化学メーカーの事例に学ぶ:選ばれる商材を作るバリュープロポジション構築プロセス

バリュープロポジションとは、企業が顧客に提供する独自の価値を明確にし、競争優位性を築くための指針です。市場環境が急速に変化し、差別化がますます困難になる中、明確なバリュープロポジションの構築は、これまで以上に重要な課題となっています。
本事例は、ある化学メーカーがバリュープロポジションを構築し、新たな価値を見出すまでの道のりを紐解いたものです。インタビュー形式でプロジェクトの背景や手順、成果、課題を明らかにし、企業変革のリアルな姿に迫ります。
今回お話を伺った企業は、プラスチックや半導体関連の薬液、塗料など、多岐にわたる素材を提供する化学メーカーです。その製品は、自動車や航空、医療機器分野をはじめ、多様な分野で活用されています。
この企業で、新規事業の立ち上げや既存事業の見直しを担当する部署に所属するのが、今回インタビューに応じてくださったプロジェクトリーダーです。製品開発やソリューション構築を主導し、同社の未来を切り拓く中核的な役割を担っています。

売上の低迷がバリュープロポジション構築のきっかけ

バリュープロポジションを構築するプロジェクトの背景について教えてください。

今回対象となった素材は、自動車や航空、宇宙、電気、医療機器など、非常に幅広い分野で使われています。ただ、一部の市場ではコモディティ化が進み、価格競争に巻き込まれていました。2022年の売上低迷をきっかけに、この素材の事業継続に対する危機感が高まり、プロジェクトが立ち上がりました。このままでは価格競争に飲み込まれると判断し、素材の特徴を再定義して事業を立て直す必要があると考えました。

市場では、すでに他社との競争が激化しているのでしょうか?

この素材は昭和から存在している歴史ある製品ですが、その分市場には多くの競合が存在して、価格競争に巻き込まれやすい状況です。私たちがいくら優れた点をアピールしても、顧客には『他社と大差ない』と思われてしまうことが少なくありませんでした。そこで、顧客視点で価値を再定義し、その価値を社内外にしっかり浸透させる必要があると考えました。

プロジェクトにはどのようなメンバーが参加したのですか?

私の上司(執行役員)や事業部長を中心に、製品を扱う事業部内のマーケティング部、研究開発、営業部などからメンバーが選ばれました。私もその一員としてプロジェクトを進めていきました。

市場共通の価値提案を実現:成功するバリュープロポジション構築の第一歩

今回の素材は様々な市場で使われていますが、市場ごとにバリュープロポジションを作成したのでしょうか?

いいえ。この素材は自動車や航空など多岐にわたる分野で使用されていますが、市場ごとに個別のバリュープロポジションを最初から作ると、異なるニーズ間で矛盾が生じるリスクがありました。そのため、まずは市場全体に共通する上位概念としてのバリュープロポジションを定めることから始めました。

顧客の声で仮説を強化:再インタビューが導いた確信

バリュープロポジション構築手順を教えて下さい。

バリュープロポジションの構築は、約半年をかけて進めていきました。手順としては、以下のような流れで実施してきました。

1. 情報収集フェーズ
まずは市場調査からスタートしました。この際、外部のコンサルタントを活用し、顧客ニーズや市場の動向を把握しました。顧客分析は営業チームやマーケティングチームと連携し、実際に製品を購入する企業の担当者へのインタビューを実施しました。インタビュー対象者への依頼は営業部門の協力を得ながら進めました。 顧客インタビューの対象となる企業は、用途別に分類しました。具体的には、自動車、航空などの業界ごとに分け、各業界での売上上位企業からインタビュー対象を選定していきました。計20社ほどのインタビューを実施しました。
競合企業の特定には、特許情報や市場レポートを活用し、競合となる企業を洗い出しました。それらの企業の製品ポートフォリオや経営状況を分析し、自社と似た技術や特許を持つ企業を特に注視しました。さらに、それぞれの強みや市場での位置付けを明確にしました。

2. バリュープロポジションの構築
情報収集が完了した後は、バリュープロポジションの構築に入りました。自社、競合、顧客の視点を踏まえ、考えられるバリュープロポジションをホワイトボードに付箋を貼りながら整理していきました。この段階では仮説の立案が行われ、バリュープロポジションとして何を訴求すべきかを模索しました。

3. 仮説の検証とブラッシュアップ
初期の仮説をもとに、顧客インタビューを再度実施しました。特定の企業に対して、仮説に基づいた価値が本当に響くのか、他社製品と比べてどのように感じるのかを掘り下げました。インタビューを通じて、顧客のニーズに合致した訴求点を見つけ出し、最終的なバリュープロポジションが明確化されていきました。

4. バリュープロポジションの普及、浸透活動
完成したバリュープロポジションは、社内全体で共有しました。オンラインで全社員を対象にした説明会を実施し、全社的な理解と浸透を図りました。さらに、営業活動においても、バリュープロポジションを反映したトークを行うことで、実際の商談に役立てました。また、会社のウェブサイトも見直し、バリュープロポジションが反映された内容に刷新しました。

営業と製品開発が変わる!バリュープロポジション構築の成果と影響

バリュープロポジション構築の成果を教えて下さい。

バリュープロポジションの構築がもたらした成果のひとつは、営業活動の強化です。これにより、営業チームは顧客に対して一貫性のあるメッセージを届けられるようになりました。それまで抽象的に「良い素材」として説明されていた製品が、顧客の具体的なニーズにどのように応えるのかを強調する形で提案されるようになりました。 また、この取り組みは製品開発の方向性をも明確にしました。顧客からのフィードバックを反映したバリュープロポジションが、今後の技術開発や新製品の方針を具体化する指針となりました。それまで「既存製品の改良」として進められていた開発が、顧客の明確なニーズに基づいた目標へと進化していきました。 バリュープロポジションの社内共有を行った際には、「自分たちが担当する製品でもぜひ実施したい」という声が寄せられました。他の製品を担当する社員にも、改めて自社製品を見つめ直し、その価値を再定義することの重要性を伝えられた点も、大きな成果だったと感じています。

部署間の価値認識を統一:バリュープロポジション浸透の工夫と課題

バリュープロポジション構築してみての感想をおしえてください。

バリュープロポジションの初期段階では、内容があまりにも無難で、会社のホームページにあるような一般的なメッセージにとどまっていました。このままでは意味がないと感じ、「お客様が何に価値を感じ、なぜ製品を購入するのか」を徹底的に深堀りしました。その結果、当初は部署ごとに異なる回答が出てきたことに驚かされました。自社の強みや顧客に対する価値提案が共有されていなかったのです。

今回のバリュープロポジション構築を通じて、各部署間で価値提案を共有することができました。バリュープロポジション自体のアップデートも必要ですが、時間が経つにつれて認識にズレが生じないよう、各部署間で継続的に共通理解を維持するための仕組みが重要だと感じています。

プロジェクトの舞台裏:コンサルタントが語る成功の秘訣

特に印象的だったのは、検証のために改めて顧客インタビューを実施した点です。
顧客に直接話を聞くことが検証において最も効果的な方法であることは理解できますが、それを実現している点には驚きました。これは、普段から顧客との友好関係を丁寧に築いているからこそ可能になった取り組みだと感じました。
プロジェクトメンバーに執行役員が含まれていた点も、この取り組みの大きなポイントだったと思います。顧客インタビューに関しては営業担当者から一定の反発があったそうですが、執行役員が社内調整を行ったことで、多くの顧客にインタビューを実施できたとのことです。
顧客インタビューには営業担当者の協力が欠かせないこと、構築したバリュープロポジションを社内全体に浸透させる必要があることを考えると、プロジェクトメンバーに社内調整力のある人材をアサインする重要性を改めて感じさせられました。
バリュープロポジション構築は、単なるメッセージの整理にとどまらず、事業成長や競争優位性の確立に直結する重要なプロセスです。当社では、この化学メーカーの事例のように、顧客ニーズに即した価値提案を構築し、それを実現可能な形で社内外に浸透させる支援を提供しています。

もし貴社でも以下のようなお悩みをお持ちであれば、ぜひ当社のサービスをご検討ください。
・価格競争に巻き込まれ、製品やサービスの差別化が困難
・顧客視点での価値定義やニーズの把握に課題がある
・市場における競争優位性を明確化したい

詳しくは、以下のページをご覧ください。
バリュープロポジション企業研修の詳細はこちら

山田 俊也

マーケティングコンサルタント

山田 俊也

マーケティング戦略策定

BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行までサポート。Marketo Engageを使ったコンサルティングの実績を多く持つ。
社外に向けた無料・有料セミナーの企画、講師も担当。のべ50回以上の登壇実績。Adobe社が提供するMarketo Core Concepts Ⅱの講師を勤める。
育児のための長期休暇を取得、仕事復帰後は子育て奮闘中。

TOP