セミナーレポート

RevOpsで組織横断の収益戦略を実現する

パワー・インタラクティブ マーケティング推進室(文責)

近年、多くの企業がデータ活用の複雑化や部門間の連携不足により、本来得られるはずの収益を逃してしまう「レベニューリーク」の問題に直面しています。この問題を解決する方法論として注目を集めているのが、RevOps(レベニューオペレーション)です。RevOpsは、マーケティング、営業、カスタマーサクセスといったレベニュー組織全体を横断して、データドリブンな意思決定と持続的な収益成長を実現する戦略的アプローチです。

パワー・インタラクティブでは、エンハンプ株式会社 代表取締役 兼 ゼロワングロース株式会社 取締役CRO 川上エリカ氏をお招きし、『データドリブン経営を実現するRevOps戦略』セミナーを開催しました。本記事では、川上氏がセミナーで解説した「RevOps導入による収益最大化の実現方法」についてまとめています。

レベニュー組織を取り巻く問題

レベニュー組織には、さまざまな問題があります。ここでは、世界的な問題と日本企業における問題をそれぞれ解説します。

世界的な問題

現在、世界的に挙げられている問題として「レベニューリーク(Revenue Leak)」があります。レベニューリークとは、企業が本来得られるはずの収益をさまざまな理由で逃してしまっている状態のことです。

レベニューリークの規模は世界で2兆ドルと言われており、日本円にして約300兆円にも達します。日本のGDPが約550兆円であるため、半分以上に相当する非常に大きな金額です。

この膨大な損失は主に「欠陥のあるプロセス」や「不正確なデータ」によって引き起こされており、1社あたりの売上は本来は16%から26%多く達成できたはずだという調査結果もあります。例えば、8,000億円の売上が実際には6,000億円に留まってしまうなど、非常に大きな影響があることがわかります。

日本企業における問題

日本企業の現状はさらに厳しい状況にあります。IMD(国際経営開発研究所)のIMD Digital Competitiveness Ranking※1によると、日本は64カ国中32位に位置し、2019年から順位を下げ続けています。

特に深刻なのは、以下の点での評価の低さです。

・デジタル/技術的スキル:63位
・企業の俊敏性:64位
・ビッグデータとアナリティクスの活用:64位

将来への備えとしてのデータ活用や俊敏性、知識・スキルといった人材面が順位を引き下げる要因となっています。欧米と比較し、日本にはレベニューインパクトにおける改善余地は多いでしょう。

特に、多くの日本企業は以下のような課題を抱えています。

・デジタル人材の育成の遅れ
・マーケティングやカスタマーサクセスのROI測定の難しさ
・場当たり的な施策の氾濫
・営業とマーケティングの連携不足
・組織における再現性の欠如と属人性への依存
・導入したテクノロジーを使いこなせていない実態

このような状況の中、多くの企業が「正解」を模索し、他社の成功事例をそのまま導入しようとする傾向があります。その結果、システムやプロセスが複雑化し、繰り返しパッチワークのように取られてきた施策によって、改善策がわからない状態になっている企業が多いのも事実です。

これらは「戦略と戦術の欠如、あるいは共有不足」といったオペレーションモデルの問題だと言えるでしょう。

図表1:オペレーションモデル

オペレーションモデルとは、組織・プロセス・テクノロジーを三位一体で捉え、ビジネスの持続的な成長を支える仕組みのことです。単なる業務の最適化ではなく、各部門が一体となって共通の目標に向かって生産性高く動いていくためのフレームワークです。

多くの企業が陥りがちな誤りとして、まず「Ops組織を作れば良い」という組織論からスタートしてしまうことがあります。しかし、いきなり組織を変えるのではなく、戦略的に取り組まなくてはいけません。

GTM戦略とRevOpsの関係

RevOpsを理解するうえで重要なのが、Go-To-Market(GTM)戦略との関係性です。GTM戦略とRevOpsのオペレーションモデルは補完関係にあります。

図表2:戦略とオペレーションモデルの関係性

GTM戦略とは、製品やサービスを市場に投入する際のアプローチで「正しいターゲットに、正しい方法で、正しいタイミングで提供する」ことを目指すものです。企業が目指す戦略を成功させるためには、それを支える適切なオペレーションモデルが必要です。

手っ取り早く効く特効薬はありません。テクノロジー導入などの効果を最大限引き出すためには、戦略とオペレーションモデルをセットで考えることが求められます。

RevOpsとは

RevOpsとは、持続的な収益成長を実現するために、レベニュー組織の連携を強化し、生産性を向上させる方法論であり役割です。RevOpsを導入する際には組織図から入るのではなく、「自社の戦略を踏まえて、どのように着手していくのか」というデザインが欠かせません。

ここでは、RevOpsが目指す成果や求められる背景、組織上の配置などについて解説します。

RevOpsが目指す成果

ボストンコンサルティンググループの調査※2によると、RevOpsを導入することで以下のような恩恵が得られることがわかっています。

・デジタルマーケティングのROIが100%~200%向上
・営業の生産性が10%~20%向上
・リード受注率が10%向上
・社内顧客満足度が15%~20%向上
・GTM費用の30%削減

また、『The State of RevOps 2025|Rattle』という調査により、RevOps部門・機能を有している企業は全体で80%、中小企業でも3分の2にのぼるということが分かっています。

RevOpsという言葉が広がり始めたのは2018年頃からで、最初はIT企業を中心に広まり、その後に製造業や金融機関、ヘルスケア、コンサルティングファーム、人材会社などにも広がっていきました。

RevOpsが求められる背景

RevOpsが求められる背景には、各部門のオペレーションモデルの進化とサイロ化の問題が挙げられます。

図表3:各部門の個別最適によるサイロ化

マーケティングオペレーション・セールスオペレーション・カスタマーサクセスオペレーションはいずれも共通して、ビジネスの複雑化とテクノロジーの進化に伴って誕生しました。しかし、各部門が独自にテクノロジーを駆使しながら洗練されていった結果、個別の最適化が進み、データの分断が生じてしまいました。

図表4:顧客のタッチポイントとレベニュープロセス

顧客がオンラインとオフラインを行き来しながら購買を進める現代において、競争優位性を持って顧客にしっかりとアプローチしていくためには、レベニュープロセス全体を把握して意思決定していかなくてはなりません。

サイロ化が引き起こす問題は以下の4つが挙げられます。

1.組織文化の分断
サイロ化された組織で個別の目標設計がなされると、部門間の対立が発生する
2.データドリブンな意思決定プロセスの阻害
部門間のデータが共有されないことで、全体感が見えず誤った判断をしてしまう可能性が高まる
3.顧客体験の悪化
部門を跨ぐと一貫性のない顧客体験が発生する
4.業務効率の悪化
プロセスが分断されると業務効率が悪化し、重複した業務も発生する

このような問題を解決するために、セントラルな部門としてのRevOpsが重要になってきています。

RevOpsの4つの構成要素

RevOpsは成長中の概念であるため組織によって定義は異なりますが、基本的にGTM戦略の上に以下4つの柱で構成されてる認識が醸成されてきました。

構成要素 内容
オペレーションマネジメント プロセスの設計・標準化によって業務効率を向上させ、人材・時間・コストを最適に効率的に配分する
レベニューイネーブルメント 収益を上げていくために、トレーニングプログラムの開発などによってフィールド組織の能力を最大限に引き出す
RevTechマネジメント フィールド組織が効果的に連携してデータを活用できるよう、テクノロジーの導入・統合・維持管理を行う
データマネジメント・インサイト CROや事業責任者、フィールド部門がビジネス判断するための情報を提供する

これらの要素によってビジネス目標の達成に向け、CROや事業責任者の戦略策定をサポートしていきます。

組織上の配置

RevOpsの組織上の配置では、CRO配下にRevOpsチームがある構図が主流になりつつあります。重要な点は、どこの配下であったとしても、フィールド組織からは独立して存在させることです。

図表5:レベニュー組織におけるRevOpsの位置付け

マーケティングや営業、カスタマーサクセスの配下にRevOpsを置くのではなく、独立した形で存在させることで、一元管理されたデータ環境構築が可能になります。

CROの対応業務は幅広く、オペレーション構築が得意でないこともあるでしょう。その得意ではない領域を補完する意味でも、RevOpsは経営のパートナーとして注目が集まっています。

AIとフォーキャストの活用

部門間のデータを統合していくRevOpsにおいて、テクノロジーデザインは不可欠です。さまざまなテクノロジーを連動させることで、生産性の高い組織をつくることが求められます。

ここでは、AIとフォーキャストの活用について解説します。

AIの活用状況

先述した『The State of RevOps 2025|Rattle』によると、AIの活用で最も多い用途は「文字の書き起こしと分析」でした。また、中堅企業や大企業では、2番目に多いAI活用がセールスフォーキャスト(売上予測)となっています。

図表6:AIの活用用途

この調査結果から、「一定以上の規模の組織になるとテクノロジーを活用したフォーキャスト精度向上の重要性が高まる」という示唆が得られます。

フォーキャストの重要性

精度の高いフォーキャストは、予算目標に対する上振れや下振れの早期把握に役立ちます。

目標より上振れると早期に把握できれば、その有利差異を活かして人材採用やマーケティング投資の判断を前倒しで実施できるでしょう。一方、下振れることが把握できれば、原因と対策を早期に講じたり、コストを削減すべき領域を特定したりできます。

図表7:パイプラインステージとフォーキャスト

また、フォーキャストと商談のステージの管理には気をつけなくてはいけません。商談のステージとフォーキャストを一緒にしてしまうと、営業担当者が上長からのトラッキングを和らげるために、状況を正確に報告できなくなる可能性があります。したがって、両者は別のものとして管理すべきものです。

国内での実践ケース

新製品の市場展開を早めることや、採用計画の前倒し判断、戦略見直しサイクルの高速化を目的として、国内企業がフォーキャストのシステム化と文化浸透に取り組んだ事例があります。

導入前の問題としては、セールスフェーズとフォーキャストの混同、営業の属人化、Excelでの集計作業の非効率などがありました。

同社はフォーキャストをシステムとして取り入れた結果、マネージャーの分析にかかる工数は4分の1に削減され、フォーキャストの精度は倍以上、新規受注も4倍に増加しています。

RevOpsがもたらす価値

RevOpsの導入によって、リソースの最適化やシームレスなワークフローの実装、テクノロジーの活用レベルの向上など、多くの価値を期待できます。

RevOpsは無機質なものと思われがちですが、目的は顧客体験を向上させ、収益を最大化していくことです。マーケティング、営業、カスタマーサクセスが一貫して顧客に価値提供できるように支援するために存在しています。

パワー・インタラクティブでは、企業全体のGTM戦略の明確化や、データの統合と管理体制を強化する支援を実施しています。

詳しくは『RevOpsプロジェクト立ち上げ支援』詳細ページをご覧ください。

パワー・インタラクティブ マーケティング推進室

パワー・インタラクティブ マーケティング推進室

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