非エンジニアの私がAIで業務システムを作れるようになるまで──マーケターが越えたいくつもの壁
「AIを使えば何でもできる」。そんな言葉を耳にするたび、半信半疑でした。私はマーケティングコンサルタントであり、エンジニアではありません。コードを書いた経験もなければ、データベースの仕組みも知りませんでした。それが今では、BigQueryと連携したABMシステムやSNS投稿の仕組み、分析ダッシュボードを自分の手で構築しています。本稿では、技術の素人だった私がAIとともにシステムを形にしていった道のりをお伝えします。
非エンジニアがAIを「仕事のパートナー」として使いこなすには、技術力ではなく「聞き方」と「伝え方」の壁を越える必要があります。
わからないことはAIに聞けばいい──最初の気づき
非エンジニアにとって最初の壁は「聞くこと自体への躊躇」でした。AIは何度質問しても嫌な顔をしません。この気楽さが、技術の素人にとって最大の後押しになりました。
AIとの付き合いは、拍子抜けするほど単純なところから始まりました。わからないことを、そのままAIに聞く。ただそれだけのことが、最初の壁でした。
マーケティングの仕事をしていると、日々「これってどうやるんだろう」という場面に出くわします。レポートの集計方法、メールの配信設定、データの整理。以前なら社内のエンジニアに頼むか、検索して記事を読み漁るかの二択でした。
あるとき、試しにAIに聞いてみました。「このデータをこういう形に整理したいんだけど、どうすればいい?」。返ってきた答えは、完璧ではなかったものの、方向性を示してくれるものでした。検索エンジンで10個の記事を読み比べるより、はるかに早い。しかも、わからなければ追加で質問できます。
ここで大事だったのは「恥ずかしがらずに聞く」ことでした。エンジニアに質問するとき、「こんな初歩的なことを聞いていいのだろうか」と躊躇することがあります。AIにはその遠慮がいりません。何度聞いても嫌な顔をされない。この気楽さが、非エンジニアにとっては想像以上に大きかったのです。
立ちはだかった「いくつもの壁」
実務でAIを使うと「出力が的外れ」「作ったものを共有できない」という2つの壁が現れます。前者は聞き方に文脈を加えることで、後者は相手が使い慣れたツールに出口を作ることで突破できました。
聞けば答えてくれる。しかし、その答えが使えるかどうかは別問題です。非エンジニアがAIを実務で使おうとすると、思いもよらない壁が次々に現れました。
一つ目の壁は「出力が的外れ」だったことです。AIに質問しても、返ってくる答えがこちらの意図とまるで違う。例えば「ABMのターゲットリストを作りたい」と伝えると、ABMの一般的な解説が延々と返ってきます。私が欲しいのは手順であって、教科書ではありません。
この壁を越えるきっかけになったのは「AIへの聞き方にもコツがある」と気づいたことでした。背景を伝える。目的を伝える。今の状況を伝える。人間に仕事を依頼するときと同じで、文脈を共有しなければ的確な答えは返ってきません。「私はBtoBのマーケティング担当で、既存顧客のデータがBigQueryにある。このデータをもとに、業種と企業規模でセグメントしたターゲットリストを作りたい」。こう聞き方を変えただけで、返ってくる答えの精度が格段に上がりました。
二つ目の壁は「作ったものをどう共有するか」でした。AIの助けを借りてスクリプトやダッシュボードを作れるようになっても、それを同僚やクライアントに渡す方法がわかりません。ローカルの環境で動いているものを、どうやって他の人にも使ってもらえる形にするのか。
コードをコピーして渡しても、相手の環境では動きません。「ここをこう変えて実行してください」と説明しても、非エンジニアの同僚には伝わりません。結局、自分だけが使える便利ツールで終わってしまいます。この壁は正直、一番もどかしいものでした。
突破口になったのは、Googleスプレッドシートやスライドなど、相手がすでに使い慣れたツールに「出口」を作ることでした。BigQueryで処理したデータをスプレッドシートに自動で流し込む。分析結果をダッシュボードとして共有リンクで渡す。相手に新しいツールを覚えてもらう必要がない形にする。
特に効果が大きかったのが、Google Apps Script(GAS)でHTMLの画面を作り、それをそのまま共有するというやり方です。GASで作ったWebアプリは、Googleアカウントさえあれば誰でもアクセスできます。見た目は普通のWebページなので、相手は「何かのツールを使っている」という意識すら持ちません。裏側ではBigQueryからデータを取得して処理しています。それでも相手が触るのは、見慣れたGoogleの画面の中にあるシンプルなページだけです。
技術的にすごいものを作ることよりも、相手が迷わず使える形に整えることのほうが、ずっと難しく、ずっと大事でした。
気づけばシステムを作っていた
壁を越えるたびにできることが広がり、ABMシステム、SNS投稿の自動化、分析ダッシュボードを自分の手で構築するに至りました。完璧ではなくとも「自分の課題を自分で解決できる」事実が仕事を根本から変えています。
壁を一つ越えるたびに、できることが少しずつ広がっていきました。気づけば、かつてはエンジニアに依頼するか、サービス導入を検討していたような仕組みを、自分で組み立てるようになっていました。
最初に形になったのは、BigQueryと連携したABMシステムです。顧客データを業種・規模・行動履歴でセグメントし、優先度の高いアカウントを自動で抽出する仕組みです。以前なら外部ベンダーに発注するか、エンジニアに工数を確保してもらう必要がありました。それをAIに相談しながら、自分の手で作りました。完成したときの感覚は「すごいものを作った」というより「なんだ、こうすればよかったのか」という腑に落ちる感覚に近いものでした。
続いて取り組んだのがSNS投稿システムです。投稿の下書き生成、スケジュール管理、配信後の反応データの集約。これも一つひとつはシンプルな機能ですが、つなぎ合わせると日々の運用工数が大幅に減りました。
分析ダッシュボードも作りました。マーケティング施策の効果を一画面で俯瞰できるようにする。数字の羅列ではなく、意思決定に使える形に可視化する。これはクライアントへの報告にもそのまま使えるものになっています。
ただ、誤解のないように付け加えておくと、どのシステムも最初から完璧だったわけではありません。何度も作り直し、何度もAIに聞き直し、試行錯誤を重ねた結果です。エンジニアが作るものと比べれば粗い部分もあるでしょう。それでも「自分の業務課題を、自分で解決できる」という事実は、仕事の進め方を根本から変えてくれました。
非エンジニアだからこそ見えた景色
非エンジニアの強みは、業務課題を肌感覚で知っていることです。AIはその肌感覚を技術的な実現方法に翻訳する橋渡し役として機能しました。
振り返ってみると、非エンジニアであることはハンデではなく、むしろ強みだったのかもしれません。
エンジニアは「技術的に正しい方法」を知っています。しかし、マーケティングの現場で本当に必要なのは「業務として正しい方法」です。どのデータがあれば判断できるのか。どのタイミングで情報が欲しいのか。誰がどんな形で見たいのか。その肌感覚は、現場にいる人間にしかわかりません。
AIは、その肌感覚を形にする翻訳機のような存在でした。「こういうことがしたい」を伝えれば、技術的な実現方法を提案してくれます。非エンジニアの「こうだったらいいのに」と、エンジニアリングの「こうすれば実現できる」の間を、AIが橋渡ししてくれました。
もちろん、すべてを自分で作るべきだと言いたいわけではありません。大規模なシステムや高いセキュリティが求められる領域は、専門家に任せるべきです。しかし、日々の業務改善や施策の実行スピードを上げるための仕組みづくりなら、非エンジニアでも十分にできます。AIがその敷居を劇的に下げてくれました。
BtoB企業のマーケティング担当者で、「AIを使ってみたいけれど、自分には無理だ」と感じている方がいるなら、まずは一つだけ試してみてください。わからないことを、AIに聞いてみる。それだけでいいのです。壁は確かにあります。しかし、一つ越えるたびに景色が変わります。その先には、自分の手で業務を変えられるという、ちょっとした興奮が待っています。
よくある質問
Q1. プログラミングの知識がまったくなくてもAIでシステムは作れますか?
基本的なPC操作ができれば、簡易なシステムであれば構築可能です。ただし、AIへの指示の出し方(プロンプト)を工夫する必要があります。最初は小さな自動化から始めて、徐々に範囲を広げていくのが現実的です。
Q2. AIに質問しても的外れな回答が返ってくる場合、どうすればよいですか?
自分の立場、目的、現在の状況、期待するアウトプットの形式を具体的に伝えてください。「ABMについて教えて」ではなく「BtoBマーケターとして、BigQueryにある顧客データからターゲットリストを作る手順を教えて」のように聞くと、精度が大きく改善します。
Q3. AIで作った仕組みを社内で共有するコツはありますか?
相手がすでに使い慣れたツール(Googleスプレッドシートやスライドなど)をアウトプットの「出口」にすることが大切です。例えばGoogle Apps Script(GAS)でHTMLのWebアプリを作れば、Googleアカウントだけでアクセスできる画面を共有できます。新しいツールの導入を求めるのではなく、既存の業務フローの中に自然に組み込む形を意識すると、共有のハードルが下がります。
マーケティングコンサルタント
坂尾 富也
Webサイト構築/運用ディレクション
某IT上場会社にEC運営コンサルタントとして従事。パワー・インタラクティブではWebディレクターとして小中規模から大規模サイトの構築や運用に携わる。その知見を活かし、BtoBを中心にAccount EngagementやHubspotの導入・活用コンサルティングも担当。趣味はピアノ。



