エンタープライズ企業におけるAdobe Marketo Engageの導入・運用
パワー・インタラクティブ マーケティング推進室(文責)
Adobe Marketo Engage(以下、Marketo)を導入したものの「思うように活用できていない」「施策の効果を測りきれていない」といった課題に直面する企業は少なくありません。
こうしたお悩みに応えるべく、パワー・インタラクティブでは、収益貢献の最大化を目指したプログラム設計・構築・運用の実践方法を紹介する『Adobe Marketo Engage チャンピオン実践講座』3回シリーズを開催。
第3回となる本セミナーでは、株式会社 日立製作所デジタルシステム&サービス営業統括本部の佐藤正樹氏をお招きし、エンタープライズ企業におけるMarketo活用のベストプラクティスについてお話しいただきました。
本稿では、セミナーで取り上げた内容を基に、Marketo運用改善のヒントをお届けします。
企業がデジタルマーケティングについて抱える課題

図表1:日立製作所がデジタルマーケティングチームを立ち上げた目的
多くの企業がデジタルマーケティングについて、次のような問題を抱えています。
・マーケティングプロセスを改善するために必要なデータを収集できていない
・Excelを使った手動でのデータ集計作業に時間をとられている
・部署やチームごとに集めた顧客データ同士が連携できていない
Marketo導入前の日立製作所も例に漏れず、顧客データの集計や管理について様々な問題を抱えていました。
具体的には、展示会での獲得リード、ウェビナー申込者、SNSフォロワーなどといった顧客データを部門間で連携できておらず、全社で一貫性のあるマーケティング施策を実行するためにデータ管理を一元化しなければいけない状況でした。また、顧客情報の集計をExcelへの手入力でおこなっていたことから、集計の自動化によるデータ整理の工数削減も喫緊の課題となっていました。

図表2:日立製作所のデータ基盤
そこで、同社は社内のマーケティングプロセスの改善やデータ管理フローの効率化を図るべく、2018年にデジタルマーケティングチームを設立。同年にMarketoを導入した後は、ターゲティングツールのスピーダやBIツールのMotionBoardなどの他ツールを連携させることで、部門をまたいだ情報共有とシステム基盤の強化に注力しました。
こうした取り組みにより、日立製作所はマーケティングプロセスをばらばらの「点」から統一された「線」に昇華させることを目指しました。
エンタープライズ企業において円滑にMarketoを導入する方法

図表3:日立製作所におけるデジタルマーケティング推進の流れ
Marketoの導入に難航する企業は決して少なくありません。その一因として挙げられるのが、従来の業務フローとの間に生じる軋轢です。特に、従業員数万人規模のエンタープライズ企業の場合、部署によって新しいツールへの適応性に差があることも多く、全社的な改革にはしばしば時間を要します。
このような悩みを抱えるエンタープライズ企業がMarketoの導入と運用を進める方法としては、まず小規模のチームで導入した後、少しずつ社内に協力者を増やしていくという手段があります。
日立製作所でも、まず2名のマーケティングチームでMarketoの運用を開始した後、営業部門の社員に協力を仰ぐといった進め方を採用しました。
具体的には、ターゲット商材を決めたうえでWebページの閲覧履歴やセミナー参加履歴など、顧客の行動分析結果を営業部門に共有し、Marketoを活用したデジタルマーケティングの関係者を段階的に増やしていきました。そして、営業部門全体の理解を得た段階で、マニュアル整備やSFAとの連携など、システム基盤の具体化に着手しました。
その結果、デジタルマーケティングチームが立ち上がってから1年ほど経ったころには社内全体でマーケティング・オートメーションを活用できる体制が整いました。
このように、少人数チームから段階的に運用規模を拡大していくことで、同社のような従業員1万人を超える企業においても、既存のシステムとの整合性の問題を最小限に抑えながらデジタルマーケティングの仕組みを整えることができます。
データ集約・運用を進めるうえでのポイント
次に、部門をまたいだデータ集約・運用をおこなうためのポイントを4つ紹介します。
1.集約したデータを活用するための動的なダッシュボード構築

図表4:活動目的や用途に合わせて情報を整理したダッシュボード
マーケティングプロセスの改善においては、集めたデータをどのように活用するかが問われます。
集計したデータを組織的に活用する手段としては、母集団形成のためにチャネル別の集客状況を可視化する、受注率向上のために商談時の情報を分析する(商談回数や先方担当者の役職)といったように、各部門が掲げる指標やデータの活用目的に合った情報を一目で確認できるダッシュボードの構築が有効です。
このとき、Marketoだけでは確認しづらい企業単位の情報などを可視化するためにBIツールをはじめとする他ツールとの連携を進めることも重要です。
2.中長期の運用を考慮した情報整理

図表5:BtoBビジネスでは、中長期的視点でデータを整理することが重要
BtoCと比較して顧客と接点を持ってから成約に至るまでの期間が長い傾向にあるBtoBのビジネスでは、月単位や年単位、あるいはそれ以上の中長期的なスパンで顧客データを分析する必要があります。
アクティブユーザーの月次分析、季節変動に加え、年単位でどのような顧客との関係が強まりつつあるかを観察することで、数年先を見据えたマーケティング施策を実践できるようになるだけでなく、自社の将来的な売上予測や今後の事業方針の立案にもつなげられます。
3.定期的にダッシュボードにアクセスできないメンバーへの対応

図表6:ダッシュボードへの頻繁なアクセスが難しい社員へのフォロー
営業メンバーとの連携を強化するには、頻繁にダッシュボードへアクセスすることが難しいメンバーへの情報共有も肝心です。
たとえば、マーケティング部門と異なり、外回りが多い営業部門のメンバーは、ダッシュボードを丁寧に読み解く時間が取りづらい傾向にあります。そうしたメンバーがMarketoの利点を活かしながら成果を上げられるようにするには、移動中や短時間でも情報を確認できる仕組みづくりが有効です。
日立製作所では、顧客が何か行動を起こしたときに、その情報を即座に営業担当者へ知らせるメールを配信。顧客のメール開封やセミナー登録、サイト来訪などの情報をこまめに共有することで、営業担当者がタイミングを逃すことなく、最適なアプローチができるようにしています。
このように、必要なデータを活用しやすい形で提供する仕組みを構築することで、Marketo運用を営業部門の生産性向上にもつなげることもできます。
4.デジタルとアナログの併用

図表7:アナログ施策の意義
Marketoを運用すれば、マーケティング施策の精度向上につながるデータを集計・共有できる環境が整います。その一方で、実際のビジネスの現場には数値的なデータだけでは拾い切れない情報も多くあります。
たとえば、ある顧客の受注率が季節によって大きく変動している場合「何月ごろに受注しやすいのか」はデータから読み取ることができます。しかし「なぜその時期に受注が増えるのか」という理由については、データからの読み取りは難しく、顧客と直接会話をして確認しない限りは知ることができません。
データから読み取れる情報量に限りがあることを踏まえ、日立製作所では、Marketo上のデータに加えて営業部門を通じて得た顧客の声も社内に共有するようにしています。これにより、データと生の情報を組み合わせた施策の立案が可能になりました。
自社が商談を進めている担当者はどういう人物で、どのような考えに基づき行動しているのか。こうした生の情報も参考にしながらデータを正しく解釈することは、顧客への適切なアプローチにつながります。
エンタープライズ企業でMarketoを最大限に活用するために
エンタープライズ企業でMarketoの導入・運用を進めるためのポイントは以下3つです。
まず、最初から全社的な導入を目指すのではなく、初期段階では小規模な運用から始めることです。従業員数の多い企業において、急激な業務フローの変更は摩擦を生み出す原因になり得ます。小規模チームで運用を始め、成果を出しながら段階的に理解者を増やしていく「小さく始めて大きく育てる」アプローチを取ることで、組織の中で着実にMarketo活用の幅を広げることができます。
次に大切なのが、収集したデータを多角的な視点から分析するための基盤構築です。部門によって「どのデータを見たいか」「データからどのようなことを読み取りたいか」は異なります。そのため、各部門と連携を取りながら目的に合わせたデータを揃え、あらゆる角度からデータを分析できるようにすることが重要です。
そして、デジタルとアナログを組み合わせた「顧客の顔を見るマーケティング」も重要です。顧客の価値観や思考、自社製品に関心を持った契機などといった定性的な情報を集めるためには、顧客と直接接点を持ちながら生の声に耳を傾けることが欠かせません。
Adobe Marketo Engage⽀援サービスの紹介
部門間で運用プロセスの共通認識を持ち、関連部門の社員にも使いやすい仕組みを整えることで、Marketoは本来の価値を発揮します。関係者同士でのコミュニケーションを丁寧に進め、全社で協力してデジタルマーケティングを進められる状態を目指しましょう。
パワー・インタラクティブでは、Marketoを活用して効率的なマーケティング活動の実現を目指す企業の支援をしています。
詳しくは『Adobe Marketo Engageテクニカルサポート』詳細ページをご覧ください。
パワー・インタラクティブ マーケティング推進室(文責)