フードデリバリーのWolt(ウォルト)が「推し」でトップの理由

日経ビジネスが消費者調査を実施し、フードデリバリー市場で「顧客からの推され度」(NPS、ネット・プロモーター・スコア)に基づき、どれだけ愛されているかで企業やブランドをランキングした。

Uber Eats(ウーバーイーツ)などの大手を抑えて1位に輝いたのは、フィンランド生まれのスタートアップ、Wolt(ウォルト)です*1

ウォルトの躍進は、どのような戦略に支えられているのでしょうか。

ウォルトが台頭するフードデリバリー市場とは

フードデリバリーとは、飲食店が料理を作り、注文した客に届けるサービスです。

飲食店にとっては、デリバリーシステムを構築するよりも既存のサービスを利用する方が簡単で、利用者にとっても複数の飲食店のメニューから選んで注文できるという利便性があります。

インターネット利用者の増加や時短ニーズに加え、2020年の新型コロナウイルス感染症の大流行により外出の自粛や飲食店の営業規制が進み、自宅での飲食ニーズが高まり、フードデリバリーサービスの利用者が急増しました。

フードデリバリーサービスを提供する事業者は、配達基盤の強化やサービス提供エリアの拡大、プラットフォームの強化など、ユーザー獲得に向けた取り組みをしており、今後も市場規模の拡大が期待されています。

日本能率協会総合研究所によると、フードデリバリーサービスの市場規模は2025年度に4,100億円に達すると予測されています*2

フードデリバリーサービス市場規模・予測

<出典:フードデリバリーサービス2025年に4,100億円規模に|PR TIMES - 株式会社日本能率協会総合研究所>

高い顧客体験を提供する北欧のスタートアップ

右肩上がりの成長が期待されるフードデリバリー市場で、ウーバーイーツと出前館の2大巨頭を抑えて「推し」ランキング首位を獲得した、ウォルトの戦略を見てみましょう。

そもそもウォルトとは?

2014年に設立されたこのフィンランドのスタートアップ*3は、レストランのグルメから食料品や日用品まで、あらゆるものを約30分で届けるデリバリーサービスを提供しています*4

2020年3月には日本(広島)に進出し、その後札幌、仙台、東京、福岡、大阪などの首都圏だけでなく地方都市にも拠点を広げました。2021年1月にはさらなる拡大のために5億3000万ドルの資金調達に成功しています。

また、受賞実績として、2020年3月にFinancial Times(英)が選ぶ「Europe’s Fastest Growing Companies 2020」で2位に選ばれ、同年10月には日経関連企業開催のショーケースTech5で「最も有望なテクノロジースタートアップ企業」にも選出された注目の企業です。

「おもてなしデリバリーサービス」を提供

ウォルトは各地域にオフィスを置き、万が一のミスやトラブルにも迅速に対応できるよう、各地域でのカスタマーサポートに注力しています*5

顧客からの問い合わせにはチャットボットではなくすべて手作業で対応し、担当者が平均1分以内に回答します。コストと手間がかかりますが、顧客満足度向上のためには重要だと考えています。

チャットシステムは配達員も利用しており、デリバリーに関するトラブルが発生した場合は、サポート部門が迅速に解決策を提示します。

1分1秒の遅れが配達員の報酬に影響するため、チャットシステムはデリバリーの遅れを防ぐだけでなく、配達員の報酬向上にも役立っているのです。

さらに、ウォルトは配達員の「質」も重視しています。

安全な配達員だけを採用するため、高いハードルを設けています。配達員になるには、登録前に説明会に参加し、適性検査に合格しなければなりません。

これにより、交通事故や交通ルール無視などのトラブルを回避し、信頼できる配達員を確保しています。

背番号入りの配達バッグで配達時のトラブル防止に努めている

ウォルトは、「できたての料理を早く、丁寧に受け取りたい」という利用者の要望に応えるため、顧客サービスに力を入れています。

これが「おもてなしデリバリー」と呼ばれる質の高い顧客体験を提供する取り組みであり、ウォルトのミッションを反映しています。

ウォルトの戦略はシンプルでわかりやすいですが、実際に実践している企業はそれほど多くはありません。だからこそ、ウォルトが「推し」でトップの評価を得ているのではないでしょうか。

ウォルトは独自のNPS(顧客からの推され度)やユーザー調査を定期的に実施し、日々改善を重ねています。

たとえば、ウォルトのサポート対応の速さに関する満足度については、ユーザー全体の64%が満足しているという結果が出ています*6

64%がウォルトのサポート対応の速さに満足している

「あらゆるものが30分で届く」プラットフォームの実現

ウォルトは北欧の小国フィンランドでスタートし、世界的に拡大してきました。人件費が高く、多くの地域で人口密度が低いフィンランドでは、デリバリーサービスにとっては厳しい市場です。

しかし、配達するアイテムのカテゴリーを広げることで、ウォルトは「何でも早く、丁寧に届けてくれるサービス」として成功を収めました。

日本でもウォルトの戦略は同じです。

会員制量販店コストコをはじめ、ドラッグストア、コンビニエンスストア、地方のスーパーや百貨店など、さまざまな小売店と提携し、取り扱い商品のラインナップを増やしていく予定です。

小売パートナーとの提携を加速中

ウォルトが最終的に目指すのは、デリバリーサービスとしてのシェア拡大ではなく、「ショッピングモールをポケットに」の実現です。

飲食メニューだけでなく、日常のあらゆる買い物を即時配送する「あらゆるものが30分で届くプラットフォーム」を目指しているのです。

これは、他のデリバリーサービスとは一線を画す新たな価値提案と言えるでしょう。

ウォルトから学ぶことは他にもあります。例えば、ウォルトのアプリはA⁠p⁠p⁠l⁠e⁠の賞を受賞するほどの高いクオリティを持っています。

待ち時間の表示やプッシュ通知のタイミングなど細部において非常に使いやすく設計されています。

待ち時間中に楽しめるタップゲームがあり、新しい記録を達成すれば送料サービスが提供されます。ウォルトを試したことがない方はぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとして主にマーケティングやビジネスに関する記事を執筆しています。