フェラーリに学ぶブランド戦略 企業はいかにして顧客から共感を得るか

現在、市場にはモノがあふれ、インターネットには様々なチャネルが普及し、情報が氾濫しています。消費者が無限の選択肢を持つ中で、選ばれるブランドになることは難しくなっています。

消費者が共感する「企業・ブランドの活動や取り組み」の調査結果によると、顧客に寄り添い、自らの価値を常に磨き、進化させる姿勢は「共感」を呼び、ブランド価値のさらなる向上につながります*1

そこで今回は、創業以来、独自のブランド戦略を展開しているイタリアの自動車メーカー「フェラーリ」を参考に、顧客から共感を得るためのヒントを探ってみたいと思います。

フェラーリは2年連続で世界最強ブランド

フェラーリは2019年、2年連続で「世界最強ブランド」に選ばれました。この結果は、独立系ブランド価値の評価機関で戦略コンサルティング会社であるブランドファイナンス社が発表した「Brand Finance Global 500 2020」レポートに基づくものです*2

ブランドファイナンス社は、バランス・スコアシートを用いて相対的なブランド力を測定しています。フェラーリは100点満点中94.1点の最高得点を獲得し、ディズニー、コカ・コーラ、ロレックスなどの有名ブランドを抑えて、この快挙を成し遂げました。

ブランドファイナンス社CEOのデビッド・ヘイグ氏は、次のように述べています。

ラグジュアリーを体現するフェラーリは、世界中で賞賛と憧れの的であり、その卓越したブランド力はそれを反映しています。フェラーリの車を所有することはなくても、この馬のマークの入ったバッグや時計が欲しいという消費者が多いのもうなずけます。

なお、2020年はWeChatにトップを譲ることになりましたが、2位につけたフェラーリは、93.9点というスコアを誇っています*3

フェラーリはパンデミックに積極的に対応し、まず生産設備を停止し、その後、安全な労働環境の整備に重点を置いて再稼働させました。これにより混乱を最小限に抑え、高品質で責任ある企業としてのブランドの評判を高めたといいます*4

フェラーリ最大のブランド力は「希少性」

なぜフェラーリはこれほどまでに「強いブランド」であり続けることができるのでしょうか。その秘密のひとつは、「欲しがるお客さまの数より1台少なく作る」という戦略にあります*5

創業者のエンツォ・フェラーリはレーシングドライバーであり、優れたビジネスマンでもありました。エンツォは既存の顧客リストを正確に把握した上で、市販車が何台売れるかを判断し、生産台数を1台少なく設定したうえで販売価格を決めたのです。

フェラーリは高価な車ですが、売り込みをしなくても売れました。お客さまは、わざわざディーラーに電話をかけてきて、「買わせてくれませんか?」と依頼してくるほどです。

フェラーリが人を惹きつける魅力を持っていることは間違いありません。しかも、人は「希少なものはいいものだ」と考えるものです。自分の欲しいものが希少だとわかると、無性に欲しくなります。これを心理学では「希少性の原理」といいます*6

フェラーリは、希少性という価値を意図的に作り出したのです。必要以上のものを売らず希少性を生み出せば、機会損失は発生しますがブランドの価値は高まるからです。

かつて、同社にとって世界第2位の市場である中国への販売縮小を決定したことがあります。人々は驚かされましたが、これこそがフェラーリのブランド力を最大限に発揮させる秘訣だったのです*7

ブランド価値を高めるフェラーリのユニークな仕組み

創業者エンツォ・フェラーリの神話とモータースポーツの最高峰であるF1での歴史を柱に、ブランドの希少性を高めてきたフェラーリは、他社に先駆けて中古フェラーリの価値を高める取り組みにも着手しました。

フェラーリは価値あるクラシックカーとして認定する制度「OFFICINE CLASSICHE(フェラーリ・クラシケ部門)」を創設したのです。

公式サイトでは、その価値を次のように説明しています。

このユニークなサービスはオーナーにとって非常に重要です。なぜなら、車輌が純然たる正規品であることを示す正式な書面を発行できるのはフェラーリ・クラシケのみであ  るからです。

フェラーリは、1947 年から生産してきた全車輌の技術記録を大切に保管してきたため、どの車両についてもオリジナルのデザインを再現させることができます。

公式鑑定書のメリットは多方面におよびます。

貴重な遺産であるヒストリックカーを保護できるだけでなく、その販売価値を高めるとともに、跳ね馬が企画する有名な公式イベントに参加することもできるようになります。

この制度の認定を希望するオーナーは、イタリア・マラネッロのフェラーリ本社にあるフェラーリ・クラシケ部門、あるいは世界各地のフェラーリ・ディーラーに出向き、認定審査を依頼します*8

検査では、車が生産時と同じオリジナルの状態であること、すべての部品が正常に作動することを確認する一連のチェックが行われます。フェラーリ・クラシケの基準を満たせば、フェラーリはその車を「ホンモノ」と認定するのです。

改造されていたり、状態が悪かったりする場合は、元の状態に修復してくれます。そのため、フェラーリの中古車は値崩れせず、フェラーリというブランドの価値も高まる仕組みです。

ブランドを強くするストーリーテリング

フェラーリは、創業者エンツォ・フェラーリの「レースで勝つ」という情熱と夢をブランドストーリーとして語り続けています。

前会長のルカ・ディ・モンテゼモーロは、こんな言葉を残しています。 「We don't sell a normal product. We sell a dream.(私たちは単なる製品を売っているのではない。夢を売っているのだ)」*9

この言葉から、フェラーリの仕事は、フェラーリを所有することの満足感を創造することであることがわかります。顧客が車のブランドストーリーを理解し、 「これは私のためにつくられた車だ」 と思っていただくことが大切なのです。

フェラーリの取り組みは、希少性を高めることや、フェラーリ・クラシケという制度を確立することにとどまりません。

フェラーリは、サーキットやパーティー会場などのイベントで、常に顧客の志向性を調査しています。そして、あるデザインに対する顧客の反応がネガティブなものになりつつあると感じたら、即座に改善策を講じるのです*10

フェラーリほど、顧客の動向に敏感な自動車ブランドはないというほど、フェラーリは顧客を大切にしています。だからこそ、顧客からも愛され続けるのです。

これは、それぞれの手法において、顧客の視点からブランドの存在意義を伝え続けるという姿勢が受け入れられた結果だと言えるでしょう。

フェラーリがどのようにブランドを築き、育ててきたのか。その過程を知ることは、あらゆる商品がコモディティ化した現在、自社の商品の価値をいかに高めるかを考えるきっかけになるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

Midori

総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとしてマーケティングに関する記事を執筆しています。