本当にその会議はムダですか?目的を忘れて効率化しても意味がない

働き方改革の必要性が叫ばれ、現在多くの企業で、効率化が進められています。

みなさんがお勤めの企業でも、ペーパーレスの推進や承認フローの見直しなどをしているのではないでしょうか。

さてさて、効率化の話になると、必ずといっていいほど議題に挙がるのが、ムダな会議の削減です。

ムダな会議は関係者全員に悪影響を与えるので、たしかに早急に対応すべきです。

でも、そもそも会議における「ムダ」ってなんでしょうか。
時間をたくさん使ったのになにも決まらなかった会議は、本当に「ムダ」だったのでしょうか。

父と娘、「会議」に対する意識のちがい

1月1日、新年のあいさつのため、実家の両親とLINE通話をしました。そこで聞いて驚いたのですが、父はこのところ、仕事のほとんどを在宅でしているらしいのです。

父はバブル期に金融系の企業に入社し、40年勤めあげた叩き上げ。定年を迎えた現在も、そのまま同じ企業で働き続けています。

若いころは鉄拳制裁あり、毎日残業で帰宅は深夜、というザ・昭和の企業戦士であった父が、在宅ワークですよ。そりゃもうびっくりします。

父いわく、在宅ワークになったことでいままでの会議のあり方が見直され、だいぶ効率化されたそうです。

で、どういうきっかけでこの話になったかは忘れたのですが、わたしが
「どうせ一緒に仕事をするんだから、会議ではたくさんしゃべって仲良くなったほうがいい」
的な発言をしたんですね。

それに対して父は、
「ダラダラ会議をするのはよくないってことで、終了時間を決めて、ビジネスライクにどんどん話を進める。仲良くなるような雰囲気じゃない」
と答えたんです。

うーん、なんだかわたしが想像する会議とちがうぞ。

わたしがイメージする会議……というより打ち合わせは、いっぱい雑談をして、
「それおもしろいですね! 1記事書けそう!」
「その例え、記事に入れてみませんか?」
「あーその考えはちょっと炎上しそうですね、オブラートにこういう方向ならアリかも」
とアイディアを膨らませていくものです。

打ち合わせが終わった後、なにかが決まっていることはほとんどありません。
せいぜい、「この記事はこんな雰囲気」「新しいアイディアをもとに書いてみよう」とか、その程度です。

そう言うと父は、
「ライターの場合、打ち合わせ自体がブレインストーミングで意味があるんだね」
と感心したように言いました。

たしかに、ブレインストーミングが目的であれば、効率的になにかを決める必要はありません。なるほど、わたしがイメージする会議と父がイメージする会議は、目的がちがったようです。

ブレインストーミングメインの決まらない会議はムダなのか

ブレインストーミングとは、かんたんにいえば「意見交換」です。

自分の意見を伝え、相手の意見を聞き、そのうえでまた新しいアイディアが生まれ……とお互い刺激しあって、自由に発想を広げていきます。

わたしが編集者とよくやるやつですね。

自分だけでは思いつかないようなアイディアが沸いてきますし、知らないことを教えていただいたり、盲点だったことを指摘していただいたりすると、イメージがどんどん具体化されていきます。

で、このブレインストーミングにおいて、「効率」は最も相性が悪い考えだと思います。

場合によっては、どのアイディアを採用するかを決めたり、収拾をつけるために制限時間を設けたりすることもあります。

でも大事なのはアイディアを出し合い、洗練していくことであって、「効率的になにかを決定すること」ではありません。

事実、わたしが編集者の方と打ち合わせるときは、終了時刻を決めずにかなり長いこと話すことも多いです。そのくせ、とくに何も決まりません。

でも不思議と、帰り道では「いっぱいしゃべって楽しかったな、面白い記事が書けそうだ」という気分になっているのです。

わたしと編集者の3時間にも及ぶ「なにも決まらない会議」は、一般的には「ムダな会議」に分類されるかもしれません。でも本当に、ムダだったのでしょうか?

効果的に話し合うことを選んだ結果は?

突然ですが、みなさんは『ワールドトリガー』という漫画をご存じでしょうか。

ざっくり紹介すると、異世界からやってくるネイバーという敵に対抗するため、ボーダーという防衛組織がある世界です。ボーダーでは3〜5人ほどでチームを組んで、ネイバーとの戦闘に向けて日々訓練中。

そんななか、異世界に乗り込む隊員の選抜試験が行われることに。選抜試験は、チームシャッフル形式。いつも一緒に戦っているメンバーではなく、ドラフト形式でキャプテンが指名、臨時チームで挑みます。

選抜試験初日、隊員は課題として、戦略や心理テストのような問題がずらりと並んだ問題集を渡されます。夏休みのドリルみたいなやつですね。

それをもくもくと解いている途中、追加試験として、特別課題が届きます。
それは、「なぜチームをシャッフルして行われたか、チーム全員で考えてまとめて提出しなさい」。

正解のないこの質問に対し、各チーム、リーダーが中心となって、メンバーに「どう思う?」と聞いていきます。

ここで少しちがうやり方をしたのが、頭がいいメンバーが多く集まった小寺隊。

隊長の小寺が「〆切は3時までって書いてあるけど だらだらと議論しても時間がもったいないので 今から20分考えを出し合って 出た意見を10分でまとめて提出しましょう」と言い、実際そのとおりにします。

とても効率的ですね。

ではその結果、小寺隊はどう評価されたのでしょうか。

早く決まったけど「浅い」答えだった小寺隊

防衛組織のお偉いさんたちは、隊員の話し合いの様子をモニターし、おもしろい意見をピックアップしていきます。そこに、小寺隊の名前はありません。

でも実は、小寺隊の木虎隊員も、その「おもしろい意見」に近いことを言ってるんですね。
しかし時間を制限したため具体的な話にはならず、その意見は流れてしまった。

特別課題の評価にはランクが高いA級隊員も参加しているのですが、小寺隊はほかのチームよりもA級隊員からの評価が低く、小寺隊長は「意見を言い合う時間が短かったから加点ポイントが減ったのでは」と心配します。

チームメンバーは「効率化した選択はまちがっていない」としながらも、「次にもし特別課題が出たら、A級隊員からの評価を意識して対策していこう」という結論になります。

つまり、時間を区切って効率的に答えを出すよりも、もっと話し合っていい意見をつくり、ポイントを稼ごう、というわけですね。

ちなみに小寺隊は、特別課題では評価が低めでしたが、そのぶん課題(ドリルのほう)に時間を使えたので、課題消化率はトップでした。

だから、小寺隊のやり方がまちがっていたわけではありません。
幹部陣も、「早さか深さかの一長一短」と評していますし。

でも逆にいえば、「小寺隊は早さを優先させて話し合いが浅かった」という意味でもあります。その結果が、A級隊員からの低い評価です。

小寺隊のように、効率化すべきポイントをまちがえて結果マイナスになることは、現実でも結構あるのではないでしょうか。

会議は効率化と自由な余白のバランスが大切

「決める」ことが目的の会議において、だらだら話してなにも決まらないのはただの時間のムダです。

だから円滑に意思決定ができるよう、事前に資料を共有して目を通しておく、必要な人だけを呼ぶ、会議の終了時間を決める、といったノウハウが役に立ちます。

よく言われる「会議の効率化」は、つまり「決める」ためのものなわけですね。
たぶん父がイメージした「ビジネスライクにささっと終わらせる」会議は、こういうのを指しているのだと思います。

でも意見を出し合うことが目的であれば、「早く済ませよう」という考えは、相性がよくありません。

効率化、効率化、といって、意見を言う人が少なくなったり、議論が深まる前に話を切ってしまっては、本末転倒ですから。

たとえば、新パッケージをどれにするか決めるという会議があったとしましょう。

事前にデザイン案を配り、「各々考えておいて」と言い、当日少し話して多数決を取れば、すぐに決まるかもしれません。

でもそうではなく、会議の場で新パッケージの商品を並べ、第一印象でそれぞれいいものを選ぶ。そのあとなぜ選んだかを話し合い、もう一度決を採る。そういうやりかただっていいですよね。

後者のやり方のほうが時間はかかるでしょうが、顧客目線での第一印象を大事にできますし、その時受けた印象を答えるので、いい意味で率直な意見が飛び交いそうです。

どちらのやり方がいい、というわけではありません。
というより、一概に「どういうやり方が正しい」だなんて、いえません。

「決める」会議でもブレインストーミングが必要なこともあれば、「意見を出し合う」会議だけどちゃちゃっと決めるべきタイミングもありますからね。

つまり、会議の効率化をはかるなら、どこを効率化して、どこに「自由な余白」を残しておくのか。その見極めが大事だということです。

この記事を書いた人

雨宮紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。