GTM戦略を基盤としたRevOps実践
近年、多くの企業が部門間の連携不足やデータの分断により、マーケティング・営業活動の成果を横断して分析できないという問題に直面しています。そこで注目されているのが、RevOps(Revenue Operations)です。RevOpsは、マーケティング、営業、カスタマーサクセスを統合し、全社的な収益最大化を目指す新たなアプローチです。
パワー・インタラクティブでは、『GTM戦略から始めるRevOps実践セミナー』を開催。本セミナーでは、第1部講師としてゼロワングロース株式会社 代表取締役でChief Executive Officerの丸井 達郎氏をお招きし、Go-to-Market(以下、GTM)戦略の再構築によるRevOpsの実現方法と収益向上の達成についてお話しいただきました。
本稿では、セミナーで取り上げた内容を基に、GTM戦略から始めるRevOps導入と実践のヒントをお届けします。
レベニュープロセスとは
RevOpsを理解するうえでまず押さえておきたいのが「レベニュープロセス」の概念です。
レベニュープロセスは、企業が売上を創造する一連の流れを指します。多くの企業では、マーケティング部門でリードを獲得後、営業部門による商談化と受注、カスタマーサクセス部門によるアップセル・クロスセルという流れに沿って売上が創造されます。
・マーケティング
見込み顧客(リード)を創出し、興味度合いを高めて営業チームに引き渡す
・セールス(営業)
商談を具体化し、最終的に受注まで導く
・カスタマーサクセス
顧客化後のアップセル・クロスセル、リテンション率向上などを担う
このレベニュープロセスが円滑に回れば、投下したマーケティング費用の効率や営業の生産性は向上し、既存顧客への追加販売もスムーズに進む可能性が高まります。

図表1:レベニュープロセスとは
しかし実際には、多くの企業でマーケティング・営業・カスタマーサクセスが独立した組織となり、データや戦略がサイロ化される傾向にあります。
サイロ化が生み出す負のサイクル
データや戦略のサイロ化すると、あらゆる問題が発生します。
サイロ化によって生じる3つの問題
サイロ化によって生じるビジネス上の弊害としては、以下のような点が挙げられます。
・部門間で顧客情報が共有されない
・同じ機能を持ったツールを複数部門で導入してしまう
・レベニュー部門間で対立してしまう
こうした構造的な問題が生じる背景には、各部門がそれぞれ独自の目標や指標を追っているという事情があります。
マーケティング部門が「獲得リード数」、営業部門が「受注金額」、CS部門が「解約率」といったように、それぞれの部門が違った指標を重視し、全社共通の目標が定まっていなければ、部門を横断した連携は難しくなります。
サイロ化による負のサイクルの典型事例
それぞれの部門が共通して「収益」を最終目標としていたとしても、KPIが分断されると部分最適に陥り、全体の収益最大化が妨げられてしまいます。
部門 | 生じる悪影響 |
---|---|
マーケティング部門 | リード獲得数やウェビナー参加者数をKPIに設定しているが、商談化・受注化までは追っていない。その結果、営業チームに質の高いリードが供給されない |
営業部門 | 商談化が思うように進まず、受注金額のKPIが未達。達成のために、リテンション率を考慮せず無理な受注を進めてしまう |
カスタマーサクセス部門 | 無理な受注の影響で顧客満足度が低下し、最終的に解約率が上昇。成長が鈍化する |
このサイクルを断ち切り、レベニュー組織全体の最適化を図るには、部門横断で共通のKPIを設定し、各プロセスの収益貢献を可視化する必要があります。

図表2:部門ごとに異なるKPIを設定している
RevOpsとは何か
ビジネスの成長を加速させるためには、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが一体となり、データに基づいた意思決定を行うことが求められます。そこで注目されるのが、これらの部門を統合し、最適な収益創出プロセスを構築する「レベニューオペレーション(以下、RevOps)」という考え方です。
レベニュー組織への転換
近年、海外を中心に「CRO(Chief Revenue Officer)」という役職が注目を集めています。
CROは、マーケティング・営業・カスタマーサクセスといった売上にかかわる部門を一元的に束ね、全体最適を図るリーダーを指します。この役職が誕生した背景には、サイロ化を解消し、一貫したデータ活用や戦略立案を可能にする「レベニュー組織」へのニーズがあります。
しかし、CROを置くだけではデータ連携や整備が難しい場合、統括や意思決定に支障が出ることがあります。そこで注目されるのが、RevOpsという新たな専門領域です。
RevOpsの役割と成果
RevOpsは、マーケティングオペレーション(以下、MOps)、営業オペレーション(以下、SalesOps)、カスタマーサクセスオペレーション(以下、CSOps)を統合し、売上に関連するデータやテクノロジーを一元化する専門職として注目されています。適切にGTM戦略と統合することで、企業は市場環境に柔軟に対応しながら持続的な成長を実現できます。
ボストンコンサルティンググループ(BCG)の調査*1によると、RevOpsを導入した企業は以下のような成果を上げているといいます。
・デジタルマーケティングのROIが100〜200%向上
・営業生産性が10〜20%改善
・リードの受注率が10%向上
・GTM関連コストが30%削減
レベニュー組織全体での戦略の統合
レベニュー組織の成長には、GTM戦略とRevOpsの連携が不可欠です。
GTM戦略は、市場開拓の指針を定め、どの顧客層に、どのような手法でアプローチするかを決める役割を担います。しかし、戦略を策定するだけでは、実行段階で部門ごとのKPIやオペレーションが統一されず、成果に結びつかないことがあります。
この課題を解決するのがRevOpsです。RevOpsは、データやオペレーションを統合し、各部門が共通の目標に向かって連携できる環境を整えます。

図表3:戦略とデータの統合
RevOpsを導入することで、GTM戦略の実行精度が向上し、部門間の連携がスムーズになります。また、統合されたKPI管理により、戦略と成果のズレを可視化し、市場の変化にも迅速に対応できるようになります。
GTM戦略を成功させるには、戦略の策定だけでなく、実行段階においても部門間の整合性を保ち、継続的に改善できる仕組みを構築することが重要です。そのためには、RevOpsを基盤としたオペレーションの最適化が欠かせません。
GTM戦略設計の要点
次に、RevOps構築の前提となるGTM戦略設計のポイントを紹介します。GTM戦略とは、自社の製品・サービスを市場にどのように投入し、販売し、継続利用してもらうかを決める戦略を指します。
ICPとTarget accountの設定
「ICP(Ideal Customer Profile)」の明確化は、GTM戦略を進めるうえで重視すべきポイントの一つです。ICPとは、理想的な顧客の特徴を定義したものを指します。

図表4:ICPとTAM
ICPを明確化する際には、以下のように具体的な条件を設定します。
・業種:製造業
・年商:10億~15億円
・生産管理を高度化したいニーズがある企業
このようにターゲットを明確にし、そのターゲット層が抱える課題と自社提案をすり合わせることで、各部門が一致した方針で顧客開拓を進められます。
しかし、マーケティング・営業・カスタマーサクセスの各部門でターゲットについて異なる認識を持っている場合、組織全体の方向性が定まりません。そのため、ターゲット選定の段階でしっかりと議論し、合意を形成することが大切です。
競争優位性の確立
ICPを踏まえたら、自社の強みと弱み、競合の強みと弱みを整理し、差別化のポイントを見極めます。自社と競合との差別化要素を明確化し、独自のバリュープロポジションを確立したうえで、それをレベニュー組織で共有することが重要です。
GTMモーションの統一がもたらす成果
GTMモーションとは、市場を開拓し、収益を上げていくための戦略や手法を指します。
TMモーションは、対象となる業界やターゲットセグメントに応じて柔軟に設計する必要があります。しかし、これが整理されていなかったり、部門間で認識が一致していない場合、各部門が異なるアプローチを取ることで、組織全体の連携が損なわれる問題が発生します。
例えば、ターゲットが限られるニッチ市場向けの製品であれば、アカウントベースドマーケティング(以下、ABM)や購買グループベースのアプローチが適しています。しかし、マーケティングが大量のリード獲得施策を実施している一方で、営業は特定のアカウントに集中するといったズレが生じると、成果が上がりにくくなります。

図表5:統一されていないGTMモーション
こうしたズレを防ぐためには、マーケティング・営業・カスタマーサクセスが共通の指標を持ち、連携できる仕組みを構築することが必要です。GTM戦略を明確にすることで、レベニュー部門全体が連動したうえで市場開拓に取り組むことができます。
GTMモーションの選択
市場開拓から顧客獲得、収益最大化までを体系化するGTM戦略には、適切なGTMモーションの選択が欠かせません。企業のターゲット市場や商材特性に応じたGTMモーションを活用することで、効率的な収益拡大と組織全体の成長を実現できます。
代表的な6つのマーケティングモーション
GTMモーションには、主に6つのタイプがあります。
モーションタイプ | 詳細 |
---|---|
インバウンドレッド | コンテンツマーケティング、SEO、e-book、SNS、ウェビナーなどを通じた集客による成長 |
アウトバウンドレッド | ターゲット企業へのコールドコール、メール、LinkedInメッセージなど、自発的なアプローチによる成長 |
プロダクトレッド(PLG) | 製品自体が利用者を増やし、ユーザー同士で拡散していく仕組み |
パートナーレッド | パートナー企業との提携による市場拡大 |
イベントレッド | 展示会やカンファレンスへの出展による直接的なリード獲得 |
コミュニティレッド | ファンベースを醸成し、関係性を活かした利用拡大 |
従来、日本のBtoB領域ではインバウンドマーケティングが主流でした。
しかし、コンテンツ供給の増加により成果を上げにくくなり、近年ではアウトバウンド施策を強化する企業が増えています。また、AIの活用による大量のコールドメール送信が新たな課題を生んでおり、コミュニティレッドなど新しいモーションに挑戦する企業も増加しています。
代表的な営業モーション
営業戦略の選択も、GTM戦略の設計において重要な要素です。ターゲットとする企業の規模や担当者の階層によって、適切なアプローチは変化します。
モーションタイプ | 詳細 |
---|---|
トップダウン | CXOレベルの意思決定者にアプローチし、企業全体への導入を進める |
ミドルアウト | 部長クラスなど中間管理職が製品を検討し、上層部と現場の双方を巻き込んで導入を進める。SaaS導入ではこのパターンが増加 |
ボトムアップ | 一般ユーザーがフリーミアムなどで試用し、社内での評判や利便性をもとに全社導入へと拡大する(SlackやZoomなどが代表例) |
ただ単に広告やウェビナーを実施するだけでは、再現性のある成果にはつながりにくくなります。そのため、GTM戦略を設計する際は、ターゲット企業や商材特性に応じて、適切な営業モーションを組み合わせることが重要です。
GTMモーションの整合性が組織の成果を左右する
GTM戦略を進めるうえで、各レベニュー部門が異なる視点でターゲットを捉えていると、組織全体の方向性が揃わず、非効率な施策につながることがあります。そのため、どのような粒度でターゲットを捉え、管理していくかをレベニュー部門全体で統一する必要があります。
・リードベース
MQLなど、個人単位のデータ管理
・アカウントベース
ABMのように企業単位での攻略
・オポチュニティベース
購買グループ単位でのアプローチ

図表6:リード・アカウント・購買グループ
また、GTMモーションのズレは、業務の非効率化にとどまらず、組織全体の収益にまで影響します。GTMモーションが明確になっていなければ以下のようなズレが生じ、アプローチの一貫性が保たれなくなります。
・マーケティングは幅広いリードを獲得しようとするが、営業はターゲットを絞ったアプローチを求める
・カスタマーサクセスは既存顧客の拡張を重視するが、新規顧客開拓と連携が取れていない
・結果としてターゲット顧客に適切なメッセージが届かず、成果が上がらない
企業の成長フェーズや市場環境の変化に応じ、GTMモーションは柔軟な調整が必要ですが、各部門の方向性が一致していないとリソースが分散し、成果が出にくくなります。
例えば、アカウントベースのアプローチが必要な場面で、マーケティングがリード単位の施策を進めると、営業が求める質の高い商談機会を生み出せず、非効率な営業活動につながります。このようなズレが積み重なると、組織全体のパフォーマンスが低下し、成約率やLTVの向上が阻害されます。
GTMモーションを統一することは、単なる戦術の整備ではなく、組織の持続的な成長に直結する戦略的な取り組みです。各部門が独立して最適化された施策を実行するのではなく、GTM戦略全体の方針を共有し、一貫した戦略のもとで連携できるオペレーションモデルを確立することで、持続的かつ再現性のある成長が可能になります。
RevOpsが生み出す成果
GTM戦略を成功させるには、部門間の連携を強化し、データとプロセスを統合する仕組みが不可欠です。RevOpsはその基盤となり、組織全体の収益最大化と持続的な成長を支えます。
最後に、RevOpsがGTM戦略の実行をどのように支え、成果を生み出すのかを見ていきましょう。
データドリブンな意思決定の促進
RevOpsでは、統合されたデータ基盤を構築し、各部門が共通の指標をもとに行動できる環境を整えます。
これにより、リード獲得から商談化、成約、そしてカスタマーサクセスによる継続利用やアップセルまでの流れを一貫して追跡し、どこにボトルネックがあるのかを可視化できます。意思決定の精度が向上することで、より効果的な戦略立案と実行が可能になります。
プロセスの標準化と自動化
営業のフォローアッププロセスが各担当者の裁量に任されていると、対応の一貫性がなくなり、成果にばらつきが生じることがあります。
しかし、RevOpsが営業プロセスを標準化し、適切なタイミングで自動的にフォローアップメールが送信される仕組みを作れば、属人的な運用から脱却し、成果の再現性を高めることができます。
また、カスタマーサクセスにおいても、解約リスクの高い顧客をデータ分析によって事前に特定し、適切なアクションを取ることで、LTV(顧客生涯価値)の向上につなげることが可能になります。
継続的なGTM戦略の改善サイクル
市場環境は常に変化しており、一度決めたGTM戦略が長期的に有効とは限りません。
RevOpsはデータ分析を通じて市場の変化や施策の効果をリアルタイムで把握し、GTM戦略の微調整を行う役割も担います。
例えば、新規顧客獲得のコストが高騰している場合、既存顧客のアップセル・クロスセル施策に重点を置く戦略にシフトすることが考えられます。こうした判断を迅速に下し、実行に移すためのオペレーションが整備されているかどうかが、競争力の大きな分かれ目になります。
RevOpsで部門を横断したデータ活用とオペレーションの最適化を
市場競争が激化するなかで、企業の持続的な成長には、部門を横断したデータ活用とオペレーションの最適化が欠かせません。RevOpsを構築することで、マーケティング、営業、カスタマーサクセスの連携が強化され、データに基づいた意思決定が可能になります。
パワーインタラクティブでは、GTM戦略の策定からデータ統合、オペレーションの標準化を通じて、企業の業務効率の向上と収益の最大化を支援します。
詳しくは『RevOpsプロジェクト立ち上げ支援サービス』詳細ページをご覧ください。

パワー・インタラクティブ マーケティング推進室
<参考・参照>