化学・素材・樹脂メーカーの展示会データ活用|サンプル提供から評価・採用までを可視化する
化学・素材・樹脂メーカーにとって、展示会は新たな用途開発や顧客開拓につながる重要な接点です。自社の素材や技術を紹介するだけでなく、「こんな用途に使えないか」「現在使っている材料を置き換えられないか」といった具体的な相談を、研究・開発、設計、生産技術などの担当者から直接聞ける機会でもあります。
一方で、展示会で多くの名刺を獲得し、サンプル依頼も発生したものの、その後の進捗が見えなくなってしまうケースもあります。「サンプルを送ったが、評価されたのか分からない」「技術担当者とは話しているが、採用までどこまで進んでいるのか把握できない」といった状態です。
化学・素材・樹脂分野の展示会データ活用では、単に「どの製品に興味を持ったか」を記録するだけでは十分ではありません。必要なのは、「何の用途で使いたいのか」「どのような性能・特性を求めているのか」「評価がどこまで進んでいるのか」を継続的に捉えることです。
さらに、材料の採用には、研究・開発担当者だけでなく、設計、生産技術、品質、調達、そして採用を承認する開発責任者や事業責任者など、複数の関係者が関与することがあります。こうした購買・採用の意思決定に関与する関係者群を Buying Group と呼びます(Buying Group の基本的な考え方は、本連載の第1回「電子・電気・半導体メーカーの展示会データ活用」で詳しく紹介しています)。そのため個人リードだけを見るのではなく、案件・用途テーマと関係者を紐づけながら、企業全体の採用プロセスを見る視点も必要になります。
本記事では、展示会で取得すべきデータから、サンプル評価の追跡、Buying Groupの把握、採用までの進捗を測るKPIまで、化学・素材・樹脂メーカーにおける展示会データ活用について考えます。
INDEX
- 1. 「製品に興味あり」では、用途開発の可能性が見えてこない
- 2. 化学・素材・樹脂メーカーが展示会で取得したい情報
- 3. 「サンプル依頼」をゴールにしない
- 4. 「HOT・WARM・COLD」よりも評価ステージを見る
- 5. 展示会データと、その後の技術行動をつなげる
- 6. 個人ではなく「用途・評価テーマ」を中心に見る
- 7. Buying Groupで「採用に必要な関係者」を可視化する
- 8. 展示会後は「サンプルを送ったか」から「評価がどこで止まっているか」へ
- 9. 展示会当日にすべての情報を取る必要はない
- 10. 営業に渡すのは「サンプル依頼者リスト」ではなく「評価案件の現在地」
- 11. 展示会KPIも「サンプル件数」ではなく、評価・採用がどこまで前進したかを見る
- 12. 展示会KPIを3つのレイヤーで捉える
- 13. まずは重点案件3〜5件の「評価プロセス」を可視化する
- 14. まとめ:展示会データを「サンプル提供」から「評価・採用プロセス」へ広げる
「製品に興味あり」では、用途開発の可能性が見えてこない
化学・素材・樹脂メーカーの展示会では、「製品Aに興味あり」「サンプル希望」といった情報を取得するケースがあります。もちろん、これらは欠かせない情報です。しかし、その後の営業や技術フォローにつなげるには、もう一段深く顧客の検討背景を把握する必要があります。
たとえば、同じ樹脂材料に関心を示した来場者でも、「自動車部品の軽量化に使いたい」「電子機器向けに耐熱性を高めたい」「既存材料のコストを下げたい」「環境対応材料への切り替えを検討している」など、目的は異なります。
展示会で残っている情報が「製品Aに興味あり」だけであれば、展示会後のフォローも製品カタログや一般的な資料の送付にとどまりがちです。一方、用途と要求特性まで分かっていれば、その顧客が何を評価しようとしているのかが見えてきます。
化学・素材・樹脂メーカーの展示会では、製品への関心だけではなく、「どの用途に、どのような性能を求めているのか」までデータ化することが重要です。
化学・素材・樹脂メーカーが展示会で取得したい情報
展示会で取得したい情報は、大きく「関心製品」「用途・開発テーマ」「要求特性・課題」「評価ステージ」「本人の役割」に整理できます。
(図表1)展示会で取得・整理したい主なデータ
特に重要なのが、用途・開発テーマと要求特性です。
たとえば、「樹脂Aに興味がある」という情報だけでなく、「車載コネクタ用途で耐熱性を高めるために樹脂Aを検討している」まで把握できれば、展示会後に提供すべき情報は明確になります。耐熱性に関する技術データを案内する、類似用途の事例を紹介する、技術担当者との打ち合わせを設定するといった形で、顧客の評価テーマに沿ったフォローが可能になります。
「サンプル依頼」をゴールにしない
化学・素材・樹脂メーカーでは、展示会をきっかけにサンプル依頼が発生することがあります。そのため、「サンプル依頼件数」を展示会成果のひとつとして管理している企業もあるでしょう。
サンプルを送付したこと自体が成果のゴールではありません。着目したいのは、そのサンプルがどのように評価され、その後どうなったのかです。化学・素材・樹脂分野では、展示会を起点に、次のような評価・採用プロセスとして捉えます。
(図表2)展示会を起点に「サンプル提供」から「採用・量産」までを追う
展示会 → 用途・要求特性の把握 → サンプル提供 → 初期評価 → 追加評価 → 社内採用検討・採用 → 量産移行
このプロセスのポイントは、各ステージで「実施したか」だけを記録するのではなく、評価目的、評価結果、次の課題、関与する部門までデータとして更新していくことです。
また、社内で採用が決まった後も、量産移行という段階が残ります。量産では、安定した品質で供給できるか、必要な量を確保できるか、量産価格や納入条件が成立するかといった確認が入ります。採用決定と量産立ち上げの間で案件が止まることもあるため、評価プロセスは「採用」で終わりではなく「量産移行」まで含めて捉えます。
サンプルを発送した時点で管理が止まってしまうと、「評価が始まっていないのか」「性能が合わず候補から外れたのか」「評価は良好だが社内調整で止まっているのか」が分かりません。
つまり、化学・素材・樹脂分野では、展示会データを「サンプルを渡したかどうか」ではなく、「評価プロセスがどこまで進んだか」まで追う必要があります。
「HOT・WARM・COLD」よりも評価ステージを見る
展示会後のリードを「HOT」「WARM」「COLD」で分類する方法は分かりやすい一方、材料採用のように評価期間が長い案件では、現在の温度感だけでは案件の可能性を判断しにくいことがあります。
たとえば、展示会時点では「まずサンプルを見てみたい」という程度だった企業でも、その後、顧客側で評価が進み、追加サンプルや詳細な技術データの依頼が発生することがあります。一方、展示会では非常に反応が良かったとしても、サンプル送付後に評価が止まっているケースもあります。
この場合に見るべきなのは、単純な温度感ではなく、顧客が評価プロセスのどこにいるのかです。先に示した評価ステージ(展示会 → 用途・要求特性の把握 → サンプル提供 → 初期評価 → 追加評価 → 社内採用検討・採用 → 量産移行)に沿って、案件ごとに現在地を管理します。
こうすることで、「今すぐ営業が追うべき案件」「技術担当者による評価支援が必要な案件」「一定期間後に再フォローすべき案件」を判断しやすくなります。
展示会データと、その後の技術行動をつなげる
展示会当日に得られる情報だけで、採用可能性をすべて判断する必要はありません。むしろ、化学・素材・樹脂分野では展示会後の行動に見逃せないシグナルがあります。
たとえば、展示会後に、技術データシートを閲覧する、用途別資料をダウンロードする、サンプルを依頼する、追加データを問い合わせる、技術相談を申し込む、再度サンプルを依頼するといった行動が発生します。
展示会で「電子部品用途で耐熱性の高い材料を探している」と聞いていた企業から、後日、耐熱グレードの技術資料ダウンロードやサンプル依頼が発生すれば、検討が一段進んだ可能性があります。
展示会時の会話と、その後のデジタル行動や技術相談をつなぐことで、「何に興味を持ったか」から「何を実際に評価し始めたか」へ、顧客理解を深めることができます。
個人ではなく「用途・評価テーマ」を中心に見る
化学・素材・樹脂の案件では、展示会で会った一人の担当者だけを追っても、採用プロセスの全体像が見えないことがあります。
たとえば、展示会では研究・開発担当者と接点を持ち、その担当者がサンプルを評価したとしても、その後には設計担当者、生産技術、品質保証、調達、そして採用を承認する開発責任者などが関与する可能性があります。
そのため、展示会データを「個人 × 関心製品」だけで管理するのではなく、「アカウント × 用途・評価テーマ × 関係者」へ広げることが重要です。
たとえば、展示会で得た情報が、
「A社の研究開発担当者が素材Xに興味あり」
だけではなく、
アカウント:A社
用途テーマ:車載部品
要求特性:耐熱性・軽量化
候補材料:素材X
評価ステージ:サンプル評価
接点あり:研究・開発担当者
未接点:設計、生産技術、品質、調達、開発責任者
まで整理できれば、その後のアクションが見えてきます。
「研究開発担当者に次のメールを送る」という個人フォローだけでなく、「この材料を採用するためには、次にどの部門との接点が必要か」を考えられるようになるからです。
Buying Groupで「採用に必要な関係者」を可視化する
こうした複数の意思決定関与者を、Buying Groupとして捉えることができます。
化学・素材・樹脂メーカーの場合、案件によって異なりますが、たとえば研究・開発、設計、生産技術、品質、調達、そして採用や投資を承認する開発責任者・事業責任者といった役割が関与します。ポイントは、すべての企業に同じBuying Groupを当てはめることではなく、自社の材料が採用されるまでに、どのような役割が関与するのかをあらかじめ整理しておくことです。
そして、アカウントごとに「どの役割とは接点があるか」「どこが不足しているか」を確認します。
たとえば、研究・開発担当者とはサンプル評価を進めているものの、量産工程を担当する生産技術部門とはまだ接点がないのであれば、次のステップは生産技術部門への展開かもしれません。また、技術評価が完了しているのに採用が進まない場合は、品質や調達との確認、あるいは材料切替を承認する開発責任者との合意が必要な可能性もあります。
このようにBuying Groupを見ることで、「誰が興味を持っているか」だけでなく、「採用までに何が不足しているか」を把握しやすくなります。
展示会後は「サンプルを送ったか」から「評価がどこで止まっているか」へ
化学・素材・樹脂メーカーの展示会フォローで特に重要なのが、サンプル送付後の状況です。
たとえば、次の3社があったとします。
A社はサンプル送付後、初期評価を終え、追加評価に進んでいる。B社はサンプルを送ったものの、まだ評価が始まっていない。C社は技術評価を終えたものの、品質部門との確認で止まっている。
「サンプル提供済み」というデータだけを見れば、3社は同じ状態に見えます。しかし実際には、次に取るべきアクションはまったく異なります。
A社には追加評価に必要な技術支援を行う。B社には評価開始のタイミングを確認する。C社には品質部門で必要とされるデータや試験情報を整理する。
このように、展示会後のフォローでは、「何をしたか」よりも「顧客の評価がどこまで進んだか」を見ることがポイントです。
展示会当日にすべての情報を取る必要はない
用途、要求特性、評価ステージ、関与部門まで把握したいとなると、「展示会アンケートの質問項目を増やさなければ」と考えがちです。しかし、すべてを展示会当日に聞き出す必要はありません。
展示会ではまず、関心製品、用途・開発テーマ、要求特性、現在の検討状況、本人の役割など、その後のフォローに必要な基本情報を取得します。
その後、営業が把握している商談情報、技術担当者が把握している評価内容、品質部門との確認状況、CRMに蓄積された既存接点、WebサイトやMA上の行動データなどを組み合わせていきます。
押さえておきたいのは、展示会だけで顧客情報を完成させることではなく、展示会を起点にアカウント情報を継続的に更新することです。
営業に渡すのは「サンプル依頼者リスト」ではなく「評価案件の現在地」
展示会後に営業へ渡す情報も、単なるリードリストから一段進めることができます。
たとえば従来は、
「A社・○○様。素材Xのサンプル希望」
という情報だったものを、
「A社の車載部品向け材料検討。耐熱性と軽量化が課題。展示会後に素材Xのサンプルを提供し、現在初期評価中。研究開発担当者とは接点あり。量産条件を確認する生産技術、品質、調達、採用を承認する開発責任者は未接点」
という形で共有します。
営業や技術部門が知りたいのは、単に「誰にサンプルを送ったか」ではありません。「何の用途で評価していて、現在どこまで進んでおり、次に何をすべきか」です。
展示会情報と評価データ、関係者情報をつなぐことで、「サンプル依頼者」ではなく、評価案件の現在地を共有できるようになります。
展示会KPIも「サンプル件数」ではなく、評価・採用がどこまで前進したかを見る
化学・素材・樹脂メーカーでは、「名刺獲得数」に加えて「サンプル依頼数」「サンプル発送数」を展示会KPIとして管理するケースがあります。これらも必要な活動指標ですが、サンプル件数だけを見ても、その後の採用可能性は判断できません。
見たいのは、「サンプルを何件送ったか」ではなく、「評価・採用プロセスを次のステージへ何件進められたか」です。
たとえば、サンプル依頼が発生しているものの評価テーマが曖昧なのであれば、「用途・要求特性を把握できたか」を見ます。サンプルを提供しても評価が進んでいないのであれば、「評価開始率」を確認します。初期評価は通過したものの採用が進まない場合には、追加評価やBuying Groupの関与状況を確認する必要があります。
(図表3)評価・採用の状態に応じてKPIと次の打ち手を変える
このように整理すると、KPIは展示会の結果を報告するだけの数字ではなく、評価プロセスのボトルネックを発見するための指標になります。
たとえば、「サンプルを100件発送した」という実績だけを見るのではなく、「100件のうち評価開始が60件、追加評価が25件、採用検討に進んだ案件が10件」という形で見ることで、どの段階に課題があるのかを把握できます。
展示会KPIを3つのレイヤーで捉える
展示会全体では、KPIを3つのレイヤーに分けて考えると整理しやすくなります。
1.活動・獲得のKPI 来場者数、名刺獲得数、技術相談数、サンプル依頼数、サンプル発送数など、展示会を起点に発生した活動量を測ります。
2.評価・アカウント進捗のKPI 用途・要求特性把握率、サンプル化率、評価開始率、評価ステージ進行率、Buying Group充足率、接点部署数など、顧客の評価と社内意思決定がどこまで進んだかを測ります。
3.ビジネス進捗のKPI 採用検討移行率、採用率、量産移行率、商談・パイプラインなど、事業成果につながる進捗を測ります。
重要なのは、「サンプルを何件獲得したか」だけで展示会を評価しないことです。活動・獲得 → 評価の進行 → 社内採用プロセス → ビジネス成果までつなげて見ることで、展示会が案件をどこまで前進させたのかを評価できるようになります。
まずは重点案件3〜5件の「評価プロセス」を可視化する
すべての展示会リードを最初から詳細に管理する必要はありません。まずは、展示会後にサンプル依頼や具体的な技術相談が発生した重点案件を3〜5件程度選び、評価プロセスを可視化するところから始める方法があります。
1.重点アカウント・評価案件を選ぶ
2.用途・要求特性を整理する
3.現在の評価ステージを確認する
4.接点のある人物を部署・役割別に整理する
5.採用までに不足している関係者・情報を確認する
6.営業・技術・マーケティングで次のアクションを決める
7.月次などで評価・採用ステージの進捗を確認する
このプロセスを実際の案件で回してみることで、「展示会で何を聞いておくべきか」「サンプル管理にどの項目が必要か」「営業や技術部門が持つ情報をどこまで統合すべきか」が見えてきます。
最初からシステムや入力項目を完璧に設計するのではなく、実際の評価案件を通じて必要なデータと運用方法を見極め、徐々に対象を広げる方が取り組みやすいでしょう。
まとめ:展示会データを「サンプル提供」から「評価・採用プロセス」へ広げる
化学・素材・樹脂メーカーの展示会データ活用では、まず、関心製品、用途・開発テーマ、要求特性、評価ステージといった情報を取得することから始めます。
そして、展示会後にサンプル提供や技術相談が発生したら、それを単発の活動として終わらせるのではなく、**「そのサンプルが何の用途で評価され、現在どこまで進んでいるのか」**を継続的に捉えます。
さらに採用・量産までを考えると、研究・開発担当者だけではなく、設計、生産技術、品質、調達、開発責任者など複数の関係者へ視点を広げる必要があります。
つまり、データを見る範囲を、
個人リード → 用途・評価テーマ → サンプル評価 → Buying Group → 採用・量産
へと広げていくということです。
化学・素材・樹脂メーカーの展示会データ活用で目指したいのは、「サンプルを何件獲得したか」を管理することではなく、「顧客の評価・採用プロセスをどこまで前進させられたか」を把握することです。
展示会を単なるリード獲得やサンプル提供の場として終わらせず、用途開発や材料採用を前進させる起点にする。そのために、展示会で取得する情報、その後の評価データ、関係者情報、KPIまでを一体で設計することが、化学・素材・樹脂メーカーにおける展示会データ活用を一段進めるポイントです。
EM部 部長
久道 真之介
マーケティング戦略策定
通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。


