eスポーツの力をマーケティングに活かそう 新たな顧客・領域の開拓にどう繋がる?

eスポーツの力をマーケティングに活かそう 新たな顧客・領域の開拓にどう繋がる?

現在、世界的なブームとなっているeスポーツは、日本でも日本eスポーツ連合の設立などを通じて、将来の成長への期待が高まっています。

このような状況の中で、eスポーツ大会の開催やスポンサーシップへの参画は、マーケターにとって注目すべき新たなマーケティング手法として注目されています。

eスポーツの舞台で広告を展開することによって、どのような人々にリーチし、どのような印象を与えられるのでしょうか。

eスポーツとは?

一般社団法人日本eスポーツ連合によれば、eスポーツとは、電子機器を使った娯楽・競技・スポーツ全般を指す言葉で、コンピュータゲームやビデオゲームの競技をスポーツイベントとしてとらえた場合の名称です*1

第19回アジア競技大会に向けた祭典におけるエキシビションマッチの様子

1990年代には、欧米でCPL(Cyberathlete Professional League)やPGL(Professional Gamers League)などのプロゲーマーリーグが誕生しました。これらのリーグは、プロフェッショナルなゲーマーたちによる競技会を提供し、eスポーツの先駆けとなりました。

また、2000年には「eスポーツ」という言葉が生まれ、韓国で大規模な世界大会「World Cyber Games Challenge(WCGC)」が開催されました。この大会を通じて、eスポーツの認知度は世界中で急速に高まったのです。

一方、日本では、2010年に格闘ゲームのトッププレイヤーである梅原大吾選手が欧米企業とのスポンサー契約を締結し、「日本初のプロゲーマー」として名を馳せました*2

翌2011年には第1回e-sports JAPAN CUPが開催され、eスポーツが注目されるようになりました。その後、2018年には「日本eスポーツ連合」が設立され、日本国内でもeスポーツの人気が高まってきています。

国内市場規模は2025年に約180億円へと拡大

一般社団法人日本eスポーツ連合によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年から2021年までの成長率はやや鈍化しましたが、市場規模は確実に拡大しました。

2022年以降、コロナ禍の影響が収束すると国内外の大規模競技大会が再開される見込みであり、市場規模は年平均20%以上の成長率で拡大し、2025年には180億円規模に達するとされています*3

国内eスポーツ市場規模

さらに、eスポーツのファン層は、日本国内での試合観戦や動画視聴においても増加しており、リアルスポーツのプロシーンに似た観戦趣味の層が形成されつつあります。

国内eスポーツのファン数推移

eスポーツは、将来的にオリンピック・パラリンピックの新競技として採用が検討されるほど注目されています。

国際オリンピック委員会によると、リアルなeスポーツの大会である「オリンピックEスポーツシリーズ」の勝者が集う「ファイナルズ」が、6月22日から25日までシンガポールで初めて開催されます*4

eスポーツがオリンピック競技になる日も、そう遠くないかもしれません。

多様な業界からの参入が増加する背景

世界のeスポーツ市場は2025年には18億6620万米ドル、日本円で約2,472億円規模になると予想されていますが、日本の市場は同時期に約180億円と比較的小さいものです*5

しかし、さまざまな企業が参入し、少しずつではありますが、世界の他の地域と同様に、市場が盛り上がり始めています。

例えば、プロeスポーツチーム「REJECT」は、ソニーのスマホ「Xperia™」、ロート製薬、ソニーネットワークコミュニケーションズの「NURO光」、ソニーのゲームギア「INZONE™」、東京メトロなどとパートナーシップを締結しています*6

プロeスポーツチーム「REJECT」とソニーのXperia™スマートフォンのパートナーシップ

このように異業種からの参入が進む背景には、従来のスポーツとは異なり、eスポーツは年齢や性別に関係なく誰でも参加でき、さらにeスポーツは特に若年層への発信力が高いことが挙げられます。

eスポーツのタイトルは、今や当たり前になったスマホでプレイできるものが多く、プレイヤーの多くは10代から20代のZ世代の若者です。

各社とも、そうした若年層に対して、eスポーツを通じてアプローチする狙いがあるのです。

実際、ロート製薬はeスポーツに参入する理由の一つとして、「若者との接点の一つであり、その影響力がどんどん大きくなっている」ことを挙げています*7

今後もさまざまな業種の企業が参入することで、日本におけるeスポーツ業界はますます盛り上がっていくものと思われます。

Red Bullの成功事例:eスポーツを活用したマーケティング戦略

eスポーツをマーケティングに活用した成功例として、Red Bull(以下、レッドブル)の事例があります。

レッドブルは年間売上の3分の1を広告費に費やし、さまざまなスポーツチームやマイナースポーツのスポンサーになり、スポーツや音楽関連のイベントを開催するなど積極的に宣伝活動しています*8

このような戦略を継続することで、コミュニティに対して非常に高いマーケティング効果を発揮しています。

レッドブルのマーケティング事例

レッドブルは、自社のブランドとeスポーツの組み合わせを活かし、「Red Bull 5G」というeスポーツイベントを主催しています。

このイベントは若い世代からの支持を集めるだけでなく、eスポーツ選手への支援も行っており、ブランドイメージを高めています。

レッドブル主催のeスポーツイベント「Red Bull 5G」

<出典:11/27(土)12:00~ Red Bull 5G 2021 FINALS開催!Twitch、YouTube、Twitterで生配信|PR TIMES - レッドブル・ジャパン株式会社>

「Red Bull 5G」は2012年から開催されており、5つのゲームジャンルでプレイヤー同士が東西対抗で競い合います*9

例えば、2021年の大会では、スポーツ、レーシング、ファイティング、パズル、フリーの5つのゲームジャンルでオンライン予選と東西地区代表決定戦が行われ、勝ち抜いたプレイヤーが東西2チームに分かれて決勝戦に挑みました。

ジャンルを超えた熟練プレイヤーの交流やチームの団結力を見られる人気の大会で、予測不可能な展開が期待されます。

2022年、レッドブルのグループ売上高は96億8400万ユーロとなり、前年比23.9%増となりました。また、収益および営業利益も増加し、同社の史上最高を達成しました*10

この結果は、同社のマーケティング戦略が功を奏していることを示しているのかもしれません。

eスポーツをマーケティングに活用するメリット

「若者消費を取り込みたい」と考えるマーケティング担当者や「地域の活性化を目指す」自治体関係者にとって、eスポーツが重要な戦略となることは明らかです。

前述したように、さまざまな業界の企業が次々とeスポーツイベントへの協賛に参画し、人気チームや選手とのスポンサーシップ契約も増加しています。

その狙いは、若い世代との接点を確立することにあります。

「若者は製品を購入しない」「価値観が多様化している」「テレビ広告ではリーチできない」といった課題を抱える企業にとって、eスポーツイベントは新たなマーケティングツールとして期待されています。

実際に、観戦者の約8割がZ世代と呼ばれる若者であり、彼らをターゲットにすることで企業は広範なリーチを獲得できます。

さらに、eスポーツは競技だけでなく、配信や解説、選手やチームのマネジメントなど、多岐にわたるビジネスチャンスを提供しています。

この点からも、マーケティングの視点で見れば、eスポーツは新たな可能性が広がっていると言えます。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。