女性の健康課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」が世界的に注目される中、日本でもその普及を後押しする動きが出てきています。
2020年10月には、野田聖子前少子化相を会長とする「フェムテック振興議員連盟」が設立されました*1。
また、経済産業省は女性の継続的な就業支援と人材の多様性を高め、中長期的な企業価値の向上を図ることを目的に、2021年度から「フェムテック等支援サービス実証事業費補助金」を開始しています*2。
スタートアップ企業や大手企業の参加もあり、今後ますますの盛り上がりが期待されるプログラムです。
今回は、フェムテックとは何か、女性の健康問題とその実態、フェムテックの現状について解説します。
フェムテックとは
フェムテック(Femtech)とは、「女性を意味するフィメール(Female)」と「テクノロジー(Technology)」をかけ合わせた造語です*3。
月経、妊娠、不妊治療、出産、更年期、婦人科系疾患など、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決する商品やサービスを指します。
個人差があるなどの理由で、これらの悩みを「誰かに相談することではない」と我慢している女性も少なくありません。
フェムテックは、すべての人が健康で幸せに暮らせるように、どうすれば解決できるかを考え、解決策を提供するツールと言えるでしょう。
フェムテックの商品・サービス
経済産業省は、2025年時点の日本におけるフェムテックの経済波及効果を年間約2兆円と試算しています*4。
この金額は、生理や不妊治療、更年期障害などの症状により、業績不振や退職、昇進辞退、勤務形態の変更などを経験した女性が、仕事と両立するためにフェムテックの商品・サービスを利用することで得られる給与相当額を推計した金額です。
経済波及効果の大きさから、女性の健康不安は見過ごすことのできない問題であることがわかります。
女性が直面するライフステージごとの健康問題
近年、女性の就業率は上昇傾向にあり、2021年労働力調査によると、日本の女性の就業者数は約2,980万人で、前年より12万人増加しました*5。
一方、男性は3,687万人で、前年度より22万人減少しています。
女性就業者数の推移
このような状況の中、日本政府は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」を施行しました。
国、地方公共団体、事業主に対して、女性の活躍状況の把握、課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などを求め、女性活躍のさらなる推進に取り組んでいます*6。
しかし、女性の中には、月経、妊娠、不妊、産後ケア、更年期、婦人科疾患など、ライフステージごとに健康上の問題を抱えており、パフォーマンスを最大限に発揮できない場合があります。
女性のライフステージと健康課題分野
例えば、月経に伴う月経痛や月経前症候群(PMS)については、月経を経験した15歳から49歳の女性の約97%がつらい症状を経験していると言われています*7。
また、18歳から49歳までの働く女性の94%が月経関連症状によって仕事のパフォーマンスに影響があるとし、45%がパフォーマンスが半分以下に落ちると回答しました。
日本では、年間約4,900億円の労働損失に相当するという調査結果がありますが、症状に対して何もしない人が多く、PMSの低用量ピル服用率も低いまま、生理休暇を取得する人も少ないというのが現実のようです。
フェムテックによる女性のヘルスサポート
月経や不妊治療、更年期障害にともなう健康不安は働く女性に大きな影響を与え、仕事のパフォーマンス低下につながります。
問題を抱える女性の割合が高いことは、企業にも少なからず影響を与えるでしょう。
女性の健康への配慮を、当事者だけでなく周囲も含めて理解することは、フェムテック業界の発展だけでなく、女性活躍の実現につながるのではないでしょうか。
特に、女性の健康問題に対する社会的受容性を高めるためには、職場の上司や管理職など、これまで女性の悩みに気づいていなかった人たちの意識を高めることが重要です。
例えば(株)TRULYというフェムテックベンチャーでは、働く更年期女性への支援プログラムとして、企業向け「フェムテック研修」を提供しています*8。
女性ホルモンや男性ホルモンによる不調や健康問題に対して、女性本人だけでなく、周囲の人たちにも理解と環境整備を促すことを目的としたプログラムです。
本プログラムは、「eラーニング」と「LINEチャット相談」で構成されています。
eラーニングでは、男女のホルモンによる心身の変化や不調に関する専門知識から、一般的なケア方法、法律など、動画とテキストでわかりやすく解説しています。
また、LINEチャット相談は、女性医師や専門家がチャットで直接社員の健康相談に応じるサービスです。
LINEチャット相談例
社員全員のヘルスリテラシーを高めることで、男女それぞれがキャリアをあきらめずに自分らしく働き続けられ、企業の生産性やブランドイメージの向上にもつながるのではないでしょうか。
ますます注目を集める女性の健康問題
堀江貴文氏は、産婦人科医と共著で女性のヘルスケアに関する本を出版しました*9。
この本の中で、女性の参画が進まない大きな理由のひとつに「女性の健康問題」があると指摘しています。
男性の大半が知識も関心もないことが「深刻な社会問題」であるとし、これらの問題を踏まえ、社会全体で男女共同参画を推進することが日本経済の発展に寄与するとしています。
さらに、自分には関係のない女性問題に取り組む理由について、次のように述べています。
「女性の健康問題」は女性個人の問題ではなく「社会的課題」であり、
その社会的課題が解決すれば、社会全体に大きな影響が及ぶだろう。
では、なぜ女性の健康問題が社会的課題なのか、どう解決されるのか、
これを理解してもらい、具体的アクションを促すのが僕の目的である。
引用:女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる 堀江 貴文 (著), 三輪 綾子 (著), 予防医療普及協会 (監修) 青志社>
堀江氏の言葉に勇気づけられたのは、筆者だけではないでしょう。
企業や自治体、周囲の理解があれば、ライフイベントと仕事の両立を望む働く女性が、何も犠牲にせず、何もあきらめずに自分らしい人生を歩めるようになる。
そして、それが誰もが働きやすい環境をつくり、企業価値や社会価値につながっていくはずです。
フェムテックは、産業として始まったばかりです。
働く女性として、多くの人にフェムテックを知ってもらい、女性だけでなく男性も幸せに満ちた社会が実現する日が一日も早く来ることを願っています。
*1:フェムテック普及 議連、規制と育成の双方見据え: 日本経済新聞
*2:フェムテック|新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を【経済産業省】
*3:フェムテック|新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を【経済産業省】
*4:令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に 与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版) p13
*5:労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の概要 総務省 p4
*6:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要 p1-2
*7:令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に 与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版) p4
*8:【TRULYフェムテックラーニング】男女のヘルスリテラシーを向上する相談型フェムテック研修をローンチ|株式会社TRULYのプレスリリース
*9:ホリエモンと三輪綾子医師の共著による新刊『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』が本日発売|一般社団法人 予防医療普及協会のプレスリリース
*10:出典:女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる 堀江 貴文 (著), 三輪 綾子 (著), 予防医療普及協会 (監修) 青志社