「ABMを深め、顧客理解を資産に変える」 2026年夏 All Meetingレポート
パワー・インタラクティブでは、定期的に全社員が一堂に会し、会社のビジョンや戦略について深く議論するAll Meeting(全社会議)を開催しています。それぞれの現場で日々お客様と向き合っているメンバーが集まり、共通のテーマについて目線を合わせるこの行事は、私たちのお客様への支援の質を高めるための非常に重要な場となっています。
2026年7月に開催された今回のテーマは、「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)を深める」です。
市場環境が目まぐるしく変化するなかで、私たちが目指すべき「意思決定支援パートナー」とはどのような姿なのか。一日をかけて議論を深めたワークショップの様子をレポートします。
なぜ今、マーケティングの「大きな方向転換」が必要なのか
ミーティングの冒頭では、昨今のBtoBマーケティング市場が抱えている構造的な限界について、改めて整理が行われました。
全社会議でのABMワークショップの実施風景
これまでBtoBマーケティングの主流だったのは、展示会や広告などを通じて「多くの見込み客(リード)を獲得し、そこから効率的に商談を作る」というファネルモデルでした。しかし、このモデルが市場の変化によって大きな壁にぶつかっています。その背景には、大きく3つの変化があります。
① 購買行動のデジタル化
ガートナー社の調査によれば、「BtoBの購買担当者が購買プロセスにおいて、営業担当者と直接接点を持つ時間は全体のわずか17%にすぎない」というデータがあります。顧客は営業担当者に会う前に、自らウェブサイトなどで情報を調べ、比較検討や意思決定の大部分を終えているのが現状です。
② 情報収集の変化とAIの台頭
これまではインターネットの検索エンジンを使って自ら情報を探すのが当たり前でしたが、最近ではスマートフォンアプリの普及やAIの進化により、自分で検索しなくても、必要な情報やおすすめの解決策が自動的に手に入る時代になりました。「1日に何度も検索エンジンを使う」という行動自体が減少しつつあります。
③ 労働人口の減少とリソースの不足
日本全体の大きな課題である人口減少により、売る側(営業)だけでなく、買う側(顧客)も圧倒的な時間と人手(リソース)の不足に悩まされています。お互いに時間が足りないため、じっくりと関係を築く暇がないまま、効率だけで判断されがちになっています。
こうした時代において選ばれるのは、「数に頼って大量に顧客を集める企業」ではなく、「誰よりも深く顧客を理解し、適切なタイミングで手を差し伸べられる企業」です。
ABMとは単なる営業手法の進化ではなく、一度お付き合いが始まったお客様と長期的につきあい、顧客との関係性を企業の「資産」として捉え直す、本質的な思想の転換なのです。私たちが目指すのは、目先の「受注」というゴールではなく、その先にある「お客様のビジネスの成功」に他なりません。
【前半ワーク】「理想の顧客定義」の型化と顧客ポートフォリオの作成
午前中のワークショップでは、私たちが目指すべき「意思決定支援パートナー」としての役割を果たすために、どのようなお客様に注力し、どのような共通言語を持ってお話しすべきかを再定義しました。
経営方針に適合した「理想の顧客定義」の型
単なる売上規模や業種といった表面的な情報だけでターゲットを区切るのではなく、私たちがコンサルティングとして最大の価値を発揮し、長期的な伴走によって顧客の投資対効果(ROI)を最大化するための、独自の評価フレームワークを用いました。(図表1参照)
(図表1)理想の顧客増を定義するためのフレームワーク
このフレームワークでは、顧客の変革に対する意欲や直面している経営課題の深さ、組織横断での取り組み体制、そしてデータやテクノロジーを活用・内製化できる余地など、多角的に分析する評価指標を設定しています。
ABM顧客ポートフォリオの作成
この基準を基にグループごとにABM顧客ポートフォリオを作成しました。現在ご支援しているお客様を、「期待される将来の価値(LTV)」と「私たちの提供価値の発揮しやすさ(成果の出しやすさ)」の二軸でマッピングする作業です。(図表2参照)
(図表2)ABM顧客ポートフォリオ作成のフレームワーク
この分析は、現在の売上規模だけで顧客を選別するためのものではありません。クロスセルや他部門展開を含め、「今後3年間でどのような深い関係性を共に築いていけるか」、そして「私たちの強みをどこに集中すれば最も高い成果を生み出せるか」を正しく把握するためのステップです。
これにより、今すぐ手厚い支援をすべき最優先の企業(Tier1)や、他部門へのアプローチを通じてより高い価値を提供できる可能性のある企業(Tier2)を視覚的にクリアにしました。
ABMで最も重要なのは、限られた経営資源をどこに集中させるかです。このワークを通じて、特定の企業(アカウント)を組織全体で大切に育てるという意識を、全メンバーでしっかりと共有しました。
継続的な「観察」を支えるツールの活用がABM成功の鍵
午後のセッションでは、具体的な実践手法へのインプットが行われました。ABMが失敗する最大の理由は、重点顧客のリストを作って満足し、そこで日々の動きが止まってしまうことにあります。
リスト化した後に必要となるのは、お客様の状況や変化を継続的に追い、次の小さな行動に繋げる「モニタリング(観察)」の体制です。
今回のワークショップでは、お客様の「今」の変化を捉える実践的な試みとして、社内で開発・改善が進められている「セールスインテリジェンス」というツールを活用しました。(図表3参照)
(図表3)セールスインテリジェンスのデモ画面
このツールは、対象となる企業の基本情報や、ウェブサイトへのアクセス状況などの行動データをAIが分析・可視化する機能を備えています。ワークの中では、実際のデータ画面をヒントにしながら、「どのお客様が今、何に関心を持っているのか」「どの部署のキーパーソンとの接点が不足しているか」を読み解いていく場面もありました。
データを見るだけで終わらせず、お客様の小さな変化の兆候を捉えて仮説を立てる。そして先手必勝のアクションを起こすという一連の思考サイクルを回し続けることこそが、ABMの実行力そのものなのです。
【後半ワーク】アカウント単位での施策設計とアクションプラン
後半は、明日からの具体的な行動を変えるためのワークショップを実施しました。
ABM施策の設計
アカウントモニタリングシートを活用し、特定のターゲット企業に対する現状把握とアプローチの具体化を行いました。(図表4参照)
(図表4)アカウントモニタリングシート
既存の関係性や接点部署といった足元の状況に加え、直近のアクセス兆候や反応テーマからこの顧客は組織のなかで何に困っているのかの仮説を全員で掘り下げます。その上で、接点不足の重要部署へのアプローチも含めた次のアクションをシートに落とし込んでいきました。
単にツールを動かすための定型的なアプローチではなく、お客様の状況に合わせた「誰が、いつ、何をするか」を明確に定義する、実践的な思考プロセスを体験する時間となりました。
ABMのアクションプラン
ワークの最終ステップとして、 行動を確実に変えるために「ABMのアクションプラン」の作成に取り組み、自分たちの行動を「やめること・始めること・続けること」の3つの軸で明確にしました。
以下はその一例です。
・やめること: 問い合わせ数という手前の数字だけを追うこと、現場の担当者一人だけを見て判断を完結させること、商談化してから動くといった後手の対応。
・始めること: 未接触部署の洗い出しとアプローチ、アカウント単位での月次モニタリング、お客様の小さな兆候に基づいた勉強会やAI活用などの先手の提案。
・続けること: お客様の深い課題のヒアリング、成功事例の全社的な共有。
「戦略とは、やらないことを決めることでもある」という考えのもと、明日からの活動にメリハリをつける具体的なアクションを策定。各グループからの発表では、明日からの即座のアクションに繋がる、具体的かつ前向きな決意が数多く語られました。
各グループのアクションプラン発表の様子
また、ミーティングの最後には、今回決めたアクションプランをベースに、今後は3ヶ月、あるいは半年といったスパンの実践ロードマップへと落とし込み、顧客理解に基づいた持続的なPDCAサイクルを全社で回していく展望が共有されました。
おわりに:共通言語が、お客様への伴走の価値を最大化する
今回のAll Meetingを通じて得られた最大の成果は、部署や役職に関わらず社員全員がABMという共通言語を持って、同じ水準でお客様に向き合える土台ができたことです。
お客様の組織が大きければ大きいほど、社内調整の壁や部門間の連携に悩まされているケースは非常に多く存在します。私たちがその背景まで深く理解し、客観的なデータや専門的な知見を持ってサポートすることは、お客様にとって大きな価値になります。
問い合わせ数という「点」の数字を追うのではなく、お客様の組織の中で「誰が、何に関心を示し、どのように変化しているのか」という「面」の変化を追い続ける。その理解の深さこそが、私たちが目指す意思決定支援パートナーとしての伴走の質を高めることになります。
私たちはこれからも、それぞれのアカウントの小さな変化の兆候を捉え、より早く、より深く、お客様の成功に貢献できる伴走パートナーへと進化し続けてまいります。
マーケティングコンサルタント
奥村 いづみ
Braze活用支援
東南アジアやヨーロッパでの海外就労経験を持ち、前職ではtoC向けのWebサイト運用、コンテンツ作成、メールマーケティングの実務に広く従事。特にカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」を実際のオペレーションで使用していた現場経験を持つ。現在はこれまでの実務経験を活かし、お客様と同じ運用者目線に立ったMA活用や運用定着のサポートに注力している。



