あるべき姿と現実のギャップから考える、医療従事者向けマーケティングの改善点

学会が終わった直後、社内で報告されるのは「来場者数」「セミナー参加数」「アンケート回収数」といった活動量です。一方で、「どの医師が、どのテーマに関心を持ち、その後どう動いたか」という問いに答えられる企業はまだ多くありません。

新しい治療知見が共有され、医師や医療関係者が最新情報を得る場であり、企業にとっても疾患領域や製品に関する情報提供、専門家との対話、医療従事者の関心テーマの把握、MR活動への接続を考えるうえで大きな意味を持ちます。

製薬企業にとって学会は、医師や医療従事者と直接対話できる貴重な接点です。しかし、接点が生まれることと、その接点を成果につなげることの間には想像以上に大きなギャップがあります。

本稿では、学会マーケティングが「実施して終わり」になりやすい理由を、あるべき姿と現実の差分から整理します。

本来、学会は単なるイベントではありません。

医療従事者がどのテーマに関心を持っているのか。
どの疾患領域や治療課題に課題意識を持っているのか。
どの施設・どの医師に追加の情報提供が必要なのか。
学会後にMRがどのようなフォローをすべきなのか。

こうした情報を把握し、次の医療従事者向け情報提供やMR活動につなげるための重要なマーケティング接点です。

しかし現実には、学会活動は「出展した」「共催セミナーを実施した」「資料を配布した」「アンケートを回収した」という活動報告で終わってしまうことが少なくありません。

学会は実施されている。
接点も生まれている。
データも一部は取れている。

それでも、その後のMR活動や継続的な情報提供、成果に近い変化までつながっていない。

ここに、学会マーケティングのあるべき姿と現実のギャップがあります。

あるべき姿:学会を医療従事者理解の起点にする

学会マーケティングのあるべき姿は、学会を単発のイベントとして捉えないことです。

学会前、学会中、学会後をひと続きの流れとして設計し、医療従事者の関心を把握し、その後の情報提供やMR活動につなげる。これが本来目指すべき姿です。

学会前には、対象となる医師・施設を整理し、どのテーマに関心を持つ可能性があるかを仮説化する。過去のメール反応、Web講演会参加、医療従事者向けサイト閲覧、MR活動履歴などをもとに、案内すべきセミナーやコンテンツを設計する。

学会中には、セミナー参加、ブース来場、資料閲覧、アンケート回答、QRコード経由のコンテンツ閲覧などを記録し、誰がどのテーマに反応したのかを把握する。

学会後には、その反応をもとに、MRフォロー対象を整理し、関心テーマに応じた追加コンテンツを案内し、次回Web講演会や医療従事者向けサイトでの継続接点へつなげる。

このように考えると、学会は「当日の集客」だけで評価するものではありません。

学会を通じて、医療従事者の関心をどれだけ理解できたか。
その関心を、MR活動や継続的な情報提供にどれだけつなげられたか。
次の施策やコンテンツ改善にどれだけ活かせたか。

そこまで含めて、学会マーケティングの成果を見る必要があります。

現実のギャップ1:学会当日の運営が目的化している

現実には、学会活動は当日の運営に多くのリソースが割かれます。

ブース設営、資材準備、セミナー運営、登壇者対応、来場者対応、アンケート回収、社内報告。これらはどれも重要な業務です。

しかし、運営が大変であるほど、「無事に開催できたこと」自体がゴールになりがちです。

その結果、学会後に本来行うべき問いが後回しになります。

誰が来たのか。
どのテーマに反応したのか。
重点医師・重点施設の反応はどうだったのか。
MRフォローすべき対象は誰か。
次の情報提供にどうつなげるべきか。

これらが整理されないまま、次の学会や別施策の準備に移ってしまう。

この状態では、学会はマーケティング活動というより、イベント運営業務に近くなります。

学会マーケティングの生産性を高めるには、当日の運営だけでなく、学会後に何を判断するために、どのデータを残すのかを事前に設計しておく必要があります。

現実のギャップ2:接点データが医師ID・施設IDにひもづいていない

学会では、多くの接点が生まれます。

セミナー申込、参加、ブース来場、資料請求、アンケート回答、QRコード経由のコンテンツ閲覧などです。

しかし、これらの接点が個別の集計で終わってしまうと、次のアクションにつながりません。

たとえば、共催セミナーに100名が参加したことはわかる。
アンケートで関心テーマも集まっている。
資料請求も一定数あった。

それでも、それがどの医師で、どの施設に所属し、過去にどの接点があり、MR活動とどう関係しているのかが見えなければ、学会後のフォローは属人的になります。

重要なのは、接点を医師ID・施設IDにひもづけることです。

誰が参加したのか。
どの施設から複数名が参加したのか。
重点医師・重点施設の反応はあったのか。
過去のWeb講演会やメール反応と重なっているのか。
MR活動履歴と照らすと、どのようなフォローが必要なのか。

このように、学会接点を医師・施設単位で見られる状態にしてはじめて、学会活動はMR活動や継続的な情報提供につながります。

現実のギャップ3:KPIが参加者数や回収数に偏っている

学会活動の成果指標として、参加者数、ブース来場数、資料配布数、アンケート回収数はよく使われます。

もちろん、これらは必要な指標です。活動量や初期反応を把握するうえでは欠かせません。

ただし、それだけでは学会活動の本当の価値は見えません。

参加者数が多くても、重点医師が少なければ、成果につながりにくいかもしれません。
アンケート回収数が多くても、その後MRフォローにつながっていなければ、接点は一過性で終わってしまいます。
資料閲覧数が多くても、関心テーマ別に整理されていなければ、次の情報提供に活かしにくくなります。

学会活動のKPIは、三層で設計する必要があります。

まず、反応を見る指標です。
学会案内メールの開封・クリック、セミナー申込、参加、資料閲覧、アンケート回答、医療従事者向けサイトへのアクセスなどです。

次に、先行成果を見る指標です。
重点医師・重点施設の参加率、MRフォロー対象の創出、MRフォロー完了、関心テーマ別のセグメント化、重点施設内での複数医師接点、学会後コンテンツ閲覧などです。

最後に、事業成果に近い指標です。
処方データや売上データとの関係、重点施設での採用状況、MR活動の進展、疾患領域や製品理解の深まりを示す兆候などです。

学会の成果を「何人集めたか」だけで評価している限り、学会後の行動変化やMR活動への接続は見えません。

必要なのは、活動量の指標をなくすことではなく、活動量を成果に近い指標へ接続することです。

現実のギャップ4:学会後フォローが標準化されていない

学会活動で最も差が出るのは、学会後のフォローです。

学会後に一律のお礼メールを送る。
資料を送付する。
社内で参加者リストを共有する。

これだけでは、学会接点を十分に活かしたとは言えません。

本来は、学会での反応に応じて、フォロー内容を変える必要があります。

重点医師で、特定テーマのセミナーに参加した人。
資料を閲覧し、アンケートでも具体的な課題を回答した人。
重点施設から複数名が参加しているケース。
過去にもWeb講演会やメール反応があり、関与度が高まっている医師。

こうした対象には、MRフォローや追加情報提供の優先度を上げるべきです。

一方で、関心はあるがまだ接点が浅い医師には、医療従事者向けサイトの関連コンテンツや次回Web講演会の案内を行う。すぐにMRフォローする対象と、デジタルで継続接点を持つ対象を分ける。

このように、学会後フォローは一律ではなく、反応と重要度に応じて設計する必要があります。

そのためには、学会前からフォロー設計を決めておくことが重要です。

どの反応があればMRフォロー対象にするのか。
どの反応であればデジタルナーチャリングに回すのか。
重点施設内の複数接点をどう扱うのか。
誰が、いつまでに、どの情報を見てフォローするのか。

ここまで決めておかないと、学会後フォローは個人任せになり、成果が再現しにくくなります。

現実のギャップ5:学会で得た知見がコンテンツ資産になっていない

学会では、多くの知見が得られます。

医師から寄せられた質問。
セミナーで反応が高かったテーマ。
アンケートに書かれた課題。
ブースでの会話。
重点施設ごとの関心領域。
競合や治療トレンドに関する情報。

これらは、本来であれば次のコンテンツや施策企画の材料になります。

たとえば、学会で質問が多かったテーマを、医療従事者向けサイトのFAQに反映する。
反応が高かったセミナー内容を、次回Web講演会や動画コンテンツに展開する。
アンケートで見えた課題を、MR向けトークスクリプトや説明資料に反映する。
重点施設での関心テーマを、次の情報提供計画に活かす。

しかし現実には、学会で得た知見が担当者の記憶や個別メモにとどまり、組織として資産化されないことがあります。

学会マーケティングの生産性を高めるには、学会で得た知見をコンテンツ資産に変える仕組みが必要です。

学会は、コンテンツを配る場であると同時に、次のコンテンツを生み出す場でもあります。

デジタル活用の本質は、効率化ではなく接点の再利用性を高めること

学会にデジタルを活用するというと、オンライン配信、QRコード、デジタル資料、MA配信、アンケートフォーム、来場管理などが思い浮かびます。

もちろん、これらは業務効率化に役立ちます。

紙の資料を減らせる。
アンケート集計が早くなる。
参加者リストを整理しやすくなる。
メール配信やフォローが自動化しやすくなる。

ただし、デジタル活用の本質は、効率化だけではありません。

より重要なのは、学会で生まれた接点を、後から使えるデータとして残せることです。

誰が、どのテーマに、どの程度反応したのか。
その後、どのコンテンツを閲覧したのか。
MRフォローにつながったのか。
次の施策に反応したのか。

これらを追えるようになれば、学会は一過性のイベントではなく、継続的な医療従事者理解の起点になります。

デジタル活用によって高まるのは、単なる作業効率ではありません。

接点の再利用性です。

一度得た接点を、MR活動、次回Web講演会、医療従事者向けサイト、メール施策、コンテンツ改善へと活かせるようになる。そこに、学会マーケティングの生産性向上があります。

あるべき姿に近づくために、まず整えるべきこと

学会マーケティングを改善するために、いきなり大きなシステム投資が必要なわけではありません。

まず整えるべきことは、次の5つです。

1つ目は、学会の目的を明確にすることです。
認知拡大なのか、重点医師との接点創出なのか、MRフォロー対象の抽出なのか、疾患領域の課題把握なのか。目的によって、取るべきデータもKPIも変わります。

2つ目は、医師ID・施設IDで接点をひもづけることです。
学会接点を医師・施設単位で見られなければ、その後のMR活動や継続接点につなげにくくなります。

3つ目は、学会後フォローの条件を事前に決めることです。
どの反応があればMRフォロー対象にするのか。どの対象には追加コンテンツを案内するのか。学会前に設計しておく必要があります。

4つ目は、KPIを三層で設計することです。
参加者数や資料閲覧数などの反応指標だけでなく、MRフォロー対象、MRフォロー完了、重点施設での関与度変化などの先行成果指標を置く必要があります。

5つ目は、学会で得た知見をコンテンツ資産に変えることです。
質問、アンケート、反応テーマ、会場での対話を、次のコンテンツ、Web講演会、MR資料、FAQに反映していくことが重要です。

まとめ

学会マーケティングのあるべき姿は、学会を単発のイベントとして成功させることではありません。

学会を、医療従事者理解と継続的な情報提供の起点として活用することです。

しかし現実には、学会当日の運営が目的化し、接点データが医師ID・施設IDにひもづかず、KPIが参加者数や回収数に偏り、学会後フォローが標準化されず、得られた知見がコンテンツ資産にならないというギャップが生じがちです。

このギャップを埋めるために必要なのが、デジタル活用です。

ただし、デジタル活用の目的は、単に学会運営を効率化することではありません。

学会で生まれた接点をデータとして残し、医師ID・施設IDをキーに、MR活動や継続的な情報提供につなげることです。

学会前・学会中・学会後を分断せず、反応を見る指標、先行成果を見る指標、事業成果に近い指標を三層で設計する。

そして、学会で得られた関心や課題を、次のコンテンツ、MR活動、医療従事者向けサイト、Web講演会へと展開する。

学会を「実施して終わり」にしないこと。

それが、これからの製薬企業に求められる学会マーケティングのあるべき姿です。

診断チェックリスト — 自社の現在地を確認する

学会マーケティングを「実施して終わり」にしないためには、まず自社の現在地を把握することが重要です。
以下のチェックリストで、次回学会に向けてどこから改善すべきかを確認してみてください。
「いいえ」が多い領域から、次回学会に向けた改善テーマを設定しましょう

領域 チェック項目
目的・KPI 学会ごとに目的とKPIが、参加者数以外も含めて定義されている
対象設計 重点医師・重点施設と、案内すべきテーマが事前に整理されている
データ取得 申込、参加、来場、資料閲覧、アンケート回答が医師ID・施設IDにひもづいている
対話品質 ヒアリング項目が標準化され、担当者ごとのばらつきを抑えられている
フォロー MRフォロー対象とデジタルナーチャリング対象の条件が事前に決まっている
連携 MA/CRM/MR活動履歴と学会接点がつながり、後から追跡できる
資産化 質問、反応テーマ、アンケート結果が次のコンテンツやMR資料に反映されている

評価の目安

「はい」の数 現在地 次に取り組むべきこと
7項目以上 継続改善フェーズ 学会ごとの成果比較、KPI改善、コンテンツ資産化の高度化
4〜6項目 標準化フェーズ フォロー条件、ヒアリング項目、データ連携ルールの標準化
3項目以下 基盤整備フェーズ 接点データの取得項目と、MRフォロー条件の整理から着手

学会マーケティングのデジタル移行を、体系的に整理したい方へ

パワー・インタラクティブでは、製薬メーカー向けホワイトペーパー
学会マーケティングDX — アナログからデジタルへの移行
を公開しています。

本資料では、以下のポイントを整理しています。

・学会前・学会中・学会後を分断しない業務設計
・医師ID・施設IDを軸にした接点データのつなぎ方
・参加者数だけで終わらないKPI設計
・MRフォローとデジタルナーチャリングの役割分担
・学会で得た知見を、次のコンテンツや施策に活かす方法

自社の学会マーケティングを、イベント運営から継続的な成果創出プロセスへ変えたい方は、ぜひご覧ください。

嘉山 翔大

マーケティングコンサルタント

嘉山 翔大

マーケティングオートメーション活用支援

事業会社でインサイドセールス、Adobe Marketo Engageの導入・定着・オペレーションを経験した後、パワー・インタラクティブに入社。BtoB企業を中心に、マーケティング戦略設計から施策の実行まで幅広くサポート。実務経験を生かしユーザー視点を持った顧客のニーズに応じた支援を行う。

TOP