コラム

GTM戦略で変わる!マーケ・営業連携による商談獲得の成功パターン

文責:マーケティングコンサルタント 久道 真之介

はじめに:GTM戦略は「絵に描いた餅」で終わっていませんか?

「GTM戦略(Go-To-Market Strategy)」という言葉は、最近よく耳にするようになりました。しかし、「実際、どう取り組めばいいのかわからない」「うちの会社には関係ない話だ」と感じている方もいるかもしれません。多くの企業で、マーケティング部門と営業部門が別々に動いてしまったり、特定の担当者しか成功事例を持っていなかったり、施策が単発で終わってしまったりといった課題を抱えています。本稿では、こうした「あるある」な課題を解決し、確実に成果を出すためのGTM戦略の全体像と具体的な進め方、そして成功のための重要なポイントを、ご紹介します。

GTM戦略の基本

あなたの会社ではこんなやりとり、発生していませんか?

・「あのリード(見込み客)はどうなった?」と営業部門がマーケティング部門に尋ねるけれど、その後が続かない。
・せっかく獲得したリードが、営業部門に引き渡されたまま「放置」されてしまうことがある。
・特定の営業担当者だけが成功体験を持っているけれど、それが他のメンバーに共有されず、誰でも再現できる「型」がない。
・実施した施策が「やりっぱなし」になり、その効果をきちんと振り返ったり改善したりすることができていない。

もし、これらに心当たりがあるなら、それはGTM戦略がまだ十分に機能していないサインかもしれません。

GTM戦略とは、部門の壁を越えて「事業成長を加速させる最適な連携体制」を構築する方法

GTM戦略とは、製品・サービスを「誰に・何を・どのように届けるか」を定義し、営業・マーケティング・カスタマーサクセス(CS)などの部門が一体となって、再現可能な仕組みを構築する手段です。ガートナーの2023年調査によると、実に企業の85%がGTM戦略を事業成長の鍵と認識しています。これまでのように、各部門がバラバラに施策を進める「部分最適」では、激しい競争の中で勝ち残ることが難しくなっています。GTM戦略をしっかりと整備し、組織全体で連携しながらデータに基づいて動くことが、今、非常に重要になっているのです。

GTM戦略が今、求められる3つの背景

1. 購買プロセスが複雑になっている
・BtoB(企業間取引)の場合、以前は一人の担当者が決めていた購買も、今では複数の部門の人が関わり、検討期間も長くなっています。
・顧客は営業担当者に頼るだけでなく、インターネットを使って自ら情報を収集し、製品やサービスを比較検討するようになっています。
・単に製品を売るだけでなく、それが顧客の事業にどう貢献できるのか、より具体的な価値提案が求められるようになりました。

2. マーケティング・営業・CS部門が分断されている
・マーケティングオートメーション(MA)や顧客関係管理(CRM)など、様々なテクノロジーが登場したことで、それぞれの部門で最適なツールを導入した結果、部門間の連携が難しくなるケースがあります。

3. 市場の競争が激化し、製品・サービスの差別化が難しい
・多くの製品やサービスが似たような機能を持つようになり、「コモディティ化」が進んでいます。
・機能の違いだけでは差別化が難しく、顧客にどんな「価値」を提供できるかがより重要になっています。

このように、顧客の購買行動は複雑になり、見込み客(リード)を単一の接点(例:Webフォームからの問い合わせ)だけで獲得し、その後の施策を考えるだけでは限界が来ています。そのため、多角的に、そして部門を超えて連携する「統合型GTM設計」が、今後の成長を導く鍵となるのです。

従来型 vs. 統合型GTM:MQL中心の施策はもう古い?

従来のマーケティングでは、MQL(Marketing Qualified Lead:マーケティング活動によって獲得された見込み客)を中心に考え、Webフォームからの問い合わせやホワイトペーパーのダウンロードといった「単一の接点」に依存していました。そして、リードのスコアリングも個人の行動ベースで行い、マーケティングから営業へ、一方的にリードを引き渡す「リレー形式」が一般的でした。KPI(重要業績評価指標)も、MQL、SQL(Sales Qualified Lead:営業担当者がアプローチすべき見込み客)、受注といったように、ステージごとに分断されていることが多かったのです。しかし、これでは限界があります。

多層的・統合型GTMモデルでは、顧客との接点をオンラインとオフラインの両方で「複数」持ち 、個人だけでなく「アカウント(企業)」単位で顧客を評価します(ABM:アカウントベースドマーケティング) 。そして、マーケティング、営業、CSが協力し合う「共創体制」を築きます。KPIも、ファネル(見込み客から顧客になるまでのプロセス)全体を通して一貫した貢献度を設計し(パイプライン) 、データ統合、共通指標、共通の意思決定文化を醸成します。

つまり、どの顧客層(レイヤー)に対して、誰が(どの部門が)、どのような目的で動くのかを明確にすることが、多層的かつ統合型のGTMの視点となるのです。

GTMの多層構造:全体像で考える重要性

BtoBの購買行動が複雑になり、顧客が誰なのか見えにくくなる中で、従来の単一的なGTM設計だけでは通用しません。製品単体、事業ユニット(複数の製品やサービスをまとめた事業の塊)、そして会社全体といった、複数の階層を横断して一貫性のあるアプローチを取ることが求められます。

日本企業がGTM戦略を進める上での課題と対策

統合的なアプローチは、日本企業にとって特に難易度が高いと言われています 。その理由としては、以下のような課題が挙げられます。

・CMO(最高マーケティング責任者)の設置が少なく、マーケティング全体を統括できる人材が不足している。
・各部門が異なるシステムを使っていたり、目標設定がバラバラだったりする「サイロ化」が進んでいる。
・全社的な収益最大化のために、部門間で連携すること自体に高いハードルがある。

これらの課題を乗り越えるために、GTM戦略への3つのアプローチが有効です。

アプローチ1:組織変革: マーケティング、営業、CSが一体となって収益を最大化する組織モデル「RevOps(Revenue Operations)」を構築し、全社的な意識を醸成します。
アプローチ2:データ統合と可視化: データ連携で意思決定につながるデータ活用基盤を構築します 。KPI(重要業績評価指標)を共通のダッシュボードで「見える化」します。
アプローチ3:段階的展開: 小さな成功事例(PoC:概念実証)を積み重ねて確実な成果を出し、その施策を誰でも再現できる「プレイブック」として整備することで、継続的に運用できる仕組みを確立します。

GTM戦略策定の事例

ここからは、実際にパワー・インタラクティブが支援したGTM戦略策定の事例を通して、具体的な進め方とポイントを見ていきましょう。

製品別および事業ユニット別GTM戦略の策定ステップ

GTM戦略の策定は、大きく「戦略設計」「実行設計」「運用改善」の3つのフェーズ、7つのステップで進めます 。

実践事例:ICT環境構築・運用を支援するSier企業

どのような課題があったか?
売上を110%増やすという中期経営計画が掲げられ、マーケティング活動が事業にどれだけ貢献しているかを「見える化」し、営業・CSと連携して売上を生み出す仕組みが必要とされました。
・電子デバイス事業の売却による事業ポートフォリオの再編があった 。
・各部門の役割分担が不明確で、顧客セグメントも曖昧だったため、営業活動の生産性が低かった。
・製品や部門がそれぞれ独立して動いていたため、顧客体験やブランドイメージが統一されていなかった。

GTM戦略導入でどう変わったか?
Webサイトのリニューアルをきっかけに、注力すべき領域を明確にし、GTM戦略を推進。結果として、成長4領域にリソースを集中できるようになり、メッセージングの統一化や営業・マーケ・CSの役割明確化と連携強化が実現しました。

具体的な進め方

・1年目上期: Web戦略の策定
・1年目下期~2年目上期: 全社的なデジタルマーケティング方針を策定し、Webサイトリニューアルプロジェクトを進める 。並行して、事業ユニット(例:コンタクトセンターソリューション)としてのGTM戦略策定と推進を開始 。
・2年目下期: 各製品別のGTM戦略策定と推進、別の事業ユニット(例:物流ソリューション)としてのGTM戦略策定と推進を開始 。

GTM戦略策定ステップにおけるポイント(事例①)
・ターゲット市場とICPの定義:
顧客の購買プロセスを「トップダウン」(経営層の意思決定)と「ボトムアップ」(現場の課題解決)の両面から整理し、それぞれのプロセスで顧客が何を求めているかを明確にし、Webサイト設計に反映しました。

・ポジショニングと価値提供設計:
自社が競合に対してどのような強みを持つのかを明確にし、Webサイトのコンテンツにも反映しました 。例えば、「音声×クラウド」のような重点テーマを設定し、製品の機能だけでなく、それが顧客の業務課題をどう解決できるのか、という「業務改善価値」を訴求するメッセージに変更しました 。また、経営層向けのコミュニケーション設計も実施しました。

・マーケティング・営業プロセスの最適化:
既存顧客と新規顧客、そして企業規模に応じて、マーケティングと営業のプロセスを整理しました 。既存顧客向けにはマイページを構築し、そこでのWebでの自己解決を促すとともに、顧客の行動ログを活用してCS部門との連携を強化しました。

・部門間連携の仕組みづくり:
マーケティング、営業、CS部門が参加する共有会議を月に1回定例化しました 。共通のダッシュボードを使って、マーケティングから営業へ引き渡されたリードの量と質を評価するようにしました。

成果につなげるための5つのポイント

GTM戦略を成功させ、具体的な成果につなげるためには、以下の5つのポイントが特に重要です。

ポイント1:戦略だけでなく「実行」まで設計する
せっかく素晴らしい戦略を立てても、「絵に描いた餅」で終わっては意味がありません。誰が、何を、いつまでにやるのか、という具体的な「実行計画」まで落とし込み、仕組み化することが重要です 。

ポイント2:共通言語化する
マーケティングと営業の間で「リード」の定義が異なっていると、連携がうまくいきません。共通の「リードの定義」を作り、目標や進捗状況を誰もが見られる「共通のダッシュボード」で可視化することが大切です 。

ポイント3:組織・体制を整える
マーケティング、営業、カスタマーサクセスが部門の壁を越えて協力し合い、一体となって運用する組織モデル「RevOps」を確立することが、GTM戦略成功の鍵です 。

ポイント4:「顧客視点」で考える
自社の製品やサービスが、顧客のどのような課題を解決できるのか、そしてその課題はすでに顧客自身が認識しているのか、現在の顧客はどのような状況なのかを、徹底的に深く理解することが重要です。

ポイント5:データ活用基盤を構築する
マーケティングデータ、営業データ、受注データをそれぞれ連携させ、紐づけて「見える化」できる環境を構築することが、データに基づいた意思決定には不可欠です。

GTM戦略におけるKPI設計・可視化のポイント

GTM戦略は、ただ設計するだけでは不十分です。実行した結果を正しく測定し、可視化することで、その戦略が有効だったのかを検証し、改善していく仕組みがあって初めて「機能する戦略」となります。

KPI設計および可視化における3つの視点

1. 「成功指標」を明確に選定する
GTMのKPIは、「どの階層で」「何を達成したいか」という目的に応じて定義する必要があります。戦略の目的から逆算して、「本当に測るべき成果」を設定することが鍵です。

2. 正確なデータ収集と分析方法を確立する
せっかくKPIを戦略的に設計しても、その元となるデータが不正確だったり、すぐ  に手に入らなかったりすれば、適切な意思決定や改善行動にはつながりません。

KPI可視化のためのデータ設計・収集・分析における3つの重要視点
視点1:複数のシステム(MA、CRM/SFAなど)を統合することを前提としたデータ構造を設計する。
視点2:見込み客から顧客になるまでのプロセス(ファネル進行)や、企業単位(アカウント視点)での顧客行動を適切にトラッキング(追跡)できるよう設計する。
視点3:データの「単一の情報源(SSOT:Single Source of Truth)」を確立し、BIツールを活用して可視化環境を構築する。

3. ダッシュボードを最大限に活用する
GTM戦略においては、「戦略の設計」と「データの構造設計」をセットで議論することが非常に重要です。ダッシュボードを活用することで、常に最新のデータを元に状況を把握し、素早い意思決定を行うことができます。

まとめ:GTM戦略成功のポイント

GTM戦略を成功に導くためには、以下の点が不可欠です。

・部門を横断し束ねる「RevOps」の組織・役割を構築すること。
・共通の目標を持ち、各部門の活動と収益貢献を「見える化」すること。
・戦略・戦術をMAやCRMといったテクノロジーに落とし込み、データで管理すること。
・戦略を立てるだけでなく、具体的な実行計画を策定し、それを「やり切る」実行力を高めること。
・顧客側の購買グループ(意思決定に関わる複数の人物)を意識し、各ステークホルダーの「解像度」を徹底的に高めること。

GTM戦略は、企業の事業成長を加速させるための重要な経営戦略です。しかし、「戦略を立てただけで実行できない」「データ活用が進まない」「部門間の連携がうまくいかない」といった課題に直面している企業も少なくありません。
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久道 真之介

ソリューション第1部 部長

久道 真之介

マーケティング戦略策定

通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。

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