コラム

なぜデータを「見える化」しても成果がでないのか―――分析結果を営業マーケティングに繋げる3つのポイント

単に「見える化」しただけで成果が出ることはない

よくビジネスでデータを活用するとき、とりあえず「見える化」ということで、何かしらデータを集めることから始めることがあります。
確かに「見える化」することで、問題が見え、解決策も見え、結果的に何かしらのビジネスインパクトをもたらすことがあります。しかし、現実は「見える化」しただけでビジネス成果(売上アップ・コストダウン・利益率向上など)が実現するほど甘くはありません。

例えば、営業活動の場合はどうでしょうか。
昔から受注件数などの営業成績を、「見える化」することはなされていました。最近では、CRM(顧客関係管理システム)などのシステムの導入により、受注などの営業成績だけでなく、受注に至るまでの過程(引合・訪問・提案・見積り・内示・受注)を「見える化」できるようになっています。
この「見える化」で、営業成績は上がるでしょうか。営業成績が上がる人と、そうでない人に分かれることでしょう。その見える化した何かを見て、どのような行動を取ったのかによります。

「見える化」の誘惑

私は仕事柄、幸運にもあるものを見せられることが度々あります。ある人は自慢げに、ある人は不安げにあるものを見せて語ってくれます。そのあるものとは、社内のデータを集約し、美しく「見える化」したBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの画面(ダッシュボード)です。

私はそのBIの画面(ダッシュボード)を見て、次にように質問することがあります。

「BIツール導入前から、すでにデータ活用は上手くいっていたのですか?」

この質問に対し......

「あまりデータ活用していなかった」
「データ活用しても上手くいっていなかった」

......などという回答は少なくありません。
そのような回答をする企業の場合、「BIツールを導入することで、データを上手く活用しよう」というスタンスが多いように感じています。BIツールの導入がきっかけで、データ活用が上手くいくなら、こんな素敵なことはありません。
ちなみに、ここで言う「データ活用が上手くいっている」とは、「データ活用がビジネスインパクト(売上アップ・コストダウン・利益率向上など)を出している」ということを意味しています。財務諸表のPL(損益計算書)の売上や利益などの数値が良くなっている、ということです。なので、データ活用の成功の有無はPLを見れば一目瞭然です。

私はこのようなBIツール導入を見て、「大変な苦労があっただろうな」と非常に感心する一方で、次のようなことを、小心者の私は心の中でぼそぼそつぶやくことも多いです。

「このケース、BIツールを導入しても、上手くいかないだろうな......」

もちろん根拠なくそう思うわけではありません。上手くいかないと思う理由があります。
例えば、新しく買ったランニングシューズを履いただけで人類史上最速のスプリンターと称されたウサイン・ボルトなみに足そのものが速くなることはあまりないでしょう。
例えば、新しい鉛筆に変えただけで、IQが200は超えていると言われている史上最高の知性を持った人物と称されたレオナルド・ダ・ヴィンチなみの頭脳を手にし、急に学校の成績があがることはあまりないでしょう。
例えば、ディスクトップPCからノートPCに変えても、従来の仕事のやり方を一切変えることなく営業上手になり受注件数が劇的に向上することは、あまりないでしょう。
つまり、「道具を変えただけで何かが急に変わることはないだろう」ということです。ExcelからBIツールに変えても、急にデータ活用でビジネス成果(売上アップやコストダウン、利益率向上など)がでることは、あまりないことでしょう。

見えたけど、動けない

「見える化」の名のもとで収集したデータの多くは、どのようなものでしょうか。営業マーケティング活動の例ですと、営業成績や受注に至るまでの過程(引合・訪問・提案・見積り・内示・受注)であったりします。これらは、何かしらのアクションの「結果」(引合・訪問・提案・見積り・内示・受注)です。
アクションの「結果」に関するデータは、それはそれでデータとして非常に重要です。成果を計測したものだからです。しかし、アクションの「結果」に関するデータだけでは、非常に困ります。なぜならば、「アクションそのもののデータ」(アクション履歴)がないため、具体的に何のアクションの「結果」なのか分からないからです。

分析結果を営業マーケティングに繋げる3つのポイント
分析結果を営業マーケティングに繋げる3つのポイントです。

①どのデータがあるのかを認識する
②「アクション⇒結果」の関係性を見える化する
③今何をすべきか「ネクスト・アクション」を見える化する

①の「どのデータがあるのかを認識する」とは、「見える化」のために集めたデータがどのデータなのか(アクション or 結果 or 両方 など)をしっかり認識する、ということです。一番多いのが結果系のデータだけというケースで、理想はアクション系と結果系の両方のデータが蓄積されているという状態です。
このことを認識するのが一番重要です。

②の「『アクション⇒結果』の関係性を見える化する」とは、①を前提に、「アクション⇒結果」を見える化するということです。
「アクション⇒結果」という関係性とは、例えば次のようなものです。

 ● 〇〇という状況で○○というアクションをしたら〇〇という結果になり上手くいった
 ● 〇〇という状況で○○というアクションをしたら〇〇という結果になり上手くいかなかった

見える化したデータが結果系だけの場合、アクション系のデータがありませんので、定性的にどのような「アクション」をしたのかを洗い出し整理し、「アクション⇒結果」という関係性を導き出す必要があります。
仮に、アクション系と結果系の両方のデータがある場合でも、データは世の中の一部分しか表現していないため、結局のところ定性的に「アクション⇒結果」という関係性を検討する必要がでてきます。

③の「今何をすべきか『ネクスト・アクション』を見える化する」とは、未来に向けて今何をすべきかを見える化するということです。①と②はあくまでも「過去」のお話しです。過去を知り現在地を認識することは重要です。ただ、知っただけで何もせず、その場に突っ立っているだけでは何も起こりません。過去を知り、未来を想像し、今何をすべきかを考える必要がでてきます。
要は、②で見える化した「アクション⇒結果」をもとに、どうすべきかを考え「ネクスト・アクション」を「見える化」するのが③です。
ここまで行けば、「見える化」したけど何をすればいいのか分からない、ということはなくなると思います。

さいごに

よくビジネスでデータを活用するとき、「見える化」から始めることがあります。しかし、現実は「見える化」しただけでビジネス成果(売上アップ・コストダウン・利益率向上など)が出るほど甘くはありません。
「見える化」の名のもとで収集したデータの多くは、何かしらのアクションの「結果」(引合・訪問・提案・見積り・内示・受注)であるケースが多いです。しかし、アクションの「結果」に関するデータだけでは、非常に困ります。なぜならば、「アクションそのもののデータ」(アクション履歴)がないため、具体的に何のアクションの「結果」なのか分からないからです。

「見える化」したいのは「ネクスト・アクション」です。そのためには「〇〇というアクションをしたら〇〇という結果になった」というアクションと結果の関係性を「見える化」する必要があります。
分析結果を営業マーケティングに繋げる3つのポイントです。

①どのデータがあるのかを認識する
②「アクション⇒結果」の関係性を見える化する
③今何をすべきか「ネクスト・アクション」を見える化する

「見える化」したのに思うようなビジネス成果が生まれない、と感じている方は試してみてください。

高橋威知郎氏とパワー・インタラクティブの出会い

高橋威知郎氏との出会いは、社名でもある「セールスアナリティクス」というキーワードでした。当時、Webサイト中心のコンサルティングを、MAやCRM、BI支援へとコンサルティング領域をシフトする中、私たちのお客様が求めているものは何なのか、わたしたちのお客様のサクセスとは何なのかをうまく言語化できずいました。
その頃、「営業生産性を高める! 『データ分析』の技術」(同文館出版)という著書に出会い、すぐに高橋氏のセミナーに参加し、これだ!と。MAやCRMなどIT化により蓄積される営業関連データを活用し、そのデータを活かす仕組みをつくり、お客様の営業生産性を高めていくお手伝いをすること、これが弊社が次にやるべきことだと大きな気づきをもらいました。ビッグデータという言葉に惑わされない高橋氏の分析に対する考え方や、データ分析・活用のスキルトランスファーに真摯に取り組む姿勢から、多くを学ばせてもらっています。

(株式会社パワー・インタラクティブ 取締役 遠藤美加)

近未来を見据えた営業マーケティングのためのデータ分析―――今あるデータで営業生産性を向上させた3つの事例
営業マーケティング系のデータ活用は「小さくはじめ大きく波及させよ」―――現場感×データインサイトを実現する「ジョハリの窓」

高橋 威知郎(たかはし いちろう)

株式会社セールスアナリティクス 代表取締役

高橋 威知郎(たかはし いちろう)

データ分析・活用コンサルタント

中央官庁およびコンサルティングファーム、大手情報通信業などを経て現職。約20年間、一貫してデータ分析に携わる。現在は、営業やマーケティング、生産、開発などの現場における地に足がついたデータ分析・活用(データドリブン化)の支援を実施。

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