日本経済を支える観光業 インバウンド復活の見通しは?成長見込みと併せ確認しよう

「訪日外国人旅行」を意味する「インバウンド」(Inbound)は耳慣れた言葉になりました。

観光庁の地道なプロモーション効果もあり、2018年にはついにインバウンドの旅行者数が3,000万人を突破したことは記憶に新しいところです*1

訪日外国人旅行者数の増加にともない、行き先や行動、楽しみ方も多様化し、インバウンドは数字的にも質的にも新たなステージに入りつつあります。

あらためてインバウンドとは何なのか、なぜインバウンドが日本経済にとって重要なのかを解説し、インバウンドの誘致事例についても紹介していきます。

インバウンド向けのマーケティングとは

WHOが新型コロナをパンデミックと宣言してから3年が経過し、世界的に水際対策が緩和され、国際線も再開されました*2

日本でも2022年10月から入国規制が緩和され、訪日外国人旅行者(以下、訪日旅行者)の増加が見込まれる中、インバウンド向けのマーケティングが注目されています。

これは、訪日旅行者をターゲットにしたWebサイトやSNSを活用したマーケティング活動のことです。

具体的には、日本の文化や観光地、グルメなどを紹介するコンテンツを作成し、訪日旅行者の興味を引くことです。

また、訪日旅行者が日本を訪れた際のホスピタリティやサービスを向上させることも重要なポイントです。

見逃せないインバウンドの経済効果

インバウンドが注目されている理由は、観光業、特に訪日旅行者を対象としたインバウンドが成長産業として大きな可能性を持っているからです。

2021年、日本における観光産業の消費額は9.4兆円でしたが、コロナ禍前の2019年を例にすると約28兆円あり、国内でも大きな産業規模を誇ります*3

その中でインバウンドは4.8兆円程度に過ぎませんが、再びインバウンドの成長が注目されるようになると予測されます。

その理由はいくつかあります。

■日本国内における旅行消費額

<出典:令和4年版観光白書について(概要版)観光庁 令和4年6月 p5>

観光業は世界的な成長産業

第一の理由は、観光は成長市場であることです。新興国を中心に世界中で中間層の人口が増加しており、国際観光市場が拡大しています。

東南アジアやインドなどの経済成長に相関して、今後も世界の旅行者数が増えていくことは間違いないでしょう。

日本のインバウンドもコロナ禍以前は順調に伸びていましたが、これはむしろ日本の観光産業が他国よりも強かったというよりも、世界的に外国人旅行者の人口が増加していたことが大きく寄与しています。

国際観光市場の競争は始まったばかりなのです。

2020年、観光客の受け入れ数において第1位のフランスは年間約4,000万人を受け入れており、2位のイタリアは2,520万人。一方日本は世界で21位、アジアでは5位にとどまっています*4

■2020年外国人旅行者受入数ランキング

<出典:令和4年版観光白書について(概要版)観光庁 令和4年6月 p2>

日本はこの成長市場に乗り遅れないよう、取り組んでいく必要があります。

観光業は裾野の広い産業

観光というと、旅行業、宿泊業、運輸業などだけが関係すると思われがちですが、実は、飲食店、娯楽施設、通訳などのサービス業や、小売業、金融業にまで広がっています。

特に体験を重視する最近の旅のスタイルでは、その裾野はさらに拡大していくでしょう。

観光庁によると、日本の観光業のGDPへの寄与率は4.5%(2016年)です。2012年~2016年にかけて、観光業のGDPは23.0%成長し、輸送用機械(23.0%)などと並んで高い成長率となっています*5

■名目GDP成長率への寄与の割合

政府は、富裕層のインバウンド消費を促進し、2025年までに訪日旅行者1人あたりの消費額を20万円に引き上げることを目指しています。 これにより、インバウンド需要の経済効果を高め、年間5兆円のインバウンド消費を実現したい考えです*6

富裕層は社会で活躍する人や芸能人など、流行を生み出す人が多く、彼らの間で旅行先が流行れば、一般の旅行者もそれに追随する可能性が高いと言えます。

富裕層マーケットは特別な体験や本物の価値を大切にすることが多く、日本には他の国にはないユニークな観光資源があるため、富裕層を惹きつける可能性は十分あるのではないでしょうか。

次に訪れたい国ナンバー1の日本

2022年10月の日本における入国規制緩和以降、韓国、タイ、シンガポールなどからの訪日客が増加していますが、中国からの訪日はまだ回復していません。2023年7月以降に本格的な回復が始まると予測されています*7

また、日本は旅行先として人気が高く、株式会社日本政策投資銀行と・公益財団法人日本交通公社が2022年2月に発表した調査によると、アジア・欧米の居住者が次に行きたい海外旅行の国・地域は日本が第1位となっています。

■次に海外旅行したい国・地域について(アジア居住者・欧米居住者別 上位20位)

<出典:2023年(1月~12月)の旅行動向見通し|株式会社JTBのプレスリリース>

海外の旅行情報誌ロンリープラネットで「ベスト旅行先」として第6位に選ばれた四国や、愛知県の愛・地球博公園跡にオープンした「ジブリパーク」、米ニューヨーク・タイムズ紙で「2023年に訪れるべき52選」に選ばれた岩手県盛岡市などは、今後、訪日観光客向けのあらたな観光名所として注目されることが予想されます。

インバウンドの向けマーケティング事例

JR東日本は、海外の日本ファン向け会員制サービス「JAPAN RAIL CLUB」を開始しました*8

このサービスは、日本とのつながりを求める海外の日本ファンのためのコミュニケーション・プラットフォームです。

訪日回数が10回以上の「ヘビーリピーター」を対象とし、台湾やシンガポールなどの市場を中心に展開しています。

■海外からの視点で地域の新たな魅力発見を目指す

<出典:海外日本ファン向け会員サービス「JAPAN RAIL CLUB」誕生|東日本旅客鉄道株式会社 p.1>

会員には、地域のお菓子や文化を紹介したお土産ボックスの定期便や、地域のオンラインツアーを提供し、「旅行前」「旅行中」「旅行後」の3つの時期に入会を促しています。

■お客さまの体験サイクル

<出典:海外日本ファン向け会員サービス「JAPAN RAIL CLUB」誕生|東日本旅客鉄道株式会社 p.2>

新型コロナウイルスをきっかけに、観光地に行くだけでなく、そこでしかできない体験を求める「コト消費」のニーズが高まっており、本サービスはその流れに対応したものと言えるでしょう。

インバウンドのマーケティングでは、海外からの旅行者を増やすだけでなく、訪日旅行者に魅力的な体験を提供することが重要です。
そのためには、旅行者の好みやニーズを把握し、それに合った旅行プランを提供することがポイントになるでしょう。

ターゲットごとにアプローチやプロモーションのポイントが異なりますので、事例にあるように、それぞれにこだわったものを選んで配慮していく必要があります。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。