マーケティングオートメーション(MA)と顧客関係管理システム(CRM)の連携は、マーケティングの収益貢献を見える化するうえで必要不可欠です。しかし、多くの日本企業では、MAとCRMの連携が進んでいません。
本記事では、多くの日本企業がMAとCRMを連携できずにいる理由と、それによって生じている問題、連携の成功事例を紹介しながら、MAとCRMの連携を実現する糸口を探ります。
MAとCRMの連携がうまくいかない理由としては、主に4つの問題が挙げられます。
標準のコネクタが用意されているMAとCRMを適切に運用していれば、連携は比較的容易に実現できます。
一方、利用しているMAとCRMの間にコネクタが提供されていない、もしくはコネクタに十分な機能が備わっていない場合、ツール同士の連携の難易度は上がります。
【国産のCRMを使用していたA社の事例】
MAとCRMを連携しようとしたA社ですが、導入済みのCRMには標準コネクタが提供されていませんでした。
そこで、APIでの開発を行いツールの連携を試みたものの、結果的にリアルタイムでのデータ同期は出来ず日次連携になってしまったり、連携したいデータも複雑なデータマッピングが実装出来ず実現できませんでした。
CRM側の運用、特に商談情報の管理が適切におこなわれていない場合もMAとの連携は難しくなります。
【大手メーカーB社の事例】
B社では、CRMにおける商談のステージ管理ルールが不明確になっていました。さらに、商談とリードを適切に紐づける作業もおこなわれていなかったため、誰に商談が紐づいているのかという重要な情報を適切に記録できていませんでした。
結果として、MAで取得したリード情報とCRMの商談情報を紐づけることができず、マーケティング活動の成果を正確に測定できないという問題に直面してしまいました。
日本企業特有の商談習慣や業務フローに合わせるためにCRMのオブジェクトを大幅にカスタマイズしている場合も、CRMとMAの連携が難しくなります。
【人材派遣会社C社の事例】
C社では日本特有の派遣事業に合わせて、海外製CRMを大幅にカスタマイズしていました。標準的な「リード」「取引先責任者」「商談」オブジェクトの定義を変更し、独自のオブジェクトを追加していたのです。
このカスタマイズにより、MAツールが想定するCRMの標準構造とC社のCRM構造の間には、大きな乖離が発生しました。MAが持っているリードデータと、カスタマイズされたCRM側のデータが適切に処理されないといった問題が生じました。
このような状況からツールの連携を進めようとすると、大規模な開発と膨大なリソース・予算・時間が必要となります。そのため、連携を諦めてしまう企業も少なくありません。
MA・CRM間のデータ連携やシステム統合には、専門的な知識や技術が求められます。そのため、専任のIT担当者が不在、またはリソースが不足している場合には、システムの連携が難しくなります。
さらに、日本企業では部門が縦割りになっており、マーケティング部門と営業部門のコミュニケーションが不足しがちです。更にCRMではIT担当者も関わっていることが多く、MA連携の優先度が下がる場合も多くあります。
そのため、MAとCRMの連携の必要性に関する認識が関係者の間で十分に広まらず、ツール同士の連携に向けた取り組みがなかなか進まないケースが少なくありません。
MAとCRMが連携されていない場合、どのような問題が発生するのでしょうか。ここでは主な3つの問題を紹介します。
MAで獲得したリード情報を手動でCRMに反映させる場合、CSVへの書き出しとインポート作業が発生します。このようなリードの連携フローだと、CSVエクスポートとインポートのたびに工数がかかるため、リアルタイムでのリード供給が難しくなります。
営業アプローチは顧客がアクションを起こしてすぐの方が成果に繋がりやすいものの、上記のような連携フローでは、すぐにアプローチを開始することができません。そのため、マーケティングが供給するリードからの成果が生まれにくく、マーケティングに対する必要性を実感してもらえないというデメリットがあります。
CRMに蓄積された顧客の詳細情報をMAで活用できなければ、顧客の契約状況や過去の取引履歴に基づいた施策を実施できません。マーケティング活動を通じて得た情報を基にしたセグメントはできますが、その効果は限定的なものになります。
CRMのデータを含んだパーソナライズされたコミュニケーションを実現すると、顧客にとって役立つ情報だけが届くようになり、結果としてマーケティング成果を挙げられるようになります。
MAとCRMを連携できない場合、マーケティング活動がどれだけ収益に貢献しているのかが分かりません。そのため、「どの施策にリソースを集中させるべきか」「どの施策を改善すべきか」といった適切な検討ができず、意思決定の精度が低下してしまいます。
一方、MAとCRMを連携によってマーケティング活動の収益貢献を見える化すれば、適切なリソース配分が可能となります。
それだけではなく、営業部門に対してはマーケティング活動の意義を説明でき、経営層に対してはマーケティング活動が収益に影響していることを説明できるようになるため、関係各所への説得力強化にもつながります。
これらの取り組みを通じ、社内でのマーケティングへの信頼が高まり、投資や協力を得やすくなります。
ここからは、MAとCRMの連携によってマーケティングと営業の効率を大幅に向上させた大手メーカーA社の事例を紹介します。
A社では、まず営業部門がSalesforceを導入し、その後デジタルマーケティング部門を中心にAdobe Marketo Engage(以下、Marketo)の導入が進められました。
これらのツールの実装と運用は、別々のプロジェクトとして進行したため、当初は両者の連携について十分な考慮がなされていませんでした。
A社が直面していた主な問題は以下の3点でした。
・リードの重複
・フィールドの不一致
・カスタム開発の存在
同社では、SalesforceとMarketoの両方でリード情報を管理していたため、それぞれのツール上に同じ顧客の情報が重複して存在し、正確な顧客管理が困難になっていました。また、それぞれのツールで使用しているフィールドの定義や命名が異なることから、データの整合性も取れていない状況でした。
さらに、Salesforce側に独自開発したシステムの存在が障壁となり、標準的な連携方法ではMarketoのフォームからの情報など、データの連携が難しい部分も見受けられました。
A社では、MarketoとSalesforceの連携に向けて以下の取り組みを進めていきました。
・フィールドの対応関係整理
・開発ベンダーとの協力
・リードの重複対応
まず、同社はツール連携に向けた準備として、両システムのデータを分析し、不要データの削除や重複の統合に着手しました。また、MarketoとSalesforceのフィールド対応表をExcelで作成し「会社名」と「取引先名」のような異なる名称のフィールドの対応関係も整理しました。
ツールを連携するうえで障壁となっていたSalesforceのカスタム開発箇所については、開発ベンダーと協力し、フォームからの情報をSalesforceで適切に処理できるように調整しました。
ツール間のデータ重複への対処策としては、どうしても人力でのマージ作業が必要ですがマーケティング部門内でリソースを確保し短期間で実施しました。
A社は、特定の部門からこれらの取り組みを開始し、徐々に複数部署へと展開していきました。これにより、負荷を最小限に抑えながらMAとCRMの連携を実現しました。
この事例は、日本企業におけるMAとCRMの連携の課題と、その解決に向けたアプローチを示す一例といえます。
MAとCRMの連携を効果的に進めるために押さえておきたいポイントは2つあります。
・MAとCRMを連携することの意義を営業部門(IT部門)に伝える
・各部門の役割分担を明確にする
まずは、営業部門にMAとCRMの連携の意義をしっかりと伝え、両部門間で共通の認識を持っておくことです。
CRM側の管理がIT部門であればIT部門も巻き込む必要があります。
話し合いの際には、商談フェーズの重要性やMAとCRMの連携がもたらすサポートの内容、そしてリードをコンバートするタイミングなどについて理解を促すことをおすすめします。
また、各部門の役割分担をはっきりさせておくことも重要です。特に社内にインサイドセールス部門がない場合は、営業部門とマーケティング部門の間で、リード管理や顧客情報の更新に関する責任範囲を明確に決めておく必要があります。
MAとCRMの連携は多くの企業にとって重要な課題でありながら、その実現には様々な障壁があります。
パワー・インタラクティブでは、MAとCRMの設定を見直し、マーケティング活動が収益にどれだけ貢献しているかを見える化するための支援をおこなっています。
マーケティング活動の収益貢献を見える化したい方、マーケティングと営業の連携を強化し、収益を上げたいと考えている方は、ぜひパワー・インタラクティブまでご相談ください。
マーケティングコンサルタント
山下 智
マーケティング戦略策定
Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!
2024.11.25
2024.01.18
2023.12.26