製薬マーケティングのROI可視化:Adobe Marketo Engageのアクティビティログの活用で実現する
Marketoの「隠れた宝」を掘り起こす
製薬マーケティングマネージャーの皆様、前回の記事では、マーケティングオートメーション(以下、MA)とSales Force Automation(以下、SFA)/Customer Relationship Management(以下、CRM)の連携が難しい状況でも、マーケティングデータだけでも収益管理の第一歩を踏み出せることをお伝えしました。しかし、「具体的に、手元のMarketoデータで何ができるのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
◆前回の記事
製薬マーケティングの未来を拓くMA戦略:収益最大化とデジタル変革への道筋
MAは単なるパーソナライズされたメール配信ツールではありません。その真の価値は、マーケティング活動全体の「収益管理」にあります。MAの登場により、これまで・・・・・・・・ 続きはこちら
「Marketoはメール配信やウェビナー管理に使っているけれど、それ以上の活用方法が分からない」「営業部門とのシステム連携はまだ先の話で、データが分断されている」――。こうした声は、多くの製薬企業で聞かれます。
ご安心ください。実は、貴社のMarketoには、まだ十分に活用されていない「宝の山」が眠っています。それが、Marketoのアクティビティログです。そして、このアクティビティログと、期間を限定したビジネス成果データを組み合わせることで、システム連携の壁を越え、マーケティング活動の収益貢献を可視化するアプローチが可能になります。
この記事では、Marketoのアクティビティログを最大限に活用し、単発・限定的なデータマッチングを通じて、製薬マーケティングの収益管理を加速させる具体的な方法をご紹介します。
※関連ナレッジ資料※
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1.Marketoアクティビティログ:医師の「熱量」を映し出す鏡
Marketoは単なるメール配信ツールではありません。医師が貴社のデジタルチャネル上でどのような行動を取ったか、その一つ一つを詳細に記録する「アクティビティログ」こそが、Marketoの真価を発揮する鍵となります。
アクティビティログが示す医師の「興味関心」
Marketoのアクティビティログには、以下のような医師の行動データが蓄積されています。
・Webサイト訪問履歴: どの医師が、いつ、どの製品ページや疾患啓発コンテンツを閲覧したか。特定のページへの複数回訪問は、その医師の強い興味を示唆します。
・メールエンゲージメント: 配信したメールの開封、リンククリック、どのコンテンツに反応したか。
・コンテンツダウンロード履歴: ホワイトペーパー、学術資料、ウェビナー資料などのダウンロード。
・フォーム入力・問い合わせ: 資料請求フォーム、ウェビナー申込フォーム、問い合わせフォームへの入力(送信に至らなくても、入力途中のデータも重要)。
・Web講演会参加・視聴履歴: ライブ参加の有無、オンデマンド視聴の有無、視聴時間など。
これらのデータは、医師が貴社の製品や情報に対してどれだけの「熱量」を持っているかを数値化する上で極めて重要です。Marketoのスマートリスト機能やセグメント機能、リードスコアリング機能を使えば、これらの行動に点数を付け、医師の興味関心度合いを可視化できます 。
「点」を「線」に変える:ビジネス成果データとの限定的マッチングと代替手段
Marketoのアクティビティログは「点」のデータであり、それだけでは顧客の行動の全体像を捉えにくいものです 。これを有意義な「線」のデータにするためには、本来であれば、実際のビジネス成果である実消化データや実売データと結びつけることが理想です 。しかし、製薬業界特有の事情から、実消化データや実売データをMarketoに直接連携させるのが難しい場合でも、別の手段でこの「点」をつなぎ、より深い洞察を得ることが可能です。
なぜ「単発・限定的」なマッチングが有効なのか?
・クイックウィン: 大規模なシステム連携に比べて、短期間で実行可能であり、すぐに分析結果を得られます 。
・仮説検証: マーケティング活動がどのような医師の行動を促し、それが実際のビジネス成果にどうつながるのか、具体的な仮説を検証できます 。
・社内への説得材料: 「このマーケティング活動が、実際に契約につながっている」という具体的なデータを示すことで、経営層や営業部門からの理解と協力を得やすくなります 。
実践ステップ: Marketoとビジネス成果をマッチングさせる
(1)ビジネス成果を示すデータの準備(期間を限定して)
・対象期間の選定: 例えば、「過去1年間」など、分析したい期間を限定します 。
・成果を示すデータの収集: 営業部門や関連部署から、その期間内に貴社にとっての「成果」を示すデータを収集します。直接的な「新規処方開始医師リスト」や「契約更新医師リスト」が困難な場合でも、以下のような間接的なデータが有効です。
-製品ごとの売上高・出荷量データ(卸売業者からの二次データ含む): 特定の製品の売上が伸びている場合、その製品の新規処方や継続処方が増えている可能性が高いです。地域別、チャネル別のデータも重要です。
-特定の疾患領域における市場シェアの変化: 市場シェアが拡大していれば、新規処方や競合からのスイッチングが進んでいると推測できます。
-重要顧客層におけるMR活動後の売上変動: MRが接触した医師グループと、その後の製品売上の変化を関連付けます。
-治験実施医療機関のリストとその後の実績: 治験に参加した医療機関での製品採用状況を追跡します。 この際、医師を特定できる情報(医師名、医療機関名、メールアドレスなど)が含まれていることを確認しましょう 。
・データ形式の統一: 可能であれば、Marketoのデータとマッチングしやすいように、CSV形式などでデータを準備します 。
(2)Marketoアクティビティログのエクスポート
・対象期間のアクティビティログを抽出: 成果データと同じ期間、またはそれ以前の期間(例:契約開始前の3ヶ月間)にMarketo上で活動した医師のアクティビティログをエクスポートします 。MarketoのアクティビティログはAPIを使用することでエクスポート可能です。単発的な取得であれば、エクセルやスプレッドシートでスクリプトを組むことでも実現できます。
・必要な情報の選定: 医師のID、メールアドレス、Webサイト訪問履歴、メール開封・クリック履歴、コンテンツダウンロード履歴、ウェビナー参加履歴など、分析に必要と思われる項目を絞り込んでエクスポートします 。
(3)データマッチングと分析
・名寄せとデータクリーニング: エクスポートしたMarketoのアクティビティログと成果データを、共通のキー(医師の個人コード、勤務先施設コード、メールアドレスなど)を使ってマッチングさせます 。ExcelのVLOOKUP関数や、簡易的なデータベースツール(Accessなど)を使えば、手動でも十分可能です 。この際、表記ゆれなどがあれば、簡易的なデータクレンジングや名寄せを行います 。データクレンジングと名寄せは、データの全体像を理解し、目的と基準を設定した上で実行し、継続的に改善していくことが重要です 。
・行動パターンの特定: マッチング後、「成果に繋がった医師(売上貢献度が高い医師など)」が、成果に繋がる前のMarketo上でどのような行動を共通して取っていたかを分析します 。
-例:「成果に繋がった医師の80%が、関連製品のウェビナーを視聴し、かつ製品詳細ページを3回以上閲覧していた」
-例:「特定の疾患領域の資料をダウンロードした医師は、その後MRからのアプローチで売上貢献に至る確率が高い」
・成果につながるエンゲージメントパターンの仮説構築: この分析結果から、「どのようなデジタル行動が、実際のビジネス成果につながりやすいのか」という具体的な仮説を構築します 。これは、Marketoのスコアリングルールをチューニングする上でも非常に重要なインサイトとなります。
その他の「点」を「線」に変える代替手段
SFA/CRMとのリアルタイム連携や、契約データそのものをMarketoに直接連携させることが難しい場合でも、以下の方法でMarketoのアクティビティログをより価値のある情報へと昇華させることができます。
(1)インサイドセールスやMRによる「情報補完」
Marketoで追跡できるオンライン上の活動(Webサイト訪問履歴、メール開封・クリック履歴、コンテンツダウンロード履歴、フォーム入力・問い合わせ、ウェビナー参加・視聴履歴など )に加えて、インサイドセールスやMRが収集した医師のオフラインでの反応や会話の内容を、Marketoのリード情報に手動で追加したり、SFA/CRMシステムからエクスポートしたデータと突き合わせたりします。
・例えば、特定製品のホワイトペーパーをダウンロードした医師に対し、MRが訪問時に製品への関心度合いや具体的なニーズをヒアリングし、その情報を記録する。
・Web講演会に参加した医師に対し、インサイドセールスがフォローアップコールを行い、処方意向の変化や疑問点などを確認する。 これにより、オンライン上の興味関心(点)が、実際に製品の検討段階(線)に進んでいるのかどうかを把握し、よりパーソナライズされたアプローチに繋げることができます。
(2)「行動のパターン化」と「スコアリング」
実消化データや実売データとの直接的な連携が難しい場合でも、Marketoのアクティビティログの中からビジネス成果につながる可能性の高い行動パターンを見つけ出し、それに重み付けをしてスコアリングする手法です 。Marketoのレポート機能やリードスコアリング機能を使えば、これらの行動に点数を付け、医師の興味関心度合いを可視化できます 。
・例えば、「製品AのWebページを3回以上閲覧し、かつ関連するeBookをダウンロードした医師」を「高関心度リード」として定義し、スコアを高く設定する。
・「競合製品との比較資料をダウンロード後、〇日以内に問い合わせフォームを送信した医師」のような複合的な行動を特定し、優先的にフォローすべきリードとして認識する。 過去の経験則や一部の成功事例から「どのようなオンライン行動が、後に契約や処方につながる傾向があるか」という仮説を立て、スコアリングロジックを構築することで、個々の医師の「点」の行動から「次に取るべきアクション」という「線」を導き出すことが可能になります。この分析結果は、Marketoのスコアリングルールをチューニングする上でも非常に重要なインサイトとなります 。
似たセグメントに「試しの施策」を打つ:成功パターンを再現する
特定した「成果につながるエンゲージメントパターン」は、まだ処方に至っていない医師へのアプローチに活用できます。Marketoのセグメンテーション機能を使い、このパターンに合致する医師を抽出し、「試しの施策」を打ってみましょう。
実践ステップ:成功パターンを再現する施策
1.「類似セグメント」の作成
・Marketoのセグメンテーション機能を使って、ステップ2で特定した「処方に至った医師の行動パターン」に合致するが、まだ処方に至っていない医師を抽出します。
・例:「過去1ヶ月以内に特定のウェビナーを視聴し、かつ製品詳細ページを2回以上閲覧しているが、まだMRからのアプローチがない医師」
2.「試しの施策」の実行
・この類似セグメントに対して、効果的だったと仮説立てたコンテンツやアプローチをMarketoで実行します。
-Web講演会のオンデマンド配信案内: 関連するWeb講演会のオンデマンド視聴を促すメールを配信。
-関連資料の再送: 興味関心が高いと思われるテーマの資料を、パーソナライズされたメッセージと共に再送。
-MRへの情報提供アラート: スコアが急上昇した医師や、特定の重要行動を取った医師を「ホットリード」としてMRに通知する(手動でも可)。
・施策の目的は、この「試しの施策」が、実際に医師のエンゲージメントをさらに高め、MRへの送客や最終的な処方につながるかを検証することです。
3.効果測定と改善サイクル
・施策後の医師のエンゲージメントの変化(メール開封率、クリック率、Webサイト滞在時間など)をMarketoのレポート機能で測定します。
・MRへの送客数や、その後のMRからのフィードバック(手動でも良い)を収集し、施策の有効性を評価します。
・この結果をもとに、スコアリング基準やナーチャリングシナリオを継続的に改善するPDCAサイクルを回しましょう。
このアプローチがもたらす未来:データドリブンなマーケティングへの道
この「Marketoアクティビティログと限定的ビシネス成果データマッチング」のアプローチは、単なる一時的な解決策に留まりません。
・マーケティング活動の「収益貢献」を可視化: 直接的なROI測定は難しい場合でも、マーケティング活動が「質の高いリード」を創出し、営業活動を支援していることを具体的なデータで示すことができます。
・部門間連携の促進: 具体的なデータと成果を示すことで、MRや営業部門からの信頼を得て、将来的なSFA/CRM連携への理解と協力を促す強力な根拠となります。
・データドリブン文化の醸成: マーケティング部門が自らデータ活用の成功事例を作り、社内全体のデータリテラシー向上に貢献します。
Marketoの可能性を最大限に引き出す
MAとSFA/CRMのシームレスな連携は、製薬マーケティングの理想形であり、目指すべき姿であることに変わりはありません。しかし、その理想に到達するまでの道のりは、決して平坦ではありません。
重要なのは、「完璧な連携ができないからといって、収益管理を諦める必要はない」という強い意志を持つことです。Marketoのアクティビティログという「隠れた宝」を掘り起こし、限定的なビジネス成果データとのマッチングを通じて、医師の「熱量」と「成果」の相関関係を解き明かす。そして、その知見を基に「試しの施策」を打ち、効果を検証し、改善を重ねる。
この「一歩ずつ、着実に」というアプローチこそが、製薬マーケティングの未来を拓き、持続的な収益成長を実現するための最も現実的でパワフルな戦略となるでしょう。もし、貴社がMarketoの活用やデータマネジメントの推進において、こうした課題に直面されているのであれば、ぜひパワー・インタラクティブにご相談ください。貴社のデジタル変革を力強く後押しし、収益最大化への道を共に切り拓きます。
詳しくは「ヘルスケア企業支援」のページをご覧ください。
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!



