元コンサルタントが、「コンサルティング営業」を詳しく説明します

いつ頃から使われ始めたのか、私も詳しくはわかりませんが、「コンサルティング営業」という言葉が様々な会社で使われるようになり、今では一般的な用語になりました。

ところが「コンサルティング営業」という言葉が、一体どのような営業活動を指すのか、これには統一見解がありません。

厳密な用語ではないので当然のことではありますが、いくつかの文献にあたると、概ね、以下のような意味合いを含んでいると考えられているようです。

  • 「御用聞き営業」の逆の意味
  • 「売込み」をせず、「相談」を受けてから営業すること
  • 「提案」を積極的にしていく営業スタイルのことを指す
  • 顧客の「課題解決」を営業に組み込むことを言う

もちろん、細かく見ていくとまだまだ「コンサルティング営業」の説明は存在していますが、あまりにも「コンサルティング」という言葉が使われるようになったため、正直なところ、「唯一、これが正しい」という話はできないと感じます。

そこで、ここで「コンサルティング営業の定義」等には触れず、「実務」に役立つような話題、つまり、私が所属していた大手コンサルティングファームで実際に行われていた「コンサルティング営業」について記し、実務の一助となるようにしたいと思います。

1.「コンサルティング営業」によくある誤解

「自社商材」ありきではない

前項で述べたように、「これがコンサルティング営業だ!」とは言い切れないのですが、「これはコンサルティング営業ではない」というのは、私が在籍していたコンサルティング会社では統一見解がありました。

まず、最大のポイントとして、「自社商材ありき」の営業は、コンサルティング営業とは呼びませんでした。 それは単なる「営業」とされていました。

言い換えれば 「自社商材を売るためのアドバイス」 「自社商材の情報提供」 等はすべて、「コンサルティング営業」とは呼びませんでした。

一方で、世の中には、自社商材を売り込むための方便として、「コンサルティング」という名前を冠した営業が数多くあります。 が、それは「コンサルティング営業」とは相反する行為だとされていました。

実際、私の上司のコンサルタントは、こんな話をしていました。

上司:「オリックスの保険の営業マンは、お客さんにきちんとコンサルティング営業をしてると思う。あなたも見習ったほうがいい。」

:「なぜですか?」

上司:「彼らは、自分たちの商品のカタログだけを持ってるんじゃなくて、競合他社のカタログも、持ち歩いてるから。」

:「どういうことでしょう?」

上司:「一番お客さんのためになることは何か、を突き詰めていくと、必ずしも自社商材では解決できないことも多い。その時、他社の商品をちゃんと紹介できるかどうかで、そのコンサルタントの価値が決まるんだよ。」

:「けれど、そうするとウチは儲からないですよ。」

上司:「コンサルタントとして一流かどうかは、儲かるかどうかではなく、顧客の得る価値を第一に考えたかどうかで決まるんだよ。」

これは私にとって、「コンサルティング営業」と、「似非コンサルティング営業」のはっきりとしたちがいとなりました。

「提案」は必須ではない

そしてもう一つ重要なポイントとして「提案」は必須ではないということです。 いえ、むしろ、私の在籍していたコンサルティング会社では、「提案するな」「提案書はできる限り書くな」と言われていました。 これは、「コンサルティングは提案するもの」という、誤解から来ている話だと私は認識しています。

では、コンサルティングの主軸が「提案」ではないとすれば、一体何なのでしょうか。 それは、「悩んでるから、相談に乗ってくれ」という、「相談」です。

相談に応じた結果、顧客の悩みが解決すること。 それが、コンサルティング営業です。 私が在籍していたチームでは、これを「引きの営業」とも呼んでいました。

もちろん、最終的にはそこから「〇〇をやってくれないか」という「依頼」があり、それが案件につながります。

しかし、ここに「提案」はほとんどありません。 要件の確認はありますが、提案ではない。

提案は一種の「押しつけ」であり、営業と同義です。 実際のコンサルティングの活動は、電話やメールで「相談に乗ってほしい」と言われ、話を聞いていると、「〇〇ってできない?」といわれて、「やりましょう。ではやるべきことをまとめますね。」というだけなのです。

2.コンサルティング営業は儲からない?

しかし、こういった話をすると、決まって次の質問を受けます。 「理想としてはわかるけど、成果につながらないんじゃないか。儲からないよね。」と。

なるほど、そうかもしれません。 ただ、我々は会社として成り立っていたので、ちゃんと儲かっていたのです。

ではなぜ、「儲からない」ように見えるのか。 それは、「短期志向」と「長期志向」のちがいだと思うのです。

思うに、積極的に購買を促し、自社商品を「提案」して、短期的な成果を目指すのが提案営業。 しかしこれは、コンサルティング営業ではありません。

逆に、購買を促さず、中立を維持し、長期的に顧客の業績に貢献して信頼を構築することで、「相談される」「依頼される」事を目的としているのがコンサルティング営業です。 ですから、「コンサルティング営業」というのは、ほとんどコンペになりません。

むしろコンペになりそうなら、手間を考えて断ることも多いですし、オリックスの営業のように「ウチの商材では解決策にならないから、他社を紹介しますわ」という時もありました。 そうすることで、利益率を高く維持し、安定的にリピートで仕事をもらい、実質的には、長期的に「儲かる」のがコンサルティング営業でした。

3.コンサルティング営業のポイント

「営業」と「コンサルティング営業」の根本的な違いについて、ある程度述べてきましたが、改めて、ポイントを整理したいと思います。

ポイント1 「ヒアリングさせてくれ 提案させてくれ」ではなく、「相談」をされるように動く

普段から、積極的に役に立つ情報を流し、彼らの状況をよく聞き、こちらからの提案は極力避ける。つまり、「良き話し相手」となるような動きをしました。

そのため、コンサルティング営業では「引きの営業」をすること、つまり、こちらからの売り込みを極限まで減らし、「お困りごとがあれば、話だけでも聞くことができます」という、寄り添いが基本方針となりました。

ポイント2 褒めることから始める

コンサルティング営業の際は「課題を質問すること」が重要だと思っている人が多いのですが、実は違います。 人は「質問」を「尋問」のようにとらえがちだからです。

相手の課題を聞き出そうとすれば、こちらの意図に関わりなく、必然的に相手は「根掘り葉掘り聞かれている」気分になり、尋問のようになるのです。

そのため、「質問によって課題を明らかにする」手法をつかうコンサルタントは、お客さんから、感情的に嫌われてしまいます。

では、どうすれば課題を明らかにできるでしょうか。 それは、「褒めること」によってなのです。

ピンとこない方も多いかもしれませんが、なぜ「褒め」が重要なのかと言えば、「相手が課題を話したくなる」のが、褒められた時だからなのです。

例えば、以下のようなイメージです。

コンサル:「社長、御社の社員は、あいさつが素晴らしく徹底されてますね。先ほどオフィスに入ったとき、自然にあいさつをされる社員の方が多くて、驚きました。」

社長:「(ニッコリして)あいさつは人間関係の基本ですからね。でもまだまだですよ。」

コンサル:「これでも十分ではないということなのでしょうか。」

社長:「あいさつだけじゃなく、自分から声掛けをして、周りを助けて回る意識というのが私は重要だと思ってるんですよ。」

*コンサル**:「と言いますと?」

社長:「今年の目標の一つが、助け合いなんですよ。去年、大きなトラブルになった案件の原因がね……」

と言った形で、褒めれば褒めるほど、逆に「課題」を話したくなるのが、経営者や幹部の心理なのです。

また、一度話し始めた課題については、信頼を得るために、 「相手が話し終わるまで口を挟まない」 「共感して聞く」 「興味を持って聞く」 の3つが、会社全体で徹底されていました。

  

ポイント3 「提案しましょうか?」と言わない

コンサルティング営業では「提案しましょうか?」と言わないように、徹底されました。 これは、上で述べたように「依頼される」事を第一の目的とするからです。 提案は受注に結び付きにくいうえに、提案書作成の工数は、現場の負担となります。

したがって、「提案書を必要とする状況にしない」というのが、基本的な考え方としていました。 中には「やることをまとめたドキュメントをくれ」というお客さんもいましたが、そういうお客さんには、それまでの議事録を渡していました。

ポイント4 コンサルティング営業の成果は「受注」ではなく「顧客の業績向上」

ここも徹底的に訓練されました。 売上の予算を持つと、どうしても「コンサルティング営業」ではなく、「提案」や「御用聞き」をやり、短期的な売上を作りたくなります。

しかし、そういうケースでは利益相反、すなわち顧客の業績と、自社の業績が相いれないケースが見受けられます。 私が在籍していたコンサルティング会社では、そうしたケースを戒めていました。

今思えば、経営トップに課せられていた予算の達成はそう簡単ではなかったはずで、「お客さんの業績向上と、自社の業績向上は、一致していなければならない」という理念を徹底するのは、大変な困難を伴っていただろうと思います。

以上が、私が在籍していたコンサルティング会社で、「コンサルティング営業」=「引きの営業」に必須だと言われていた条件です。

もちろん、これはあくまで一つの例に過ぎません。

が、「コンサルティング営業」という名の、顧客の業績と関係のない「押し売り」とは全く異なった行為だったという事実は、ここに記しておきたいと思います。

この記事を書いた人

安達裕哉

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元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。