小林製薬といえば、「アンメルツ」「熱さまシート」「サワデー」「ブルーレット」「消臭元」など、ユニークな商品名を思い浮かべるかもしれません。
しかし、それらは同社が大切にしている「わかりやすさのマーケティング」というビジネスモデルの一部であり、同社の戦略には他にも2つの重要なポイントがあります。
小林製薬は、ニッチ市場で高いシェアを持つ製品をどのように生み出しているのでしょうか。
ポイント1:「小さな池の大きな魚」戦略
小林製薬が1956年から本社を置く大阪・道修町は、江戸時代から「薬の町」として栄えてきました。第一三共や大日本住友製薬など、大小の製薬会社がオフィスを構えており、競争の激しい市場です。
同社は生き残り戦略として、競争の激しい市場を避け、自ら新しい市場を創造することを思いつきました。「小さな池の大きな魚」戦略です*1。
経営戦略には、レッドオーシャン(競争の激しい市場)とブルーオーシャン(競合他社のいない未開拓の市場)という考え方があります。
小林製薬はブルーオーシャン戦略を採用し、市場を「オーシャン(海)」でなく「ポンド(池)」と表現しています。
競合他社が多く、マーケティングコストが高いレッドオーシャンでは、大きなシェアを獲得することは難しいと考えています。
一方、小さな池に焦点を絞れば、市場規模が小さくても高いシェアを獲得できる可能性があります。
また、競合他社が少なくマーケティングコストが低いため、シェアを拡大するチャンスもあります。
この戦略は小林製薬にとって成功でした。
1969年、当時まだ珍しかった水洗トイレ用芳香洗浄剤「ブルーレット」を発売し、日用品市場に参入しました*2。
1976年以降は、「熱さまシート」(1994年)、「ブレスケア」(1997年)など、同社の看板商品となる商品を次々と発売し、ニッチな市場で数々のトップシェアを獲得したのです。
同社の2021年統合報告書によると、総計155のブランドを有し、営業利益率は16.8%、24期連続の純利益増、23期連続増配を達成しています*3。
ポイント2:「あったらいいな」開発戦略
小林製薬では、人々が「あったらいいな」と思うアイデアを生み出すことを最も重視しています。
1982年から、いつでも誰でも新製品や業務改善のアイデアを提案できる「全社員提案制度」を導入しており、年間4万件以上の提案が寄せられています*4。
提案の内容や数に応じてポイントが付与され、ポイント上位者には表彰や社長特別賞が贈られます。また、商品化された提案には最高100万円の報奨金が支給されることもあります。
そして、あがってきたアイデアをいち早く商品化し、市場に送り出すために、商品開発、研究、生産準備を並行して行い、他社に先駆けて新商品を市場に送り出しています。
「小さな池の大きな魚」戦略と「あったらいいな」開発戦略で、年間約30の新製品を発売し、これまでにない新市場を創造しています*5。
ポイント3:わかりやすさのマーケティング
小林製薬の商品は、これまでにない独自のものが多いと言えます。しかし、商品が何のためのものかわからなければ、人々はそれを購入しません。
同社は「わかりやすさのマーケティング」というアプローチに重点を置いています。顧客が一目で商品を理解できるように心掛けているのです。
商品にはユニークなネーミングを用いていますが、これは「わかりやすさのマーケティング」の一部です。
ただし、小林製薬会長の小林一雅氏によれば、「わかりやすい」という概念ほど実際には難しいといいます*6。
たとえば、ロングセラー商品である「アンメルツ」の成功の要因は何でしょうか?
他にもたくさんの筋肉痛緩和薬が存在するなかで、小林製薬は「肩こりの症状を緩和したい」というニーズに焦点を絞りました。
あれもこれもではなく、絞り込む。そこに「わかりやすさが」生まれます。
そのうえで、効用や利便性を「シンプル」に明記する。
「シンプルである」ことは「わかりやすさ」そのものです。
肩こりの緩和効果を重点的に強調し、「わかりやすさ」と「シンプル」に注力することで、顧客は次第に「肩こり=アンメルツ」と連想するようになり、一定の市場シェアを確保し続けています。
一方で、他の企業は新しさやオシャレさを演出するために、英語やイタリア語のネーミングを採用していることがあります。しかし、これは小林製薬の「わかりやすさ」を追求するスタイルとは異なります。
小林製薬はパッケージを通じて、用途と効果が分かりやすいデザインに重点を置いています。同社のアプローチは当然なものであり、小林製薬の信頼性につながっていると言えるでしょう。
積極的アプローチとブルーポンド戦略
小林製薬の戦略は中小企業の経営者にとって貴重なヒントが満載です。ブルーオーシャン戦略ならぬ「ブルーポンド戦略」は、多くの中小企業に有益な成長の方法となり得ます。
大手企業が手をつけていないニッチな製品を開発し、覚えやすく特徴的なネーミングで市場に投入するのです。
商品市場が小さいとしても、競合他社が少なければ利益率を確保しやすく、競争を維持することで安定した業績を期待できます。
小林製薬のように「小さな池」で大きな成果を上げることは十分に可能です。
自社の強みを活かし、独自性を持った商品を提供することで、新しい顧客層を開拓し、成長を遂げるチャンスをつかんでください。
市場に新しい風を吹き込んでみませんか。