Apple Store、ルルレモンに学ぶ ネットショップ時代のリアル店舗の役割とは

近年、インターネットの普及にともない、ネットショップが急速に拡大しています。ネットショップの最大の魅力は、「いつでも、どこでも、商品を購入できる」という利便性です。

一方、リアル店舗には「実際に商品を手に取れる」「試着や試用ができる」というメリットがありますが、それだけがリアル店舗の存在理由なのでしょうか。

今後、リアル店舗はどうあるべきか、ネットショップとの差別化はどうあるべきか、そのヒントを探っていきたいと思います。

ネットショップの市場規模は13兆2,865億円

2021年、物販のBtoC-EC市場は13兆2,865億円になりました。成長率は8.61%、EC化率は8.78%で前年度より0.7ポイント上昇しています*1

■物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移

ここでの物販とは、下記のカテゴリーを指します*2

  • 食品、飲料、酒類
  • 生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等(オンラインゲーム含まず)
  • 書籍、映像・音楽ソフト (書籍には電子出版含まず)
  • 化粧品、医薬品
  • 雑貨、家具、インテリア
  • 衣類、服装雑貨等
  • 自動車、自動二輪車、パーツ等
  • その他

2020年は新型コロナウイルス感染拡大にともなう「巣ごもり消費」の影響により、市場規模が大きく拡大しました。

2021年は成長率が鈍化するものの、市場規模は拡大する結果となっています。今後も市場規模の拡大が期待されます。

経済産業省の報告書でも、2019年から2021年までの物販分野のBtoC-EC市場の年平均成長率は約15%であり、日本の個人消費における物品購入がおおむね横ばいであることを考えると、十分に高い成長率であると評価しています*3

リアル店舗の存在意義とは

ネットショップが躍進する一方で、気になるのがリアル店舗の存在です。

リアル店舗の動向を知る材料として、2019年と2021年の「小売業種別商業販売動向」を比較した下表に注目します*4

■小売業全体の商業販売額及び主な小売業態別商業販売額

これによると、「各種商品小売業」「織物・衣服・身の回り品小売業」「自動車小売業」が厳しい結果となっている一方で、「飲食料品小売業」「機械器具小売業」「無店舗型小売業」は比較的好調であることが、結果の内訳から読み取れます。

なかでもEC事業者を含む「無店舗型小売業」が4.7%と最も伸びており、この結果は、リアル店舗からシフトした消費者のライフスタイルの変化を一部示唆していると思われます。

「オムニチャネル化」と「体験価値の向上」の二つの戦略

リアル店舗の存在意義を活かすためには、ネットショップとの差別化が重要です。そのために、「オムニチャネル化」と「体験価値の向上」という2つの戦略が考えられます。

「オムニチャネル化」とは、オンラインとオフラインを統合した販売方法のことであり、「体験価値の向上」とは、店舗の雰囲気や接客、イベントなどを通じて、お客様が感じる総合的な満足度を高めることです。

これらの戦略により、リアル店舗もネットショップ店舗と同様にその魅力を発揮できます。

ただし、オムニチャネル化を実現するためには、以下のような取り組みが必要です*5

  • ECサイトの構築
  • マルチデバイスサイトの構築
  • WEB接客ツールの導入
  • 目的に合わせてモバイルアプリを構築
  • 顧客管理システムの導入
  • 在庫管理、注文管理、顧客管理システムの連携

オムニチャネル化は、顧客との接点でより良い体験を提供することですから、現在のチャネルの整理、管理システムの特定、それぞれの連携方法の検討など、多岐にわたる項目を実施しなければなりません。

資金や人材が不足している事業者にとって、すぐに取り組むには高いハードルです。そこで、リアル店舗の存在意義として「体験価値の向上」に着目します。

アップルとルルレモンから学ぶ体験価値の向上

イオンモールやららぽーとなどのショッピングセンターを中心に、国内で約1,300店舗を展開する大手アパレル小売業のアダストリア会長兼社長の福田氏によると、ネットショップでいくら売り上げが伸びてもリアル店舗がなくなることはないと言います*6

しかし、欲しい商品がネットショップで購入できれば、わざわざリアル店舗に行く必要はないわけで、リアル店舗は顧客に「来てよかった」「楽しかった」と思ってもらえる価値を提供しなければなりません。

ここで、アップルとルルレモンの事例を参考に見てみましょう。

Apple Store: コミュニティーの人々とつながるためにイベントを活用

アップルは、オンラインショッピングが当たり前になった今でも、リアル店舗であるApple Storeに力を入れ続けています*7

それは、製品の使い方や新しいスキルを学ぶ場として、顧客体験を大切にし、店舗と顧客のつながりを強めているからです。

アップルのディアドラ・オブライエン氏は、Apple Storeの特徴や魅力について次のように語っています。

「Apple Storeは、私たちも愛してやまない特別な場所です。私たちはアップルが誇る最高のプロダクトが集まる場所として、ストアと顧客体験を大切にしています。(中略)

来店の際、お客さまに『自分は受け入れられているんだ』と感じていただけること。そして試す、学ぶ、サポートを受けて最高の体験ができたと感じながらお帰りいただけることを私たちは目指しています」

Apple Storeは、顧客に製品だけでなく「学びの機会」も提供する場所です。

そのため、世界中のリアル店舗で毎日、無料の「Today at Apple」ワークショップを開催しています。

このワークショップでは、顧客がさまざまな分野で新しいスキルを学べます。

リアル店舗スタッフの役割は、製品のプロモーションではなく、顧客が最高の体験をし、創造性を高めるためにサポートすることです。

lululemon:顧客とのつながりを重視しヨガ教室などの体験を提供

カナダ・バンクーバー発の高機能アスレティックウェアブランドである「lululemon」(以下、ルルレモン)は、リアル店舗で販売よりも顧客体験に重きを置いています*8

インストラクターやアスリートをアンバサダーとして起用し、リアル店舗内のスタジオやオンラインで、ヨガクラスなどのイベントを定期的に開催しています。

リアル店舗は体験を提供する場であることから、顧客を「Customer」ではなく「Guests」と呼んでいます。

店舗閉鎖の時期もありましたが、ルルレモンはコロナの下で成長した企業の一つです。

それは販売ではなく顧客体験に焦点を当て、顧客とのつながりを保ち続けたからです。

■ルルレモン店舗内イメージ

ルルレモンは、米国の富裕層女性10代の間で圧倒的に人気のあるアパレルブランドとなりました*9

その達成の要因のひとつが、「ルルレモンブランドとは何か」を伝えるリアル店舗であることは間違いないでしょう。

これらアップルやルルレモンの顧客体験向上への取り組みから、リアル店舗が目指すべき存在意義のヒントが見えてくるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。