企業の中には、実に多くの「管理」が存在しています。
- 予算管理
- 人事管理
- 売上管理
- 生産管理 ……
すこし考えただけで、これだけ多くの「管理」が出てくるのだから、仕事の多くはもしかしたら「管理」にまつわるものなのかもしれない、と思うほどです。
このように、便利でよく使われる言葉、管理。
しかし、その実態とは何なのでしょう。
いったい、管理とは具体的に、何をするべきなのでしょうか。
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私はコンサルタントをやっていたとき、業務の殆どは「マネジメントコンサルティング」でした。
マネジメントを日本語に訳すと「管理」となります。
つまり私は、「管理」のコンサルタントでした。
クライアントが、管理の仕組みを持てるようにすることが私の仕事だったのです。
しかし、クライアントに「管理してください」と申し上げても、
それだけでは、何をすべきかクライアントは理解できません。
管理とはわかるようでいて、わからない言葉なのです。
そのため、私の所属していた部署は、プロジェクトの開始時に決まって、
「管理とはなにか」という双方向のワークショップをクライアントに向けて行っていました。
その内容とは、以下のようなものでした。
1.「○○管理」という名のつく行為を、自由に挙げてください
まず、「管理」のイメージを共有するために、できる限り多くの「管理」をクライアントに挙げてもらいました。
このように質問されると、クライアントの多くは、冒頭のように
企業内で行われている管理である、
- 予算管理
- 人事管理
- 売上管理
- 生産管理
- 進捗管理
- 在庫管理
といった答えを挙げてきます。
ところが、中には仕事だけではなく、プライベートでの管理を挙げる人もいました。
例えば、
- 体調管理
- 体重管理
- スケジュール管理
- 食事管理
- 電源管理
- タスク管理
といった具合です。
そこで、コンサルタントは次に、こんな問いかけをします。
2.上のすべての○○管理にあてはまる、管理の定義を考えてください
この問いかけが、肝でした。
管理することを、感覚的にしか捉えていない人にとっては、随分と難しい問題だからです。
特に会社での「管理」とプライベートでの「管理」は、微妙に共通の定義が作りづらく、真剣に考えるきっかけとなります。
なお、読者諸兄もここで一緒に考えていただければと思います。
……いかがでしょうか。
クライアントからの答えは、こんな物が多かったと記憶しています。
- 望ましい状態にすること
- 統制すること
- コントロールして、調製すること
- 一定の水準を保つこと
どれも完全に間違いではありません。
言いたいことは、非常によくわかります。
とはいえ、完全ではありません。
定義では、どのような「管理」に適用しても、意味が通じなければならないのです。
ここで、コンサルタントは「管理」とは、国際規格(ISO)などを参考にすると、次のような定義によって説明されますと、種明かしをします。
管理とは、狭義では「コントロール」=調整ですが、広義では、目標を定め、現状とのギャップを明らかにし、ギャップを埋めるべくPDCAサイクル(マネジメントサイクル)を回すことです。
ご存じの方も多いと思いますが、PDCAとは、
P(Plan)……計画
D(Do)……実行
C(Check)……チェック
A(Act)……対策
の4要素です。
例えば、「予算管理」という言葉を取り上げてみましょう。
予算管理とは、予算についての目標を定めることから始まります。 一般的には、売上からはじまり、労務費、販促費、地代家賃、支払手数料など、会計上の費目について、目標となる数字が設定されているでしょう。
次に、「現状」を把握します。
現在の売上はいくらなのか。
労務費は?販促費は?
各費目について、現在の状況を把握します。
この際に、全社の状況を把握するため、会計システムの整備や会計処理のルールなどを定める必要があるでしょう。
その結果、売上は○○円足りない、販促費は○○円オーバーしている、労務費は○○円オーバーしている、など、目標と現状のギャップが見えてきます。
そこで、次に必要なのが「目標」と「現状」のギャップを解消するための計画です。
売上が足りないのであれば、足りない売上を補うための行動計画を建てる必要があるでしょう。
販促費がオーバーしているのであれば、次の月の広告予算を多少抑えて、目標値に沿うようにするなどの対策を取ります。
また、労務費がオーバーしているのであれば、残業を減らすように製造に要請する、など
現実的に何をしなければならない、というレベルに落とし込みます。
これらが、P(計画)に当たる部分です。
計画を立てれば、あとは各部署でそれをD(実行)するだけ。
そして、1ヶ月単位などで、C(チェック)を行い、目標と現状のギャップが解消しているかどうかを調べ、解消していればそのまま、解消していなければ、A(対策)を取ります。
この一連の流れが、「管理」です。
私が在籍していたコンサルティング会社では、会社で最も大きな「管理」のPCDAが2つあるとしていました。
一つは「予算管理」、そしてもう一つは予算のギャップを解消するための「目標管理」です。
この両輪の下で、企業のあらゆる「管理」が行われているのです。
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このワークショップは、最後に「PCDAを回すときのコツ」を受講者に伝えていました。
そのコツは、2つあります。
1.C(チェック)からA(対策)へのスピードを速くすること。
チェックするだけで終わってしまったり、チェックから対策が遅く、対策をとるころにはさらに状況が悪化している、というケースが企業内では頻繁に発生しています。
PCDAに命を吹き込むには、CからAのスピードを上げることが重要です。
2.A(対策)で実施されたことを、次回のP(計画)の情報として入れること
一度失敗したことを繰り返さないために、A(対策)の結果は、次のP(計画)に生かされなければなりません。
特に、組織が細かく分割されている場合、対策ノウハウは共有化されればされるほど有用になりますから、「成長ネタ」として、Aの内容は皆が見ることができるようにしておくべきです。
なおこの「管理」の考え方は、私生活でも十分に使えます。
例えば体重の管理。
自分が健康体でいるための体重目標を定めます。
もしかしたら、健康診断などで、医師からこれくらい、と言われるかもしれません。
目標を定めたら、現在の体重との差異を認識します。
5キログラムかもしれませんし、20キログラム、という方もいるでしょう。
そして、差異を埋めるべく、計画を作ります。
食事はどうするか。
運動はどうするか。
もしかしたら、日常生活や睡眠時間などにも踏み込むべきかもしれません。
その上で、体重をチェックする日を作ります。
毎日チェックするか、週一回にするか、一ヶ月に一回にするか、
様々な選択肢があります。
そのうえで、チェックのタイミングで、進捗は順調か、計画を見直すべきかどうかを考えなければなりません。
*
これが、どのような対象であっても「管理」を実現できる、具体的な仕組みです。
最近は「管理」が強すぎる企業は嫌われがちであり、PDCAという仕組みも、「不確実性の高い時代では、そもそも計画が作れない」と言われます。
しかし、それは運用が悪いのです。
「計画」と「必達目標」は異なります。
計画はあくまでも、「現時点での予想」と位置づけ、予想と行動の結果のギャップをとらえて次の活動に生かし、学習につなげることは、現代でも変わらず、重要であることは間違いありません。