海外の最新調査から考える、展示会を「売上につながるデータ資産」に変える方法

展示会最終日の夕方。

ブースの撤収が始まり、スタッフは展示物や備品を片付け、獲得した名刺を持ち帰ります。翌日には名刺データを整理し、営業担当者へ共有して、お礼メールを配信する。出展報告書には、ブース来場者数、名刺獲得数、商談件数などが記載されます。

ここまで進めば、展示会は無事に終わったように見えます。

しかし、本当に展示会は「終わった」のでしょうか。

仮に、展示会への出展に数百万円、数千万円を投じたとします。その3か月後、あるいは半年後に、経営層から次のように尋ねられたら、どこまで数字で答えられるでしょうか。

・この展示会から、いくらの案件が生まれたのか。
・そのうち、いくらが受注につながったのか。
・出展費用に対して、どの程度のリターンが得られたのか。
・次回も同じ展示会へ出展すべきなのか。

名刺獲得数や当日の商談件数は分かっていても、その後の案件化や受注、売上貢献まで追跡できていないケースは少なくありません。

展示会の成果を決めるのは、ブースの運営だけではありません。

展示会が終わった後、そこで得た情報をどのようにデータ化し、営業・マーケティング活動へつなげるか。

本当の成果づくりは、展示会が終わった瞬間から始まります。

リアル展示会は、世界で再び重要な投資対象になっている

オンラインマーケティングや生成AIが普及するなかでも、リアル展示会の役割がなくなったわけではありません。

UFIの調査によると、2024年には世界で推計約3万2,000件の展示会が開催されました。出展企業が借りた展示面積も、コロナ禍前の2019年に近い水準まで回復しています。さらに、UFIが2025年に公表した調査では、世界の展示会産業の売上が2024年に前年比16%、2025年に同18%成長する見通しが示されました。

展示会が再評価されている理由の一つは、Webサイトや広告だけでは得にくい一次情報を、短期間に集中的に取得できることです。

・来場者がどの製品に関心を持ったのか。
・どのような課題を口にしたのか。
・導入時期はいつ頃なのか。
・意思決定に誰が関与するのか。

製品を実際に見せながら、相手の反応を確認し、その場で対話できることは、展示会特有の価値です。ジェトロも、展示会には短期間に多くのバイヤーと接触できること、実演や試食などを通じて商品を直接訴求できること、来場者の反応からテストマーケティングを行えることなどの利点があると説明しています。

問題は、展示会の価値が低いことではありません。

価値の高い情報を取得しているにもかかわらず、展示会終了後に十分活用できていないことです。

海外では、イベントが「収益を生むチャネル」として捉えられている

海外のイベントマーケティングに関する調査を見ると、展示会やイベントを単なる認知施策ではなく、パイプラインや売上を生み出すチャネルとして捉える傾向が明確になっています。

Cvent傘下のSplashが、米国のイベントプログラムに関わるマーケター1,000人以上を対象に実施した2025年調査では、88%がイベントを重要な収益ドライバーと回答しました。さらに、イベントを中心に顧客接点を設計する「Event-Led Growth」に取り組む回答者の46%は、2025年に獲得した成約案件の40%超にイベントが関与したと回答しています。

ただし、これは米国のマーケターを対象とした調査であり、その結果をそのまま日本企業全体へ当てはめることはできません。

それでも注目すべきなのは、イベントの評価軸です。

重視されているのは、参加者数や名刺獲得数だけではありません。

・創出したパイプラインの金額
・商談化率
・受注率
・イベントが関与した売上
・顧客との関係強化
・投資対効果

といった、事業成果とのつながりが問われています。

海外企業が一様に高度な運用を実現しているわけではありません。Bizzaboの2025年調査でも、イベント主催者の70%がROIの測定と説明に苦労しているとされています。一方、80%は対面イベントが自社の成功に不可欠だと回答しています。

つまり、海外でもROI測定は容易ではありません。

それでも、「測定できないから名刺枚数だけを見る」のではなく、イベントデータとCRM、マーケティングオートメーションなどを連携し、売上への影響を捉えようとすることが主要なテーマになっています。

Cventも、イベント参加者のデータをCRMやマーケティングオートメーションなどの業務システムと統合し、営業パイプラインへの影響やROIを把握することを、イベントプログラムの主要な活用方法として掲げています。

違いは、当日の運営方法だけではない。展示会で得た情報を、その後の営業・マーケティング活動と接続し、受注まで追跡できるかどうかにある。

展示会で集めるべきなのは、名刺だけではない

展示会で取得できる情報を「名刺」と捉えると、展示会後の活用も限定されます。

名刺から分かるのは、主に次のような属性情報です。

・企業名
・部署
・役職
・氏名
・連絡先

もちろん、これらは顧客管理の基本情報として重要です。

しかし、展示会の場で本当に価値が高いのは、来場者との対話から得られる文脈情報です。

例えば、次のような情報です。

・どの製品やテーマに関心を示したか
・現在どのような課題を抱えているか
・導入を検討している時期
・予算や決裁プロセス
・競合製品の利用状況
・次に希望しているアクション
・営業担当者が感じた商談温度
・セミナーやデモへの参加状況

名刺だけでは、すべての来場者が同じ「展示会リード」として扱われます。

しかし、興味関心や課題、検討状況まで記録できれば、展示会後の対応を変えられます。

すぐに営業が連絡すべき相手。
技術担当者との面談を設定すべき相手。
導入時期が先なので、継続的に情報提供すべき相手。
既存顧客として、アップセルやクロスセルを検討すべき相手。

こうした違いを判断するには、名刺データだけでは足りません。

展示会で交わされた会話を、次のアクションにつながるデータとして残すことが必要です。

日本でも課題は「データ取得後」にある

日本国内でも、展示会の成果指標と目的のずれや、ROI測定の難しさが課題として取り上げられています。

株式会社展示会営業マーケティングが、出展者536人と来場者1,089人を対象に実施した国内調査では、出展目的と成果指標のずれ、ROI測定の難しさ、展示会後のフォローアップなどが分析テーマとして挙げられています。同調査は、展示会を単なるリード獲得の場ではなく、営業資産として活用する必要性を指摘しています。

これは、展示会に限った課題ではありません。

IPAの「DX動向2025」は、日本企業のDXが個別業務の効率化や部分最適にとどまりやすく、米国・ドイツとの比較では、顧客価値や売上拡大を目指す全体最適への移行が課題であると整理しています。

展示会に置き換えると、受付の電子化や名刺入力の自動化は重要ですが、それだけでは「運営の効率化」です。

そこからさらに、

・展示会データをCRMやMAへつなぐ
・営業とマーケティングが共通のデータを見る
・展示会後の顧客行動を継続的に追跡する
・商談や受注への貢献を可視化する
・分析結果を次回の企画や出展判断に反映する

ところまで進めることで、展示会DXは事業成果につながる取り組みになります。

展示会DXの本質は、紙をデジタルへ置き換えることではありません。

展示会という顧客接点を、企業全体のデータ活用プロセスへ組み込むことです。

パワー・インタラクティブが考える「展示会データ・バリューチェーン」

パワー・インタラクティブでは、展示会データが事業成果へ変わるまでの流れを、次の6段階で捉えます。

1.Capture|接点を記録する

名刺情報に加えて、興味を示した製品、課題、会話内容、商談温度、希望する次のアクションなどを記録します。

ここで重要なのは、取得できる項目を増やすことではありません。

展示会後の判断に必要な情報を、出展前に定義しておくことです。

2.Connect|顧客データをつなぐ

展示会で得たデータを、CRM、MA、Webサイトの行動履歴、過去の商談情報、既存顧客情報などと結び付けます。

これにより、展示会当日の会話を単独で見るのではなく、顧客との一連の接点として理解できます。

3.Prioritize|対応の優先順位を決める

すべての名刺を一律に営業へ渡すのではなく、関心度、企業属性、導入時期、過去の接点などを基に、対応の優先順位を決めます。

営業が早急に対応する対象と、マーケティングが中長期で育成する対象を分けることが重要です。

4.Activate|営業・マーケティングで活用する

営業フォロー、インサイドセールス、メール配信、コンテンツ提供、個別相談、セミナー案内など、取得した情報に応じて施策を変えます。

展示会後に全員へ同じお礼メールを送るだけでは、せっかく取得した文脈情報を活かせません。

5.Measure|案件・売上への貢献を測る

展示会を起点として、どれだけの案件が創出され、いくらのパイプラインになり、どの程度受注へつながったかを追跡します。

短期の受注だけではなく、展示会が案件の発見、育成、前進のどの段階に貢献したかを把握することも必要です。

6.Improve|次回の意思決定へ反映する

成果の高かった展示会、製品、業界、来場者属性、会話テーマ、フォロー施策を分析し、次回の出展判断やブース企画、スタッフ配置、訴求内容へ反映します。

これにより、展示会は毎回ゼロから実施するイベントではなく、実施するほど知見が蓄積されるマーケティング資産になります。

AI活用の前に、データを利用できる状態にする

展示会業界でもAIの活用は急速に広がっています。

UFIが2026年1月に公表した調査では、展示会関連企業の87%が何らかの形でAIを利用していると回答しました。

展示会領域では、すでに次のような用途が考えられます。

・来場者と出展企業のマッチング
・商談内容の文字起こしと要約
・フォローアップメールの作成
・関心テーマの分類
・営業対応の優先順位付け
・展示会後のレポート生成
・来場者行動の分析
・次回施策の提案

ただし、AIを導入すれば自動的に展示会の成果が向上するわけではありません。

・会話内容が記録されていない。
・顧客IDが統一されていない。
・CRMへ正しく登録されていない。
・営業活動の結果が入力されていない。
・展示会と受注の関係を追跡できない。

このような状態では、AIが分析するためのデータそのものが不足します。

最初に取り組むべきことは、AIツールの導入ではありません。

何を取得し、どのシステムへつなぎ、誰がどのように利用するのかを設計することです。

AIは、整備されたデータ活用プロセスを加速する手段です。プロセスの代わりにはなりません。

まず変えるべきなのは、ツールではなく「問い」である

展示会データ活用を始める際に、最初から大規模なデータ基盤や高度なAIを導入する必要はありません。

まず、展示会の前に社内で問いを変えることが重要です。

従来の問いは、次のようなものだったかもしれません。

・名刺を何枚集めるか
・何人をブースへ呼ぶか
・何件の商談を実施するか
・当日をどう円滑に運営するか

もちろん、これらも必要です。

しかし、これからは次の問いを加える必要があります。

・展示会から、どのような案件を創出したいのか
・その判断に必要な情報は何か
・誰が、いつまでにフォローするのか
・どのような条件で営業へ渡すのか
・中長期の見込み客をどのように育成するのか
・展示会経由の案件と受注をどう追跡するのか
・次回出展の判断に何を使うのか

展示会の目的が変わらなければ、取得するデータも、運用も、評価指標も変わりません。

「当日を成功させるにはどうするか」から、「事業成果へつなげるにはどうするか」へ。

問いを変えることが、展示会データ活用の出発点です。

展示会を「終わらない顧客接点」に変える

展示会には、Web広告やオンラインセミナーだけでは得にくい、豊かな顧客情報が集まります。

・来場者の表情。
・製品に触れたときの反応。
・会話のなかで語られた課題。
・担当者が感じ取った関心度。
・その場で生まれた、新しい商談の可能性。

これらを担当者の記憶や紙のメモのなかだけに残してしまえば、展示会の価値は時間とともに失われます。

一方、情報をデータとして残し、既存の顧客情報とつなぎ、営業・マーケティング活動へ反映すれば、展示会終了後も価値を生み続けます。

展示会は、一日限りのイベントではありません。

顧客を理解し、関係を深め、案件を育て、次の活動を改善するための継続的なプロセスです。

展示会が終わった瞬間から、本当の成果づくりが始まります。

次回予告

日本企業の展示会DXが進まない5つの理由

ツールを導入しても、成果が見えないのはなぜか

受付や名刺管理のデジタル化は進んでいるにもかかわらず、展示会データを営業や売上へつなげられない企業は少なくありません。

次回は、展示会DXを阻む課題を、次の5つの観点から整理します。

1. 展示会の目的とKPIがつながっていない
2. 取得するデータが名刺情報に偏っている
3. 営業とマーケティングの役割が曖昧である
4. CRM・MAとのデータ連携が分断されている
5. 受注まで追跡する仕組みがない

展示会DXを「ツール導入」で終わらせず、事業成果へつなげるために必要な条件を考えます。

参考・参照資料

本記事の執筆にあたり、以下の公開資料・調査レポートを参照しました。

・UFI, Global Exhibition Industry Statistics(May 2025)
世界の展示会開催件数、出展面積、地域別の市場規模などをまとめた統計資料です。
レポートPDF
・UFI, Global Exhibition Barometer
世界各地域の展示会産業の売上見通し、事業環境、デジタル化、AI活用などを定期的に調査しているレポートシリーズです。
・Splash/Cvent, Splash’s 2025 Outlook on Events
米国のイベントプログラムに関わるマーケター1,000人以上を対象に、イベントと収益、Event-Led Growthの関係を調査した資料です。
Cvent, Events Are a Revenue Engine
イベントデータをCRMやマーケティングオートメーションと統合し、営業パイプラインやROIを把握する考え方を紹介しています。
・Bizzabo, 2025 State of Events and Industry Benchmarks
イベント予算、開催数、参加者体験、ROI、テクノロジー活用など、イベント業界の動向をまとめた調査レポートです。
・日本貿易振興機構(ジェトロ), 展示会・商談会への出展支援
展示会における商談機会、実演、来場者との直接対話、テストマーケティングなどの特徴を解説しています。

調査データに関する注記

海外調査は、調査対象地域、回答者の属性、イベントの種類がそれぞれ異なります。本記事では、各調査結果を日本企業の実態へそのまま当てはめるのではなく、海外におけるイベントデータ活用や成果評価の方向性を理解するための参考情報として使用しています。

久道 真之介

EM部 部長

久道 真之介

マーケティング戦略策定

通信会社で法人向けの営業を8年経験。その後起業を経験し、2010年にパワー・インタラクティブに入社。Webサイト制作のディレクションからリスティングの運用、アクセスログの分析など現場での業務を経験し、現在はマーケティングコンサルタントとして、BtoB・BtoCのデジタルマーケティングの戦略立案から伴走支援までを行う。

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