脱Cookie時代 注目される「パーミションマーケティング」「コンテキスト広告」とは

サードパーティークッキーの廃止まで残り1年ほどになっています。
ネットユーザーのブラウザの動きを特定し、個人の趣味や関心ごとに合った広告を表示させるため必須ともいえる技術でしたが、主なブラウザではすでに廃止、あるいは2023年中に廃止される予定です。

広告業界にとって大きな転換点となる今、広告やマーケティングにあってはクッキーに変わる、ユーザーへの様々なアプローチ手法を模索しなければならなくなりました。

そのうちのひとつ、「パーミションマーケティング(パーミッションマーケティング)」は「古くて新しい手法」として注目を集めつつあります。

各ブラウザの対応状況と国内外でのサードパーティークッキー規制

個人情報保護の動きが加速する中、ブラウザ情報は氏名や住所を特定するものでなくても「個人情報」である、という認識が世界的に広がっています。
この流れを受けて、各ブラウザの開発会社が次々とサードパーティークッキーによるブラウザのトラッキング(追跡)を防ぐ措置を取っています。

Apple、Mozilla、Microsoftの対応

Appleはいち早く脱クッキーに乗り出した企業です。
すでに提供するブラウザ「Safari」では、サードパーティークッキーを利用したターゲティング広告や広告効果の計測をほぼ無効にしています。

また、Mozillaはブラウザ「FireFox」は、サードパーティークッキーやトラッキングをブロックする設定ができるようになっています(図1)。

図1:FireFoxでのサードパーティーブロック設定

さらにMicrosoftの「Edge」では全てのサードパーティークッキーをブロックするとサイトが正常に機能しない場合もあるため、訪問先のサイトによって一時的にサードパーティークッキーを受け入れることができる設計になりました。

そして、トップシェアを持つGoogleのChromeでは2023年後半にはサードパーティークッキーが廃止される予定です。

海外では巨額の罰金事例も

EUではクッキー規制が世界に先んじて進んでいます。
その中で、フランスではクッキーの利用をめぐって多額の罰金を科す事例もありました。

2020年12月にフランスの個人情報機関であるCNILが、ユーザーの事前同意なしにクッキーを送付したとして、GoogleとAmazonにそれぞれ1億ユーロ、3500万ユーロの罰金を科したと発表しています*1

日本でも令和2年の個人情報保護法改正にあたって、サードパーティークッキーの利用に関する規制を強化しています。

重要なのは「ユーザーからの事前同意」

サードパーティークッキーが問題視されているのは、ブラウザの動きを把握することで一定の興味や関心を持つ人物像が明確になってしまうという点です。
中には、外には知られたくない関心事があるにもかかわらず、関連した広告がブラウザに表示されることで他者に知られてしまう可能性もあります。

技術の進歩に伴い、クッキー情報は個人情報とみなすことができるようになったのです。

そして、EUはじめ各国で進んでいる規制強化の方向性には共通点があります。
「ユーザーの事前の許可」の重要性です。
クッキーそのものは、ユーザーの利便性向上にも繋がるものです。しかしそれがいつしか企業同士で売買され、ユーザーの身に覚えがないところで自分のブラウザ情報が利用されていることがプライバシーの侵害にあたるという考え方です。

クッキーに代わる2つの考え方

では、広告やマーケティングはどこに向かえばいいのか。2つの手法があります。
「しっかりとユーザーの許可を得た情報を利用する」ことと、「個人のブラウザ情報にこだわらない」という考え方です。

パーミションマーケティング

パーミションマーケティングとは、もとは1999年にYAHOO!の当時の副社長であるセス・ゴーディン氏が提唱したものです。
「古くて新しい」方法としていま再び注目されつつあります。

ゴーディン氏は、マスの広告が持つ効力の変化についてこう語っています。

今日あなたが出会ったマーケティング・メッセージはいくつあるか、数えてみるといい。Tシャツの胸にくっついているでっかいブランドネーム、パソコンについているロゴ、起動時にはマイクロソフトの文字、ラジオやテレビの広告、空港で見る看板、車のバンパーについているステッカー、ふと広げた地方紙に載っている広告。 九十年ものあいだ、マーケティング担当者たちはある一つのマーケティング手法のみに頼っていた。私はそれを「土足マーケティング(Interruption Marketing)」と呼んでいる。つまり、広告を見るものが何を考えていようが(何も考えていまいが)おかまいなしに、心の中に「土足で」ずかずかと上がり込む、おなじみの手法である。

<引用:セス・ゴーディン「パーミションマーケティング」翔泳社 p19>

現代ではサードパーティークッキーを利用したバナー広告の自動表示は、もはや「土足マーケティング」とも言える状態になっています。
ネットでキャンプ用品の買い物をしている最中に転職に関する広告が表示されても、ユーザーはその時点では転職の話に気持ちは向かないことでしょう。むしろ画面を邪魔するノイズと感じられてしまいます。

このような「土足で上がり込む」手法はもはや通用しなくなりつつあるのです。

そこで、ユーザーがきちんと同意した上で収集した情報をもとに広告を展開する、これが「パーミションマーケティング」です。

似たような事例として、ラコステジャパンのトライアルがあります。売れ筋になりそうな商品を探るため、メールの配信を許諾している約4200人の優良顧客にメールを送り、直近に展開予定の長袖ポロシャツ12色を表示、「チャレンジしてみたい色」を答えてもらいます。

この結果を店舗のディスプレイに反映するのです。リアルタイム性が高いうえ、ユーザー許諾した上での情報提供ですから、正確性も上がります。
「ゼロパーティーデータ」の活用ともいえます。

「コンテキスト広告」という手法

また、マーケティングにあたって、個人の関心ごとといったレベルの情報まで必要なのか?という基本に立ち返る考え方に通じる「コンテキスト広告」という手法も注目されつつあります。

これは、ブラウザを追うのではなく、そのときアクセスされているサイトのコンテキスト(文脈)をAI解析し、文脈に一致した広告を表示させるというしくみです。

例えばクレジットカードの種類について紹介されている記事に、クレジットカードの広告を表示させるという方法です。その人の好物がステーキであったとしても、ここでは決してステーキの広告を表示させるのではありません。

ブラウザを追いかけ回すことの必要性を再度考える

サードパーティークッキーによる広告配信は、もはやあちこちに溢れかえってしまっています。その結果、ユーザーのブラウザ画面にはジャンル違いの広告が多数表示されている状態です。

前出のゴーディン氏はこのようにも述べています。

だれも家のポストがくずみたいな郵便物であふれかえってほしいなんて思わない。『ピープル』紙を読むのは広告を読みたいからではない。三分間のコマーシャルを見るためにテレビを見ているわけではない。 広告は、「私たちはなぜ注意を払うか」という点が重要なのではない。なのに、マーケティング担当者は、私たちがいかにすれば広告のほうを見るようになるか、だけが関心事のようである。

<引用:セス・ゴーディン「パーミションマーケティング」翔泳社 p19>

ネットユーザーのブラウザ画面は、厳しく言えば、もはや「くずみたいな郵便物であふれかえったポスト」になりつつあります。 自分のブラウザが追跡されていることを快く思わない人も増えていることでしょう。動画広告についても同じことがいえます。

広告の本質として重要なのは、追跡でも表示回数の多さでもなく、確実かつユーザーに不快感を与えないことです。

ネットユーザーは何を求めてネットを使っているのか、生活者視点からの広告配信が今後は求められていきます。

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。