コラム

AEO時代、海外顧客は営業に会う前にAIに相談する

執筆:執行役員 友田 彰宣

製造業の海外マーケティングに求められる「答えられる情報設計」

海外顧客の情報収集行動が大きく変わり始めています。

これまで製造業の海外営業では、展示会、現地販社、代理店、営業担当者が顧客との主要な接点でした。顧客は展示会で製品を知り、販社や営業担当者から説明を受け、比較検討を進める。こうした流れを前提に、海外市場の開拓は組み立てられてきました。

しかし現在、顧客は営業担当者に問い合わせる前に、Web検索や生成AIを使って自ら情報収集を進めています。製品カテゴリの違いを調べる。技術仕様を比較する。用途に合うソリューションを探す。候補となるメーカーを絞り込む。こうした検討の初期段階が、企業側から見えにくい場所で進むようになっています。

Google検索では、AI Overviewsの提供地域が100以上の国・地域へ拡大し、従来の検索結果一覧だけでなく、AIが生成した回答を通じて情報を得る機会が広がっています。

また、Gartnerが2025年に645人のBtoB購買担当者を対象に実施した調査では、45%が直近の購買で生成AIを利用し、主に企業や製品の情報収集に使ったと回答しています。

この変化は、海外マーケティングに大きな問いを投げかけています。

自社の製品情報は、海外顧客がAIに質問したときに、正しく理解される状態になっているでしょうか。
自社の技術や用途は、顧客の課題に対する「答え」として提示される状態になっているでしょうか。
海外販社や営業に接触する前の段階で、自社は候補企業として認識されているでしょうか。

本稿では、AEO時代における海外顧客の情報収集行動の変化と、製造業が本社主導で取り組むべき「答えられる情報設計」について考察します。

顧客は「検索する」だけでなく、「相談する」ようになった

従来の検索行動は、比較的シンプルでした。

顧客は検索エンジンにキーワードを入力し、表示された検索結果の中からページを選び、必要な情報を探していました。企業側はSEOに取り組み、自社サイトのページが検索結果に表示されるようにすることが重要でした。

しかし生成AIの普及によって、顧客の情報収集は「検索」から「相談」へと変化しています。

たとえば海外顧客は、次のような問いをAIに投げかけるかもしれません。

「東南アジアで食品工場向けに使える検査装置にはどのような種類があるか」
「この用途に適した日本メーカーはどこか」
「A社とB社の技術的な違いは何か」
「既存設備を活かしながら省人化するには、どのような選択肢があるか」
「欧州規制に対応した部材を選ぶ際の注意点は何か」

このとき、AIは単に検索結果を並べるのではなく、Web上の情報をもとに回答を生成します。顧客はその回答を起点に、製品カテゴリを理解し、候補企業を知り、比較検討を進めていきます。

つまり、顧客は営業に質問する前に、AIに質問しているのです。

この状況では、検索結果に表示されることだけでは十分ではありません。AIが自社の情報を理解し、顧客の問いに対する回答の中で参照できる状態をつくることが重要になります。

これが、AEO(Answer Engine Optimization)が注目される理由です。

AEOとは「AIに選ばれるためのSEO」ではない

AEOという言葉は、しばしば「AI検索に対応するためのSEO」として説明されます。もちろん、AI検索や生成AIの回答に自社情報が参照されやすくなることは重要です。

しかし、AEOを単なるSEOの延長として捉えると、本質を見誤ります。

AEOで重要なのは、顧客の問いに対して、自社が信頼できる答えを持っている状態をつくることです。

特に製造業の場合、顧客が知りたいのは、単なる製品名やスペックだけではありません。

・この製品は、どのような課題に適しているのか。
・どの業界や用途で使われているのか。
・既存設備や現場条件との相性はどうか。
・競合製品や代替手段と何が違うのか。
・導入時に注意すべき制約は何か。
・どの国や地域で提供可能なのか。
・問い合わせ後、どのような支援を受けられるのか。

こうした問いに答えられる情報が、Webサイトやコンテンツ上に整理されていなければ、AIに自社の製品や適用条件が正確に伝わりにくくなります。

AEOとは、AIに向けて小手先の対策を行うことではありません。
顧客の問いを起点に、自社の製品、技術、用途、事例、FAQ、比較情報を整理し、海外顧客にも理解される形で公開していく取り組みです。

言い換えれば、AEOとは「答えられる企業」になるための情報設計なのです。

海外マーケティングでAEOが重要になる理由

AEOは国内マーケティングだけのテーマではありません。むしろ、海外マーケティングにおいてこそ重要性が高まります。

海外顧客は、本社の営業担当者と直接接点を持つ前に、自国の言語や英語で情報収集を行います。現地販社や代理店に問い合わせる前に、WebサイトやAI検索を通じて、候補となる製品や企業を調べています。

このとき、自社の英語情報が不足していたり、製品ページがスペック中心だったり、用途情報や課題別の説明が整理されていなかったりすると、AIは自社を「顧客の課題に対する有力な選択肢」として認識しにくくなります。

その結果、実際には高い技術力や導入実績があっても、海外顧客の初期検討に入らない可能性があります。

これは、海外販社や代理店の営業力だけでは補いきれない問題です。なぜなら、顧客が販社に接触する前の段階で、すでに候補企業の絞り込みが進んでいるからです。

McKinseyのB2B調査でも、BtoB購買におけるリモート対応やセルフサービスの重要性が高まっていることが示されています。購買プロセスのデジタル化が進むなかで、顧客は営業担当者と会う前に、より多くの情報を自ら集め、判断するようになっています。

海外顧客がAIに相談する時代には、本社が持つ一次情報を、海外市場向けに再設計することが欠かせません。

AIは「情報がない企業」を推薦できない

生成AIは便利ですが、万能ではありません。
AIは、存在しない情報を正確に理解することはできません。

自社サイトに十分な情報がなければ、AIは自社の強みを把握できません。製品情報がPDFカタログ※だけに閉じていれば、AIが内容を適切に参照できない可能性があります。導入事例が国内向けの営業資料にしか存在しなければ、海外顧客の問いに対する回答には反映されにくくなります。

※PDF形式そのものが問題というわけではありません。GoogleはPDFを検索対象として扱っています。ただし、本文が画像化されていたり、見出し、用途、適用条件が整理されていなかったりすると、内容が正確に理解されにくくなる可能性があります。

特に製造業では、次のような情報が社内に埋もれがちです。

・営業担当者がよく説明している製品の使い分け。
・技術担当者が理解している用途別の適合条件。
・販社が現地でよく受ける質問。
・既存顧客の導入背景や選定理由。
・製品開発部門が把握している技術的な優位性。
・サポート部門に蓄積されているトラブル回避の知見。

これらは、顧客にとって非常に価値のある情報です。しかし、Web上に整理されていなければ、顧客にもAIにも届きません。

AEO時代に重要なのは、社内にある知見を、顧客の問いに答えるコンテンツとして外部化することです。

営業現場や技術部門に蓄積された暗黙知を、FAQ、用途別ページ、比較表、技術コラム、導入事例、ホワイトペーパーとして整理する。海外顧客が使う言語で、検索やAIに理解されやすい形で公開する。こうした取り組みが、海外市場での発見可能性を高めていきます。

営業の役割はなくならない。求められる役割が変わる

AIが情報収集の入り口になると、「営業や販社の役割は小さくなるのではないか」と感じるかもしれません。

ただし、営業や販社が不要になるわけではありません。

顧客がAIを使って情報収集を進めるほど、営業や販社には、より高度な役割が求められます。一般的な製品説明ではなく、顧客の状況に即した提案、導入条件の確認、社内合意形成の支援、リスクや制約の整理が重要になるからです。

Gartnerの調査でも、B2B購買担当者がAIで得たインサイトを営業担当者に確認・検証する動きが示されています。AIが情報収集を支援する一方で、最終的な判断には人による検証や信頼形成が求められていると考えられます。

つまり、AIは営業を不要にするものではありません。
営業や販社が顧客と向き合う前に、顧客の理解を深めるための入口になります。

本社がAEOを通じて顧客の情報収集段階を支援し、販社や営業が個別状況に応じた提案を行う。この役割分担ができれば、海外営業はより効果的になります。

重要なのは、AIに任せることではありません。
AIに相談する顧客に対して、自社が正しく理解される状態をつくり、その後の営業接点につなげることです。

本社が公開すべき情報

AIや検索エンジンに自社を正しく理解してもらうには、製品名や仕様だけでは足りません。
用途、適用条件、比較情報、導入事例、FAQなど、顧客が判断するために必要な情報をWeb上で確認できるようにする必要があります。

これらの情報をどのように整理し、海外顧客へ伝わる形に設計するかは、次回の「海外向けコンテンツは翻訳だけでは足りない」で詳しく取り上げます。

AEOはコンテンツだけでなく、データと運用の問題である

AEOに取り組む際、コンテンツ制作だけに目が向きがちです。もちろん、顧客の問いに答えるコンテンツを整備することは重要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

どの国から、どのページが見られているのか。
どの製品や用途へのアクセスが増えているのか。
どのFAQが読まれているのか。
どの資料ダウンロードが問い合わせにつながっているのか。
どの販社に共有すべきリードなのか。

こうしたデータを把握し、改善につなげる運用が必要です。

AEO時代の海外マーケティングでは、コンテンツ、Webサイト、MA、CRM、販社連携を一体で設計することが重要になります。海外顧客がAIやWebで情報収集し、その行動がデータとして蓄積され、本社と販社が共有し、営業活動に活かされる。この流れをつくることが、本社主導の海外マーケティングの基盤になります。

AEOは、検索対策ではありません。
海外顧客の問いを起点に、情報、データ、営業連携を再設計する取り組みです。

まずは、海外顧客の問いを集めることから始める

海外AEOに取り組む第一歩は、ツール導入ではありません。
まずは、海外顧客がどのような問いを持っているのかを集めることです。

販社がよく受ける質問。
営業担当者が商談で説明している内容。
展示会で繰り返し聞かれる質問。
問い合わせフォームに記載される相談内容。
検索キーワードやサイト内検索の傾向。
技術資料のダウンロード理由。
既存顧客が導入前に悩んでいたこと。

これらを整理すると、海外顧客がAIに相談しそうな問いが見えてきます。

その問いに対して、自社サイト上に十分な答えがあるか。英語や現地語で説明できているか。製品ページ、用途ページ、FAQ、事例、ホワイトペーパーのどこで答えるべきか。こうした観点で情報を見直すことが、AEO対応の出発点になります。

大規模なグローバルサイト刷新から始める必要はありません。
まずは重点国、重点製品、重点用途を絞り、顧客の問いに答える情報を整備することから始めるべきです。

海外顧客に「見つけられる」企業から、「答えとして選ばれる」企業へ

これまでの海外マーケティングでは、いかに顧客に見つけてもらうかが重要でした。SEO、展示会、広告、販社ネットワークは、そのための有効な手段でした。

しかしAEO時代には、それだけでは不十分です。

これから重要になるのは、海外顧客の問いに対して、自社が信頼できる答えとして選ばれることです。

顧客がAIに相談したとき、自社の製品や技術が正しく理解される。
顧客が課題を調べたとき、自社のコンテンツが参考情報として届く。
顧客が候補企業を比較したとき、自社の強みや適用条件が明確に伝わる。
そのうえで、販社や営業が個別の提案に進む。

この流れをつくることが、AEO時代の海外マーケティングに求められています。

海外顧客は、営業に会う前にAIに相談する。
だからこそ本社は、AIにも顧客にも伝わる情報設計を整える必要があります。

海外市場で選ばれるためには、技術力や製品力だけでなく、それを顧客の問いに対する答えとして届ける力が必要になっているのです。

海外AEO対応の第一歩は、顧客の問いを可視化すること

パワー・インタラクティブでは、製造業の海外マーケティングに向けて、海外顧客の情報収集行動を踏まえたコンテンツ設計、AEO対応、Webサイト・MA・CRMの活用、販社連携の仕組みづくりを支援しています。

海外向けの製品情報や技術コンテンツを、顧客の問いに答える形へ再設計したい。
海外販社が受けている質問や商談情報を、本社のマーケティング資産として活用したい。
WebやAI検索で海外顧客に見つけられ、商談につながる仕組みを整えたい。

そのような課題をお持ちの方は、まずは海外顧客の問いと既存コンテンツの棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。

次回は、「海外向けコンテンツは翻訳だけでは足りない」と題し、製造業が海外顧客に伝わる情報を設計するためのコンテンツ戦略について考察します。

連載「AEO・AI時代の製造業グローバルマーケティング」
本記事は、AI時代の製造業に求められる海外マーケティングのあり方を、全5回+付録で解説する連載企画の第2回です。
海外顧客の情報収集が、検索エンジンだけでなく生成AIへと広がるなか、日本企業は海外市場との顧客接点をどのように構築していくべきなのでしょうか。
本連載では、海外顧客の可視化、AEO、海外向けコンテンツ、AIを活用したターゲット企業開拓、グローバルABMと販社連携まで、海外マーケティングを進化させるための考え方と実践方法を順を追って解説します。

連載INDEX
第1回:海外販社任せでは見えない顧客がいる
第2回:AEO時代、海外顧客は営業に会う前にAIに相談する(現在の記事)
第3回:海外向けコンテンツは翻訳だけでは足りない
第4回:AI時代の海外ターゲット企業開拓
第5回:グローバルABMと販社連携の未来
付録:海外マーケティングのMA・CRMはどう選ぶべきか

友田 彰宣

執行役員

友田 彰宣

マーケティング戦略策定

大規模Web開発案件のプロジェクトマネージャーや、コンサルタントとして事業方針に即したデジタルマーケティング戦略設計や組織横断の運用体制づくりを中心に従事。最近はプラットフォーム活用に向けたデータ連携案件や個別開発にも多数携わる。

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