コラム

Marketo MCPで変わるMA運用——AIが行動ログから“今追うべきリード”を見つける時代へ

執筆:マーケティングコンサルタント 山下 智

Adobe Marketo Engageの大きな特徴のひとつに、REST APIが非常に充実していることがあります。

MarketoのREST APIは、リードデータをエクスポートするだけでなく、リードのインポート、更新、マージ、リスト管理、アクティビティ取得、プログラムやメール、フォームなどのアセット操作まで、幅広い業務に対応しています。Lead Database系、Asset系をはじめ、Marketoインスタンス内のデータや設定、マーケティングアセットに対して、かなり細かな操作ができることは、Marketoの大きな強みです。

これまでも、この充実したREST APIを活用すれば、データ連携や自動処理を実現することはできました。しかし実際には、システムプログラムを開発し、動かし続けるための運用保守が必要でした。あるいは、ExcelやGoogleスプレッドシートのマクロ、Google Apps Scriptなどを使って、個別にスクリプトを組む必要がありました。

つまり、MarketoのAPIは強力である一方で、その力を使いこなすには一定の技術力と運用体制が必要だったのです。

今回、Adobe Marketo Engageにおいて、MCP(Model Context Protocol)サーバーの提供が始まりました。MCPとは、AIツールが外部サービスやデータソースと接続するためのオープンスタンダードです。

Marketo Engage MCPサーバーは、AIアシスタントとMarketoの間をつなぐブリッジとして機能します。Adobeの説明では、フォーム、プログラム、スマートキャンペーン、リード、メール、スニペット、リスト、フォルダーなど、100以上の業務をカバーするとされています。

注目すべきは、AIツールがMCPサーバーを呼び出すと、MCPサーバーが対応するREST API呼び出しを代わりに実行するという点です。サーバーサイドソフトウェアをインストールしたり、デプロイしたり、運用保守したりする必要はありません。

これまでシステム開発やスクリプト実装が必要だったMarketoのAPI活用を、生成AIを通じて、より短時間・低コスト・柔軟に利用できる可能性が出てきたということです。これは、Marketoユーザーにとって非常に楽しみな変化であり、期待の大きいアップデートだといえます。

ただし、今回のリリースを見る限り、Marketo Engage MCPサーバーはREST APIを土台に、AIツールからMarketoのデータや機能にアクセスできるようにする仕組みと考えられますが、REST APIで可能なすべての操作がMCP経由で同等に利用できるかは、実際の検証やAdobeへの確認が必要です。

いずれにしても、MCPの登場によって、今後はAIに対して自然言語で指示しながら、Marketo内の情報を確認したり、運用状況を整理したり、次のアクション候補を抽出したりする活用が現実味を帯びてきました。

Marketo MCPで広がる活用の可能性

Adobeの説明によると、Marketo Engage MCPサーバーでは、Marketoの標準REST APIを通じて、AIツールからさまざまな操作が可能になります。

たとえば、承認済みフォームの一覧取得、フォームの作成・複製・承認、スマートキャンペーンの作成や確認、スマートリストフィルターやフローステップの確認、リードの検索・作成・更新、静的リストの作成やメンバー管理、プログラムの作成・複製・タグ付け、メールやスニペットの確認・更新、フォルダーやチャネル、タグタイプなどの確認、一括エクスポートやジョブステータスの確認などが対象になります。

つまり、AIがMarketoのデータや設定を読み取り、必要に応じて操作を補助できる環境が整い始めているということです。

これにより、たとえば次のような活用が考えられます。

・レポート作成やダッシュボード更新の自動化
・インサイドセールス向けのリード行動サマリー生成
・条件に合致するリード抽出の自動化
・セグメント付与やリスト追加の支援
・スコアリング付与やスコア変動理由の確認
・リードに応じたコンテンツレコメンドの差し込み
・プログラム複製や関連アセット作成の支援
・データ連携処理の自動化
・データクレンジングの支援
・Marketoインスタンスやデータベースのヘルスチェック

もちろん、これらをすべてすぐに本番環境で自動実行すべきという意味ではありません。特にリード情報の更新、セグメント付与、スコアリング変更、プログラムやアセットの作成・更新などは、業務影響が大きいため、権限設計や承認フローが欠かせません。

ただし、これまで開発やスクリプト実装が前提だったAPI活用を、生成AIとの対話を通じて検討できるようになることは、Marketo運用にとって大きな前進です。

重要なのは「操作の自動化」だけではない

Marketo MCPと聞くと、まず「AIでMarketoを操作できるようになる」という点に注目が集まりがちです。しかし、マルケトユーザーにとって本当に重要なのは、単なる操作の自動化ではありません。

より重要なのは、Marketoに蓄積されている行動ログやアセット情報を、AIが整理・解釈し、次のマーケティングアクションや営業アクションにつなげやすくなることです。

Marketoには日々、Webページの閲覧、メールの開封、メールリンクのクリック、フォーム入力、スコア変動、プログラム参加、リード情報の更新、スマートキャンペーンによる処理履歴など、さまざまなデータが蓄積されています。

これらのデータは、従来からMarketo内に存在していました。しかし実務の現場では、「どのリードを今追うべきか」「なぜそのリードを優先すべきか」「どのような切り口でアプローチすべきか」まで整理するには、人手による確認や経験が必要でした。

MCPを通じてAIがMarketo内の情報にアクセスできるようになると、この行動ログをもとに、次に見るべきリードや注目すべき変化を抽出する活用が期待できます。

1週間の行動ログから見えた“次に動くべきリード”

当社でも、直近1週間のMarketo行動ログをもとに、どのようなシグナルが見えるかをサンプル分析しました。

対象は、直近1週間で行動があったユニークリード89人、総アクティビティ600件以上です。その中で、フォーム入力13件、新規リード4件、メール反応者34人、高エンゲージリード24人、Web回遊のみのリード17人、スコア変動20人といった反応が確認できました。

図1:1週間のMarketo行動ログから見えた検討シグナル

この結果から見えてきたのは、フォーム入力者だけを見ていては、実際に動いているリードの一部しか捉えられないということです。

もちろん、フォーム入力は非常に重要なシグナルです。問い合わせフォームや相談フォームを入力したリードは、営業やインサイドセールスが優先的に対応すべき対象です。

一方で、フォーム入力には至っていないものの、Webサイト内を多数回遊しているリードや、メールへの反応、スコア変動が見られるリードも存在します。

こうしたリードは、まだ問い合わせ前の情報収集段階にいるかもしれません。あるいは、社内で比較検討を進めている段階かもしれません。競合調査や既存顧客の再検討という可能性もあります。

いずれにしても、Marketoの行動ログには「まだフォーム入力していないが、何らかの関心を示しているリード」が多く含まれています。

フォーム入力だけでは拾えない検討シグナル

今回の分析では、特に3つのリード群が見えてきました。

1つ目は、フォーム入力を行ったリードです。これは最もわかりやすいホットリードです。特に、問い合わせ系フォームや相談フォームを入力した新規リードは、営業・インサイドセールスが即時に対応すべき対象です。

2つ目は、Webサイトを大量に回遊しているリードです。たとえば、1週間で17〜23ページ程度を閲覧しているものの、フォーム入力やメール反応がないリードが確認されました。

このようなリードは、まだ明確な問い合わせ行動には至っていませんが、特定テーマについて深く情報収集している可能性があります。

この場合、重要なのは「ページをたくさん見ている」という事実だけではありません。どのページを見ているのか、どのサービスに関心がありそうなのか、事例を見ているのか、支援内容を見ているのか、セミナー情報を見ているのか、コラムを見ているのか。こうした閲覧ページの文脈を把握することで、営業やインサイドセールスがアプローチする際の仮説を立てやすくなります。

3つ目は、メール反応やスコア変動があるリードです。メール開封だけではノイズもありますが、メールリンクのクリック、特定テーマのコンテンツ閲覧、スコア上昇が重なると、関心度の高まりを示すシグナルになります。

つまり、Marketoの行動ログは、単に「フォーム入力があったかどうか」を見るためのものではありません。フォーム入力前の検討行動を捉え、適切なタイミングで次のコミュニケーションにつなげるための重要な情報源なのです。

MCP時代のMarketo運用は「行動ログを読む力」が重要になる

Marketo MCPの登場によって、今後はAIがMarketo内の情報を読み取りやすくなります。しかし、そこで重要になるのは、AIに何を見せ、何を判断させ、どこから人が確認するかという運用設計です。

たとえば毎朝AIに、直近7日間でフォーム入力したリード、Web回遊が多いリード、メールクリックとWeb閲覧が重なっているリード、スコア上昇があったリード、新規リードのうち活動量が多いリードなどを抽出させることが考えられます。

さらに、リードごとにインサイドセールスが確認すべき仮説や、初回接触時に使えそうなトークの切り口を整理することもできます。

このような活用ができれば、Marketoは単なるメール配信・スコアリングのツールではなく、営業・インサイドセールスが次に動くためのシグナルを生み出す基盤になります。

特にBtoBマーケティングでは、フォーム入力だけを待っていては、検討初期のリードを十分に捉えられません。一方で、すべてのWeb訪問者やメール開封者を営業が追うのは現実的ではありません。

だからこそ、行動ログをもとに優先順位をつけることが重要です。

まずは「AIに任せる業務」と「人が判断する業務」を分ける

Marketo MCPの活用を考える際には、いきなり本番環境でAIに操作を任せるのではなく、まずは安全な範囲から始めるべきです。

最初のステップでは、「読み取り・整理・要約」から始めるのが現実的です。たとえば、直近の行動ログを要約する、注目リードを抽出する、フォーム入力者を分類する、Web大量回遊者を抽出する、メール反応者を整理する、スマートキャンペーンやフォームの棚卸しを行う、といった業務です。

この段階では、AIはあくまで判断材料を整理する役割です。最終的な営業対応や設定変更、本番反映は人が確認します。

次の段階として、スマートリスト作成、リスト追加、下書き作成、キャンペーン案の作成など、半自動化できる業務を検討します。そして、実際の更新や配信、キャンペーン有効化など、影響範囲が大きい操作については、必ずレビュー・承認フローを設ける必要があります。

セキュリティと権限設計は必須

MCPは便利な仕組みである一方、AIツールがMarketoのデータや機能にアクセスできるようになるため、セキュリティとガバナンスの設計が欠かせません。

Adobeも、MCPは新しいオープンソースの標準であり、セキュリティや信頼性に関するリスクがあると説明しています。また、Adobe製品へのMCP接続は利用者側の設定であり、統合の安全性や適合性を評価する責任は利用者側にあるとしています。そのため、本番利用の前にはサンドボックス環境で検証し、MCP経由のアクションや応答を慎重に確認することが推奨されています。

実務で利用する際には、専用APIユーザーの利用、必要最小限の権限付与、認証情報の管理、操作内容のレビュー、本番反映前の承認フローなどを整備しておく必要があります。

また、MCPサーバーの利用者が増えるほど、誰がどのデータにアクセスし、どの範囲まで操作できるのかというガバナンス設計も重要になります。Marketo Engage MCPサーバーの直接利用だけでなく、権限管理や複数データソースとの接続を考慮した運用を検討する場合は、CData Connect AIのようなマネージドMCPプラットフォームの活用も選択肢になります。

Marketo MCPは、導入すればすぐ成果が出る魔法の機能ではありません。むしろ、どの業務に使うのか、どこまでAIに任せるのか、どこで人が確認するのかを設計できるかが重要です。

マルケトユーザーが今取り組むべきこと

Marketo MCPの登場を受けて、マルケトユーザーがまず取り組むべきことは、AIツールの接続そのものではありません。最初に行うべきなのは、自社のMarketo運用業務を棚卸しすることです。

たとえば、次のような問いを整理してみるとよいでしょう。

・毎週・毎月、どの行動ログを確認しているか
・フォーム入力者以外のリードをどのように見つけているか
・Web回遊やメール反応を営業アクションに活かせているか
・スコア変動の理由を確認できているか
・インサイドセールスに渡すべきリードの基準は明確か
・スマートキャンペーンやフォームの棚卸しは定期的にできているか
・AIに任せたい業務と、人が判断すべき業務は分かれているか

こうした問いを整理することが、MCP活用の第一歩になります。

MCPの価値は、Marketoの操作をAIに置き換えることだけではありません。Marketoに蓄積されたデータを、営業・マーケティングの次のアクションにつなげやすくすることにあります。

まとめ

Adobe公式のMarketo Engage MCPサーバーの登場により、MarketoとAIツールを接続する現実的な選択肢が出てきました。これにより、フォーム、プログラム、スマートキャンペーン、リード、メールなどの情報をAIが参照し、Marketo運用を支援する可能性が広がっています。

特に注目すべきは、Marketoに蓄積されている行動ログの活用です。フォーム入力者だけでなく、Web大量回遊者、メール反応者、スコア変動者などを組み合わせて見ることで、営業やインサイドセールスが次に動くべきリードを見つけやすくなります。

これからのMarketo運用では、単にメールを配信する、スコアを付ける、フォーム入力者を確認するだけでは不十分です。行動ログを読み解き、AIを活用して優先順位を整理し、営業アクションにつなげることが重要になります。

Marketo MCPは、そのような新しいMA運用の入口になる可能性があります。

マルケトユーザーにとって、今考えるべきことは「AIで何ができるか」ではなく、「自社のMarketo運用のどこにAIを組み込むと成果につながるか」です。

AI時代のMarketo活用は、ツール接続から始まるのではなく、運用設計から始まります。

Marketo Engage MCPサーバーの活用を検討されている方へ

Marketo Engage MCPサーバーの登場により、AIを活用したMarketo運用の可能性は大きく広がりつつあります。一方で、実際に成果につなげるためには、単にAIツールを接続するだけでなく、自社のMarketo運用業務を棚卸しし、どの業務にAIを組み込むのか、どこまで自動化するのか、どのように人が確認・承認するのかを設計することが重要です。

パワー・インタラクティブでは、Marketo Engageの運用支援、MOps設計、マーケティングデータ活用支援の知見をもとに、Marketo Engage MCPサーバーの活用可能性の整理や、行動ログを営業・インサイドセールスのアクションにつなげる仕組みづくりをご支援します。

また、MCP利用時のガバナンス設計や、CData Connect AIのようなマネージドMCPプラットフォームの活用検討についてもご相談いただけます。

「自社のMarketo環境でMCPをどう活用できそうか知りたい」「行動ログをもっと営業活動に活かしたい」「AI時代のMarketo運用ルールを整理したい」という方は、ぜひパワー・インタラクティブまでご相談ください。

山下 智

マーケティングコンサルタント

山下 智

マーケティング戦略策定

Webコーダー/Webデザイナーからキャリアをスタート。その後、Webディレクターとして数多くの企業サイトの企画~設計~制作を手掛ける。
2014年に自社へのMarketo導入の推進をきっかけに、マーケティングオートメーションを専門とするコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、事業会社のマーケティングDXの支援や、データマネジメントの仕組みや組織体制づくり、人材育成まで、データを活用したマーケティングの幅広い伴走コンサルティングを得意とする。特に、製薬および医療機器メーカーの支援に強みを持つ。
無類のクラフトビール好き。 No Beer! No Life!

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