンプト集は、生成AIを使い始めたばかりの人にとって参考になる例示ではありますが、そのまま使うだけでは十分な結果は得られません。
「商品Aの魅力的な広告文を書いてください」というプロンプトがあったとします。これをそのまま使っても、AIは商品Aの特徴や利点を十分に理解できないため、ありきたりな文章しか生成できないでしょう。そのため「商品Aは〇〇という特徴があり、△△のようなメリットがあります。20代女性をターゲットに、商品Aの魅力を伝える広告文を書いてください」のように、具体的な情報を盛り込んだプロンプトを作成する方が良い結果につながります。
プロンプトの中には、単に伝えたい指示の内容だけでなく、前提となるコンテキスト(文脈)や、出力形式(生成AIからの応答方法)と期待値といったあらゆる要素が含まれているとより効果的です。
つまり、100や200のプロンプト集を暗記するだけでは、生成AIと十分なコミュニケーションを図ることはできません。生成AIとのコミュニケーションにおいては、依頼したいタスクや文脈に応じて柔軟にプロンプトを調整する必要があるからです。
1. 指示の内容: AIに何をしてほしいのかを明確に伝えます。例えば、「以下の製品の特徴を列挙してください」など。具体的で明確な指示を与えることで、AIは求められているタスクを正確に理解し、適切な出力を生成できます。
2. コンテキストの提供: AIが適切な回答を生成するために必要な背景情報を提供します。「私たちの製品のターゲットは⚪︎⚪︎で、マーケティング期間は半年間、予算は1,000万円です。」など、指示の内容を補足する内容と、前提条件や必要情報を網羅的に提供することが効果的です。
3. 出力の形式指定: 回答の形式(箇条書き、段落、表など)を指定します。「製品の特徴を箇条書きで記述した上で、弊社が優先的に売り出すべき製品を3つリストアップしてください。」など。出力形式を指定することで、情報を整理しやすく、読みやすい形で回答を得られます。
「製品の比較を表形式で示してください」のように、ビジュアル的にわかりやすい形式を指定するのも効果的です。
4. 記号を用いた区分:主に使用されるのは「#」記号です。プロンプトの中で各要素を区切るために使用されます。「# 指示:〜〜 # コンテキスト:〜〜 # 出力形式:〜〜」のように記号で区切ることで、AIがプロンプトの各部分を正しく認識し、ユーザーの意図通りの出力を生成しやすくなります。
プロンプトを記述する上で、複雑なルールを覚える必要はありません。むしろ自然な会話を心がけ、普段行っている人間同士の会話を少しだけ丁寧に行うようなイメージを持つことが重要です。
初めて打ち合わせを行う取引先企業との商談を想像してみてください。その状況では、相手の業界や課題について事前にリサーチし、それらを踏まえた提案を行うはずです。自社の製品やサービスの特徴についても具体的に説明し、相手の企業にとってのメリットを強調するでしょう。
商談を進めるうちに新たな疑問点が生まれたり、商談相手がこちらの話にピンとこない様子をしていたらどうでしょうか?追加で質問を行ったり、アプローチを変えて話題を広げていくのではないでしょうか。
これと同様に、生成AIとのコミュニケーションにおいても、背景や目的を丁寧に説明し、AIが理解しやすいように具体的な情報を提供することが大切です。
例えば、「新商品のプレスリリース文を作成してください」というタスクであれば、以下のようなプロンプトが考えられます。
"あなたは家電メーカーのPR担当者です。新発売されるコードレス掃除機のプレスリリース文を作成してください。この掃除機は、業界日本最高水準の吸引力と、コンパクトで軽量なボディが特徴です。主なターゲットは、低価格と機能性の両立を求める20〜30代の共働き世帯です。プレスリリースでは、製品の技術的な優位性と、ユーザーの生活がどのように改善されるかを強調してください。"
このように、自然な言葉で背景や目的を説明し、具体的な製品情報やターゲット像を提示することで、AIは的確なプレスリリース文を生成できます。逆に十分な説明(コンテクストの提供)がなされないケースでは、AIの出力結果はあまり期待できない内容となります。
生成AIとの対話は、単一のプロンプトで完結させるのではなく、継続的な対話として捉えることが効果的です。最初のプロンプトで満足のいく結果が得られなかった場合、そこで諦めるのではなく、AIの出力をもとにプロンプトを改善し再度入力するなど、AIからの出力結果を評価しながら会話するプロセスがより良い出力につながります。
先ほどの例(新商品のプレスリリース)で、AIが生成した文章が製品の技術的な説明に偏っていたとします。この場合、ユーザーメリットを強調するようにプロンプトを修正し、再度AIに入力することで、より バランスの取れた内容のプレスリリースが出力されることが期待されます。例としては、下記のようなプロンプトです。
"先ほど生成されたプレスリリース文をもとに修正をお願いします。技術的な説明はコンパクトにまとめ、代わりにユーザーの生活がどのように改善されるかについて、具体的なシーンを交えて詳しく説明してください。例えば、狭い部屋でも隅々まで簡単に掃除できる点や、軽量でサッと取り出せる点など、ユーザーメリットを前面に押し出して、共働き世代の生活が改善されるイメージを想起できるようにしてください。"
このようにAIとの対話を重ねることで、自分のイメージに近い理想的な文章を得ることができます。
また異なるアプローチとして、タスクを細分化し、段階的にAIとコミュニケーションを取ることも有効です。プレスリリース文の作成であれば、最初に製品の特徴をリストアップするようAIに指示し、次にそのリストをもとにユーザーメリットを考えさせ、最後にそれらを統合してプレスリリース文を作成させる、といった具合です。
このように、AIとの対話を一つのプロンプトで終わらせるのではなく、継続的なプロセスとして捉えることが、生成AIを効果的に活用するためのポイントといえるでしょう。
「FOCUSプロンプト」は、私、天野が独自に考案したプロンプトフレームワークで、5つのプロンプトから構成されています。多くのタスクで使える汎用的プロンプトとなっており、複雑なタスクを生成AIに正しく認識させながら期待する出力結果を得ること、を目指して設計されています。
ユーザーの質問内容を生成AIがどのように理解しているか明確にします。お互いの理解とコンテクスト(文脈)のズレを修正し、正しい問いを作成します。
例えば、ユーザーが「新商品のキャッチコピー」と質問したい場合、生成AIに対して以下のようなプロンプトを与えます。
"#質問
新商品のキャッチコピーを考えてください。
#指示
上記の質問に対して、質問内容を分析してChatGPT(あなた)がどのように理解しているか説明してください。次に、私の質問が不明確であれば、より良い回答のために必要な追加情報を教えてください。質問への回答は求めていません。"
このプロンプトにより、生成AI「新商品のキャッチコピーを考えてください」というタスクの目的を正しく理解し、必要な情報を求めることができます。ユーザーとAIの間で認識のズレを防ぎ、的確な問題定義を行うことが、Frameの目的です。
問いの回答に必要な情報と前提条件をMECEにリストアップします。
先ほどの例で、ユーザーと生成AIの認識が合致したら、次はそれをもとにキャッチコピーを考えるための必要情報と前提条件を整理します。
"その他に事前に確認しておくべき前提条件はありますか?あなたが質問に対して最適な出力をするために確認が必要な項目をMECEの観点でリストアップしてください。また、ターゲットを明確にするために誰に向けた出力にするべきかいくつか提案してください。"
このように、タスクを遂行するために必要な情報を漏れなく整理することが、Observeの目的です。MECEに情報をリストアップすることで、生成AIは的確な回答を導き出せるようになります。また出力結果を誰に向けた内容にするか、についても事前に調整を行います。
ここまでの情報に基づいて、出力を行います。不足部分は生成AI自身が任意の内容で補足します。
前提条件のリストをもとに、いよいよキャッチコピーの生成に入ります。
"ここまで整理された必要情報と前提条件を踏まえて、新商品のキャッチコピーを3案提案してください。ターゲット層の共感を得られるフレーズを心がけてください。リストに不足している情報があれば、自由に補足してかまいません。"
このプロンプトにより、生成AIは整理された情報をもとにキャッチコピーを生成します。もし必要な情報が不足していれば、AIが自らの知識で補完しながら出力を行います。Completeのフェーズでは、これまでの情報を統合し、具体的なアウトプットを得ることが目的となります。
生成AIが出力したキャッチコピーを、詳細に分析します。
"提案された3つのキャッチコピーについて、以下の観点から分析してください:
1. ターゲット層の嗜好や価値観との合致度
2. 競合製品との差別化の明確さ
3. 製品の特徴や効能の訴求力
4. 言葉選びの的確さと印象の良さ
それぞれのキャッチコピーの長所と短所を挙げ、改善点があれば提案してください。"
このプロンプトにより、生成AIは自らの出力を多角的に評価し、改善点を洗い出します。Unpackのフェーズでは、アウトプットを鵜呑みにせず、批判的に分析することが重要です。
分析結果をもとに、最終的な出力を生成します。
今回の場合は、完成版のキャッチコピーです。
"分析した内容を踏まえ、最も効果的なキャッチコピーを1つ選んでください。改善点があれば修正を加え、最終案を提示してください。あわせて、そのキャッチコピーを選んだ理由を説明してください。"
このプロンプトにより、生成AIは分析と改善を経て、最適なキャッチコピーを提案します。Solveのフェーズでは、これまでの思考プロセスを集約し、実践的な解決策を形成することが目的となります。
以上が、「FOCUSプロンプト」の一連の流れです。5つのステップを踏むことで、複雑なタスクを生成AIに的確に理解させ、質の高いアウトプットを得ることができます。
このフレームワークは、キャッチコピーの作成以外にも様々なシチュエーションで応用が可能です。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、人間とは違い「テキストで説明されていないこと」は認識することができません。そのため、人間同士の会話と同様にコンテクストの不足を補うことなしに、AIから期待する成果を得ることは難しいといえます。
プロンプトとはつまり生成AIとのコミュニケーションそのものです。
これは外国語学習にも通じるところがあります。頻出単語やフレーズをどれだけ覚えたとしても、実際に使う場面においては、丸暗記したフレーズをそのまま使える場面はほとんどなく、相手とのコミュニケーションに合わせて細かく変えなければいけないからです。
「FOCUSプロンプト」のようなフレームワークの活用についても同じです。フレームワークやプロンプト自体を暗記するのではなく、あくまでも生成AIは人間同士のコミュニケーションの延長線上に設計されていることを意識しなければいけません。
人間と会話をするようにプロンプトを設計することが、生成AIを活用する上での極意であり、それはつまり、丁寧にコンテクストの不足を補い、円滑な対話を目指すという、コミュニケーションの本質に他なりません。
本連載を通じて、生成AIに対する「なんだかよくわからないもの」という印象を抜け出し、ビジネスだけでなく生活の場においても身近に感じられる一助になれば幸いです。次回もお楽しみに!
ChatGPTアドバイザー
天野 翔太
生成AI導入・活用支援
複数の事業会社においてBtoCならびにBtoBマーケティングを担当する。その後、アクセンチュア株式会社で広告運用をメインにしたマーケティングコンサルティングに従事。
2023年にパワー・インタラクティブに参画してからは、ChatGPTなど生成AIのポテンシャルに注目。マーケティングへの活用で成果を上げるだけでなく、これまでにない新しい顧客体験を生み出すことにチャレンジしている。
マツナイ合同会社代表。
2024.08.05
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