潜在的なニーズが見え、資金調達にも クラウドファンディングをマーケティングに活用しよう

企業の立ち上げや新商品の開発には、事前の資金調達が必要です。

しかし、多額の資金を投入したのに利益を回収できずに終わってしまう、ということも少なくありません。
そこで注目されているのが「クラウドファンディング」です。

これから始める事業や商品の開発について、事前に多数の人から資金を募るというものです。

かつ、開発途上の製品のマーケティングにもつながります。

その概要や成功事例を、ここでご紹介します。

クラウドファンディングの仕組み

クラウドファンディングとは群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語です。

<出典:クラウドファンディングのしくみ|「第38回インターネット消費者取引連絡会クラウドファンディングサービス「 READYFOR」の取組みについて」消費者庁資料 p3>

これから始めようとする社会的活動や、開発途上にある新規の商品の継続開発など、集めた資金の使い道や集めたい金額を明示し、それに共感する、あるいは商品が完成したら欲しいと思う人がプロジェクトに支援金を送るしくみです。

一方で支援を募る実行者は活動報告やお礼のメッセージ、あるいは商品であれば製品完成時に、お礼として商品や割引などを支援者に提供します。

最近では、能登地震の被災施設などが再建のための支援を募っている様子もみられます。

<出典:能登地震復興支援金募集の一例(#能登半島地震)|READY FOR>

なおクラウドファンディングには3つの型式があります*1

ひとつは「購入型」と呼ばれるもので、支援の対価として商品やサービスを受け取ることができるというものです。

もうひとつは「寄付型」で、対価なしに寄付金を送るものです。

さらに「金融型」と呼ばれるものもあり、これは株式や配当など金銭やそれに相当するものを資金提供者に返礼します。

新商品の場合「購入型」が適していると思われがちですが、商品のコンセプトに共感した、という場合は寄付型であっても資金が集まることでしょう。あるいは新事業であれば金融型の利用も検討できます。

クラウドファンディングの事例

さて、事例をみていきましょう。

宮城県石巻市のヤグチ電子工業(以下「ヤグチ電子」)の取り組みは、日本で最も先進的な事例とされています*2

ソニーの関連会社として当初は神奈川県相模原市に創設された企業ですが、ソニーが海外での生産を進めていったことやリーマンショックの影響などから、従業員は600人から30人程度に減っていました。

そして東日本大震災前のヤグチ電子はソニーやアイリスオーヤマの下請けがおもな業務でしたが、震災でソニーの業務が縮小し、存亡の危機に直面していました。

その中で、携帯型ガイガーカウンターの開発を始めます。しかし当時クラウドファンディングは日本では一般的ではありませんでした。よってアメリカに口座を開くなどして、200万円以上の資金を集めたのです。

また、もうひとつ事例を挙げてみましょう*3

同じく宮城県の仙台市で震災後、2012年に起業されたJDSound(以下「JDS」)は、デジタル音楽機器の設計や開発を行うスタートアップです。被災地の復興や雇用創出という理念のもと、DJ機器の自主開発を意図し、友人同士のパーティーなどでも利用できる小型かつ長時間稼働できるDJ機器の開発・製造を目標としました。

そこで資金集めをクラウドファンディング上で行っています。

<出典:JDLがクラウドファンディングに成功したプロジェクト|品田誠司「スタートアップのクラウドファンディング戦略」p62>

ミュージシャンからの評判が良かったことなどもあり、1000万円を超える寄付を集めたプロジェクトもあります。

クラウドファンディングを成功させた要因

さて、このヤグチ電子やJDSが多くの支援を受けられた背景には3つの要素があるといえます。

「需要、共感、ストーリー」です。

需要

まず、「需要」です。ヤグチ電子の携帯型ガイガーカウンターの場合、圧倒的な需要があったのは想像に難くありません。

ただ、クラウドファンディングの用途は、こうした非常事態用の製品ばかりとは限りません。

「あー、そう、そういうのが欲しかったんだよ!」

という消費者のニーズに応えられるものであれば、ニッチなものになるかもしれませんが、逆に「そういうものが生まれてくれるなら支援しよう」という心理が働く可能性があるということです。

そこに、製品が完成したら割引価格で手に入る、などの返礼がつけば、寄付してくれる人をむしろ「いつできるかな」とワクワクするものになり得ます。
かつ、どのくらいの人が、どのくらいの対価ならほしいと思うかを事前にはかるものになり得ます。

共感

そして「共感」です。

これは被災地復興や社会的問題の解決を目的とした活動や製品が代表的なものでしょう。

しかしいまはSDGsがトレンドになっており、これに沿った商品開発を進めるのはひとつのチャンスでしょう。

ストーリー

最後に「ストーリー」、これは最も重要な要素かもしれません。

前出のJDSの場合、仙台市の職員がJDSにヤグチ電子を紹介したという裏話があります*4

そして、JDSの「GODJ-Plus」モデル以降は、ヤグチ電子が生産を担うようになりました。
このストーリーを使い、JDSは支援者を集めたのです。

購入した人が、周囲に紹介したくなるようなストーリーがあれば、拡散力も持つようにもなるでしょう。

何のため、誰のための商品なのか

現在、データドリブンというマーケティング手法も欠かせないものになっています。

同じ商品でも、例えば「青より赤のほうが売れている」というデータを得ることは簡単になっています。だから赤を重点的に生産しよう、となるでしょう。

しかし「なぜ」の部分に今もう一度スポットライトを当ててみた時、データとは違う事実が見えるかもしれません。

また、共感やストーリーがしっかりしている商品は、ひとりの購入者から拡散力があること、そして消費者が割高感を受け入れる可能性すらあります。

いま日本での平均収入がどんどん減っている現実を見ると、「無駄なものは買いたくない」という意識は強いことと思います。消費者としての皆さん自身はどうでしょうか。

クラウドファンディングでは、出資者がなぜそのプロジェクトに出資をしようと思ったのかをコメントなどの形で事前に知ることができます。

商品化より前に、すでに消費者が何を望んでいるかがわかるというのは、無駄な開発費を流出させることのない「プレマーケティング」の側面も持っているのです。

この記事を書いた人

清水沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。