オンラインのメリットとオフラインのメリットを掛け合わせたマーケティング手法として「O2O」「OMO」が注目されています。
オンラインとオフラインを交錯させることで顧客の利便性をさらに向上させたり、マーケティングに必要なデータをより多く集めたりできるという特徴があります。
その「O2O」「OMO」とはどのようなものなのか、両者の違いはどういった点なのか、ここでは事例を交えてわかりやすく解説します。
スマホとSNSの普及が可能にした「O2O」「OMO」
スマホ、SNSの普及によって、デジタルマーケティングも形を変えつつあります。
「O2O」「OMO」はいずれもオンラインとオフラインの両者を使うマーケティング手法ですが、両者のしくみは違います。まずその違いをご紹介します。
O2Oの考え方
「O2O」は「Online to Offline」の略です。オンラインでの情報やサービスを呼び水にして、ユーザーを実店舗に誘導するというものです。その逆も含みます(図1)。
SNSなどネット上でキャンペーンやクーポン発行などのキャンペーンを実施し、スマホなどでそれを見た人を店舗に導くという手法です。あるいは逆に、店舗を訪れたユーザーにポイントの付与などの形で、ECに誘導するというものです。
近年では、決済サービスと連携したO2Oが見られます。
例えばPayPayと店舗の連携では、特定の店舗でPayPay決済をすると割引があるというキャンペーンが多く展開されています。
オンライン決済サービスというスマホアプリをきっかけに、オフラインである店舗にユーザーを呼び込んでいるのです。
OMOの考え方
これに対し、OMOは「Online Merges Offline」の略で、オンラインとオフラインの融合を意味します。 OMOは、O2Oとは仕掛けが大きく異なります(図2)。
オンラインでは受け取りに時間がかかる、しかしオフラインでは売り場を歩いて商品を探し回らなければならない—
オンラインとオフラインにはそのようなジレンマがあります。 これを解消し、より高いユーザーエクスペリエンスを実現できるのがOMOです。
例えば上の図は、ショッピングモールをイメージするとわかりやすいでしょう。
オンラインで事前に商品の予約をしておき、実店舗で商品を目で見たり試着したりして確認しその場で受け取ることができます。決済もオンラインにクレジットカードなどを登録しておけば、レジに並ぶ必要もなくなります。
さらに、同じモールの中で洋服を買った後食事をしていくとしましょう。洋服を買いながら飲食店をオンライン予約したり、メニューを見たりすることができます。 また、飲食店に他のテナントのクーポンなどを設置しておけば、飲食後にその店に立ち寄る可能性が高くなる、といった仕掛けです。
OMOがもたらす「マーケティングデータの量と質」
また、OMOでは、マーケティングに役立つ多彩なデータが手に入ります。スマホの威力でもあります。
代表的な事例として、ショッピングモールのPARCOがあります。
オリジナルスマホアプリ「POCKET PARCO」には、多くの機能が搭載されています(図3)。
来店前、来店中、来店後とそれぞれのユーザーの行為に着目しデータ収集をしています。
なかでも「WALKING」は注目したい機能です。どのテナントからどのテナントへの動線があるのかなど顧客の行動が把握できるのもそうですが、施設内を多く歩いてもらうことで多数のテナントが目にとまり、他のテナントへも来店チャンスを増やすことができるのです。
ひとつのアプリは、多様なデータを収集できるツールになっているのです。O2Oとは収集できる情報の量や質が大きく異なります(図4)。
実店舗のPOSでは難しい来店までの動線や購入後のレビューが可視化されるのです。
ユーザーメリットとの両立
PARCOの事例では、ポイント付与という形でユーザーにもメリットがあることも特徴的です。
カスタマーサクセスを提供しつつ多角的なデータを収集している、つまり事業者側だけの都合でアプリの設計が行われているということです。いわばWin-Winの関係です。
みずほ総研は、OMOによって以下の3パターンのユーザーメリットが生じると分析しています(図5)。
<出所:「O2O及びOMOの現状に関する調査研究報告書」総務省資料:p22>
オンライン決済の影響が大きいと見受けられます。
上記3パターン全てに共通しているのは、どのタイミングでもスマホを使って決済でき、レジ待ちをしなくて良い点です。 これは事業者にとっても業務削減につながります。
また、「売らない店」というのも登場しています。
東京都内に3店舗を構える「b8ta(ベータ)」は、コスメや食品、家電、ガジェットからクルマまで様々な「商品」が並んでいますが、そこで実物を購入できるわけではありません。
来店者は商品の隣に置かれたタブレットで商品の情報を得て、その場で実物と商品情報を確認し、購入したければその場でECサイトを見て注文することもできます(図6、7)。
b8taはメーカーが新商品などについて「店頭に並べるにはコストがかかる」「広告が効いているか知りたい」「この商品はそもそも興味を持ってもらえるのか」という調査を実施する場所になっています。
また、顧客にとっては、レジ待ちをしなければならないというオフラインの弱点が克服され、同時に商品を実際に目にできないというオンラインの弱みが克服されています。
b8taのあり方は、OMOの極みと言えるかもしれません。 また、中小企業でも利用できるプラットフォームでもあるでしょう。
「売る」だけの企業からの脱却を
近年、「MaaS(=Mobility as a Service)」、「SaaS(=Software as a Service)」、「PaaS(=Platform as a Service)」といった「XaaS」の概念が多数出てきています
これらは、従来は「売る」だけだった様々な分野の製品を「サービスとして提供する」という意味です。
上記のb8taは「RaaS(=Retail as a Service)」という概念を掲げています。モノを売るだけでなく、顧客の行動、利便性にまでも寄り添う小売りのあり方です。
OMOなどの新しいデジタルマーケティングの視点は顧客主義でもあり、顧客主義だからこそ注目され導入が相次いでいると言えるでしょう。