マーケティングオペレーション(以下、MOps)とは、マーケティングにおけるオペレーション設計を担う専門チームのことを指す。MOpsは日本ではまだ馴染みがないが、米国では多くの企業が当たり前のように取り入れている。Dimentional Research社が2021年に米国でおこなった調査では、約70%の企業がMOpsを専門の組織として持っていると回答した。*1
本コラムでは本書のなかで概論的な序章・第1章・第2章の内容を咀嚼し、かんたんに理解できるよう図を用いて解説する。
ゼロワングロース株式会社 代表取締役
株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてセールス及びマーケティング分野の戦略コンサルタントとして、実現性の高い戦術設計に重点を置いたフレームワークを活用して、多くの顧客企業のDXを成功に導く。また、グローバルでわずか6名しかいない戦略コンサルティングチームにも所属し、グローバル規模の大型プロジェクトもリードした。オンライン広告やウェブサイト最適化、マーケティングオートメーション及びSFAをはじめとしたセールステックまで幅広い知識を有し、自身もマーケターとして、企業の成長に大きく貢献した経験を持つ。テクノロジースタートアップ企業の海外進出などにも従事している。2021年ゼロワングロ-ス株式会社設立、代表取締役に就任。著書に『「数字指向」のマーケティング』(翔泳社)がある。
ゼロワングロース株式会社 取締役
大学在学中に株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にてマーケティングインターン終了後、渡米。大学院にてマーケティングを学んだのちシリコンバレーに移りEd Techのスタートアップ企業、Couseraにてエンタープライズマーケティングオペレーションに従事。その後シンガポールに渡りAd TechベンダーのMediaMathにてAPAC地域のグローバルマーケティングオペレーションを担当。デジタルマーケティングのみならず、イベント・PRの実行経験も持つ。現在はゼロワングロース株式会社にてGrowth Strategyをリードし、クライアント企業へのコンサルティングサービス開発のみならず、自社の教育サービス開発なども担当する。
引用:マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識|翔泳社 巻末
顧客行動がデジタルへ移行するにつれ、マーケティング部門が担う責任範囲は広がり続けてきた。かつてはプロモーションのみを担っていたマーケティング部門は、いまや今や商談に至る前工程のすべてを担うように変化している。
マーケティング部門が担う範囲が広がったことで、駆使しなければならないテクノロジーは増大した。施策を実行するためにテクノロジーを導入していった先で、このような課題に直面している企業は多い。
●導入しているテクノロジーの機能を使いこなせない
●テクノロジーが多数あることでデータが分散し、集約した分析ができない
●複数部門で類似するツールを導入し、重複投資が生じている
●各マーケティング担当者が独自のフローで施策を実行するため、統一して施策を評価できない
このような課題をマーケター自身で解決するのは非常に困難である。多くの場合、情報システム部門などITに強い部門と協力してテクノロジー活用を進めることになる。
しかし、情報システム部門の方は必ずしもマーケティングを理解しているとは限らない。そのため、マーケティング施策をスムーズに実行し続けることまで考えてテクノロジーを導入することが難しい場合もある。
そこで求められるのがMOpsだ。MOpsはテクノロジーを駆使したマーケティングオペレーションを設計することで、マーケターをサポートする役割を担っている。
MOpsはテクノロジーの面からマーケターをサポートする立場にある。Gartner社は、MOpsを「マーケティング部門とIT部門の間を取り持つ組織」と定義した。
MOpsはマーケティング部門とIT部門の間に入り、担う役割は大きく4つに分けられる。
・マーケティングテクノロジーの要件定義から導入
・社内に運用ルールと情報を共有する
・データマネジメントと分析
・マーケティングチームのテクノロジー教育
MOpsはテクノロジーを導入・管理するだけでなく、有効活用するためのナレッジシェア、教育までを担っている。このように、マーケティング側に立ってテクノロジー活用を推進するMOpsがいることで、フィールドマーケターは円滑にマーケティング活動を遂行できる。
前述の通り、日本企業においてマーケターが求められる役割はあまりに幅が広すぎる。全体最適で効率的なマーケティング推進を実現するには、役割と責任範囲を明確化し、マーケティング組織をデザインし直す必要がある。
マーケティング組織内での役割分担が明確にされているか否かは、マーケターの募集要項を見るとよくわかる。マーケティング企画立案からデータ分析、MA活用など、幅広い経験を求める募集要項を見たことはないだろうか。このように、マーケティングを推進するうえで必要なスキルを一人の人間に全て求めるような募集要項を公開している企業では、マーケティング組織内での役割と責任が明確になっていないと考えられる。
マーケティング組織モデルに正解はなく、各企業で最適解を模索し続ける必要があるが、1つの例として以下のような整理ができる。(図表2)
適切な組織モデルは会社組織の規模やマーケティング組織の規模・予算、実現したいマーケティング像など、様々な要因によって大きく変わる。モデルに当てはめて終わりではなく、適宜自社にとって最も良い組織体制について議論し、最適化していく必要がある。
本書はタイトルの通り、MOps構築における教科書的な存在になるだろう。MOpsについて理解するうえで必要な情報が網羅的に盛り込まれており、本コラムの筆者も本書の内容を咀嚼するまでに相当な時間を要した。
テクノロジーが発達し、マーケティング組織に求められる役割が広がっていっている今、MOpsの構築は必要不可欠である。いち早くMOpsを構築し、効率的なマーケティング推進体制を整えた企業が競合他社を凌駕していくだろう。
マーケティングにおける非効率を解消したいと考えている方は、ぜひ一度本書を手に取ってみてほしい。
マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識
作者:丸井 達郎,廣崎 依久
翔泳社
*1:THE 2021 STATE OF MARKETING OPERATIONS|dimensional research p9
コンテンツ編集長
岩野 航平
コンテンツ戦略策定
新卒で株式会社ネオキャリアに入社し、新規オウンドメディアの立ち上げに従事。ネオキャリアを退職し、数カ月間飲食店で働いた後、パワー・インタラクティブに入社。マーケティング、インサイドセールスを担当したのち、コンテンツ編集長に就任。パワー・インタラクティブで発信するコンテンツ全般の企画やコンテンツ計画策定などをおこなう。
2024.08.19
2024.04.08
2024.02.13