コラム

AI時代の海外ターゲット企業開拓

執筆:執行役員 友田 彰宣

「問い合わせを待つ」から「狙う企業を決める」へ

前回の記事では、海外向けコンテンツを単に翻訳するのではなく、海外顧客が判断できる情報として設計する必要性を取り上げました。

こうしたコンテンツを公開し、Webサイトの閲覧、資料ダウンロード、ウェビナー参加、問い合わせなどの反応を蓄積できるようになると、次に考えるべき課題が見えてきます。

それは、「どの企業を優先して開拓するか」です。

特にBtoB製造業では、商談化までに複数の関係者が関わり、検討期間も長くなる場合があります。そのため、すべてのリードへ一律に対応するのではなく、企業単位で優先順位を定める必要があります。

本稿では、企業データと顧客行動データを組み合わせた、ターゲット企業起点の海外市場開拓について考察します。

リード獲得中心のマーケティングが抱える限界

多くの企業では、海外マーケティングの成果を、問い合わせ件数、リード数、資料ダウンロード数、ウェビナー申込数などで評価しています。

もちろん、これらは重要な指標です。
海外市場での認知を広げ、見込み顧客との接点を増やすためには、一定量のリード獲得が必要です。

しかし、BtoB製造業においては、リード数だけを追いかけても成果につながりにくい場合があります。

たとえば、100件の問い合わせを獲得しても、実際に商談化する企業が数社にとどまることがあります。問い合わせ内容が自社の重点領域と合っていない。対象企業の規模が小さい。予算や導入時期が合わない。販社がフォローしても、具体的な案件に進まない。こうしたことは珍しくありません。

一方で、たった1社でも、重要なターゲット企業との接点が生まれれば、大きな事業機会につながることがあります。特に製造業では、1社との関係構築が長期的な取引、複数拠点への展開、周辺製品への広がりにつながることもあります。

つまり、海外マーケティングでは「量」だけでなく、「どの企業との接点をつくるか」が重要になります。

リードを多く集めることは目的ではありません。
事業成長につながる企業との関係をつくることが目的です。

顧客を待つ時代から、顧客を選ぶ時代へ

これまでのデジタルマーケティングは、「問い合わせを増やすこと」に重点が置かれてきました。

Webサイトを改善する。広告を出す。コンテンツを公開する。ホワイトペーパーを用意する。ウェビナーを開催する。こうした施策を通じて、見込み顧客からの反応を獲得することが重視されてきました。

しかし、海外市場で本当に成果を上げるためには、「誰から問い合わせが来るかを待つ」だけでは不十分です。

近年、BtoBマーケティングではABM(Account Based Marketing)の考え方が広がっています。ABMとは、先にターゲット企業を定義し、その企業との関係構築を進めるアプローチです。

たとえば、次のような条件でターゲット企業群を定義します。

・東南アジアに製造拠点を持つ。
・売上規模が一定以上である。
・設備投資が活発である。
・自社製品の導入可能性が高い業界に属している。
・既存顧客と類似した課題を持っている。
・現地販社がアプローチ可能な地域に拠点を持っている。

このように、あらかじめ狙うべき企業群を定め、その企業に対してコンテンツ、広告、ウェビナー、メール、営業活動を組み合わせて接点をつくっていく。これが、問い合わせを待つマーケティングとは異なる点です。

海外市場では、顧客数も地域も広がります。だからこそ、すべての企業を対象にするのではなく、どの企業に注力するのかを決めることが重要になります。

AEO時代はABMと相性が良い

AEO時代になると、企業は顧客が検索する課題やテーマに対して情報発信を行うようになります。

たとえば、設備保守の効率化、省エネルギー化、予知保全、品質管理の高度化、製造現場の省人化、サプライチェーンの見直しなど、顧客の課題に応える情報を整備していきます。

このようなコンテンツが増えると、どの国で、どの企業が、どのテーマに関心を持っているのかが徐々に見えてきます。

・ある企業が、特定の製品ページを何度も閲覧している。
・同じ企業から複数名が技術資料をダウンロードしている。
・同じ業界の企業が、特定の課題コンテンツに反応している。
・ウェビナー参加後に、関連するFAQや事例ページを見ている。
・問い合わせには至っていないが、検討度が高まりつつある兆候がある。

ここで重要なのは、単なるページビューやリード数ではなく、企業単位で顧客を理解することです。

個人単位の行動だけを見ていても、BtoB購買の全体像は見えません。BtoB製造業の購買では、技術部門、購買部門、生産部門、経営層、現地拠点、本社など、複数の関係者が意思決定に関わります。そのため、個人のリード情報だけでなく、「どの企業が、どのテーマに、どの程度関心を示しているのか」を捉える必要があります。

AEOによって顧客の課題に応えるコンテンツを整備し、その反応を企業単位で把握する。
この考え方は、ABMと非常に相性が良いのです。

企業データ活用が重要になる理由

ただし、企業単位で顧客を理解するためには、行動データだけでは不十分です。

Webサイトを訪問した。技術資料をダウンロードした。ウェビナーに参加した。こうした行動データは、顧客の関心を知るうえで重要です。しかし、その企業が本当に自社にとって重要なターゲットなのかを判断するには、企業属性の情報が必要になります。

たとえば、海外市場には数万、数十万という企業が存在します。その中から有望な企業を見つけるためには、次のような企業データが重要になります。

・業種。
・企業規模。
・売上規模。
・拠点数。
・成長性。
・信用情報。
・親会社・グループ会社。
・海外展開状況。
・設備投資の可能性。
・既存顧客との類似性。
・現地販社の対応可能性。

これまで、海外ターゲット企業の選定は、営業担当者の経験や販社の人脈に依存する部分が大きくありました。もちろん、現地を知る人の経験は今後も重要です。

しかし、AI時代には、企業データを活用することで、ターゲット選定をより客観的に行えるようになります。

・どの国に有望企業が多いのか。
・どの業界に成長企業が集まっているのか。
・既存顧客に似た企業はどこか。
・自社の重点テーマと親和性の高い企業群はどこか。
・販社がアプローチしやすい企業はどこか。

こうした問いに対して、企業データとAI分析を組み合わせることで、海外市場の見方は大きく変わります。

Global MOpsと企業データの融合

Global MOpsが目指すのは、単に顧客行動データを管理することではありません。

重要なのは、企業データと顧客行動データを組み合わせることです。

たとえば、ある企業がWebサイトを訪問し、技術資料をダウンロードし、ウェビナーに参加したとします。これだけでも関心度の高い企業であることは分かります。

さらに、その企業について、次のような情報が分かっていたらどうでしょうか。

・大手製造業である。
・売上が成長している。
・海外拠点を拡大している。
・自社製品の導入余地がある業界に属している。
・既存顧客と似た課題を持っている。
・現地販社が対応可能な地域に拠点を持っている。

この場合、その企業は優先的に確認する候補になります。

一方で、Web上の反応があっても、企業規模、事業内容、対象地域、販社の対応可能性などが自社の重点方針と合わない場合は、優先順位を下げることも考えられます。

つまり、行動データだけではなく、企業属性を加味した判断が必要なのです。

Global MOpsにおいては、Web、MA、CRM、問い合わせデータ、販社からのフィードバックに加えて、外部の企業データや信用情報を組み合わせることで、海外ターゲット企業の優先順位を設計できます。

これは、海外市場開拓を「反応があったリードへの対応」から、「狙うべき企業への継続的な関係構築」へと変える取り組みです。

AIはターゲット企業選定をどう変えるのか

AIの活用によって、ターゲット企業の選定はさらに高度化していきます。

これまでのターゲットリスト作成では、国、業種、売上規模、従業員数などの条件で企業を抽出することが中心でした。もちろん、こうした基本条件は今後も重要です。

しかしAIを活用すれば、より複合的な観点からターゲット企業を見つけることができます。

・既存顧客と似ている企業を抽出する。
・成長性の高い企業群を見つける。
・特定テーマへの関心が高まりそうな業界を推定する。
・Web行動データと企業属性を組み合わせて優先順位をつける。
・販社がフォローすべき企業を提示する。
・商談化しやすい企業の特徴を学習する。

AIは、営業やマーケティングの判断を置き換えるものではありません。
しかし、膨大な企業データや顧客行動データの中から、有望な兆候を見つける補助線になります。

海外市場では、対象企業の数が多く、地域も広く、情報も分散しています。だからこそ、AIを活用して市場を整理し、優先順位をつけることが重要になります。

本社のデータと販社の現地知見を組み合わせる

海外販社モデルが成功してきた理由の一つは、現地市場をよく知る人が顧客を理解していたことです。販社や代理店は、顧客との関係性、商習慣、競合状況、価格感、現地ならではのニーズを把握してきました。

企業データと顧客行動データからターゲット候補を整理した後は、現地市場を知る販社の判断を加える必要があります。

データ上の優先度が高くても、既存取引、商流、競合関係、価格、対応可能地域などによっては、すぐにアプローチできない場合があります。

本社が持つデータと、販社が持つ顧客との関係性や現地事情を組み合わせることで、ターゲット企業の選定精度を高められます。

選定した企業をどのような情報とともに販社へ共有し、営業活動の結果をどのように本社へ戻すかについては、次回の記事で詳しく取り上げます。

「問い合わせを待つ」から「狙う企業を決める」へ

AI時代の海外マーケティングでは、問い合わせを増やすだけでは不十分です。

重要なのは、どの企業と関係をつくるべきかを明確にすることです。

・リード数ではなく、ターゲット企業との接点を見る。
・個人の反応だけでなく、企業単位の関心を見る。
・行動データだけでなく、企業属性を組み合わせる。
・販社の経験だけでなく、企業データとAI分析を活用する。
・本社と販社が同じターゲット企業を見ながら、市場開拓を進める。

こうした取り組みを通じて、海外マーケティングは「問い合わせを待つ活動」から、「狙う企業との関係をつくる活動」へと変わっていきます。

・AEOによって顧客の問いに答える。
・Global MOpsによって行動データを蓄積する。
・企業データによってターゲット企業を定義する。
・AIによって有望な兆候を見つける。
・販社との連携によって商談化につなげる。

この一連の流れを設計することが、AI時代の海外ターゲット企業開拓に求められています。

海外ターゲット企業の選定は、データの棚卸しから

パワー・インタラクティブでは、製造業の海外マーケティングに向けて、AEO対応、海外向けコンテンツ設計、MA・CRM活用、企業データ活用、販社連携を含めたGlobal MOpsの仕組みづくりを支援しています。

海外市場でリードは獲得しているが、商談化につながる企業が見えない。
どの国・業界・企業群を優先すべきか整理できていない。
販社任せではなく、本社としてターゲット企業を把握したい。
企業データと顧客行動データを組み合わせて、海外ABMに取り組みたい。

そのような課題をお持ちの方は、まずは既存の顧客データ、問い合わせデータ、Web行動データ、販社が持つターゲットリストを棚卸しすることから始めてみてはいかがでしょうか。

次回は、「グローバルABMと販社連携の未来」と題し、企業データ、マーケティングデータ、営業活動をどのようにつなげるべきかを考察します。

友田 彰宣

執行役員

友田 彰宣

マーケティング戦略策定

大規模Web開発案件のプロジェクトマネージャーや、コンサルタントとして事業方針に即したデジタルマーケティング戦略設計や組織横断の運用体制づくりを中心に従事。最近はプラットフォーム活用に向けたデータ連携案件や個別開発にも多数携わる。

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